「やはりこの周辺にも植物以外の生命反応は無しか」
「だったら浄化だな、この浄化爆弾をばらまいて綺麗さっぱり更地にしてやろうぜ」
一面の向日葵畑の上で、二人の月の客兵士がそう話していた。手に青い爆弾を持ち、それを腕に装着した小型カタパルトに設置する。そしてにやけた笑いを浮かべながら、それを放とうと構えた。
ドゴォ
しかしその瞬間、上に現れた何者かの強烈な蹴りを顔面に受け、ミシミシとめり込む。そして兵士が真下へ向けて吹っ飛ばされた。
「な…何者だ貴様!?」
驚きながらそう叫ぶ兵士に対して、その者は振り向きながら言った。
「妖怪、風見幽香」
「レミリア・スカーレットよ!」
「豊聡耳神子、いざ参る!」
「むはははは、オオナマズさまの力を見せてやろう!」
「依神女苑よ!」
各地に現れた幻想郷の住民たちは、幻想郷を浄化という名の破壊をしようとしていた月の客たちと激突、交戦を開始する。
幻想郷中に妖怪が現れ、月の客軍に反撃をおこなう直前のこと。
槐安通路まで退避した月夜見王の戦艦と戦力の大半。それらが警戒するのは、旗艦を中心とした円形の陣形の外側だった。よって、陣形内に突然、直接現れた生体反応に気付くのが遅れてしまったのだ。
「む、背後に妖でも人間でもない未確認属性が出現!」
無線通信が月夜見王の乗る旗艦に届く。と同時に、陣を組む戦艦から排出された月人の兵士たちがその反応を倒すべく襲い掛かる。
その反応の名は、藤原妹紅。ただの人間の身でありながら輝夜や永琳と同じく、大昔に蓬莱の薬を服用し不老不死となった存在である。
「月夜見王とやら、出てきなよ!」
妹紅は襲い来る兵士たちと戦い、次々と殴り飛ばしていく。
そう、今まで彼女は外の世界に避難していた。カカロットと輝夜たちの会話をこっそり聞いていた妹紅は、後戸へ避難するフリをして宇佐見董子とコンタクトをとっていたのだ。そして大満月の今夜、1人でも何か敵に一矢報いるつもりで直接外の世界からこの槐安通路までやってきた。
「うぐっ…!」
しかし、恐らく数にして100は越えている兵士たちを前に、妹紅は攻撃を受ける。敵の振るった剣が胸に深く突き刺さり、それをチャンスと見た他の兵士がさらに剣を無数に刺したのだ。
妹紅の全身から血が流れだし、口元と服も真っ赤に染まる。
「なに!?」
だが妹紅は怯むことなく全身から炎を放出し、群がる兵士を一瞬で吹き飛ばした。それと同時に刺さった剣が溶けてなくなり、その傷がみるみる塞がっていく。
「し、死なないだと!?か弱い地上人の分際で…」
「オラオラ、そこを退きな!」
驚いている兵士の首を掴み、それを振り回しながら周りの兵士たちへぶつけ、一気に大勢を倒していく。
「何事だ?」
外で起きている騒ぎの気配を感じた月夜見王がそう呟いた。
「現在、我が『ガロミの陣』の内部に属性不明の反応が出現。わが軍の兵と交戦中であります」
乗員の一人がそれに対して返す。
月夜見王は目を閉じ、この旗艦の周囲の様子を探る。
(…確かに地上人の気…。しかし、これは…?)
「よいしょ…と」
突然立ち上がる月夜見王。椅子に立てかけていた杖を手に取り、ゆっくりと歩き始める。壁まで行くと、その壁に円形の穴が開き、月夜見はそこに歩み寄る。
「王よ、何も貴方自らが出向く必要はございません!いざとなればこの旗艦の砲撃で…」
「まあよいわ。ちょっとした運動がてら、様子を見て来る。それとも、何か…老いたわしでは賊に後れをとるとでも…?」
月夜見王は周りの部下たちに目線を向けた。わずかな殺意と邪悪な気を孕んだ眼光は、近寄る部下の足を止めさせ、黙らせた。それを確認すると、壁に空いた出口から飛び降り、宙に浮かびながら飛んでいく。
「なあに、すぐに戻るて」
「…!?」
兵士たちと戦っていた妹紅は、急に何か不吉を感じて動きを止めた。同時に兵士たちもとてつもないものの往来を察知し、バラバラに散った。まるで、何かの為に道を開けているようだった。
「何だっていうんだ?」
妹紅が掴んでいた兵士を投げ捨てる。すると退いた兵士たちの向こう側から、何か杖を持った妙にガタイの良い老人がゆっくりと近づいてくる。
老人はしわだらけの顔をこちらに向け、妹紅をじっと見つめる。
「まさか、アンタが月夜見王って奴か?」
「いかにも、わしこそ月夜見である。お前は…そうか、分かったぞ…蓬莱の薬を飲み不老不死となった人間だな?ほっほっほ…通りでレーダーには属性不明と表示されたわけだ。地上に蓬莱人と化した人間がいるなど、思ってもみなかった」
「私と戦いな!アンタ、輝夜を都へ連れ帰って永遠に装置に取り込ませるつもりらしいな…」
「わしがお前と戦うだと?ほっほっほ、面白いな…わしも丁度蓬莱人とやらがどこまで死なないのか少し興味があったところだ。どの程度で死ぬのか…試してみるとするか」
「老いぼれが、調子に乗るんじゃないよ!」
妹紅は全身に炎のような気を纏い、月夜見に飛びかかる。
兵士たちは退散しながら、その様子を見ていた。果たして、あの月夜見王はどのような実力を持っているのだろうか?それは同じ月の客でも、いささか気になる事であった。
「『炎爪演舞』!!」
炎の爪を両手足に纏い、まず蹴りを繰り出す。月夜見は杖を持っていない方の腕を上げ、それを防ぐ。さらに妹紅は突きを繰り出し、炎の爪が月夜見を襲う。あまりの熱気に、まるで火山の火口にでもいるかのようだ。
そして、最後に高く飛び跳ね、そのまま飛び蹴りをお見舞いした。
カッ
「うぎゃっ!!」
しかし、蹴りが当たる瞬間、月夜見の方から放たれた強烈な電撃が妹紅に直撃した。衝撃と電流によって妹紅の肉体が焼き焦がされ、硬直して身動きが取れなくなる。
「なんだ…これは…!」
やっとのことで後ろへ下がると、電撃は引っ込んだ。回復した眼で月夜見を見ると、右手に持っている杖からわずかな電流と煙が発生していた。
「わしの杖よ。お前は近付くことなく、我が月の雷に消されるのだ。もっとも、お前が蓬莱人でなければとっくに黒こげになって即死だったところだがな」
「くっ…!」
妹紅は再び炎を纏い、月夜見へ突撃を仕掛ける。すると、今度は向けられた杖から大きなガラスの破片のようなものが無数に飛び散った。それは嵐のように妹紅を襲い、その身体を斬りつけていく。中には体を貫いているものもあり、全身から血を吹き出しながら妹紅は後ろへ吹っ飛ばされた。
「月の刃だ」
傷を回復させた妹紅は、なるべく近づかずに遠距離からの攻撃をする手段に出る。
「喰らいな!」
両手の指先に炎の球を作り出し、それを投げるようにして放った。
しかし次の瞬間、杖から何かが勢いよく飛び出した。それはレーザーのようにあらゆるものを切断するかの如く横へ移動し、放たれた炎弾を全て打ち消した。そして、そのまま妹紅に直撃し、その胴体を真っ二つに切断してしまう。
「これは…高水圧の…水か!」
高圧で放たれた水は炎弾を打ち消したが、二個ほど消し損ねていた。それは真っすぐに月夜見へ向かうが、かざした杖にぶつかると弾かれた。
妹紅は切断された片割れの下半身を蹴って捨てると、自らの体を炎で包み込み、その中で下半身を再生させる。
「ほう、胴体を切断した程度では死なぬか」
妹紅はそのまま間髪入れずに手から火柱を放った。
すると、今度は月夜見の杖からさらに巨大な炎の塊が飛び出した。妹紅の火柱すら簡単に打ち消しながら直進し、妹紅を一瞬で飲み込んだ。
だが、妹紅は死なない。負けじと指先から再び炎弾を放ち、月夜見を狙う。それはやはり杖に弾かれるが、それでも諦めずに再び攻撃を仕掛ける。
「まだか、しつこい奴め」
頭上に出現させた炎でできた巨大な鳥の像。それは妹紅を包み込むと翼から炎をまき散らしながら、月夜見へ迫る。
「ふん」
月夜見が杖を振るうと、大量の雨水と豪風があたりに吹きだした。炎の不死鳥は怯み、あまりの威力の風を受けてその身体を散らしていく。
「消えろ、偶像め」
もう一度杖を振るう月夜見。するとあたりを冷気が覆い、絶対零度の氷柱が空中に出現する。列のようにどんどんと氷柱が生成されていき、やがて不死鳥に激突した。
月の表面温度よりも冷たい氷は容易に不死鳥の火を消すと同時に氷漬けにし、さらに杖から吹いた突風がそれを粉々に打ち砕く。
「他愛のない奴だったな…こうなればさすがの蓬莱人も死…。…!?」
そう呟く月夜見だが、足元を誰かに掴まれる感覚を感じ、下を見る。
「死ねないんだよ、そんなんじゃな」
妹紅はまだ生きていた。月夜見の横から抱き付くように体をくっつけ、体に炎を纏う。
「…わかったぞ、さっき捨てた下半身が本体だったな…!それを見えない場所で再生させ…!」
そう、先ほどの妹紅の攻撃は「パゼストバイフェニックス」というスペルカードをルール無用の戦闘用に応用した技である。
この技は自らの燃えてなくなった肉体を再構築せずに魂のみの状態を維持して発動する。つまり、魂そのものは捨てた下半身に残っており、動かしていた上半身はフェイクに過ぎなかった。
「ようやく見つけた私の死に場所だ、無駄にはしない!」
ドゴ
「あ…が…あがああああ…!!」
しかし、月夜見はそれより動じることは無く、冷酷に拳を振り上げ、妹紅の頭へ向けて叩き付けた。
嫌な音を立て、妹紅の頭が大きくへこんで潰れた。見開いた目や耳、口や鼻から大量の血が噴き出し、下へ垂れていく。
「下賎な地上人め、このわしが杖に頼るだけの軟弱な老いぼれとでも思ったか?」
だが…妹紅は必死に月夜見にしがみ付いたままビクともしない。最後の一矢だったのか、月夜見へ向けた指先から再び炎弾を発射する。
(──すまない、輝夜…お前との決着は二度とつけられそうにない)
炎弾は的外れな方へ飛び、月夜見の杖に軽く掠っただけで終わった。
「頭蓋と脳を砕いてもまだ反撃の余裕があったとはな。だがどこを狙っている?いい加減にしつこいわ、完全に消え去るがいい…」
月夜見は片腕で妹紅の髪の毛を掴んでぶら下げ、もう片方の手の平を妹紅の胸元にかざし、そこから一気に強烈なエネルギー波を放った。あまりの威力に妹紅の体は消し飛び、掴んでいた頭部だけが残った。
「消え去るのはお前の方だ!」
しかし、妹紅は血にまみれた顔を上げ、真っすぐに月夜見を睨んだ。髪の毛がぞわぞわと動き回り、月夜見の体中に巻き付いた。
そして、その頭が眩い光を放ち始める。まるで、周囲を漂う熱が彼女を中心に凝縮されているかのようだ。
「ま、まさか…自爆でもするつもりか!?」
「そのまさかさ…魂そのものを起爆剤にして、私のエネルギー全てを爆発させる!蓬莱人となった私が死ぬには、これしかなさそうだからな!そして、お前はここで私と共に死ぬんだ」
(だが…お前と過ごした日々は悪くは無かったよ、カカロット…!)
脳内を駆け巡る走馬灯。1000年以上にもわたる彼女の人生のありとあらゆる光景を蘇らせた。もはや当分昔の事であり忘れ去っていた出来事や、些細な感情…そのすべてが一瞬で脳裏を駆け巡る。
(…もっと生きたい)
今まで死を望むような行為や発言を繰り返した妹紅が、今度は逆に生への執着に思いをはせた。
しかし、彼女は生きたいという人間らしい感情を、文字通り「殺した」のだ。
「…さらばだッ!!」
妹紅を中心にとんでもない爆発が起こる。「ガロミの陣」の内側に居た戦艦が熱と衝撃に晒されて機能を失い、落下していく。月夜見が乗っていた旗艦でさえもバランスを崩し、よろめいた。
まるで、星の爆発のようだった。命の炎は燃え上がり、遠くに浮かんでいる大きな月を照らし返した。
「ふん、驚かせおって」
突然、爆発の炎と風が吹き飛んだ。その中にいた月夜見王は、平然とした様子で気合で周りを綺麗に吹き飛ばしたのだ。
「おそらく千年以上生きてきたうちに溜めたエネルギーを魂に凝縮して破裂させたか、なるほど、蓬莱人と化した人間にしかできない芸当だ」
月夜見は杖を手に取り、旗艦へと帰っていく。
「そろそろカグヤと八意捜索の司令を下すか」
藤原妹紅は、その長い人生の幕を閉じた。しかし、まだまだ月の客の進撃は止まらない。幻想郷は一体どうなってしまうのだろうか…!
からくりサーカスのハーレクインvsパンタローネ戦が好きです。