土色の毛並みの獣人、赤い毛並みの獣人…彼らは狼のような頭部を持ち、牙をむき出して唸る。
赤い方はサザンカににじり寄り、土色の方はシロナとハーツに歩み寄る。
「テメェ…」
サザンカは蹴られた頬を拭いながら睨みつける。
「ハーツさん、下がってた方がいいかも」
そう言いながら右腕で背後にいるハーツを制するシロナ。だがその時、挙げた右腕に感じた不可解な違和感に気づき、そちらへ目を向けると、なんと右腕の肘から先が紫色に変色し、グズグズに崩れて腐り落ちていた。
ドチャ、と気味の悪い水音を立てて腕だった肉塊が地面に落ちる。
「シロナくん…!」
後ろでハーツが心配そうに声を出す。
「ケケッ、キヒヒヒヒ…!オレの毒はどんな味だァ?ケケケ…」
名をラベンダという土色の獣人は不気味に笑い、剝きだした牙から毒液を滴らせる。
体内で様々な毒を作り出す能力を持つラベンダはさっきシロナに噛みついた時点でその腕に毒を流し込んでいた。本来は毒が効きにくい頑強な体を持つシロナの腕を数十秒で腐り落とすほど強力だが、それ以上に恐ろしく感じるのは噛みつかれた時の痛みも毒が回る感覚も無かったことだ。
「今の毒じゃ苦しくねぇ、痛みもねぇ。だが喰らった場所によっちゃ死んじまうかもなァ…ゆっくりと、眠るように、気持ちよォく…キキキッ」
一方、赤毛の獣人バジルは狙いを定めるように姿勢を低くし、次の瞬間に勢いよく前へ飛び出した。軽い身ごなしで一瞬でサザンカの背後に回り、その後頭部を蹴り付ける。
「…!?」
あまりの速さに反応できなかったサザンカが振り返りつつ裏拳で反撃を見舞おうとするも足で受け止められ、反撃の空中でのソバットで大きく吹っ飛ばされる。
「はははははッ!どうした!?」
高速の蹴り技を得意とするバジルは執拗な攻撃の応酬でサザンカを追い立てていく。何とか隙を見て反撃に転じようとするサザンカだが、なかなか上手くいかない。何故なら、ラベンダも同様だがバジルの気が一切感じられないからだ。
(動きが読めねぇ…!)
サザンカはこれまで無意識に行ってきたことであるが、相手の気の流れが読めれば次の攻撃も見切りやすい。しかし、生物でありながら何故か気が感じられないバジルに防戦一方を強いられる。
「大丈夫か、シロナくん…」
「平気」
ハーツの言葉に一言だけ返すシロナ。
「ねぇ、ちょっとアンタ」
「あん?」
そこでシロナはラベンダに声をかける。
「この毒、どうして私に喰らわせようと思ったのかしら?」
「はぁ?理由なんてねぇさ!先に弟のバジルがあっちの女に手を出したからお前を選んだだけだよ」
「…そう、じゃアンタ弟に感謝した方がいいわ」
「何?」
「こんな毒をサザンカに使ってたらマジでぶっ殺してるところだったわ」
右腕の腐り落ちた継ぎ目部分に青い結晶を纏わせ硬化させながら放たれたその言葉にぞわぞわとした悪寒を覚えたラベンダ。それが真だと裏付けるかのように、次の瞬間にはシロナのパンチが顔面へヒットしていた。
「ぎゃあっ!」
ラベンダが吹っ飛ばされていくのを見たシロナは再度距離を詰め、思いきり腹を蹴り上げる。
「ぶぐはッ…!」
そして、垂直に打ち上げられ宙を舞うラベンダへ追撃を加えるため、シロナは全身の気を開放する。
「はッ!」
体から発せられるオーラは眩い金色に、髪も逆立ち金色に染まり、黒い瞳は緑色に変わる。子供の姿でも超サイヤ人への覚醒は健在なようで、一気に高まった戦闘力を振るうために空へ飛びあがる。
ラベンダに追いつくと強烈な拳の一撃をお見舞いしようと構えるが、ラベンダもここでやられるほどヤワではなく、シロナの接近に気付いて空中で距離を取る。
「はああ…!」
そして、口から濃い毒の煙を吐き出し、両の手に纏わせる。
「ひゃあああッ!喰らいやがれェ!!」
ラベンダの繰り出す毒手による超高速の突きの連打。シロナもそれに対抗し、残っている左腕を硬質化させてパンチを連続で繰り出す。
しかし、流石のシロナも片腕ではラベンダの攻撃を捌き切れず、頬と腹へ毒の拳を受けてしまう。
「チッ…」
シロナは地面に膝をついて降り立つ。そして腹に違和感を覚えて手を当てた瞬間、見る見るうちに顔の半分が紫色に腐食した。おそらくは服の下の腹も同じように腐食しているだろう。
「ひはははは…!さぁどうする?このままじゃ死ぬぜ?さっさと宇宙船を渡すと言えば助けてやるぞ」
「…シロナくん、もういい、俺が行く」
ハーツがそう言いながらシロナの前に出ようとするが、シロナはまたもそれを制した。
「いいや、だいじょぉーぶ!!」
「無茶だ、その毒の回りじゃ…しかも気付いていないようだが君は…」
シロナは清々しい笑みを崩さないまま跳躍し、一直線にラベンダに立ち向かう。迎え撃とうと毒手を構えるラベンダだったが、目の前で突然シロナの体からさらに眩い閃光が弾けた。
「な…!?」
シロナの髪はさらに鋭利に逆立ち、オーラには青いスパークが迸っている。超サイヤ人2へと変身し、急激にスピードとパワーを増したシロナはラベンダの不意を突き、その顔面へ膝蹴りを叩きこんだ。
「ッ…!!」
さらに左腕によるパンチの連打を腹へ浴びせる。ラベンダの腹に拳の跡が付き、悶絶しながら吹っ飛ばされるが途中で持ち直し、不敵な笑みを浮かべた。
「今の攻撃…なかなかだなァ…!だけどお前気付いてるのか?オレの毒はお前の体力も蝕んでる…!どんなにパワーを底上げしたところで長くはもたねぇよ」
確かにラベンダの言うとおりだった。彼は自身の操る毒の性質を完璧に把握している。シロナの戦闘力は毒の影響によりだんだんと低下しており、超サイヤ人2に変身した直後でさえも本気の半分以下、今も現在進行形で下がり続けているだろう。
「だから何だってーのよ?でも…」
シロナはゆらりと顔を上げ、その顔に分厚い結晶の鎧が生成される。歯を剥き出した悪魔の形相を形作った結晶は青白く透き通り、内側で緑色の目が光る。
「この毒はサザンカに食らわせてやるわけにゃいかねーわね!!」
超サイヤ人2のまま魔強化形態へと変身したシロナは前のめりの姿勢で駆け出し、ラベンダに飛び掛かる。
「ひひっ、バカがァ!その体でどうオレと戦うつもりだァ!?…ん!?」
しかし、目の前にまで接近してきたシロナにはいつの間にか右腕が再生されていた。そもそも顔に結晶をまとった時点で顔の腐食も解除されていたことに遅れて気付いた。
だがそう思ったところでもう遅い。シロナの両腕による拳のラッシュが既に目前へと迫っていた。
「チィッ、喰らいやがれッ!!」
ラベンダは猛毒を込めたエネルギー球を咄嗟に作り、放つ。
「ウラウラウラウラウラ…!!」
「ぐっぼァ~~~!!?」
毒によって腐食した部位へ硬質化の結晶へ置き換えることで体組織を完全に再生していた。シロナの隙間ない連続攻撃はラベンダのエネルギー球を削り取るように打ち消し、その全身にめり込んだ。
「オラァ!!沈みやがれ!!」
一方、バジルの猛烈な蹴りの連打を耐え凌ぎ続けるサザンカ。バジルは蹴り技を得意としており、足に気を込めて攻撃を繰り出すシンプルな戦法ながらその気が読めないためとりあえぐ防ぐことしかできない。
だが、それでもサザンカ自身は虎視眈々と反撃の隙を伺っており、あえて防戦を演じているに過ぎなかった。
「はッ!」
その時、ラベンダと戦っているシロナが超サイヤ人へ変身した。突然シロナの気が急激に大きくなったことに気付いたバジルはついそちらへ視線を向けてしまう。恐らくはラベンダの身を案じての行動だが、サザンカにとっては大きなチャンスが巡ってきた。
「オラァ!」
蹴りの隙間を縫って腹へ重い拳を叩き込む。バジルは歯を噛み締めながらその場で体勢を崩した。
さらに生まれたこの隙に、サザンカは超サイヤ人に変身し、激しい黄金の気を纏う。それを目の当たりにしたバジルは目を見開いて驚くも、すぐに対抗しようと気を開放し、赤いオーラに包まれる。
「ハアアアッ!!ナメるなよッ!!」
そして地面を蹴り、以前よりも激しい猛攻を仕掛ける。サザンカは繰り出される蹴りを拳で跳ね返すが、バジルの足裏から放たれた気功波を上半身に直撃させられてしまう。
手ごたえを感じ、にやりと笑って見せるバジルだったが次の瞬間に煙の中から顔に煤がついた以外は平然として現れたサザンカに足を掴まれた。
「つかまえた~」
「クッ…!はなせ!!」
バジルは残った片足を使ってサザンカの顔面に何十発もの蹴りをぶち込む。しかしサザンカは一切力を緩めることなく、瞬時に超サイヤ人2へ移行すると驚異的な膂力でバジルの体を引っ張り、地面にたたきつけた。
「ぐふっ…」
背中からとてつもない衝撃にさらされて動けなくなったバジル。
「サザンカ!」
その時、遠くから自分を呼ぶシロナの声が響く。
「応!」
ふたりはそれだけ言葉を交わすと互いの考えを悟り、実行に移す。シロナはラベンダの足を、サザンカはバジルの足を掴んだまま互いへ向けて一直線に突撃し、振りかぶる。
「待て待て!やめろ!!」
「兄者あああああ!!」
「せぇ…の!!」
ゴパァァ…ン
すれ違いざまにフルスイングされたラベンダとバジルは顔面から激突し、あまりのダメージと衝撃によって意識を手放した。
シロナとサザンカの戦いぶりを見ていたハーツは顎を撫でながら不敵に笑った。
「む…」
「いでで…ハッ、テメェは!」
ラベンダとバジルが目を覚ますと、彼らは手足を縛って拘束された状態で地面の上に転がされていた。夕暮れの紫色の空をバックに、サザンカたち3人が鍋を火にかけて飯の支度をしていた。
「やっと起きたか」
ハーツがそう言いながらふたりを見下ろす。危険を感じ焦った様子を見せるバジルが拘束を解こうともぞもぞ暴れ出すが…
「無駄さ、その縄はフェムトファイバーで編まれている。今の君たちじゃ抜け出せないぜ。それよりも話してもらおうか?なぜ俺の宇宙船を欲しがったのか…ただの強盗にしてはさっきの戦闘、相手が悪かっただけで無駄がなさすぎる。何が事情があると見た」
ラベンダとバジルは観念した様子で小さく話し始める。
「オレたちは3兄弟だ。一番上の兄がいるんだが…別の星へ取り残された」
「それを助けに行くためにちょうどいいところに現れたお前らの宇宙船を奪おうとしたんだよォ」
それを聞いたハーツは何も言わず、鍋の中で煮ていた巨大な生き物の骨付き肉を差し出し、彼らを拘束していた縄を触れずに解いた。
「あ…?何のつもりだ?」
「食ったら行くぞ」
「どこに…」
「お前たちの兄とやらを救いに、だ」
後ろで口に肉を頬張ったまま驚くシロナとサザンカをよそに、ハーツはそう言うのだった…。
バジルとラベンダ…本当に同じ宇宙の存在なのだろうか…(すっとぼけ)