「不意打ちを当てたことがよほど嬉しいようだな」
立ち上がったモロは首をコキコキと鳴らしながらゆっくりとクレーターの中を歩く。頭部に生えていた立派な巻き角の片方は途中から折れて消失している。
ビルスも立っていた淵から静かに斜面を降りはじめる。
(やはり、2か月前よりもずっと強くなってる…数多の人間が悲鳴を上げているような、とにかく不愉快な気。一体どれだけの星を犠牲にしてきたんだか…。まあそれならそれで…)
「遠慮なく破壊できるな」
「やってみろ。なまくらでこのオレを捌けるか?」
ビルスの体から立ち昇った巨大な気の塊がうねり、回転しながらモロに叩きつけられる。
「『破壊』」
そのままビルスは万物を無に帰すエネルギーを送り込み、いきなりモロの存在を消し去ろうとする。が、モロも破壊という技に対して何も対策を考えていなかったわけではない。
体の前面に魔力のシールドを張り、破壊を防ぐ。だが、ビルスの破壊は文字通り万物を破壊できる…シールドを張ろうが、瞬時にシールドごと対象を穿つ。
だが。
ゴリゴリゴリゴリ…!!
(これは…)
放った破壊の力はモロのシールドを削るばかりでなかなか破ることができない。
ドゴォ!!
そして、モロのアッパーカットがビルスの脇腹にさく裂した。
(そうか…!多層的にシールドを張って破壊の威力を軽減しているな)
とはいえ、ビルスの破壊に数秒でも耐え切ったシールドを張れるモロの魔力量がよほど桁違いであることが伺える。
さらに、モロがビルスに触れたということは…
(来るか、エネルギーの吸収!)
モロは不敵に笑いながら一気に吸い上げるつもりで吸収を開始するが…
(吸収できん…!)
直後、ビルスの膝蹴りがモロの鳩尾に突き刺さる。
「ッ…!」
(大したエネルギーを感じないと思っていたが、大界王神と同じか!コイツらのような神の持つエネルギーはオレには吸収できない!)
そこで、お互いの得意がお互いに通用しないという事を認識する。
((面倒だ…))
いや、どう足掻いてもエネルギーを奪えないモロよりも、モロを追い詰め弱らせて魔力を削っていけばいずれ破壊も通用するようになるであろうビルスとでは、やはりビルスの方が圧倒的に有利!
((だが勝つのは此方だ))
モロとてそれは既に理解しているだろう。それでもなお、双方共に己の勝利を信じて疑わない精神力。
ビルスの連続攻撃を後ろへ飛んで躱し、さらに追撃に向かってきたところへカウンターのフックをお見舞いしようとするが…
「…!」
こちらへ向かってきていたはずのビルスの姿が忽然と消えた。モロはビルスが消えた先を瞬時に見抜き、背後にいることは分かっていたが体が反応せず振り向くことが出来ず、そのまま背後から側頭部へ強烈な打撃を食らわせられる。
モロの大柄な体が野球ボールのようにビュンと飛び、遠く離れた廃墟の街の中へと消えていく。
ドォン
街中の階段に激突して勢いが止まり、崩れた瓦礫の中から立ち上がろうと顔を出すモロだが、直後に迫っていたビルスに腹を蹴り上げられ、上空へ打ち上げられる。
ビビビビ…
無数のエネルギー弾を放ち、モロを狙う。だがモロは空中を素早く飛びながらそれを躱し、再びビルスへ向かって降下し近接戦を仕掛ける。
両者の拳がぶつかり合い、衝撃波が突風となって周囲に吹き荒ぶ。
モロは魔力を使い惑星プラントのエネルギーを地中から放出させる。まるで火山噴火のように噴き上がったエネルギーはビルスを飲み込み、そのまま津波のごとく押し流していく。以前ナメック星でこの技を使った時、モロは腕を上げたり等の予備動作を必要としていたが、全盛期以上の力を手に入れたモロはその動作を省略できている。当然そのうえで規模と出力も桁違いだ。
ザフッ
ビルスはエネルギーの波を飛び抜け、モロへ接近しつつ右腕に破壊の力を籠める。だがモロは魔力を駆使した猛攻を一切緩めない。今度はエネルギーを放出することなくその場で溜め込みビルスの真下で爆発させる。
「おお?」
爆風によって吹っ飛ばされたビルスの行く先へ再度溜められたエネルギーが爆散。その連鎖が巻き起こり、ビルスはピンボールの球のように成すすべなく転がされ続ける。
「惨めだな破壊神」
「…調子に乗るなよ」
ビルスはうっすらと額に青筋を立て、全身に膨大な気を纏う。ブロリーやサザンカらと戦った時には微塵も現さなかった尋常ではない殺意が表面化し、その圧によって地表から飛び出し荒れ狂っていたエネルギーがまるで恐れをなしたかのように引っ込んでゆく。
そしてモロを見据え、一気に飛び出し攻撃を仕掛ける。
「けひっ」
だが、モロは自らの足元の地面を隆起させ、グングンと頭上高く上昇する。ビルスはそれを追って真上へ方向を変えるが、盛り上がった地面の途中からモロが飛び出し、ビルスの顔面へ飛び蹴りを食らわせる。
しかし、ビルスはモロの足を掴んで攻撃を止め、込めたままの破壊の力を解き放つ。
「『破壊』」
当然モロは再度多層的なシールドを展開し破壊を防ぐ。
否。
ガシャアアア…!
ビルスの拳はシールドを砕いて貫通し、そのままモロの腹にさく裂する。破壊のエネルギーが紫色の閃光となって弾け、稲光のように周囲を照らした。
「…ガ…!」
(バカな…!コイツの『破壊』では多層シールドを破るのに時間を要するハズ!単純に出力を引き上げたか…いやまさか)
ビルスの扱う『破壊』は2種類。ひとつは破壊神のみが扱える万物を触れるだけで消滅させるエネルギーを用いた破壊。もうひとつは単なる打撃や気を放ち対象を物理的に滅する技。
後者であれば、実際に対象を破壊せしめているのはビルス自身の肉体か気による威力であり、破壊を遅らせる多層シールドも単純な破壊力のある一撃の前には意味をなさない。
(モロはボクと戦うのは初めてだ。さんざん一撃必殺の破壊を見せておいて対策させ、物理破壊で攻める!…と思ったものの)
ググ…
「ケヒヒッ」
(なんちゅー強度してんだコイツの体は)
ビルスの拳はモロの腹に直撃こそしたが、驚くほど強靭な腹筋によって阻まれていた。確かにダメージは通っている、モロは血を吐いたしタイヤのような腹筋越しに体の芯が震えているのを感じる。だがそこまでだ、出血や致命傷には至らない。
ビルスは間髪入れず反対の拳を脇腹に叩きこむが、モロは手でそれを掴んで防ぎ、魔力によるテレキネシスと併用しながらビルスを投げ飛ばし、高層ビルの壁へ叩きつける。
すかさず魔力の波動を撃ちビルごと粉砕する。大小様々な瓦礫が舞い上がり、モロもその中に紛れているであろうビルスを探す。そして、その中に他とは違う方向へ飛んでいく影を見つけ…
ギュン
モロはそこへ向けて突進し、殴りかかる。吹き飛んでいく瓦礫がゆっくりとスローに見えるほどの圧縮された時の中で両者は次元を超えたスピードで攻防を展開する。
案の定、そこにいたビルスはモロの拳を受け止め、尻尾で顔面を殴打した。モロは頬に血を滲ませながらも歪んだ笑みを崩さず、ビルスの背後へ素早く移動し背中へ蹴りを繰り出す。
だがビルスも飛んでそれを避け、反撃の蹴りを食らわせる。
「!」
モロは瓦礫の背後へ隠れ、その瓦礫を粉々に粉砕しつつ粉塵の奥から飛び出しビルスに襲い掛かる。
(こっちも戦い方を変えようか)
たんっ
ビルスは一瞬目を閉じ、頭の中でスイッチを切り替えると、素早く腕を突き出し空へ向かって拳を放つ。すると、軽い衝撃音と共にモロの肩に何かが激突し、モロはビルスにたどり着く前に吹き飛ばされる。
たたたたたんっ
さらにビルスは素早く空を殴り続け、拳圧による小さな衝撃波を遠距離から飛ばし続ける。
「小賢しい真似をしやがって!」
少しの痛みと前方へ進めない事へ苛立ちを感じたモロは魔力のシールドを張って衝撃波を防ぎつつ前進し、魔力を使って周囲の瓦礫全てを集結させビルスを閉じ込め、ギチギチと圧縮する。
急激に物質と空気が圧縮されたことで蜃気楼が生まれるほどの熱と爆発が起こるが、直後にビルスは高速で上空へ舞い上がって脱出して見せる。モロはそれを見逃さず、撃ち落とそうと無数の細かなエネルギー弾を隙間なく連射する。
が、なんとビルスは弾幕の極僅かな突破口を瞬時に見抜き、それを通って回避するとモロが反応するよりも早く至近距離へ接近し、顔面へ拳を叩き込む。
ズドン、と重い衝撃が響き渡り、モロは怒りに目を見開きながらビルスの腕を振り払う。だがビルスは同時にモロの背後へ回り込んでおり、後ろ回し蹴りを脇腹へ命中させる。
「ぐえっ…!」
モロは痛みに喘ぎ、口の端から血を垂らす。
さらにビルスの猛攻は続き、まるでビルスの体が自動的にモロの攻撃を避け、的確な攻撃を無意識に差し込んでいるかに見えており…
「身勝手の極意…!」
ウイスの水晶を通じて戦いを見守っていたブロリーは思わずそう呟いた。
「身勝手?」
「んだそれ」
シロナとサザンカは当然聞きなれない単語の組み合わせに困惑する。
「メルスが言っていた…天使が得意とする極意で、どんな危機でも回避し戦闘中の全ての動作を無駄なく行える…意識と肉体を切り離し無意識に任せる離れ技だ。まさか…ビルスも使えるとは…」
ウイスは何の感情の機微も見せずに淡々と戦いを見ながら答える。
「不完全ですけどね。ビルス様は破壊神であるため天使の技である身勝手の極意を完璧に習得することはできません。ですが、今はモロに対してとにかくダメージを蓄積させ魔力を消耗させるのが先決だと判断し身勝手の極意を使っているのでしょう」
「だが、話し合った限りじゃモロの気と魔力は別口で存在してるって推測しただろ?モロを痛めつけても減っていくのは気力だけじゃねぇのかよ」
と、サザンカが口にする。確かにモロは魔力と気というふたつのエネルギーを持っており、肉体へのダメージによって消耗するのは気力であるはずだ。これは大抵の生物が、もちろんサザンカやブロリーであっても同じである。
だが、シロナがその疑問に答える。
「いや…確かにそうなんだけど、恐らくモロは魔力で気の消耗を補っている。だから肉体にダメージを与えることは魔力を減らすことに繋がる…そうしないと破壊される以前にビルスに殺される」
「だったら何故モロは星を喰わない?星を喰うには魔力が必要だが、消費するわけじゃない…星を喰えば肉体は回復するんだろ」
「あの星…惑星プラントには十分なエネルギーとなるほどの生命は生息していません。モロにとっては価値のない星なのか、それとも温存しているのかは分かりませんが…」
界王神もそう言いながら話に加わる。
「ならナメック星の時みたいに…ゆっくりと少しずつエネルギーを吸い取ってる可能性は…?」
「…いえ、惑星プラントのエネルギーは減っていません。それに、いざとなれば惑星プラントを破壊すればいいだけですから」
「確かにな。ビルスがそれをしていないという事はそういうことか」
モロはビルスの猛攻に成すすべなく晒されつつも何とか耐え切り、隙を見て全身から魔力を放出する。魔力は稲妻のように四方八方へ拡散し、次々とビルスへ襲い掛かる。
ビルスは表情を変えることなく、決まった動きの稲妻とランダムに動く稲妻両方の軌道を見切り、ジグザグの動きでその全てを避けながら再度モロへ近付いてゆく。
「これならどうだ?」
モロもまた狼狽えることなく、今度は一切の隙間のない壁状の魔力を、自身を中心としたドーム状に展開する。
押し寄せてくる逃げ場のない魔力の波動を前にしてもビルスはなお冷静で…
前に突き出した人差し指に力を籠め、一点に絞ることで魔力の波動に穴を空け、そこを通り抜けて突破したビルスは再度モロの目の前へ接近する。
「な…!」
あまりのビルスの身ごなしに驚くモロ。ビルスはお構いなしに右手に気弾を生成し、それを至近距離からぶつけようと構えるが…
クルッ
急に体を後ろへ向け、何もない方向へその気弾を投げ飛ばす。
すると、なんとその方向の先に突然モロが現れた。モロはまたしても驚きながら目前へ迫る気弾を慌てて腕で抑え込み、後ろへ移動してゆく。ビルスの後ろでモロの幻影だったものがぼやけて消え、気弾を受け止めている方の本物のモロは額に血管が浮くほどに力を込めている。ビルスはさらに続けて気弾をモロめがけて投げ飛ばしながら自身も一直線にモロへと飛んで行く。
「チッ」
モロは気弾を受けながらもビルスの接近に気付き真上へ上昇。だがいつの間にかビルスはモロの背後におり、首筋へ肘打ち。モロは振り返ってそれを受け止め、両者の激しい打ち合いが繰り広げられる。
だがその末に勝ったのはビルスで、頭突きでモロを怯ませ、両手を組み合わせたスレッジハンマーを振り下ろしモロを地面へ向けて吹っ飛ばした。
しかし、モロも負けじと魔力を使ってビルスの四肢を絡めとり引っ張り寄せる。モロと共に地面へ向かってゆくビルスだが、再び拳圧による衝撃波を無数に放ち、降下中であってもモロへの攻撃を止めなかった。
両者を結んでいる魔力はゴムのように伸びていってどんどん距離が開いていき、このままではビルスは脱出しモロだけが大地に突っ込む結果になるだろう。モロはムキになって魔力の強度を高め、離れようとするビルスをさらに強固な力で引き寄せ始める。
グググ…
パッ
が、ビルスは突然抵抗をやめ、魔力に引っ張られるがままになる。そうなれば勢い余ったモロがビルスへと突っ込んでゆく結果となり…
「そんなにボクが恋しかったかい?」
「クソ…!」
「『破壊』」
さく裂した高火力の破壊の一撃がモロの胸に深くめり込む。紫色のエネルギーが閃光となって弾け、あまりの威力にモロは白目を剥きながら血の塊を吐き出し、地面へ吹っ飛んで行く。
パシッ
地面に激突する寸前、先回りしたビルスが片腕でモロの体をキャッチし、空高く掲げる。
「あーしんど」