「ここが、最後のドラゴンボールがある場所か…」
一行は最後のドラゴンボール、究極四星球を求めて第11宇宙のとある星に来ていた。レーダーが示すには、この目の前にある大きな城の中にあるようだ。
「まーた誰かが持ってるのかよ…」
「面倒なことにならなければいいがな」
既に彼らはこれまでの旅で無数の厄介ごとに巻き込まれながらドラゴンボールを集めてきており、もう辟易していた。
「とにかく城の誰かに話をつけなければな。行こう」
ハーツがそう言い、城の門を叩こうとした時、後ろから誰かが地面を蹴る音が聞こえて振り返った。
「む、何者だ君たちは…」
数人の護衛を引き連れ、口元に髭を蓄えた背筋の伸びた男性が、ダチョウのような生物の背に乗ってこちらを見ていた。恐らくはこの城の関係者であろうが…
「いやあ、突然すみません。ちょっと探し物をしてまして…このような球がひとつ、この城にあると伺ったのですが…」
ハーツは丁寧にそう言い、ドラゴンボールの一つを見せた。
男はそれを見ると、「ふむ…」と顎を撫で、護衛に門を開けさせる。
「詳しい話は中で聞こうじゃないか。上がりたまえ」
客室へと通されたハーツらは、自分たちの故郷に伝わる宝玉が盗まれ、紆余曲折を経てこの城に流れ着いたと話した。嘘であるが、幸いにもこの星の住民の姿は地球人とほとんど変わらなかったため、ハーツはともかくシロナたちは別の地方から来たという設定にした。
「…というわけで、四つ星の入ったこの球を我々に譲っていただけないでしょうか?」
「なるほど…それは遠路遥々ご苦労だったな。申し遅れた、私はこのマグプッカ公国を治める者、ソーサーという。君らの名前は?」
ソーサーと名乗った王は落ち着いた物腰で名前を尋ねる。
「ハーツです」
「サザンカ」
「シロナです」
「感謝する。して、その山吹色の宝玉だが…娘の部屋に置いてあるのを見たことがあるな」
「それホント!?」
「では、娘さん…姫様に話をつけてもらえますか?」
「それはできんのだ」
「…何故です?」
「娘はもうこの世にいないからだ」
思わぬ返答に、ハーツたちは言葉に詰まる。
「つい1か月前のことだ…不意な事故でな…まだ遺品整理もできていない。娘の部屋を片付けてしまうと、尚のこと彼女がもういないという事を思い知ってしまうのでな」
「それはご愁傷さまです」
「気にせんでいい。娘は…プラターはあの球を、確か拾ったと言っていた。金を払って購入した訳ではないので譲ることは容易いが…」
ソーサーはサザンカ、シロナの顔を順番にまじまじと見つめる。
「ひとつ、頼まれてくれないか。それをこなしてくれれば、例の球をくれてやる」
「本当ですか?」
「で、それって…?」
「死んだ娘に代わり、2週間後に開催される社交界に出ていただきたい。それが頼み事だ」
「…社交界?」
ハーツが聞き返す。
「そちらの…サザンカ氏は人相は悪いが年恰好が娘と同じだ。顔立ちや雰囲気はシロナ氏の方が似ているが…まだ幼すぎる。
というのも、私の兄がいてな。ヤツは病弱がゆえに王位を継承できず、弟である私が王位に就いたことを根に持っていて、今でもやっかみが絶えない。そしてどうやら今は自分の娘に次の王位を継がせようと画策しているらしい。
もしも、次の王女となる予定だった私の娘が死んでいることがヤツにバレれば、恐らく自分の娘を王位継承にねじ込んでくるだろう。そうならないためにも、せめて2週間後の社交界が終わるまでは誤魔化したいのだ」
ソーサーは、亡くなった娘のプラターに似ているサザンカかシロナに影武者になってもらい、2週間後の社交界に出席してもらいたいようだ。
「ですが何故…2週間後の社交界までなんです?」
「それは…プラターが楽しみにしていたからだ。せめて望み通り、社交界だけは兄たちに台無しにされないうちに、形だけでも参加し成功させてやりたいのだ。その後のことは、王位でも何でも兄の好きにさせてやるつもりだ」
「っていうかちょっと待てよ。何か流れでアタシが娘さんの代わりやることになってねぇか?アタシに上品な振る舞いは無理だぜ」
「まあそう言わず…報酬は弾もう」
「ええ~」
そんな会話を聞いていたシロナは、こほん、と咳込み、視線を集めた。
「そのプラターさんの写真とか絵ってあるかしら?」
「ああ、あるとも。おい」
ソーサーが命じると、控えていた護衛がアルバムを取り出し、そこから1枚の写真を取り出して見せた。そこには、美しい紫色の長髪の女性の姿が映っていた。
「これが娘だ」
「なるほど…ちょっと待っててもらえる?」
シロナは写真を見ながら衝立の後ろへ身を隠し、しばらくすると出てきた。するとその姿は、背格好や髪型、顔まで見事にプラターそっくりになっていた。
「どう?似てる?」
「…生き写しだ、目を疑うほどにな」
ソーサーは驚きを隠せない顔で固まった後、小さくそう言った。
(ああ…ファントムになって変身したんだな)
シロナはファントムシロナの力を使い、変幻自在な体を利用してプラターそっくりに変身して見せたのだ。
「なら私がサザンカの代わりに社交界に出るよ」
「心遣い、感謝する。ならば、君には礼儀作法やダンスも叩き込ませる」
「いいよ~」
とりあえずの方針が決まった一行。シロナがプラターの代わりとして2週間後の社交界に出席し、その報酬として究極四星球とその他報酬を貰う。
一行は社交界が終わるまでソーサーの城に居候することになった。
「ゲホッ、うごえぇッ…!ハァ…!やはりソーサーは2週間後の社交界に娘を出席させるようだな…」
ソーサーの兄、タンブラー卿はベッドに寝た状態で咳込みながら呟いた。その体は痩せ細っており、弟のソーサーと比べて非常に年老いているようにも見える。生まれながらに病弱だったタンブラーは幼少期からこの通りの有様で、本来なら長男なので王位を継ぐはずだったが、弟のソーサーに譲らざるを得なかったのである。
「はい…間違いありません」
タンブラーの側近たちは彼の言葉を肯定した。ソーサーは娘の代役が見つかった後、社交界に出席するという書類を送っており、ソーサーはそれを盗み見ていた。
「では殺し屋をかき集めろ…予定通り、2週間後の社交界に決行する。くくく…次の王は奴の娘ではない、私の娘がなるのだ…!」
それから2週間、シロナは元プラターの付き人や召使から社交界に臨むにあたっての教育を叩きこまれた。恐らく、普段のシロナであれば細かい所作や言葉遣いなどは言われたところで覚える気も実行する気もないだろうが、ファントムシロナの能力を使っている今ならば、魔力による肉体変化によって行動パターンさえ自在に変えることができ、それによって教えられたことを完璧に再現している。
「…シロナくんは順調にいってるみたいだな」
「んー、ご苦労なこって」
その間、サザンカとハーツはただ客室で何もせずくつろぐ日々しか送っていなかった。サザンカは机の上に並べられた大量の料理を食べ続け、ハーツは椅子に座って紅茶を飲むばかり。
「それよりハーツは食べないのか?」
「いや食べるが…俺は君たちほど頻繁に食事を必要としないからね」
と、その時、部屋のドアが静かに開いた。
「お」
ゆっくりと部屋に入ってきたのは、白いドレスを纏う美麗な雰囲気を纏う女性だった。一瞬誰かと思い唖然とする二人だったが、女性がいつもの笑顔でニッと笑ったのでそこで気付いた。
「姉貴か!」
「どう?似合ってる?」
「ああ、素敵じゃないか」
ハーツにもそう褒められて気分がよくなったのか、シロナはその場でくるくる回り出す。
「えへへ、この格好で社交界に出るんだって」
「そうか、任せきりになってしまってすまないが、ドラゴンボールのためだ…頑張ってくれよ」
「…あ、すぐに戻んなきゃいけないんだった!じゃあまたね~」
シロナはそう言うとすぐに部屋を出て行ってしまった。
「まあ、順調なようでよかったじゃん」
「ああ、あの調子なら無事に社交界は終えられそうだな」
そして幾日かが過ぎ、ついに社交界が開かれた!
「ふぁ~あ」
楽団が優雅なクラシック音楽を奏で、煌びやかな装飾の中で催される社交界。プラター姫に成り代わって出席しているシロナだったが、身に纏う上等な白いドレスとは裏腹に内心は退屈で周りに気付かれないように欠伸をしていた。
しかしその頭の中では、社交界の直前にソーサーに言われたことを思い返していた。
『しかし、君が代役となったことで娘が健在だと確信した兄は、娘の暗殺を強行するかもしれん。その時は…』
(大丈夫。私たちが何とか穏便に済ませるよ…)
シロナも度々目を光らせているが、会場に来ている人間の中に怪しそうな者は一人もいない。
だが、会場の屋根の塔の天辺に立って外を監視していたハーツが、下の屋根の上に登って近付いてくる怪しげな集団に気付く。
「やはり来たな」
ハーツもソーサーから刺客が来るだろうという話を聞いており、やはりと声を漏らした。ドラゴンボールを無事に報酬として貰うため、ハーツは塔から飛び降りつつ刺客たちに襲い掛かった。
外から戦闘の気配を感じ取ったシロナは、適当に酒を飲みつつも神経は張りつめておく。
そしてその瞬間、会場を照らしていたシャンデリアが次々と突然落下し、出席者たちの悲鳴と共に辺りが暗闇に包まれた。控えていたソーサーの護衛たちが一斉にシロナを守ろうと覆いかぶさるが、シロナはシャンデリアの破片が砕ける音が規則的に遠ざかっていくのを聞き逃さなかった。
「ちょっと退いて!」
シロナは大柄な護衛たちを軽く押し退けると、目にもとまらぬ速度で闇の中を走ってゆくのだった。
ガラスを踏む音を聞き分け、追いかけると外に出た。そこにはやはりスーツ姿の殺し屋然とした見入らぬ男がおり、追ってきたシロナに驚きつつ銃を構えた。
「なんだお前!?」
恐らくはシャンデリアに細工をした者で、中で様子を見つつ外と連絡を取り、仕掛けを起動させて逃げたのだろう。男は銃で発砲するも、シロナは着弾前にサッと姿を消し、背後から男の背中を叩いて気絶させた。
そして会場の屋根の上を見上げ、そこで繰り広げられているハーツと殺し屋集団との戦いの場へ急いで参戦する。といっても、ハーツはただその場で立ったまま自身の周囲に重力操作を展開して殺し屋たちを押し倒しているだけであり、彼らの怒号やうめき声が響いているだけで特段戦いと呼べるほどのものではなかった。
「こっちはすぐに片付いた。中は大丈夫なのか?」
「うん、もう護衛の人たちが全員避難させてると思う」
「そうか」
ハーツは重力で拘束した殺し屋たちをキューブで一纏めにし、それをはるか遠くへ投げ飛ばした。彼らは悲鳴と共に星空の彼方へ消えていった。
「だが…社交界は台無しになってしまったな」
「うん…ソーサーさんは娘のために成功させたいって言ってたけど…」
少し悲しそうな顔を見せたシロナを見かねたハーツは、彼女に近づき、その手をそっと取った。
「なら、俺と踊ろうじゃないか」
「え?」
「気休め程度の鎮魂にしかならないだろうが、それでもおそらく…あの娘さんはきっと満足してくれるはずだ」
「…あははっ」
無数の銀河や星々が瞬く夜空の下、ふたり分の影が踊っていた。
「…ここには誰も来なかったみたいだな」
城の廊下で窓の外を見下ろすソーサーと、その彼の護衛として付き添っていたサザンカ。サザンカがそう呟くと、ソーサーは小さく息をついた。
「ああ。社交界は…中止になってしまったようだがな」
死んだ娘が楽しみにしていた社交界は潰れてしまった。父親として、せめて代わりのシロナを出席させて無事に成功させたかったという願いは打ち砕かれた。
「…して、サザンカ…シロナは君の妹なのか?」
ソーサーはふと振り返り、サザンカに尋ねた。
「いや、ああ見えてアイツが姉だ。まあいろいろあるんだよ」
「…それは驚いた。そうだ、ひとつ提案なのだが、君らは報酬を受け取り次第故郷とやらへ帰るのだろう?」
「ああ…」
「だが旅の衆と見た…どうだろうか、シロナを私の本当の娘にさせてはくれんか。もちろん君もハーツ氏も、我が一族として迎え入れよう」
「そりゃあ…悪いが姉貴本人に聞いてみるべきだぜ。絶対、断ると思うけどな」
「だろうな…だから君に聞いた。
私は…何をしているんだろうな。娘は風呂の中で死んでいた。いつもよりも長風呂な事を心配した召使が発見したのだ。なんともまあ…『そんなことで』、と思ったよ。そんな矢先、君らが現れた…一瞬だけでも、チャンスだと思ってしまった。断ってくれてよかったよ、これでようやく前を向ける」
「…そりゃよかった」
後日、シロナたちは約束の究極四星球を受け取った。その他の報酬もくれてやると言われたが、滞在した2週間だけ良くして貰ったことで十分だと言った。
怒りながら城へやってきた兄のタンブラーに、ソーサーは娘の死を打ち明け、次の王位もタンブラーの娘にやると告げた。あまりに拍子抜けだったので困惑したタンブラーはこれ以上怒る気にもならず、生まれて初めて兄らしい言葉をかけて帰っていった。
「じゃあ、いろいろありがとう!」
「恩に着ます」
一行は別れの挨拶はほどほどにソーサーの元を後にした。
「さて、これで究極ドラゴンボールが7つすべてそろったんだな」
「ああ、ようやくって感じだな…」
究極七星球は、元いた第7宇宙の惑星グママで手に入れ、メタルトータス達を苦しみから救った。
究極三星球は、第9宇宙で手に入れ、ベルガモ達と共にヒソップを撃破した。
究極五星球は、第2宇宙で手に入れ、リブリアンやレヒレと出会った。
究極一星球は、第4宇宙で手に入れ、暴走するアニスをガノスやニンクらとともに鎮めた。
究極六星球は、第3宇宙で手に入れ、Dr.パパロニらの繰り出す改造戦士を破りながら具現化した究極六星龍を倒した。
究極二星球は、第6宇宙でカリフラやケール、ヒットとの激闘の末に手に入れた。が、第10宇宙の界王神見習いザマスに奪われるも何とか取り返すことに成功した。
そして、この第11宇宙で最後の究極四星球を譲り受け、全ての究極ドラゴンボールが揃った。これを地球へ持ち帰り、神殿に安置することによって地球の破滅は回避されるのだ。
「さあ帰ろう!地球へ!」
ヒュウウウ…
ドォン!!
その時、
三人は、思わずその圧倒的な佇まいに目が釘付けになった。膝と拳を地面へ打ち付けて着地し、すり鉢に窪んだ大地の中心で立ち上がる巨躯の男に。