「カカロット!人間の里の住民全て集合させたわ!」
カカロットは人間の里、幻想郷一武道会場があった場所の、崩れた武道館の残骸の一番高い場所に立っていた。眼下の武道会場には、霊夢によって集められた人間の里の全住民が集合していた。皆、不安そうな顔でカカロットを見上げている。
そのカカロットの横に、浮かんできた霊夢が立つ。
「すまないな。よくやってくれた」
「え、ええ…別に大したことないわ」
霊夢はカカロットの横顔をじっと見つめる。
「じゃあ言ってやるか」
カカロットは少し前に出て、注目を集める。
少し離れたところでは、シュネックや紫、隠岐奈が様子を見守っていた。
「月の都ってところがある!文字通り月にある都だ!」
その声は静まり返った住民たちの耳に届いた。
「そこに住んでる月夜見王ってやつが率いる『月の客』って連中が、三日後の大満月の夜にこの地へやってくる!その目的は、俺たちを皆殺しにして、この地を綺麗さっぱり浄化していくことだ!!」
住民たちからざわめきが起こる。聞いていたシュネックたち賢者も、驚きを隠せないようでいた。
「だからお前たち人間には、奴らが帰るまで安全な場所に避難していてもらう!…心配は無用だ、月の客どもは俺たちがぶっ飛ばしてやる。信じられないならそれでもいい…とにかく俺はお前たちを後戸の国へ避難させる。死にたくない奴は俺に触れるか、俺に触れている奴に触れろ」
カカロットは群衆の真ん中に向けて飛びおり、その手を差し出した。カカロットのするどい顔つきを見て、住民たちは一歩後ずさる。
…が、その中の一人の子供が前に走り出し、カカロットの手を触れた。
「この兄ちゃん、武道会で優勝した兄ちゃんだ!」
それを皮切りに、ひとり、またひとりとカカロットに近寄り、その肩や腕に触れていく。やがて、そこに集まった全ての人間たちがカカロットを介して繋がったのだ。
「よっしゃ…じゃ、行くぜ!」
カカロットがそう叫ぶと、人間たちはオーッと声を上げる。次の瞬間、一団はカカロットごと一瞬でその場から消え失せてしまった。
静寂だけが残る中、数秒後にカカロットだけがその場に突然戻って来た。
「ふう…」
「人間たちは無事に連れていけたようね」
「カカロットよ…一体、どうしたというのだ?詳しく教えてはくれまいか」
シュネックが二人に近づいてきてそう言った。ふたりは月で見たもの、そして先ほど演説した内容のもっと詳しいものをシュネックたちに話した。
「それで、俺はドラゴンボールに頼んで、一時的に後戸の国に自由に一瞬で行き来できる能力を貰ったんだ。これを使って、これから幻想郷の奴らを後戸へ避難させるつもりだ」
「…しかし、お主らだけでその強大な月の客を迎え撃てるのか?できることならば、この老いぼれも参戦したい」
「そいつはできねぇ…多分奴らはついでにドラゴンボールも狙ってる。アンタの身に何かあったら、ドラゴンボールは消えちまうんだろ?だったら、アンタにも永琳たちと同じく別の場所で匿っていてもらう」
「む、むぅ…そうか…」
「そういうわけだ、紫たちも協力してくれ!戦うのは俺たちでいい、お前たちはずっと隠れていればいいからな」
「…というわけなんだ、一緒に後戸まで来てくれ」
「なるほど…これ以上、美鈴のような犠牲を出さないためにね」
カカロットはレミリア達を訪ねて紅魔館へやって来た。事情を話し、後戸へ避難するように説得する。
すると、彼女らは申し出を快諾し、紅魔館に住む者たちと全ての妖精メイドが一斉に避難を完了させた。
「次は何処へ行こうか…」
カカロットがそう呟きながら要石に乗って空を飛んでいると、後ろから何者かが高速で追ってきていることに気付いた。誰だと思い速度を落とし、その主と顔を合わせる。
「どうもカカロットさん!私、新聞記者をしています射命丸文と申しますが」
「な、何だ?」
黒いカラスのような翼を持った少女が、首に下げたカメラを構えて話しかけてきた。
「前から目を付けていたんですよ、アナタに取材を行えば絶対に購読数が増えるってね!早速ですが、あの幻想郷一武道会で優勝した感想を…」
「いや、丁度良かった!」
カカロットは強引に話を斬り、文の肩に手を置いた。
「は、え?」
「実は…」
文に幻想郷に危機が迫っていることを話す。
「記者だって言ったよな?だったら今言ったことを新聞にして、妖怪たちに配って回ってくれ!頼んだぜ」
カカロットはそう言うと文を置いて要石のスピードを上げ飛び去っていく。ポカンとした顔で取り残された文はしょうがないと言った顔で今言われた事のメモを取り始めた。
「…そういうわけで、お前たちも避難してくれ」
カカロットが次にやって来た場所は命蓮寺だった。
「ええ、もちろん信じますとも。頑張ってくださいね」
聖はそう言うと、カカロットの手を握る。そして、雲居一輪と雲山、村紗水蜜、二ッ岩マミゾウ、封獣ぬえ、寅丸星を含めた門下の妖怪たちが、一斉に後戸へ移動した。
それからも、カカロットは思い当たるところを片っ端から回り始める。
「それは本当なのかい?」
「ああ、驚きだ…月に住んでいる人間がここを襲撃するだって?」
「だが我々は信じよう…さぁ、連れて行ってくれたまえ」
神霊廟に住む豊聡耳神子、物部布都、蘇我屠自古、豹牙天龍と昇龍たち豹牙流拳法の生徒たち…
「ええ、いいわよ。でも一部の花たちも一緒にいいかしら?」
向日葵の花畑にいる風見幽香…
「しょうがないのぉ…」
大蝦蟇の池のオオナマズ…
犬走椛たち白狼天狗…
地底世界の星熊勇儀や伊吹萃香、その他旧都に住む水橋パルスィや黒谷ヤマメら妖怪たち、地霊殿の古明地さとりとペットの動物たち…
天界に住む比那名居天子を含めた天人たちまで、カカロットが思い当たる人物とその仲間たちは、皆彼の言葉に従って後戸へと避難した。
「ふん、誰がお前の言う事なんぞ」
「その通りだ、私は構わないわよ?ここが滅ぼされようがね」
が、妖怪の山の洞窟の中にいた、スカーレットと鬼人正邪には少々手を焼いた。
「まぁそう言わずによ…お前たちだって殺されたくはないだろ?」
「うるさいな、今すぐにでも…うぐっ!」
その時、スカーレットと正邪は苦しそうな表情を浮かべ、前のめりに倒れ込んだ。二人の背後にはウスターが立っていて、こちらに向けた手の平にはエネルギー弾を放ったあとの煙が立ち込めていた。
「ウスター!」
「ふん、瞑想の邪魔だったから黙らせただけだ。さっさと他の奴らも済ますんだな」
それから、射命丸文の発行した新聞の影響もあってか、スムーズに避難が進行した。といっても、全ての妖怪はおろか里の家畜や様々な動物や魚などの野生動物も見つけ次第全て後戸へ送るのには、二日ほどの時間がかかってしまった。
「霊夢、お前の方は終わったか?」
「ええ、終わったわ。あとは…」
「永琳と輝夜だな」
「というわけで、最後はアンタらだけなんだ」
再び永遠亭へと足を運んだカカロットと霊夢。
「私たちもその後戸っていうところに行けばいいのね?」
と永琳が聞く。
「いや、アンタらには別の場所で待っていてもらう」
「別の場所?」
「ああ、五行山ってところだ」
五行山。カカロットが超神酒を作った場所で、あの世とこの世の境目でもある場所だ。そこには八卦炉を管理する太上老君ことアンニン様と古明地こいしが住んでいるはずだ。
カカロットと霊夢は永琳と輝夜、そしてシュネックを連れ、五行山の八卦炉のある場所まで彼女らを連れて行った。
「はぁ、幻想郷はそんなことになってたのね~。ま、とにかくようこそ五行山へ」
アンニンは八卦炉の大鍋でゆでたスパゲティを食べながらそう言った。
「ど、どうも…」
「カカロット、久しぶり~!」
「よお。でも悪いが、今はお前に構っている余裕はないんだ…」
「ねぇ、本当に幻想郷には誰も残っていない?」
「待っていろ…」
カカロットは目を閉じ、じっと幻想郷に誰かが残っていないか気を探って確かめる。どうやら五星龍は後戸へ出入りする力だけでなく、幻想郷中の気を探れる術を一時的に付与してくれていたらしい。
「…あと1人いる!場所は…妖怪の山の裏側の麓だ」
「裏の麓?よくもそんなけったいな所に…」
ふたりは幻想郷に残っている最後の住民を避難させるべく、その場所へと向かった。
辿りつくと、そこにはこじんまりとした家が建っていた。庭にはドラム缶の風呂が置いてあり、マキ割りをした跡などが見られる。
カカロットが家のドアをノックすると、しばらくしてゆっくりとドアが開いた。
「よくこんな場所まで来れたね」
ドアを開けて顔を見せたのは、背の小さい少女だった。服装もいたって普通で、一見すると本当にただの人間の子供のように見える。が、髪を後ろで縛ってまとめており、それによって現れたおでこには、なんと三つ目の眼が存在していた。
「アナタ妖怪?」
と霊夢が尋ねる。
「人から見れば妖怪だけど、私は違うと思ってるよ。ここまで来た奴ってのは私の試練を受けに来たに違いない。ささ、入りな」
「あ、おい、俺たちはそんな事をしにきたんじゃなくて…」
三つ目の少女はカカロットと霊夢を後ろからぐいぐいと押し、半ば強引に家の中へと入らせる。
家の中にはベッドと机、そして囲炉裏があり、外観と同様にこじんまりとした普通の家であった。
「あれは…」
だが、霊夢はその机の上に見慣れた物体が置かれているのに気が付いた。
「ドラゴンボール!」
その置いてあったドラゴンボールには、七つの青い星マークが埋め込まれていた。七星球だ。
「そう、あれが私の持つ七星球だよ。あれを取りに来たんでしょ?では早速試練を始めようか」
「ま、待って…アナタってもしかして…」
「なんだよ、知っててここに来たんだろ?私はシュネックにボールを託された七人の賢者のひとりだよ」
それを聞いて霊夢とカカロットは驚いた。今までの賢者と言えばシュネックやガーリック、紫に隠岐奈など、ただならぬ力を秘めた強者ばかりであった。が、この三つ目の少女からはそこまで強いパワーは感じられない。
「私が課す試練とは、物語で私を感動させることよ」
少女はそう言いながら椅子に腰かけた。
「私も物語を書いていてね…。そこで思うんだけど、話の主人公てのはいわば自分の子供と同じようなものなんよ。物語の最中に辛い目や悲しい目に遭うかもしれないけど、最後には必ず幸せがやって来る。だが…もちろん登場人物の死だってある。登場人物が最も注目され、輝く瞬間は死ぬ瞬間だと思ってる」
独りでに語り始める少女。
「…あの、それで私は博麗の巫女だけど、今幻想郷が大変なのよ。月の民が攻めてくるからあなたにも避難して貰わないと」
「ふーん、月の民が。知らなかった…今ここはそんなことになってたのか。それはそうと、君たちは七人の賢者の役割ってのを知ってるかい?私は人間の里の教育を管理してる。教材なんかも私が作ってるんだよ。ガーリックは幻想郷における悪のレベルを管理していて、八雲は結界と境界の管理、摩多羅は環境やバランスの管理、んであと動物や生き物に関して管理してる奴がいて、食べ物の供給や管理をしてる奴がいて…そして、それら賢者を管理する賢者…それがシュネックなのさ」
「いらん知識を教えてもらえて有りがたいが、今は問答無用でやってやるからな」
カカロットは少女の背に手を触れ、一瞬で後戸にまで送り届けた。
そしてもう一度幻想郷に誰も残っていないことを確認すると、避難計画はすべて完了したのだと安堵した。
その時、月の客の襲来まで、あと一日を切っていた。