もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第5話 「超人の住む寺」

カカロットが妹紅との修行を始めてから、実に3週間以上が経っていた。

 

「ほっ、はっ」

 

一日2000回を超えた筋トレも、今では初日と同じスピードでこなせるようになった。さらに重りをつけてのランニングも、もはや何とも苦ではなくなっていたのだ。

そして、この日の組み手の時間…。

 

「でやーッ!!」

 

カカロットは妹紅へ飛び蹴りを仕掛けた。しかし、妹紅はそれを腕で防ぎ、同じく蹴りでの反撃に出た。間髪入れずに何度も繰り出し、カカロットを弾き飛ばした。

が、負けじと受け身を取り再び飛び跳ねた。そしてお互いで放つ拳の連打…。しばらく拮抗したような状態が続いたが、妹紅のパンチの数がカカロットの攻撃回数を上回った。手が追いつかなくなったカカロットは攻撃をもろに顔面に受け、地面に倒れた。

 

「いでで…!」

 

結局、初日のような怒りによるパワーアップはあれ以来一度もない…。だが、コイツも確実に力を付けている。何せ、最初は打たせ方を教えるつもりだった私が、つい反撃に出てしまうほどだ…まだまだ伸びる、物凄い潜在能力を秘めているぞコイツは…。

 

「今日はここまでだ」

 

「くそう…まだまだ追いつけないな」

 

「飯にしようか。また何か獲って来てくれ」

 

 

「ガツガツ…モグモグ…」

 

「それにしてもよく食うよなぁ、おかげで短時間で大量の料理を作る術を覚えてしまったよ」

 

「ああ、旧都の飯に比べれば味がタンパクだけどな」

 

「なっ」

 

大きな机の上に山積みだった大量の料理を数分で全て平らげてしまったカカロット。膨れた腹を手でさすりながらゴロンと寝転んでいる。

 

「…そうだ、そういえば最初の頃、倒したい奴がいるって言ってたよね?結局誰なんだ」

 

「ん?ああ、博麗霊夢って知ってるか?ソイツをどうしても倒したいんだ」

 

「ぶーっ!!」

 

妹紅は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。

 

「霊夢だって?そりゃ勝てないわけだ!」

 

「うるさい!それだから困ってるんだ!少なくとも戦闘力100は超えなければ話にならん…あ、そうだ」

 

カカロットは今の今までスカウターの存在を忘れていた。修行を始めてからは確か一度も測定していなかったはずだ。スカウターを装着し、自身の戦闘力を計った。絶えず動く数字を見て、ゴクリと息を呑む。

 

「おお!すごい!戦闘力58!!確実に上がっているぜ!」

 

「やるじゃないか、確かにお前さんは見違えてるよ。自分では気づいていなかったようだけどね」

 

「そ、そうか?」

 

「だが、100を超えるには、師が私では限界があると思うんだ。そこで、お前はもう私の修行は卒業して新たな師を求めなければならないと思う」

 

「何だと…俺は妹紅の教えでもこれからどんどん強くなれるぞ!!」

 

「私ですら70ちょいだろ?だったら、もっと強い奴に修行を頼んだ方がいい」

 

「うーむ…」

 

「それに、私も教えられるのはここまでが限界なんだ。すごい奴を知ってる、明日連れて行ってやるから、ソイツのところでならお前はもっと強くなれる!」

 

カカロットと妹紅は、最後の夜を共に過ごしたのだった。

 

 

 

翌日。

二人は迷いの竹林を抜け、人間の里を歩いていた。一応過去に里で暴れた事のあるカカロットは顔を覚えられている可能性があるので、顔は帽子を深くかぶって見えないようにし、尻尾もしっかりとズボンの中にしまってある。

 

「なぁ、そのすごい奴ってどんな奴なんだ?」

 

「うーんそうだなぁ、説明がしにくいな。寺の住職とだけ言っておこう、会ってみればわかるよ」

 

寺の住職と聞いて、カカロットは筋肉ムキムキスキンヘッドで厳つい顔の金剛力士像のようなお坊さんを想像した。それならば妹紅がすごい奴と言ったのも分かる気がする。

 

「む、アイツは…」

 

丁度そのころ、里で食料の買い出しをしていた博麗霊夢が、通りを歩く二人組に目を向けた。妹紅とカカロットだった。いや、妹紅はすぐにわかったが、カカロットは一般人に姿を扮しているため分かりにくい。だが、あの気配は間違いない…。

霊夢はなぜあの二人が一緒に居るのか疑問に思い、こっそりと後をつけてみることにした。

 

「何処まで行くのかしら…」

 

二人は里のはずれにまで立ち寄っていた。

 

「まさか、命蓮寺?」

 

そう、既に二人は命蓮寺の敷地内に入っていたのだ。周りには無数の地蔵が置かれており、石が埋め込まれた道が伸びている。二人はその道をたどっていく。

 

「あ、いらっしゃーい!」

 

出迎えたのは、門の前で掃き掃除をしていた少女だった。少女は元気に妹紅に挨拶をした。

 

「やあ。悪いけど、聖を呼んでくれないか」

 

「わかりました!」

 

少女は持っていた箒を門の横に立てかけると、中へと元気に走っていく。

数分経って、ようやく砂利の上を誰かが歩く音が聞こえてきた。その瞬間、カカロットは組んでいた腕を解き、咄嗟に身構えてしまった。

 

「どうした?」

 

「物凄いエネルギーを感じる…」

 

カカロットはこの歩いてくる人物が、自分が今まで感じた事もない程の使い手であると感じ取った。きっと、その人物は先ほど自分が想像した金剛力士像のような巨漢に違いない。

 

「あら、今日はどうしたのかしら?」

 

「…あり?」

 

ところが、姿を現した人物は筋肉ムキムキの鬼のようなお坊さん…とは全く違っていた。

美しい長い髪の毛は紫と金に輝き、黒いドレスのような服を着た、綺麗な女性だった。とてもカカロットが感じたような絶大なエネルギーを放つようには見えない。

が、確かに、この女性からその気配は確かに放たれていたのだ。

 

「すまんな、お前の修行を受けさせてくれないかと思ってな」

 

「あらまぁ、それは大歓迎ですね!」

 

女性は妹紅の手を握ってそう言った。

 

「あ、いや、受けるのは私じゃなくて…こっち」

 

妹紅は後ろに居たカカロットを指差した。

 

「あら。初めまして、私は聖白蓮。この命蓮寺の住職です」

 

「よ、よろしく頼む」

 

「貴方が私の弟子に?」

 

「ああ。弟子と言っても、特に武術を専門に教えてやってほしい。どうしても強くなりたいんだそうだ」

 

「そうですか…まあ良いでしょう!私もかつては魔道だけでなく武道も極め超人と呼ばれた女…引き受けますよ」

 

「それは有り難い。…それじゃあな、カカロット」

 

カカロットは聖と妹紅の言葉を聞くと、命蓮寺の門をまたいだ。

 

「ああ、今まで世話になったぜ」

 

「お前と居た約一月、楽しかったよ。ここでもお前なら必ず限界を超えて強くなれる!」

 

「おう!」

 

「最後に、私が最初の頃に言ったこと覚えてるか?」

 

「もちろん」「「食べて鍛えて健康で」」「だろ?」

 

「その通り!」

 

カカロットと妹紅は互いに手を握り合った。そう、たった一か月にも満たない期間であったが、そこには確かに師弟の絆が出来上がっていたのだ。その様子を見て、聖はそっと微笑んだ。

妹紅は小さく手を振ると、ポケットに手を入れながら元来た道を戻っていった。

 

「して、貴方の事について教えていただけませんか?見たところ、人間ではないようですが…」

 

「俺はカカロットという。サイヤ人という民族の出だ」

 

「サイヤ…はて、聞いたことがありませんね」

 

聖は首をかしげる。

 

「武術専門で弟子入り、ですね。初めての試みですが、何事も挑戦することが大事とはよく言います。私自身にも貴重な体験と成るでしょう…これから貴方は家族も同然、頑張りましょう」

 

 

「まさか、アイツがあんなところに行くなんて…何か企んでるのかしら」

 

霊夢は木陰からじっとその様子を窺っていたのだった。

 

 

 

「と言う訳で、この方が今日から新しく門下に加わった、カカロットという者です。皆も良くしてあげるように」

 

部屋に集まった命蓮寺の住民の前で、聖はそうカカロットを紹介した。部屋ではざわめきが起こると同時によろしくーなどの声が上がった。

聖が部屋を出ていくと、カカロットはようやく肩の力を抜いてくつろぎ、スカウターを装着した。次にあの聖白蓮を見つけたら、その戦闘力を計ってやろうと思い立ったのである。

 

「なにそれー?ちょっと貸してよ」

 

その時、他の門下の連中がこぞってカカロットを取り囲んだ。

 

「何だお前たちは、失せろ!」

 

「先輩に対してその態度はないでしょ?」

 

「てかそんなの付けちゃって、カッコいいと思ってるの?」

 

特に絡んできたのは、白と青の水兵服の女と紺色の頭巾をかぶった修行僧のような女だった。無理やりカカロットのスカウターを奪い取り、眺めている。

 

「あれ、アンタどっかで会ったコトない?確か地底に居たわよね」

 

「当たり前だ!つい一か月ほど前にこの地上へやって来たのだ」

 

水兵服はカカロットをどこかで見た事があるような口ぶりを見せた。しかし、すぐに興味はスカウターに戻る。

スカウターを装着し、ボタンを押した。

 

「おお、何か数値が表示されたわ。一輪は…40だって」

 

「返せ!!」

 

カカロットは水兵服に飛びかかるが、その身体がまるで透明であるかのようにすり抜けてしまった。攻撃が大きく空振り、勢い余って地面に激突してしまう。

 

「面白いわね!でもこれ何の数値?」

 

「…対象の強さを計るのだ、まぁお前たちではこの俺より下だろうがな」

 

「村紗、それ貸して!」

 

今度は一輪と呼ばれた修行僧がスカウターを付けた。そして、村紗の戦闘力を測定する。

 

「なーんだ、村紗も40か…互角って事ね」

 

「ところでこいつは?」

 

「ふん、たったの40か。俺の戦闘力は58だぞ!」

 

「58…本当だ…私たちより強いって事?」

 

「他の連中はどうかな?」

 

村紗と一輪の二人はスカウターを付けたまま部屋を飛び出した。カカロットは舌打ちをすると、その後を追う。

 

 

「どうかしましたか?」

 

一輪はスカウターを聖に向け、測定のボタンを押す。

 

「これは相手の強さを測る装置のようですよ。姐さんの力も計ってみますか?」

 

「機械の事情には詳しくないですが、良いですよ」

 

スカウターの数値が変動し、結果がはじき出された。表示されている数値は…たったの4であった。

 

「あれ?たったの4?」

 

一輪と村紗が首をかしげる。

 

「…力を抑えているだろう」

 

カカロットが後ろからぼそっと言った。聖はバレてしまいましたか、というように軽く頭を下げた。

当たり前のように分かる、この聖白蓮の能力はこんなものではないはずだ。それに、あの博麗霊夢も強大な力を隠していた。聖もそうしていてもおかしくはないだろう。

 

「聖サマ、アンタは俺に修行を付けるんだ…まず互いの手の内を見せなきゃ失礼ってもんだろう」

 

「なっ、お前姐さんに向かってなんて態度を!」

 

「ええ、それも理にかなっています。失礼しました、少し恥ずかしいですが…」

 

聖は持っていた荷物を地面に置くと、静かに目を閉じた。紫色のオーラが周囲に漂い始め、同時にスカウターの数値もどんどん上昇していく。

 

「出た!…135!」

 

その場の皆が驚いた声を上げる。

もちろん、カカロットも「こんなおっとりした雰囲気の女が135もの数値を叩きだすとは…」と驚いたが、半面これが先ほどから自分が感じている強大なエネルギーで間違いなかったということ、そしてこんな凄い奴の修行の受けられるという意味での嬉しさも感じていた。

 

「返してもらうぞ」

 

カカロットは素早く一輪の背後に周ると、サッとスカウターを奪い返す。

 

「あっ」

 

「これは俺の大事な品なのでな」

 

そう言うと、腕を組んだまま部屋を出るカカロット。

 

「何だアイツ…」

 

 

─この日から、カカロットの命蓮寺での修行の日々が始まったのだった。

 

 

 

☆キャラクター戦闘力紹介☆

参考

一般成人男性 5

一般成人女性 4

子供(10歳) 2

ミスター・サタン 6.66

一般的に超人と呼ばれるレベル 7~8以上

 

 

カカロット 58

 

聖白蓮 4(通常 気を抑える)→135(基本最大)

 

命蓮寺の住職。普段は一般的な成人女性と変わらない4という戦闘力。しかし、魔力を含めたその力は戦闘力にして135にもなる。135と言えば桃白白(135)同じレベルの強さだ。ラディッツ戦前後の亀仙人にはやや劣るが、それでもまさに最強レベルの超人の域にまで達しているだろう。

 


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