「そんな…カカロット…!」
霊夢は彼方へ吹き飛ばされたカカロットの気を探ろうとするが、その気はもう既に感じることはできなかった。不動紡馬から放たれたエネルギー波はカカロットを飲み込み、ここから遠く離れた妖怪の山の斜面に命中し、大地を揺るがす程の爆発を起こした。
「フハハハハハ!何と容易い事か!!」
「よ、よくもカカロットを!!」
高笑いをする紡馬。そして一方、霊夢は怒り、頭上へ無数のエネルギー弾を生成しながら紡馬へ飛びかかった。
…が、その間に明嵐が割り込み、霊夢の顔面を思い切り蹴りつけた。
「お前の相手はこの私さ」
「くっ、明嵐…!」
額から血が流れ、眉間をたれる。
明嵐は続けて霊夢へ攻撃を仕掛ける。放たれたパンチの連打を躱しきろうとする霊夢だが、その暇もなく全ての連打を全身に受け、生成していたエネルギー弾をすべて潰され、吹き飛ばされた。
「ぐう…!!」
受けた打撃は霊夢の体力を奪う。と同時に、霊夢は親衛隊への圧倒的な敗北感を味わった。ウスターやカカロットと手を組んで戦っても、こいつらには全くと言っていいほど歯が立たない。
地面に激突した霊夢のもとに、明嵐が上空から舞い降りる。そして膝蹴りを腹へ叩きつけた。霊夢は血を吐き出し、明嵐へ手を伸ばすが、それも空しくやがて気を失った。
「さぁ明嵐、止めを刺してしまえ」
後へ降り立った蛇斑と紡馬がそう言った。明嵐は手刀に気の剣を纏い、霊夢の喉元へ突きつける。だが、それで斬りつける寸前で手を止めた。
「どうした、何故止める」
「…この女はもう何もできやしないさ。私たちに絶対的な絶望を与えられたんだ、起き上がれたとしても心は折れているハズ。私は討ちとる価値もないと思ったまでだよ、姉さん、紡馬」
そう言うと、手をひっこめる。
「それもそうだな、潔癖で高貴なる我々月の客、しかも月夜見王親衛隊ともあろうものが、こんな負け犬を手にかけたなど笑われる」
「しかし、己は不服だな。ここで芽は抓んでおくべき…」
ピピピ…
その時、蛇斑の装着していたスカウターに通信が入った。
「は、月夜見王。はい、了解です。では近辺の兵へ指示をしすぐに取り掛かります」
「王からのご命令か。何と?」
「ふふふ、住民の始末は一旦休み、兵器を使用し幻想郷を焼き払えとのことだ」
「ほう…いよいよ我々の真価を発揮できるわけだな」
三人は全身に黄色の気を纏い、巨大な月が光る空へと消えていった。
その場には、気を失った霊夢とウスターが残された…。
一方そのころ、巨大な爆発跡が出来てしまった妖怪の山。そして、その地点やらやや離れた場所の地点に、カカロットは倒れていた。服はボロボロで、ところどころ怪我をして血がにじんでいる。
紡馬の攻撃は、カカロットを飲み込んで妖怪の山へ着弾した。だがカカロットはギリギリ死にはしなかった。炸裂の衝撃に吹き飛ばされ、ここまで移動してきたのだ。
「カカロット…かわいそうに。だがお前は死なせないぞ…私の部下に欲しいからな」
そこへ現れる、摩多羅隠岐奈。彼女はカカロットを抱きかかえると、後戸の中へと入っていくのだった…。
その後戸の国の中では。
妖怪たちが避難しているスペースの中で、八雲紫が能力を駆使して作ったのぞき窓から、霊夢たちと月の客との戦いを見ていた。
しかし、今は暗いムードがあたりを包んでいた。
「ウスター、カカロット…そして霊夢が負けてしまうなんて…!」
紫が戦いの様子を見てそう言った。この場にいる聖や神子、レミリアたちも悔しそうな顔で倒れたまま動かない霊夢たちを見つめていた。
「み、見ろ!」
勇儀がそう声を上げた。
すると、幻想郷の空に浮かんでいた月の客軍の戦艦がだんだんと高度を下げて来る。銀色の滑らかなボディに、翼のような部位を装着している戦艦は、現実にある船とは変わった不気味さを持っていた。
数隻の戦艦軍は、人間の里の上空に隊列を組むと、翼のような部位に格納されていた砲身を列のように飛び出させる。そして、その砲身に謎の光が溜まり始める。
キイィィィィ…
「何をする気なんだ…?」
「まさか!」
彼らの予感は的中した。エネルギーを充てんした月の戦艦は、光の砲撃を地上へ向けて一斉に放出した。そして彼らの見ている前で、人間の里が巨大な爆発に巻き込まれた。爆炎と爆風に建物の残骸が舞い、出来上がった焼け跡には何も残っていない。まるで、幻想郷の一部そのものが削り取られたようだ。
月の戦艦は月の民の科学力で作られた兵器が搭載されており、それはあのブルーツ波をレーザー状に圧縮したものだ。
レーザーの着弾と同時に、後戸全体が大きく揺れた。
「うわあっ!」
「く…奴ら、幻想郷を破壊し尽くすつもりだ…!」
そう言っている最中、砲撃の第二波が放たれた。人間の里をレーザーで焼き払い、地面を抉っていく。
その様子を、紫や賢者を含めた妖怪たちはじっと眺めていた。
「悔しくないのか?」
誰かがそう言った。
「そ、そうだ…私たちの幻想郷だぞ、好き勝手にされてもいいのか?」
その言葉を聞いた妖怪たちは、もう一度改めて月の客軍を見つめた。とても強力で、かつ異形で不気味な軍隊。ずっと昔、月へ行き月面戦争を体験した事のある者たちは、その強さと恐ろしさを再確認する。残虐な砲撃は、なおも幻想郷の大地を焼き払う。妖怪の山や湖、魔法の森に至るまでが一変して焼け野原に変えられてしまう。
兵器でなくとも、奴らの兵1人1人が自分たちを一撃で葬れるほどの力を持っている。もしも戦えば、無事では済まないはずだ。それに対する恐怖も感じる。
それでも、込み上げる怒りと闘志をどうすることもできなかった。
「今こそ、今度は私たちが戦うべきじゃないかしら」
華扇がそう呟いた。それを聞いた紫が宙に浮かび上がり、声を上げる。
「その通りかもしれないわ、やられてしまった霊夢たちに代わり、今こそ我々が戦うべきかもしれない!」
それに賛同する声がチラチラと上がり始める。
「だが敵との戦いで我々は無事ではすまないでしょう…その覚悟のある者のみ、私についてきなさい!」
そして、紫はスキマの能力を使い、目の前に幻想郷へと続く出口を作った。そこに入り込み、消えていく。
後に居た妖怪たちの集団は互いに顔を見合わせると、雄叫びを上げながら紫に続いて後戸を後にする。
幻想郷への攻撃を続ける月の戦艦。その内部の操縦室では…。
「ん?」
乗組員の一人が、モニター上に表示された何かの反応に気付いた。その反応は彼の見ている前でポツポツと増えていたが、やがて一気にボンと増えた。
「な、なんだこれは!?」
「何もなかった場所に、突如として未確認反応が大量に出現!この反応は…妖怪!地上の妖どもの反応です!」
幻想郷へと舞い戻った妖怪たちは、大地に向けて今にも砲撃を放とうとしていた戦艦に向けて無数の弾幕を放った。軽い爆発を起こし、戦艦はバランスをやや崩した。
「くっ…!」
さらに妖怪たちは戦艦に攻撃を加え、その装甲を砕き、内部を破壊していく。
「こちら幻想郷破壊部隊、突然現れた多数の妖怪の反撃を受け大破!妖どもの反撃~!!」
「やった、敵の陣形が崩れてる!」
「ああ、何隻かが煙を上げて落ちていきます」
紫と藍がそう言った。墜落していく戦艦から、無数の月人の兵士たちが湧き出て、剣や銃を持ちこちらに迫ってくる。妖怪たちはそれすら迎え撃とうと、果敢に戦いを挑むのだった。
「あの、紫さん、これは…?」
その紫の元へ、聖がやってきて言った。
「何かしら?もしかして、自分は闘いたくないって?」
「いえ、そんなことは…!」
「でもそれでもいいのよ。私たちはやりたいからこうして闘っているだけ…別にアナタは他のことをしたって構わないわ」
「…いや、私も戦います」
「聖、だったら何か忘れてるものがあると思うよ」
横にいた村紗と一輪が聖にそう言った。
「こっちにも、あの船があるじゃない!」
「なるほど!」
聖と村紗、一輪は命蓮寺があった場所まで向かう。周辺はまるで地面が蒸発したかのような穴があき、大分荒らされていたが、幸いにも命蓮寺は無事であった。
「よかった…壊されてたらどうしようかと…」
その時、聖は何者かの気配を感じて振り返る。
「今から壊そうとしていたところだ」
そこには、5人ほどの月人の兵士が立っていた。手には銃剣と盾が装備されており、寺の屋根の上からこちらを見下ろしている。
「月の民の兵…ですか…!」
「こんなところで住民を発見するとはな!見つけ次第皆殺しとのご命令だ、死んでもらうぞ地上人!!」
兵士たちは武器を振りかざし、聖たちに襲い掛かる。応戦しようと構えるが、流石の月人の兵士が5人も同時に相手では分が悪いだろうか。
ドン
その時、どこからか飛んできた筋のような光線が兵士を吹き飛ばした。吹き飛ばされた兵士は空に打ち上げられ、やがて見えなくなった。
「何者だ!?」
「あなたは…」
「よう」
そこに立っていたのは、あの霧雨魔理沙だった。背後には、マミゾウや星、響子の姿も見える。
「聖、お主が何をしようとしてるかは分かっておる。ここの兵士共は儂らが相手をしてやるから、行くがいい」
「何だと…地上の妖共の分際で~!殺してやる!!」
兵士はマミゾウたちに襲い掛かる。
「さぁはやく!」
魔理沙は聖たちに合流すると、共に命蓮寺の中へ入っていく。
聖と村紗はこう考えていた。敵が戦艦を持っているなら、こちらも船で戦うべきだと。この命蓮寺は、もとは空飛ぶ宝船であった。一度、大猿に変身したカカロットに破壊されてしまったこともあったが、元に戻すこともできるはずだ。
「私の舟よ、元に戻れ!」
村紗がそう叫ぶと、寺が震えだした。中からだとよく分からないが、外から見れば、寺は明らかにその形状を変化させていた!
地面から離れて浮かび上がり、豪華な装飾が施された一隻の舟へと変わったのだ。
「上空へ浮かんで飛行、敵の戦艦に向かって砲撃だ!」
聖、村紗、一輪、魔理沙を乗せた「聖輦船」は、船長である村紗の命令通りに浮かび上がり、収納していた大砲を露出させた。そして、上空に浮かんでいる戦艦に向かって、無数の大砲を放った。
「おお、本当に動いた!」
興奮気味に声を上げる魔理沙。
「あれ、でも久々過ぎて操縦が上手くいかない」
「えっ!?」
放った大砲は掠りはするが命中はせず、逆に敵艦隊からの注意を引くだけに終わってしまう。
「おい、まずいんじゃないかこれは…」
3隻の戦艦が移動し、聖輦船を取り囲う。そして、一斉に放った砲撃に晒され、聖輦船は西の方角の彼方へ吹き飛ばされてしまう。
「そんな~!!」