タマガミとの戦闘に勝利したカカロット。これでドラゴンボールを貰えるのかと思ったが、タマガミが意外なことを言い出した。
「では最後の勝負だ」
タマガミは自身が鎮座していた祭壇へと戻り、その祭壇をカカロットと挟む形で座った。そこには5つの大きなカップが伏せて置かれていた。
そして、腹にはめ込まれた三ツ星のドラゴンボールを外して見せ、それを真ん中のカップの中に入れて隠した。
「よく見ておけ!これからこのカップを入れ替える。最後にどのカップにドラゴンボールが入っているか当てられたらボールはお前のものだ!」
流石にこの展開は予想していなかったのか、霊夢やグロリオは驚いた表情を浮かべる。
しかし、幻想郷のドラゴンボールもそれぞれ賢者の試練を、ナメック星のドラゴンボールも本来は長老の試練をクリアしなければ貰えなかったことを考えればどこも共通のシステムか…と思った。
「いくぞ」
タマガミはスッ…と滑らかにカップを動かし、位置を入れ替える。どんどん速度が上がり、ついには何も見えないほど高速で入れ替わるようになる。
そして動きがピタッと止まり、タマガミはずいっとカカロットへ顔を寄せる。
「さあ、どれだ!」
「お前の背後の地面の穴」
が、カカロットは即答して見せた。
「それがお前の答えか?」
「ああ、最初は入れ替えてる途中で俺の後ろの見物人の頭の上に飛ばしたが、その後またこっそり移動させたろ」
タマガミはカカロットが指さす方へ歩いていく。そこにはタマガミがハンマーを使った初撃で陥没した地面の穴があり、その中には…やはり三ツ星のドラゴンボールが入っていた。
タマガミはそれを高らかに拾い上げ、カカロットへ手渡した。
「見事だ。くれてやる」
「ああ」
大魔界のドラゴンボールは、かつてのナメック星のものと同じくバスケットボールくらいのサイズがある。受け取ったカカロットはそれを脇に抱えた。
「お前のような純粋な強さと力を持つ者は初めてだ。また闘いたい」
タマガミは最後に小さく微笑みながらカカロットにそう言った。
「お前も死んだら大界王星へ来いよ、いくらでも戦ってやる」
「…?わかった」
カカロットの言葉がどういう意味か分かっていない様子のタマガミだったがそう返事をし、彼らは別れた。
周辺の集落の住民が拍手と歓声を送り、霊夢たちがカカロットを出迎えた。
「お前、ほんとにすごいヤツだったんだなー!」
パンジもカカロットの実力に驚いている。
「これでやっと一個目のドラゴンボールね。次は…第2魔界ってとこに行けばいいの?」
「そうだ。また第3魔界のどこかにいるワープ様のとこへ行かなければな…」
「ええ?魔界間での移動にもアレ使わなきゃダメなの?」
「昔は第1から第3魔界まで直通の道穴があったようなんだが、いつからか結界で閉ざされてしまい代わりにワープ様が配置されるようになったんだ」
「ふーん…じゃあワープ様のとこへ行くより先にその結界の場所へ行きましょう」
「…なんでだ?」
霊夢の提案にグロリオが難色を示す。
「おいグロリオ、まあいいだろうよ。一回行ってみてくれねぇか?」
カカロットもそう頼むと、グロリオは渋々納得した。
「分かった…」
その後、一行は集落を後にし、離れた場所まで移動してから待機していたバルフートの背中に乗り込んだ。バルフートは霊夢とグロリオから行き先を聞き、そのまま移動を開始した。
「バルフート、どれくらいで着きそう?」
(恐らく丸1日といったところか)
「おっけー、じゃよろしく!」
そうして、やがて一行は第2魔界へ続くという「道穴」というものが浮かぶ目の前へやってきた。確かに、空に開いた次元の大穴といった感じだが、複雑な魔法陣のようなバリアで塞がれていた。
「こういうことだ。だからワープ様に言って第2魔界へ連れて行ってもらう」
「いや…ちょっと待って」
そのバリアを見た霊夢は少しだけ何かを考え、空を飛んでバルフートの背中から離れていく。
「何をする気だ?」
グロリオが疑問に思う中、霊夢はバリアに触れ、妙な手つきでそれを撫でたり指先で弄ったりしている。
それを見たカカロットは小さく笑った。
「はは、ああ…ありゃインチキ技使うつもりだな」
「インチキ技…?」
バヂッ ブチブチブチブチ…!!
グロリオが聞き返した瞬間、霊夢は勢いよくバリアを手で掴み、そのまま引っ張って紙を破るようにして引き切って見せた。剥がれたバリアがベロンとめくれ上がり、その向こう側の景色が見える。
「霊夢はどんな封印や結界だろうが無条件で解除できる。だからインチキなのさ」
「これで向こうへ行けるわよー!」
パンジたちも驚きつつ、一行はバルフートと共に破られたバリアの隙間を通りその向こう側、第2魔界へと足を踏み入れたのだった。彼らが入った後、結界はしらばくして元に戻った。
「出るぞ!!」
暗闇が晴れ、どんどん近付いてくる向こう側の景色。そして彼らが飛び出した先には…
「緑色の…空!?」
「って、もしかして…」
「海かよ!!」
目の前に広がるのは緑色の空。第2魔界へ通じていた道穴は斜め上方向へ開いており、そこから勢いよく飛び出したおかげでバルフートは弧を描くように宙を舞い、そのまま海へ着水した。
「あぶねーな」
「道穴の出口が海なんて…初見殺し過ぎるわ」
「ふん…」
カカロット、霊夢、ウスター、グロリオは舞空術で空を飛び、霊夢がパンジを抱きかかえて何とか海に落ちるのを回避していた。
「平気だよ、アタシも実は飛べるんだ」
「そうなの?」
パンジもふわりと宙へ浮かんで見せた。
「おいバルフート、大丈夫かー!?」
(問題ない!バルフートは泳いでいこう!)
バルフートは海に落ちても問題ないようで、体をくねらせながらワニのように海上スレスレを泳いで進んでいる。
「とりあえず、降り立てる場所を探そう」
第2魔界は不思議な世界だった。険しい荒野や峡谷、火山地帯の多かった第3魔界に比べ一面に広がるのは大海原、空に浮かぶは無数の惑星のような球体!
「それに体も軽いぜ」
第3魔界の火山ガスがここには無いおかげで空気は澄んで軽くなっており、カカロットたちも難なく舞空術を扱うことが出来るようになった。
だが、一行は第2魔界の雄大な環境や空気に気を取られて気付かなかった。海底よりこちらへ近付く巨大な気配に…
バシャアアッ!!
「ギシィィアアアアア!!」
突然、海面を泳いでいたバルフートが暴れ出す。声を発する余裕もなく、ただ金属が軋むような咆哮を上げながら。
「え!?」
「おいどうした!?」
(何かが…!何かがバルフートに巻き付いておる!)
バルフートが勢い良く振り上げた右腕には、謎の巨大な触手が巻き付いており、その間にも別の触手が首や胴体に絡みついてくる。
そして、海底にぬるっと巨大な影が現れ、その正体を現す。
「グオオオオオオ…!!」
「えええっ!?」
「デケェ…イカ!?タコ!?」
その通り、超巨大なイカかタコのような海棲頭足類の姿をした怪物がバルフートに襲い掛かっていたのだ。
「クラーケンだ!」
グロリオがクラーケンと呼んだ怪物は暴れるバルフートを海中に引きずり込もうと触腕をさらにキツく締め上げる。
「ギシィィィィィ!!」
「なんかやばいよ、助けなきゃ!」
パンジがそう言い、霊夢がバルフートを助けようと飛び出そうとするが、それをカカロットが制した。
「ちょっと…!」
「待てよ。アイツがこの程度の敵をぶっ飛ばせなきゃ、どうやってガルフートに勝つってんだよ」
(バルフート、負けるな!)
バルフートは自らを鼓舞すると首元に絡みつくクラーケンの触腕に噛みついて引っ張り、思いきり千切った。クラーケンは悲鳴を上げるが、今度は胴体についている口を開けて噛みつき返そうとする。
パキ… バキン!!
その瞬間に海が凍り付いた。バルフートが自らの冷気を使って海面を凍結させたのだ。
クラーケンも凍結に巻き込まれ、ほぼ全身を氷によって拘束された。バルフートだけが凍結の影響を無効化しており、すぐに距離を取る。
「ぐおおおおぉぉぉぉ!!」
しかしクラーケンも第2魔界の海の頂点に君臨する規格外生物、恐ろしい咆哮を轟かせながら暴れ狂い、この程度の氷など易々と砕き、怒りに目を吊り上げながらバルフートに襲い掛かった。
氷で作った陸地の上に退避していたバルフートだが、クラーケンが海から飛び上がってこちらへ突撃してきたので面食らった。
頭によぎったのは、このまま氷の陸地を広げていって逃げ切るという考え。あのクラーケンの突撃を躱し、もっと氷の陸地の奥へ逃げ込めば当然海棲生物であるクラーケンは追ってこれない。
だがそれでは何も変わらない。姉であるガルフートは、バルフートに永遠に暗黒の海の奈落にて引っ込んでいろと命じた。しかしバルフートはガルフートに勝つために暗黒の海を飛び出しここまで来た。よってここで逃げという手段を取ることは生存するためにおいては正しくも、勝つために取る手段としては正しくない。まずは挑まなければ勝つことさえできないからだ。
そこで思い浮かべるのは、カカロットとタマガミナンバースリーの戦い。その様子を遠くから観察し目に焼き付けていたバルフートは、カカロットの行動を脳内で反芻する。
バルフートが取った手段は、凍り付いた海面に埋まっている先ほど千切ったクラーケンの触腕。これを口で拾い上げ、冷気で凍らせ、真っすぐに尖らせる。
そして、それを勢いよく射出し向かってくるクラーケンの脳天へ突き刺した。
「ぐおおああああああ…!!」
クラーケンは悶絶し、傷口からすぐに冷気が広がり全身が凍り付き、そのまま海の底へと沈んでいった。
バルフートは敵の得物でさえも奪い取り使いこなしたカカロットの戦いを参考にしたのだ。
「…ははっ」
その様子を見ていたカカロットは静かに笑い、霊夢たちは安堵のため息を吐く。
ひとまず海の脅威を退けた一行は、目の前に浮かんでいる緑色の星を目指して移動するのだった。