ウイスはしばらくメルスと共に戦いを見守っていたが、シロナとサザンカがモロに喰われた辺りからメルスがとうとう我慢できなくなり、必死に懇願されたので仕方なく彼を戦いの場へ送り出した。
「…不器用な弟でしたね」
そして、メルスの消滅を感じ取ったウイスは小さく呟き、その場を後にするのだった。
目の前でメルスは消滅した。最期にブロリーへの激励をかけ、天使の掟は破ったものの己の信念を全うして。
ブロリーはその喪失に唖然としながらも確かな激情をふつふつと滾らせ、額から汗が滲み筋肉がミシミシと音を立てて膨張の準備を始める。
「…ハーツ」
だが、ブロリーは押し殺したような声でハーツの名前を呟く。
「メルスの言う通り、俺は俺の選択を信じてもいいだろうか」
ハーツは即答する。
「当然だ。メルスは神でありながら人の理を選んだ…君も君が思う人の理を成せばいい」
「ああ、そうだな」
ブロリーは強張る肉体と滾る怒りを瞬く間に落ち着け、爽やかな笑みを浮かべてそう言った。
次の瞬間、澄み切った緑色の穏やかな気が全身から溢れ出した。
「ハァ…ハァ…!あのガキめ…必ず八つ裂きにしてくれる…!」
モロは崩れた岩山の瓦礫の下から這い上がり、メルスへの怒りに表情を歪ませながら立ち上がった。
「ん…?」
しかし、遠くからゆっくりと近付いてくるブロリーを見て僅かに困惑する。
(あのガキはどこへ消えた…?いや、それよりも…)
ブロリーはどういうわけか全快し、先ほどと同じブロリーゴッドへと変身していた。だが、戦闘力や気の量こそ変化しないが、以前よりも静かに、凪いだ水面のように穏やかで澄み渡った闘気に身を包んでいた。
「モロ」
そして、ブロリーはモロに問いかける。
「お前に役割はあるか?」
「は?」
モロは心底意味が理解できないといったように眉を顰めた。
「俺にはあった。俺は強いから、俺だけが悪魔になりさえすれば他は穏やかに過ごせると思っていた。自分の役割を理解して全うしていくことが生きていく理由だと思っていたんだ」
(何を言い出すんだ、コイツは)
しかし、まだどこかにメルスが潜んでいるかもしれない。ハーツの邪魔も入るかもしれない。モロは呼吸を落ち着け、メルスによって受けたダメージを沈痛するためにもブロリーが話している間は動かないことにした。
「でも宇宙で様々な人たちと出会い、俺以外の人間も悪魔にならなければいけない場面がある事を知った。そして大抵の人間はそれに耐えられないし、一度悪魔になったら簡単には戻れない。そんな人間を俺は悪魔になって殺してきた。俺は強いから耐えられるし、もう悪魔になる必要もない…だが、悪魔にならざるを得なかった人の気持ちもよくわかる」
「…くだらないな」
モロはブロリーの話を聞いたうえで一蹴する。
「役割、矜持、理想…そんなものは全てかなぐり捨て、オレはオレという存在のままに振舞う。キサマの言っていることは理解できる、その上で何の感情も湧かない。
「せめて知ってもらいたいんだ、お前が食い物としか見なせない俺やそれ以外の人間も、それぞれの境遇や価値があって、それぞれが悪魔になる理由を持っていることを」
「あえて言うなら、キサマの腰抜け具合に唖然としている。キサマの今のその力こそが悪魔ではないのか?目の前にオレという悪魔がいるというのに、何故…」
そこまで言いかけた瞬間、モロはブロリーの発言に隠された、自分自身へ向けての真意を読み取ってしまう。
「キサマ、まさか、オレを、憐れんで、いるのか?情けを、かけようと、しているのか?」
動揺のあまり、目を真ん丸に見開きながら片言で問い返すモロ。
それに対しブロリーはゆっくりと腕を持ち上げ、今までの穏やかな様子とは打って変わった真剣な眼差しでモロを指差し、ハッキリと言い放った。
「最後に聞く。今からでも遅くない、自分からシロナとサザンカを吐き戻して大人しく銀河刑務所へ戻れ。そうすれば命までは取らないでやる」
「…クハッ、何を言い出すかと思えば…」
モロは奥歯が音を立てて砕けるほど噛み締めながらも、怒りに侵されまいとする自己防衛の反応として笑みを浮かべる。だがその額には何本もの青筋が浮かび、血圧の上昇によって脈動していた。
「喰らうだけでは収まらん。キサマの首の前で、キサマの言う悪魔どもを喰い殺してやる」
そう言い終えた時には、モロは二本の左腕に全身全霊の魔力を込め、一撃を放っていた。
ブロリーもほぼ同時に拳を放っており、両者の拳が激突した。
凄まじい爆音とともに衝撃波が発生し、周辺一帯がクレーターに呑み込まれる。空を漂う雲が全て消し飛ばされ、代わりに魔力と気が衝突したことによる稲妻が迸る。
「ぐおお…!」
傍にいたハーツは巻き込まれまいと咄嗟に自信を覆うキューブを展開するが、それごと遥か遠くへ吹き飛ばされる。
反発したモロとブロリーは互いに後方へ弾き飛ばされ、地面を滑る。
「驚いたぞ!オレは憐れまれるとここまで怒るのだな!オレがお前と同じ、悪魔にならざるを得なかった人間だと?思い違いも甚だしいな!」
モロは地面を蹴り、魔力を纏いその推進力で瞬時にブロリーに迫り、追撃を放つ。
「クハハハハハ!!もはや笑いすら込み上げてくる!お前以外の人間にお前の罪を償わせるのが、楽しみで仕方ないぞ!」
怒りがどのような力や覚醒を与えるのかはブロリーが身を持って理解している。モロの1000万年分以上積み重なってきた全ての怒りの矛先が自分に向けられていた。
が、ブロリーは動かない。ただ悲しさすら秘められた静かな表情でモロを見下ろすだけだ。
「ッ…!ふざけていろ…!すぐに恐怖に怯えさせてやる!」
飛び上がり、体を捻ってのソバットを繰り出すモロ。ブロリーも蹴りでそれを受け止め、モロの足を掴むと投げ飛ばし地面へ叩き付ける。
だが二本の左腕で受け身を取り、投げた後の前傾姿勢のままでいるブロリーの側頭部へ拳を打ち付ける。吹っ飛ぶブロリーを追い、その腹を蹴り上げる。
「その程度か!?」
さらに追撃を浴びせようと走り出すモロだったが…
「!?」
突然、モロの右足がゴムのように柔らかくなり、バランスを崩して膝をつく。
(何だ!?…まさか、まだ吸収したシロナが馴染み切っていないのか!)
体内に取り込んだはずのシロナの抵抗を受けて、モロの足にファントムシロナの肉体の変質が作用したのだ。
そして、そんなモロの顔面にブロリーの剛腕が躊躇なく強くめり込んだ。
が、モロも負けじと左腕を伸ばし、ブロリーの髪を掴む。ブロリーもまたモロの角を掴み、互いに逃げられない状況を作り出す。そして、その状態の互いの頭部へ何度も何度も拳を叩き込み合った。もはやそれは戦いと呼べるものではなく、技も駆け引きもないただの喧嘩のような殴り合いだった。
だが、掴まれていた角が折れたことでモロが押し負け、後ろへ倒れ込む。
(クソッ…サザンカめ、俺の体内から『スピリットの強制分離』を打ち込んだな…!)
モロはシロナとサザンカとの同調を阻害され、僅かに肉体と魔力の操作を鈍らせられる。そこへ、さらにブロリーの追撃の拳が突き刺さる。
「グウウッ」
(まだだ!)
苦しみに喘ぎながら、モロは反撃を構え、ブロリーを殴り飛ばす。
(腹の中のガキ二人はもう限界だ、たったの一度しかオレを妨害できていない!そしてオレもブロリーも限界などとうに超えている!が、ここさえ乗り切れば終わるのはキサマらだ!!)
…その時、モロの胴の真ん中、鳩尾部分が内側からボコボコと膨らみ───
紫色の強烈なエネルギーが炸裂し、モロの腹が突き破られた。
(な…!!これはまさか…『破壊』!?馬鹿な…何故)
モロは知る由もない。
2か月よりも前、ビルスが地球へ来訪し彼が初めてブロリーやシロナたちと戦った時のことを。
シロナはビルスの破壊を受け、存在が消滅しかけたもののファントムシロナの耐久と再生力によって破壊の浸食を相殺していた。その影響でファントムへの変身時以外は幼い子供の姿になってしまったが、その時から今までの間、ずっとシロナの内部では再生力と破壊の力がせめぎ合い続けていた。そう、ずーっと。
そして今、モロの体内でシロナがとうとう限界を迎えたことで行き場を失った破壊の力が暴走、結果モロの体内を破壊し腹を突き抜けて出てきたのだった。
「終わりにしよう、モロ」
ブロリーはありったけの気を込めた拳を振りかぶり、渾身のパワーで放つ。
全く動けないモロの腹の大穴にその拳は勢いよく入り込み、込められた気が大爆発を起こした。
「──────ッ」
連戦に次ぐ連戦、変身に次ぐ変身。数々の策を弄し、何度も変身とパワーアップを遂げてきた星喰いのモロは、ついに決定的な敗北を突き付けられたのだった。
決着。