「ただいま戻りました」
界王神見習いであるザマスは短い外出を終えて帰還した。
淡いピンク色の空のもとに存在する第10宇宙の界王神界は平和そのものを具現化したような神域で、界王神やその眷属が暮らす世界である。
「遅かったっすねザマスさん!」
ザマスを出迎えたのは、大柄で筋肉質な体格と凶悪な人相を持つ男だった。赤い肌に逆立った白髪、細い目に細い鼻、裂けたような口元が特徴的だが、その言葉遣いや表情は気さくで穏やかな様子が見て取れる。
「よく戻った、待っておったぞ。早速で悪いが茶を淹れてくれんか?ダラズがいい茶菓子を差し入れてくれたのでな」
そして彼の後ろで後ろ手を組み、微笑みながら同様にザマスを出迎えたのは、第10宇宙の界王神・ゴワスだった。
ダラズという名の男は、最近北の界王に任命された者である。元々はザマスが北の界王に就いていたのだが、ザマスはその実力をゴワスに買われて次期界王神候補としてここで修業をしている。そこで空席になった北の界王の座に就いたのがダラズなのだ。
「自分手伝うっす!」
ザマスの淹れたお茶を運び、テーブルにセットするダラズ。
彼らはしばらくお茶と歓談を楽しんだ後、解散する運びとなった。
「じゃあ自分はこれで失礼するっす!」
「うむ。これからも界王として頑張りなさい。ザマス、ダラズを界王星まで送ってやりなさい」
「わかりました」
光る薄い円盤に乗り、高速で界王星へ向かうザマスとダラズ。
「ザマスさん…それが例のドラゴンボールとやらですか?」
ダラズがザマスにそう尋ねた。ザマスの手には、第6宇宙で手に入れた究極二星球が乗っている。
「ああ…私も半信半疑だったが、本当に存在したようだ。これを7つ揃えれば願いが叶うらしい…」
「うおおおっ!マジっすか!…んでも、ザマスさんどんな願いを叶えるってんです?」
「悩みどころだな。不死身の体となるのも悪くはないと考えてな」
「人間の…っすか?」
「私たちの夢見る『人間0計画』は愚かな人間どもを消し去ることでその抱える罪を雪ぐことが目的だ…野望を果たした後、私自身が絶対に死なずに平和となった世界に君臨してこそ、だろう」
「な、なるほど…っていうか、人間0計画って本当にやるんすね…?」
「当り前だ!今更怖じ気づいたとでも言うまいな?」
「い…いいえ!確かにザマスさんの話を聞く限りでは人間は争ってばかりの愚かな種族だと思っすけど…でも、自分はザマスさんの後任として界王に任命されてから日が浅く、人間たちを十分に知らないままそう断じてもいいのかと…」
「…確かに、お前の言い分も一理ある。お前はまだこの宇宙の、人間の何たるかを理解しきってはいない。お前は数少ない私が認めた者…お前が心から私に賛同し協力するようになるまで時間をやろう」
「は、はい!自分、界王として頑張るっす!」
ダラズは深く頭を下げ、自身の界王星へと戻っていった。彼を送り届けたザマスは界王神界へ帰りながら、己の疑念と思想について考える。
ザマスは界王だった頃に、度々宇宙の様子を覗いてはどこかで繰り広げられる争いを憂いていた。そして、やがてひとつの結論が脳裏に浮かぶようになる。不要な存在は即排除した方が宇宙の平和につながるのではないか?例えば、争いを起こす人間など…
(そうだ…私は人間0計画を思いついてしまった瞬間から、もう引き返せないのだ!今すぐにでも実行に移してやる…)
「おいおい…誰だ今のヤツ…!」
サザンカは突然現れ、ドラゴンボールを奪い去っていった謎の人物が消えた方向を指差しながらそう言った。
「もしかして私たちの他にも究極ドラゴンボールの事を知ってるヤツが居たってこと?」
とシロナも疑問を口にするが、ハーツは顔をしかめながら黙り、何かを深く考え込んでいた。
「…アイツは恐らく、第10宇宙の神だな」
「第10宇宙の…」
「神?」
「ああ。何のつもりかは知らないが、ドラゴンボールを奪われた以上取り返しに行くしかない。俺が行ってくるから二人はここで待っててくれないか?すぐに済む」
「え…なんで一人で?」
「そりゃ…究極ドラゴンボールを色んな宇宙にばらまいたのは俺なんだぜ?その所為でドラゴンボールの力に気付いた者がいる…第3宇宙の科学者のようにな。だから俺が責任をもって取り返してくるとするよ」
それを聞いたシロナとサザンカは顔を合わせ、にやりと笑って言った。
「水臭いこと言うなよ!一緒に行こうぜ!」
「うん!ここまで一緒に来たんじゃない!」
「君たち…はははっ、すまんすまん…君たちはそういう人間だったな。じゃあ行こうか、第10宇宙へ!」
次の日、ザマスは第10宇宙の辺境の惑星に移動していた。この星は彼の嫌うところの人間が住んでいるが、まあ関係ないだろう。
その手には第6宇宙で強奪した究極二星球が握られていた。
その時、目の前にハーツ、サザンカ、シロナの3名が降り立った。
「ふふふ…のこのことここまでやって来るとは愚かな…」
「愚かなのはお前の方だ。奪ったドラゴンボールを返せ、そうすれば見逃してやる」
「ちなみに、私たちの持ってるドラゴンボールは全部この中にあるから」
ハーツがそう言い、シロナがドラゴンボールを収納しているホイポイカプセルを見せると、ザマスは笑い出す。
「ははははは!つくづくバカな人間どもだ!いいだろう、そこまでこの私に敗れたいと言うのなら…臨む通りにしてやろう!」
ザマスは右手に剣の形状のオーラを纏い、それを振りかざして襲い掛かる。まさに空間そのものを切り裂くが如き攻撃であったが…
ハーツはそれを見切るといとも容易く攻撃をかわし、右腕を掴んで止めた。
「な…!」
そして、一発の蹴りでザマスを吹っ飛ばす。その向かう先にはシロナがおり、彼女のパンチで上空へ弾き飛ばされ、さらにその先で待ち構えていたサザンカのスレッジハンマーを受けて地面へ吹っ飛び激突してしまう。
捲れあがった地面の中に埋もれたザマスはゆっくりと起き上がりながら怒りに顔を歪める。
「3人がかりとは卑怯な人間め…!」
それを聞いたハーツは足を止め、シロナとサザンカにハンドサインで「下がってくれ」と送る。それを見た二人はハーツの意図を汲み、静かに少し離れたところへ降りた。
「なら俺ひとりでやろう、遠慮はいらない…君も長らくその強さを全力で振るったことがないんだろう?」
「ああその通りだ…この宇宙の界王神はおろか、他の宇宙の界王神との手合わせであっても私は負けなかった…後悔するがいい!」
一気に距離を詰め、気の剣で素早いラッシュを仕掛ける。が、ハーツはつなぎのポケットに手を入れたまま足取りだけでその全てを躱し、反撃の膝蹴りと回し蹴りで軽くあしらった。
ザマスは明らかに届かない場所から剣を振るった。だがザマスの表情から何かありそうだと思ったハーツが目を見開いた瞬間、今度は正真正銘空間ごと切り裂く巨大な斬撃が宙を走った。ザマスは余裕綽綽だったハーツが分断される様を想像し不敵に笑うが、ハーツは無動作からの重力操作で斬撃の軌道を上から逸らした。斬撃がハーツの足元の地面を線状に切り裂くだけに終わった。
「バカな…」
ハーツは唖然とするザマスの背後へ回り、背中に肘打ち。前のめりに倒れたところを顔面を手で掴み、自身の体ごと一回転し投げ飛ばした。
宙を舞うザマスへ手を掲げ、重力のキューブを生成し発射。ザマスの体に付着したキューブは巨大化し彼の体を完全に閉じ込めてしまう。
パチッ
そしてハーツが指を鳴らすと、キューブは大きな爆発と共にさく裂するのだった。
それをもろに受けたザマスは煙の尾を引きながら、再び地面へ落下した。
「ぐふ…がは…!」
ザマスは満身創痍といったボロボロな姿で、咳込み喘ぐばかりで全く身動きすらできない状態にされていた…。
(今ので完全に消すつもりだったが…神力で防いだか)
「すげ…ハーツ、あんなことできるんのか…」
「うん、でもなんか…ちょっとやり過ぎじゃない?」
その様子を見ていたシロナとサザンカは思わず感嘆してしまう。だが、シロナは流石にドラゴンボールを奪おうとしただけの、それも神様相手に少しやり過ぎではと思った。
「ドラゴンボールを返してもらおう。そうすれば殺しはしないでやる」
「…ぐ…」
だが、ザマスは尚も力を振り絞り、一発の気弾をハーツの顔面へ発射した。ボウン、と爆発を起こすが、それは全く効いてはいなかった。
ハーツは顔色一つ変えずに重力のキューブをザマスの目の前に落とし、さく裂させて吹っ飛ばす。ザマスは地面を転がり、岩に激突し崩れ落ちた。
「ハァ…ハァッ…!」
「さあ、どうする?」
冷酷に見下ろし、淡々とした言葉を投げるハーツ。だが、ここで彼の言葉に従うことはザマスのプライドが絶対に許さなかった。目つきだけで抵抗の意思を示すザマス、ハーツは諦めたように短く息を吐くと、最後の一撃としてキューブを生成し、発射した。迫りくるキューブを目の当たりにするザマスだったが…
「…!?」
その時、ザマスとハーツの間に大柄な影が割り込み、キューブの爆発を受けた。
ハーツも目前でのキューブのさく裂を受け思わず腕で顔を覆った。爆発から完全に守られたザマスはその影を見上げ、驚いた。
「お前は…」
そこにいたのは第10宇宙の北の界王ことダラズだった。ダラズは界王の服が焼けて破けるほどのボロボロな姿でキューブの爆発を耐え切っていた。
「お二方共…こんなことはやめましょうよ!!」
「…君は?」
「自分はダラズといいます!新しく北の界王に任命された者っす!ここは界王の名に免じて引いていただけないでしょうか!?」
ダラズは必死にそう呼びかけ、ハーツは少し困ったようにこめかみを掻きながら口を開いた。
「いや、俺はただ…取られた大事な球を返してもらいたいだけなんだが…」
「なら、そうとしっかり話しましょうよ!」
「話したんだけど…」
「ザマスさんも人の物を取ったら泥棒っすよ!今すぐに返しましょう!」
「…黙れ…私は人間になど屈しない…!」
「え、ええ~!?」
「そもそも私とお前は共に人間0計画を目指す同志なはずだ…!分かっているなら、そこにいるそいつらを…殺せ…!」
ザマスはダラズにそう命じるが、いくらダラズが界王とはいえ、ハーツやサザンカたちに勝てるほど強くはない。
「何をしている…!私の言うことが聞けないのか…!」
「…ザマスさん、やっぱりやめましょうよ。人間を0にするなんて、実現性がないし馬鹿らしいっすよ…」
「なにィ…!お前も分かっていたはずだ…人間は争うばかりで尊い自然を、命を!ただ消費するだけだ…そんな種族に価値など無いと…!」
「なら人間も自然の一部だし命っす。それに自分思うんすよ…人間の価値とか、そういうの決めるのって自分ら神々じゃないんじゃねって。きっと人間たち自身が決めていくことだと思うんす」
ダラズにそう言われたザマスは額に青筋を立てながらも黙りこくった。
「だからもう帰りましょうっす。ゴワス様には自分から上手いこと説明しますんで…」
そして、ダラズは満身創痍で動けないザマスをヒョイと肩に抱えた。
しかし…ザマスは納得してはいなかった。なけなしの気力を集め、右手にオーラの剣を作ると、それをダラズの背中に突き刺し、体を貫いた。
「…!!ザマスさん…!?」
「光栄に思えよダラズ…その甘ったれた考えを、この私が矯正してやる」
「アイツ、何を…!」
不審な動きを見せるザマスに、ハーツは警戒する。
ザマスは左耳に着けていた耳飾りを外し、蹲って動けないダラズの左耳に強引に着けた。ダラズはひたすらに困惑している。なぜザマスが耳飾りの片方を自分に着けたのか、まったく意味が分からなかった。
「こ、これは…?」
「私と合体するのだよ。お前の傷も痛みも全て消える…安心して私に身を委ねると良い」
互いの耳飾り…「ポタラ」が発光すると、ザマスとダラズの体が勝手に引き寄せられ合い、衝突した。その瞬間、眩い光が二人を包んだ。
「さあ、貴様らの終わりの時が来るぞ。平伏し、屈服しろ…新たなる宇宙の神、この『ダマス』に!」
ザマスとダラズ、ふたりの界王がポタラにより融合し誕生した存在、ダマスは静かに顕現するのだった。
公式から投稿されている未来トランクス編の時系列表と睨めっこしたんですが、やはり難解ですね。
とりあえず本作の世界線は、数ある「ビルスに破壊されず、かつゴクウブラックが訪れなかった」時空のうちのひとつのザマスです。超では孫悟空と超ドラゴンボールの存在とババリ星人の蛮行を目にしたことが野望を加速させましたが、本作ではそのどれもが無いため、ザマスは原作ほど人間嫌いではないし、人間0計画に本気ではないです。