もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第51話 「少女救世論」

─さらばだ…

 

「はっ!!」

 

カカロットは誰かの声を頭の中で聞き、目を覚ました。ガバッと起き上がってあたりを見渡すが、声の主はどこにもいなかった。

それどころか、辺りには誰もいない。そしてここは…

 

「ここは…後戸の国か?なぜ俺はこんなところに…」

 

「目を覚ました!」

 

「目が覚めてしまったんだねぇ」

 

「うわっ、何だお前ら!?」

 

突如として背後に現れた二人組に驚くカカロット。瞬時に立ち上がり、警戒しながら後ろへ下がる。

二人組はゆらゆらと踊り、くすくす笑いながら近づいてくる。片方は緑色、もう片方はピンク色のドレスを着ていて、見た目も子供っぽいので一瞬妖精か何かかと思ったが、それは違うとすぐにわかった。

 

「お師匠様ー、カカロットが目覚めましたー」

 

「爾子田里乃、丁礼田舞、下がるがいい」

 

「その声は…隠岐奈か?」

 

聞こえてきた声を聴いて、カカロットがそう言った。すると、摩多羅隠岐奈が椅子に座ったまま、遠くの暗闇の中から姿を現した。

 

「お前は山の方に倒れていたぞ。それを私がわざわざここまで運んできてやったのだ」

 

「そうか…クソが、今すぐ戻る!」

 

カカロットは走って再び戦いに赴こうとする。

 

「待て」

 

が、隠岐奈がそれを呼び止めた。カカロットは振り返る。

 

「今戻っても勝算はあるのか?」

 

「なんだと?」

 

「お前たちは万全の状態で月の客との戦いに臨んだ。しかし結果はあのザマだった…。民たちを我が後戸へ隠すという提案だけは良かったとしても、お前たちは奴らの強さを見誤ったのだ」

 

「テメェ、言わせておけば!」

 

「ここから、私は幻想郷の賢者としてではなく、究極絶対の秘神として今度はお前に提案を持ちかける」

 

「…提案だと?」

 

「我が両腕の二童子と私の力でお前の隠れた潜在能力を引き出してやろう!そのための儀式を行えば、お前は確実に月の客に勝利できるほどの究極パワーを身に付けられる!」

 

思わぬ隠岐奈の言葉に、カカロットは耳を疑った。

 

「本当か?本当にお前は俺を強くできるのか!?」

 

「ただし、条件が有る。月の客を倒した暁には、お前…私の部下になれ」

 

「は?」

 

そう言われたカカロットは思わず呆れたような声を出す。

 

「お前こんな時に何言ってんだ?」

 

「私はいたってまじめだよ。お前は武道会で優勝したな?実は武道会で優勝したものを、私の新しい部下としてスカウトしようと考えていたんだよ」

 

「くだらん、そんなんだったらわざわざお前の施しを受けるまでもない!もう行くぞ!」

 

「いいのかな?今のお前じゃ絶対に奴らに敵わない。私の潜在能力開放の儀を受けても、損はないと思うがね…」

 

カカロットは黙った。隠岐奈はじっとカカロットを見つめ、二童子の里乃と舞はにやにやしながら隠岐奈の後ろで揺れている。確かに、それは一理どころか大いにある…実際に、自分や霊夢、ウスターは奴らに手も足も出なかった。

 

「…わかった、全てが終わってからならお前の部下にでもなんでもなってやる!だからさっさと俺を強くしろ!」

 

「オーケー!」

 

隠岐奈は椅子から立ち上がり、カカロットの後ろに立った。

 

「この儀式は恐らく3時間はかかる。そしてその間、絶対にお前は振り返ってこちらを見てはいけないよ」

 

「3時間!?そんなにかかるのか?今にも霊夢たちがやられてしまうかもしれないんだぞ」

 

「文句を言うな、私直々に儀式を行うのはお前が初めてだ、有りがたく思うんだぞ」

 

「…しかたない、できるだけ早く済ませろよ」

 

カカロットは隠岐奈に言われるまま、胡坐をかいて座り込み、目を瞑った。

 

「それじゃあ始めるか、二童子よ」

 

「はい、お師匠様」

 

「…コホン、ではいくぞ!ホイホイ、我こそは絶対の究極秘神!ハ子ヲトリ…ケニヤサハナム!!」

 

「ケニヤサハナム!」

 

「ケニヤサハナム!」

 

隠岐奈がそう言いながら足を開き、顔の両横で交互に手を叩く。それに合わせて、二童子も同じ動きをする。そして、腰を落として腕を伸ばし、拳を上下に振りながらカカロットの背後を行ったり来たりを繰り返す。

 

「な、何だ!?俺の後ろでいったい何をしてるんだ!?」

 

「おっと、終わるまで絶対に後ろを振り向くなよ!そうするとお前の中で目覚めかけているエネルギーが私に逆流し、そこから大爆発が起こってしまうからな」

 

(そんなので本当に俺は強くなれるのか?)

 

カカロットは若干の不安を覚えつつも、潜在能力開放の義式が終わるのをひたすらに待つのだった。

 

 

 

 

 

一方、明嵐たちにやられてしまった霊夢は…。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「う…うぅ…」

 

いまだにズキズキと痛む頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がった。ぼやける目をこすり、もう一度辺りを見渡す。

 

「アンタは…天龍!?なんでこんなところに…」

 

霊夢を起こしたのは豹牙天龍だった。おかしい、人間は全員後戸に避難しているはずで、彼も例外ではなかったはずだ。

 

「実はな、神子様たちが…」

 

「これは…?」

 

霊夢は天龍の言葉も待たないままそう呟いた。

幻想郷中のそこらかしこで、妖怪たちの気を感じた。有りえない、彼らも人間と同様にカカロットが後戸へ避難させたはずなのに…。

 

「まさか…アイツら!!」

 

霊夢は妖怪たちが後戸から抜け出し、各々で月の客たちと戦っていることに気が付いた。

馬鹿な、あの軍勢に妖怪たちが敵うわけはない。もしも何とか勝負になったとしても、最終的には殺されて消滅するのがオチだ。すぐに止めさせようと移動しようとするが、霊夢は寸前で足を止めた。

 

(そうか…きっと、彼らは自らで望んで戦っている…そして、覚悟してしまったに違いない)

 

「察したとおりだ。妖怪たちはすでに各々で戦いを始めている。人間の俺もどさくさに紛れてここまでやってきたんだ」

 

「分かった…アンタも奴らにやられないように気を付けなさい。じゃ」

 

霊夢は拳を握りしめた。これでは、カカロットの頑張りが無駄になる。しかし、ここで私が妖怪たちを止めに入れば、さらに彼らの決意と覚悟が無駄になる。それに、月の客軍は幻想郷の浄化作業に入っている。妖怪たちに頑張ってもらわねば、幻想郷は破壊し尽くされてしまうからだ。

二つを天秤にかけた結果…霊夢は空に浮かぶ大満月に重なっている、槐安通路目がけて飛び立つことを選んだ。

 

「ありがとう、霊夢」

 

月の客軍と戦いながら、その様子を横目で見ていた紫はそう呟いた。

 

 

(通路の中には、月夜見王の戦艦が有るはず。私一人だけでもそこに辿りついて、奴らの企みを阻止しないと…)

 

霊夢が、槐安通路の入り口に迫った途端、内部から月の軍勢がぶわっと押し寄せてきた。霊夢は全身に気を纏い、その軍勢と正面からぶつかっていく。

 

「邪魔よーッ!!」

 

 

 

 

 

─…そう、我々幻想郷に住まう人ならざる者たちは、妖怪の山の、魔法の森の、迷いの竹林の、人間の里の、全ての土地を破壊しようとする月の客と戦う。この命を懸けて。

 

「だから…ありがとう、霊夢…見逃してくれて」

 

「ええい、何をよそ見しているか!」

 

紫は、そう叫びながら背後から襲いかかってくる兵士に向かって、スキマから電車を出現させて衝突させる。

 

 

─紅魔館上空─

 

「この場所には指一本触れさせはしないわ!」

 

月の兵士を蹴り飛ばすレミリア。

 

 

『飽きられて捨てられた ちっぽけな本物と』

 

 

─人間の里─

 

「もしも我々が消え去っても…これで幻想郷は残る!」

 

全身からレーザー光線を無数に放ち、飛行する兵士たちを次々と殲滅する八雲藍。

 

 

『何者にもなれないまま 壊れたニセモノたち』

 

 

─妖怪の山─

 

「幻想郷さえ無事であれば、新たな生命がこの地に宿ってくれる!」

 

腕の包帯をほどいてドリルの形に変じさせ、月の戦艦を貫いて破壊してゆく茨木華扇。

 

 

『世界中、誰もが あんたたちを忘れてしまっても

 私は覚えているわ だから今すぐ戦って!』

    引用 <少女救世論>より

 

 

 

 

「おりゃあああ、ここはお前たちの居場所じゃない!さっさと出ていきな!!」

 

巨大化した伊吹萃香が月の戦艦を掴んで引きずりおろし、踏みつぶして破壊する。わらわらと向かってくる兵士たちに向かって口から炎を吐き出し、まとめて焼き払う。

 

「た、退却~!山エリアに残っている戦闘艦及び兵は退却だ~!!」

 

「がはははは!!そうだそうだ!」

 

今度は腕を大きく振って嵐のような突風を起こし、戦艦や兵士たちを遥か彼方へ吹き飛ばした。

そして、この場所に敵がいなくなったことを確認すると、萃香は元の大きさに戻り、がくっと膝をついた。

 

「これが限界か…。ふふふ…鬼として怖れられていたころが…懐かしいよ」

 

仰向けに寝転がり、最後に頭上に浮かぶ月に手を伸ばすと、やがて萃香は霧となって消えていった。

 

 

 

「くっ…数多の月の客を撃破してきたが、貴様らで最後か」

 

人間の里で、月の客と闘い続けていた八雲藍。ともに戦っていた妖怪たちもほとんど消えてしまい、彼女だけが残っていた。

が、もう傷だらけで、背中には銃弾がめり込んだ跡や、突き刺さったまま折れた剣が無数にあった。

満身創痍の藍は、剣を構えて止めを刺そうと向かってくる月の客の一団に抵抗ができないでいた。

 

「ここまでか…」

 

「藍、まだ生きてる!?」

 

その時、スキマを通って現れた紫が、兵士の一団を気功波で吹き飛ばした。

 

「紫様!」

 

「私も暇になったから、少し四方山話に付き合ってちょうだいな」

 

「いいですとも」

 

兵士たちは剣を構え、二人をぐるりと取り囲んだ。紫と藍は背中を合わせ、敵の攻撃を警戒しながら立ち回る。

その時、藍は気付いた。紫の背中にも自分と同じかそれより多いくらいの本数、別の場所で戦った兵士の剣が突き刺さり、その胸を貫いていることを。

 

「私は思ったわ…1年以上前、私が幻想郷一武道会の開催と共にドラゴンボールの存在を民に知らしめたのは、結果として幻想郷を苦しめることになったのでは、とね」

 

「と、いいますと?」

 

「シュネックが言っていた…」

 

 

「ドラゴンボールの存在を多くの人間や妖怪に周知させたのが問題なのだ。こうなれば色々な者が私利私欲の為にドラゴンボールを求めるかもしれん。さらには幻想郷すら脅かすとんでもない連中すら呼び寄せることに…」

 

 

「まさにその通りかもしれないと思った…ガーリックの一件や、今回の月の客襲来…聞けば全てがドラゴンボールを発端としていた…。私の所為なんじゃないか…いや、実際そうなのだと思うけどね」

 

そして、しびれを切らした兵士たちが二人に飛びかかった。

藍は両腕からレーザーを放って兵士を吹っ飛ばし、紫は切りかかる兵士を蹴り飛ばした。

 

「だが…それらの脅威があったから、この幻想郷には強者が増えた!これは事実ではありませんか」

 

「ふふふ、そう…そうなのよ!私が作った幻想郷がドラゴンボールのおかげで成長した!だって霊夢やカカロットだって、ドラゴンボールを知らなければあそこまで強くなることはなかったもん!」

 

次の瞬間、兵士たちが撃った銃弾の雨が二人に降り注いだ。

しかし、二人は笑いながら妖力の波動を放ち、兵士たちを一掃する。

 

「わははははは、その通りですな紫様!いわば幻想郷は妖怪が作った妖怪の子といえましょう、我が子の成長を望まぬ、さらに成長させてくれたドラゴンボールに感謝すらしないとは…」

 

「あははは!ええ、親として失格ね」

 

シュウゥ…

 

その言葉を最後に、人間の里には静寂が訪れた。

 

(だから…残された霊夢よ、何一つとして月の客の思い通りにさせないで!…頑張って)

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