「んで、これからどうする?」
暗黒の海上空で予期せぬ巨大なドラゴンの如き魔物の急襲を受け、飛行船を失ったグロリオ一行。ウスターの力で何とか向こう岸までは辿り着けたが、ここからの移動手段が無くなってしまった。
「第3魔界を飛行機無しで横断するのは流石に厳しい…よし、これからカダン王がいる城へ行って飛行機を貸してもらえないか頼んでみる」
「カダン王?」
「第3魔界を統治している王だ。城はここからそれほど遠くではない…歩いて行こう」
「そうね、魔界を歩いてみるってのもいい経験になりそうだし」
一行はカダン王がいるという城を目指して歩き出すのだった。
「お、あれ何かしら」
霊夢はふと遠くへポツンと一軒の建物があるのに気付いた。
「何かの店…のようだな」
「お、いいな~少し寄ろうぜ」
「仕方ないな…」
霊夢たちの我が儘を受けたグロリオは謎の店の前に船を着陸させ、その店の中に足を踏み入れる。
「あらいらっしゃいね!」
カウンターの奥から声をかけて出迎えてくれたのはふくよかな体型をした魔人のおばさんだった。
「お客さんなんて何年ぶりだろうねぇ、ゆっくり見ていっておくれよ」
「なぁ、なんか飯ある?」
「はいよ、ちょっと待ってねぇ」
カカロットが早速飯を注文したが、霊夢とウスターは店の中の商品をぐるっと見回し始める。霊夢は得体の知れない生物の干物や植物が瓶に詰められて陳列されている棚を見渡し、そこでひとつの不気味な商品を発見する。
「うわっ、何これ…気味悪いわね~」
瓶の中には2つの目玉のような物体が入れられており、その目玉はたまに少しずつ転がったりして目線を動かしている。
「ああそれかねぇ?『魔のサードアイ』って代物なんだけど、ずーっと昔にひとつ売れただけの気味悪い何だかよくわからないモンさねぇ」
おばさんは大きな爬虫類を丸焼きにした料理をカカロットへ差し出しながら霊夢へ説明をした。霊夢はそのサードアイの放つ異様な魔力を感じ取り、目を合わせてじっと睨み返す。
「…ふーん」
「サードアイって、古明地んとこのさとりのヤツとは違うんかな」
カカロットが爬虫類の丸焼きを齧りながらそう零した。
「さあ?名前が同じだけで全く別物じゃないの」
「だよな」
そして、同じく店内を見渡していたウスターも何かに目を付ける。
「これは…まさか…!!」
「どしたのウスター?って、それ…」
ウスターが驚きながら見下ろしている瓶の中には、種類ごとに分けられた小さな虫が大量に入っていた。
「それはねぇ…」
おばさんがそれらについて説明しようとするが、ウスターが遮って喋り出す。
「クスリ虫だと!?ズツウ虫にアチチ虫、そしてビヨウ虫か!?」
「アンタよく知ってるねぇ」
「昔、魔界同士の戦争中に食べたことがある。これはすごい効果を持つお宝みたいなものだぞ…それがこんなに…ん?でもこれは見たことがないな…」
これらの不思議な虫を知っているウスターだったが、その中でもこのエネラルド色をした体の両端に頭部を持つ奇怪な虫だけは見覚えがない様子だった。
「それはクッツキ虫だねぇ。半分に割って二人で食べればしばらくの間合体して強くなれるのね」
「ウスター、欲しいの?」
「…」こくり
霊夢の問いにウスターは無言で頷いた。そのまま各種の虫を3つずつ取り、グロリオの金で購入した。
「…もういいか?そろそろ先へ進もう」
グロリオは少し納得できない表情でそう言い、その時ちょうどカウンターの奥から出てきた魔人のおじさんに声をかける。
どうやら何かの値段交渉で揉めているようだが、やがて話が付いたらしく、グロリオがこちらへ来て言った。
「飛行機は無かったが…“スカイシード”に乗って近道しよう」
スカイシード、それは魔界にて生育するとある大樹の種で、衝撃を与えられると種子が勢いよく飛んでいく性質を持ち、方向を定めたこれに乗ることで移動するという手段があるらしい。
グロリオ、カカロット、霊夢、ウスターも発射されたスカイシードにしがみつき、その圧倒的なGに耐えながらカダン城近くの荒野へと着陸するのだった。
「やっぱ魔界って、植物もとんでもないんだな…」
その後、一行は険しい坂道を登って丘を越える。目の前には超巨大な魔獣の白骨が横たわっており、大魔界の壮絶な環境を物語っているかのようだ。
「ねえ、さっきからさ…」
「ああ、俺も思ってた」
そして、全員は全く同じことに気付いていた。先ほどから、隠れて後をつけている者がいると。霊夢はバッと後ろを振り向き、穏やかに声を出す。
「ねえ!別に取って食ったりないからさ、出てきてくれないかしら?何か私たちに用があるのよね?」
当然、そうは言ってもしらばくは何の反応もない。しかし、霊夢たちが一斉に見つめている先にある茂みからは明らかな人間大の生き物の気を感じ取っていた。
「…本当にバレてるんなら仕方ないか」
茂みからそう声が聞こえ、ガサガサと草を分けながら現れたのは、オレンジ色の服と紫色のマフラーを身に着け、青い肌と白い髪をした魔人の少女だった。
「よくアタシがいるってことがわかったな」
「まあね。気を感じるから」
「気…?なんだそれは」
グロリオは気という概念を知らない様子で、少女の気配も感じ取れていなかったようだ。
「なんかよくわかんないけど…アタシはパンジっていうんだ。アンタたち、この方角へ進んでるってことはカダン城に行きたいんでしょ?」
「そうだが、何か?」
「じゃついてきて!ここからもっと険しくなるよ!」
パンジと名乗った少女はタタッと走り出し、カカロットたちを先導しようとしているようだ。彼らは顔を見合わせ、とりあえずパンジについて行ってみることにした。
棘だらけの巨大な植物が生い茂る林を抜け、崖壁の細い道を通り、ようやく視界が開けると…
「見えた。アレがカダン城だよ」
パンジの指差す先には、巨大な岩山を元に建てられた城が見えていた。
なおその後、パンジがあまりにも堂々と城の敷地に入り込み門を開けようとするものだから大丈夫かと心配になったが、なんとパンジはカダン王の娘であり姫であったことが判明。一行は度肝を抜かれながらも無事にカダン王への謁見を果たすことができたのだった。
「ふーむ…飛行機を貸してほしいだとぉ?」
目の前の玉座に腰掛け、顎を手でこすりながらこちらを睨みつけるカダン王。大柄で太ったパワフルな体躯に真上に逆立った髪、左頬に大きな傷のついたマフィアのボスのような強面な顔。
「はい、不躾だとはわかっていますが…もちろんタダでとは言いません。金は払います」
「わざわざ第1魔界と外の世界からご苦労なことだが、いきなり訪ねてきてはいいいですよってワケにはいかねぇよなぁ」
やはりカダン王は渋っているが、カカロットがカダン王に寄りかかり顎を触り始める。
「いいだろぉ王様よォ、ちょっと借りるだけだってぇ」
「な、なんだお前は」
「そうよ、私たち結構強いから困ってることあったら手を貸すわよ?」
霊夢までもカダン王の脇腹の肉を掴みながらそう言い始め、馴れ馴れしい態度に難色を示すカダン王だったが、それを見ていたパンジが言った。
「親父!だったら例のアイツを何とかしてもらえばいいんじゃない?」
「なに…?例のアイツをか…!」
カダン王は少し考え、ニヤリと悪い表情を浮かべるとグロリオに向けて言った。
「おい、だったらひとつ仕事を引き受けてもらおうか」
それを聞いたグロリオはカカロットに目を向けると、彼も頷いた。
「いいでしょう」
「近頃、夜な夜なこのカダン城の付近をうろつく巨竜がいる。アイツが出歩いてちゃあおちおち寝てもいられん。どうだ、あの巨竜バルフートを退治してくれんか」
「いいんじゃない、困ってるってんなら倒してあげましょうよ」
「賛成だ、少し体を動かしておきてぇしな」
「ふん…」
カカロットたちは全員合意した。
「よし!そうと決まれば早速行ってこい!そして巨竜バルフートの首を持ってくるのだ!」
「ウッス!」
「いい返事だ!えーと、おいハイビス!俺のところへ来い!」
カダン王がそう大声で叫ぶと、しばらくして王座の間へ彼の部下と思われる魔人がひとりやってきた。間の抜けた顔と外見をしたその魔人はハイビスと呼ばれ、カダン王の前へ進み出た。
「ハイビス、お前は飛行機を操縦してこの者らを暗黒の海の近くまで連れて行け」
「えー?暗黒の海って、バルフートが住んでるところじゃん。そんな危ない場所へ行けって言うんすか?」
「つべこべ言わずに言う事を聞け!どうせお前だけ暇なんだろう」
「ちぇっ、はいはい」
ハイビスはそう言うと部屋を出て飛行機の準備に取り掛かる。その時、霊夢はハイビスの腰に巻かれたベルトにはめ込まれている目玉の装飾が気になった。
(あれって…)
夜になると、一行はハイビスの操縦する飛行機に乗り、巨竜バルフートが潜むという暗黒の海へ向かっていく。今までカカロットたちが進んできた道を戻っていく形になっているが、暗黒の海は先ほど渡ってきた、落ちたら助からないと言われた奈落だ。
「そろそろ着く」
ハイビスがそう呟いた。
「ねぇ、貴方が着けてるベルトのその目玉、どうしたの?」
と、霊夢が聞いてみた。
「拾ったから押し付けてみたらくっついた、カッコいいだろ?お前見る目あるな」
「…来るぞ」
グロリオがそう言った瞬間、ちょうど目の前に暗黒の海が見えた。そして、その奥深くから超巨大な四足のドラゴンがトカゲのように這い上がってきた。
「巨竜バルフートって…さっきのヤツか!」
倒すよう命じられたバルフートとは、先ほど襲撃してきて飛行機を破壊されたあのドラゴンだった。バルフートは甲高い叫び声を上げ、魔界の空に点在する浮遊する岩石を足場にしてこちらへ猛突進してくる。
「誰がやる?」
「俺だ」
「私よ」
迫りくるバルフートを尻目に、カカロット、ウスター、霊夢の3人は誰が出て戦うか言い争い始める。
「おい、早くしないとぶつかるぞ」
だがハイビスがそう言った通り、バルフートはどんどん近付いてきている。
「ちっ、しょうがねぇな」
決めかねたカカロットたちは3人一斉に飛行機から外へ飛び出し、いつの間にか慣れて使えるようになっていた舞空術でバルフートへ向かっていき、同時に蹴りを顔面へ叩き込んだ。
「ギシィィィィイイイイイイ!!」
バルフートは悲鳴を上げながら身を捩り、後退する。
「さっき飛行機ぶっ壊したお返しだぜ」
今、大魔界での初めての戦いが幕を開けた。
バルフートは本作オリジナルの存在です。外見はジン・ダハドを想像してください。