「…!」
(いつの間にか、シロナが消えている…そういえば破壊神の死体も消えているな。何者かが回収しているのか…)
モロは、切り裂いて瀕死に陥らせたはずのシロナの姿が消えていることに気付いた。誰かが回収しているのだろうが、今はそれを頭の外に追い出し考えないこととする。
(それよりも今は…)
目の前には槍のように尖らせたモロの魔力で左肩と左上腕を突き刺され、そのまま吹き飛ばされたはずのサザンカが戻って来ていた。左腕は肘から先しか上がっておらず、足元には血だまりが出来、今も血が滴り続けている。
「くはっ、まだやる気か?」
モロも傷だらけであるが、あくまで余裕を崩さず見下したようなにやけ顔でサザンカに言葉をかける。
が、サザンカの表情からは有無を言わさぬ闘志が感じられ、右腕のみで格闘の構えを取る。
その瞬間、空気が張りつめ、背筋に冷たい緊張が走る。モロは顔から余裕の色を消し、ザッと足を開き自身も両手を上げてサザンカに応戦する構えを取った。
(コイツ…気の大きさそのものが増えたわけではないが、さっきよりも刺々しく…鋭くなったな)
真剣そのものといえる表情で、モロはサザンカの一手を慎重に見極めようとする。
サザンカは駆け出し、一瞬でモロの懐へ接近する。瞬き一回の時を置いてモロが反応し、目線を下へ向けつつ拳を放つも、それよりも早く、サザンカのパンチがモロの胸に炸裂する。
衝突した気が紫色の閃光となって弾け、モロは咳込んでエネルギーを逃がしてしまう。
間髪入れず、そのまま流れるような動作で肘打ちが鳩尾に深く突き刺さった。
「ぐ…!」
モロは後ろへ飛び、地中のエネルギーを操作して岩壁を作り、そこに張り付いて手を置くと斬撃を発動、崩れた岩壁を魔力で操りサザンカへ向けて撃ち込んだ。
迫り来る岩の弾丸を、サザンカは全て拳で砕く。その隙にモロは彼女の後ろへ移動し、鋭い蹴りを繰り出す。
が、サザンカは後ろを見ることなくしゃがんでそれを回避し、勢いよく立ち上がると同時に顎へアッパーカットを喰らわせる。
モロは反撃の斬撃を一瞬でいくつも飛ばし、それはサザンカの腕を切りつけるが怯まずその腕を伸ばし、再度鳩尾へ拳を打ち込む。
「チィッ」
込み上げてくるエネルギーを血と共に吐き出し、今度は刺突を何本も放つ。が、サザンカは気を集中させ刺突が突き刺さる深さを最小限に抑え、脇腹に膝蹴りを当てる。
攻撃を喰らった箇所から血が流れ、モロは距離を取り、追ってくるサザンカへ斬撃を浴びせた。
「『斤』」
だがその時、どこからか飛んできた重力のキューブがモロの眼前で炸裂し、中で圧縮されていた気が爆発する。
(これは重力の男の…)
「しぶといな…!」
腹をぶち破ってやったはずのハーツが回復し、遠距離から攻撃を仕掛けている。トドメを刺そうと思ったがサザンカに邪魔されて出来なかった事を思い出し、苛立ちながら悪態を吐く。
その隙を見逃さないサザンカが背後で拳を構えているのに気付いたモロは咄嗟に振り向き、パンチを腕でガードするが、その腕に鈍い痛みが走りミシミシと骨が軋んだ。
(コイツ…さっきから当然のようにクリティカルを当ててきやがる!攻撃が決まるたびヤツの調子が増し、オレの力は鈍る…)
まるで我儘の極意を発動したビルスと戦った時のような感覚だが、あちらは戦闘力そのものをどんどん高めていたのに対し、サザンカは戦闘力の総量は変わらずどんどんと攻撃の正確性を高めている。
「ハァ…ハァ…!」
気が付くと、シロナは戦いの場所から少し離れた地点へ移動させられていた。
「大丈夫ですか!?」
そう声をかけ、彼女の体に手を翳して癒しの力を送り込んでいるのは界王神だった。
「アレ…?生きてたの…?」
シロナがそう思うのも無理はない。モロとビルスの戦いの決着がついた時、ビルスは明らかに死に至るほどの肉体の損傷を受けていたはず。そして、破壊神と命を共有している界王神も死ぬはずだ。シロナたちも実際にビルスが死ぬ瞬間を見た訳ではなかったが…
「はい。何とか手を尽くし、ビルス様が持ち応えてくださったおかげです。ここからは私もサポートに回ります」
「そっか…よかった…」
「ここまで来れたんです、必ずモロを倒して生きて勝利を納めましょう」
「うん…!」
モロは腕を振るって気弾と斬撃を混ぜ込んで放つ。サザンカは上へ飛んでそれを避けようとするが、なんとモロは飛ばした斬撃よりも速くサザンカの背後に回り、その首を後ろから掴んで遅れて飛んでくる自身の斬撃へ押し付けた。
サザンカの胸や顔が斬られ、左目にも斬撃による傷を負ってしまった。
しかし、サザンカは全く怯むことなく上半身を捻り、背後にいるモロへ回転の威力も乗せた渾身の一撃を叩きつけた。
顔面に拳を受けたモロは勢いよく後方へぶっ飛び、岩山に激突してようやく止まる。モロが顔を上げたときには、既にサザンカは目の前に接近していた。
そして再び顔面にさく裂する殴打。今度は背中で岩山を砕き、その中に埋もれていく。
「クソガキがァッ!!」
怒号を上げるモロはサザンカと同様に左目が潰されていた。止まることなくさらに追撃を見舞おうとするサザンカに対し、モロも応戦する。
両者は熾烈な拳のやり取りを繰り広げるが、モロの放つ拳は悉くサザンカに払われ、かつサザンカのカウンターが次々にヒットする。モロは信じられないとばかりに冷や汗をかき、焦ってゆくが、焦れば焦るほど逆にサザンカの研ぎ澄まされた神経が顕著となり、悪循環の中に囚われる。
さらに絶えず叩き込まれる「スピリットの強制分離」。当然、喰らう側の力量が高ければ高いほどその影響を軽減することが出来るが、エネルギーが減り続けるモロでは逆にその影響が大きくなり続ける一方だ。
「うぐっ」
そして、ついにモロは堪えようのない吐き気に襲われる。喉元がボゴッと膨らみ、苦しみに目を見開きながら内容物を吐き散らした。
「うぅおえええっ!」
ベチャッと音を立てて砂の地面の上に広がるのは、モロが直接喰らって取り込んでいたセブンスリー本体。溶けかけ、ほとんど原形をとどめていない姿だったがようやく解放されたセブンスリーは2か月近くもの間体内で生き永らえさせられその能力を酷使され続けた影響か黒ずみ、生物が腐敗し土に還る様を早送りしたかのように消滅していった。
その瞬間、モロの顔がセブンスリーに似た人間らしい精悍なものから元の凶悪な山羊面に戻り、肩や背部の体毛など細かな変化が戻った。
当然、その力も変身前と同等にまで落ち込んだ。
(コイツに貰った一番最初の一撃…!あれにさえ気付けていれば以降も喰わらずに済んだものを…!)
ビルスが敗れた後、モロに戦いを挑んだシロナとハーツだったが、その時から存在を認識できないだけでサザンカは傍にいた。そして「スピリットの隠蔽」により、不可避の一撃を放ち「スピリットの強制分離」を発動する拳を命中させた。
つまり、最初のサザンカの一撃を喰らい、その性質をすぐに見抜けなかった時点で…
「ぬううアアアアア!!」
そして、全ての力を込めた正真正銘渾身のパンチが、モロの脇腹に深くめり込んだ。
モロは天を仰ぎ、口から血の塊とエネルギーを吐き出しながら横方向へ吹っ飛び、地面を滑って遠く離れた森の中に突っ込んでいく。
「まだだ…!もっとヤツをぶん殴って弱らせる!!」
サザンカはまだ戦える。そのつもりで吹っ飛んでいったモロをもっともっと追い詰めるべく走り出す。
しかし
「ガハッ…!?」
突然体に激痛が走り、言う事を聞かなくなり勢いよくその場に倒れ込む。
(なんだ?いや、なんだじゃねぇ…理由はアタシが一番わかってる…)
激闘の中で受けた度重なるダメージ。今まではアドレナリンの過剰分泌により感じる事無く冷静にモロと戦えていたが、それが切れた今これまでのツケが一気に押し寄せてきた。左腕はほとんど使い物にならず、斬撃によって左目や全身に傷を負っている。
「ハァッ、ハァッ…!」
(だが…アイツも見落としがひとつあったな!オレの変身が解除されたことにより、それより前に受けていた傷もほとんど治ってしまったぞ!)
今サザンカによって与えられたダメージはそのままだが、変身解除より以前に受けていたダメージ。片目や角の損傷、切り裂かれた頬、背中、無数の切り傷刺し傷、打撃痕。セブンスリーの分離により元の姿に戻ったモロだが、それらダメージも元通りになってしまっていた。
(だいぶオレの力も落ちたが、それでもあの餓鬼よりはまだ上だ!ここで殺す!)
モロは両腕を伸ばしてサザンカがいるであろう方向へ向け、ありったけを込めた巨大な斬撃を放とうと構える。
しかし、その瞬間、モロの視界がグルンと回転した。
(は?)
同時に、サザンカの一撃よりもさらに強力な衝撃が側頭部から全身へ響き渡り、モロは風に舞う木の葉のように滅茶苦茶に荒ぶりながら弾き飛ばされた。
「出たな」
その刹那、モロは見た。
いつ出てくるのかと内心気を張っていたが、ついに来た。
巨人が如き強靭な巨躯、逆立ち靡く黄緑色の髪。そう、ブロリーの急襲が。