「ここは…ナメック星にそっくりだな」
惑星のような球体状の陸地に降り立った一行。カカロットはその場所の景色を見て、かつて行ったことのあるナメック星とそっくりだと口にした。背の高い、頭頂部にのみ葉の生い茂ったアジッサという樹木、緑色の空と海、青色の草原。澄んだ空気は第3魔界とは打って変わって心地よいが、周辺に生き物と呼べるものの気配はなく、風化した廃墟となった建物が点在しており物寂しい雰囲気も漂っていた。
「その通り。昔は…ここに多くのナメック人が住んでおった」
その時、どこかからしわがれた囁くような声が聞こえた。
「誰…?」
霊夢が足音がした方に振り向きながらそう呼びかけると、そこにはいつの間にかナメック星人の老人が立っていた。
「シュネックに似てる…ってことはナメック星人か?」
と、ウスターが問う。
「ふふふ…ここはナメック星ではない…だから正確にはただのナメック人というのが正しいか…わしの名はネバ…お前たちは…」
ネバと名乗ったナメック人の老人は霊夢が背中に括りつけて背負っていたドラゴンボールに気付き、にやりと笑った。
「まさか本当にタマガミに勝てる者がいたとは驚きだなあ…誰かがタマガミと戦ったことは薄々感じ取っていたが、まさかお前さんたちがそこまで強いとは思わなんだ」
「…もしかして、アンタがタマガミが造ったの?」
霊夢がそう尋ねた。ネバは少し驚いたように目を開くと、小さく笑う。
「ふふ…まあな」
「じゃあ、タマガミみたいな強い戦士を造れるんなら大魔王なんてやっつけちゃえばよかったのに!」
と、パンジが言った。
「そういうわけにはいかん。ナメック人は争うために力を使ってはいけないのだ。元々、ドラゴンボールは勇気ある者や知恵のある者へ対する褒美のようなものとして作った…だがその噂が広まりよくない連中まで手に入れようと狙われるようになった。だからわしはタマガミを作り守らせることにしたんだ」
「ふーん…」
「それよりもこれからどこへ行くんだ?」
「第2魔界のタマガミの所へ行ってここのドラゴンボールももらうつもりだ」
「ならわしも連れて行けぇ。役に立つぞ」
カカロットにネバがそう提案した。
「えーっ、ダメだよおじいちゃん!危ないし…」
パンジがネバを気遣って止めようとするが…
「ドラゴンボールで願いを叶えるにはナメック語で言わなければならないぞ。お前さんたちにナメック語が分かるのかい?」
「う…そうなの?なら確かに…」
「まあいいじゃねぇか、来たいって言うなら連れて行ってやろうぜ。ってわけだバルフート、一人増えたがいいよな?」
カカロットがネバの背後に目を向けてそう喋った。そして不思議に思ったネバが振り返ると、そこにはいつの間にか一切の音や気配を立てることなく、巨大な竜が佇んでいた。
「!?」
(バルフートは構わないぞ)
「ほおお…こいつは驚いた…!古代竜を見たのはかなり久しぶりだ…懐かしい」
ネバはバルフートを見て、その腕にそっと手を触れながら懐かしんだ。
「古代竜?」
「文字通り古代の大魔界に繁栄していた種族だなぁ。わしがまだ子供の頃はそこら中に跋扈していて、ポルンガも古代竜をモデルにして作ったものだ…」
(…そうなのか、バルフートは生まれた時から姉上と二人きりだったが…大昔はバルフートのような存在が数多くいたのか)
「その通りだ、昔はな…。では共に行かせてもらおうかぁ」
かくして、一向に伝説のナメック人ネバが加わった。ネバもバルフートの背に乗って甲殻の突起に寄り掛かるように座り、第2魔界のタマガミの元まで案内してくれることとなった。
第2魔界は広大な海と豊かな陸地によって構成される。そして空のいたるところにはいくつもの惑星が浮かび、それぞれ異なる種族や生物が暮らしている。
惑星と言っても、宇宙に存在するような惑星ほど大きくはなく、せいぜい直径が数十キロメートルほど。惑星というよりは大きな球状の空に浮かぶ島と言った方がいい。この大魔界のナメック星もそのひとつであり、かつてのガーリックやペペロンの故郷である魔凶星もこの第2魔界から第7宇宙へと転移したものと考えられる。
バルフートは絶対零度の冷気により氷塊を生み出し、それは超伝導により空中に固定される。その固定された氷塊を足場にして、バルフートは空を自在に動き回ることが出来るのだ。
氷塊を伝ってナメック星を離脱し、再び海の上にまで降りる。が、またクラーケンが襲ってくる危険があるため海面には近づかず、離れた上空をひたすらに移動している。
「ねえ、おじいちゃんはどれくらい一人で住んでいたの?」
「んん…正確には数えておらんが、数万年は経ってるだろうなあ。皆が消えてからしばらくの年月は、集落や町並み全てを何も損なうことなくそのまま維持していたが…流石に年を取り過ぎた。もう景色が風化してゆくのは、諦めたよ」
パンジの何気ない問いにネバが答えた。
「…寂しくないの?」
「そりゃあ寂しいさぁ…何度も消えようと思った事さえある。だがわしはあの故郷が好きなんだ。それに、いつか仲間たちが帰って来た時、出迎える者がいなければなぁ」
ネバはそう言いながらバルフートの背甲を撫でた。バルフートもまた、いまは絶滅した古代竜という種族の生き残り。ネバはその孤独さに寄り添おうとしているのかもしれない。
バルフートはその意図を察しているのかいないのか、ただ無言でいるだけだった。
「願わくば、死ぬ前にもう一度…賑やかな故郷を見たいものだなぁ」
そして、海を渡り終え一行は大陸に降り立ち、そのまま海岸沿いを移動し巨大な岬へとたどり着く。
その先端には、ドラゴンボールの紋様が描かれた大きな石碑を背に、微動だにせず佇むタマガミの姿があった。やはり生物なのか無機物なのかすら判別できないほどに恐ろしく静か、そして安定を見せている。
「アイツが第2魔界のタマガミだな」
「誰が挑む?」
「次は俺だ。カカロットは第3魔界のタマガミと戦ったからな」
と、ウスターが霊夢とカカロットを差し置いて名乗りを上げた。
「まあいいんじゃないかしら?それなら私は第1魔界で戦わせてもらうから」
「好きにしろ。何せ俺は好物は先に食べてしまうタイプだ、待って大を得るより待たずに中を選ぶ」
ウスターはそう言いながらタマガミの目の前に歩み寄り、腕を組んだまま正面から睨みつける。が、タマガミはそれでも微動だにしない。
「タマガミだな?ドラゴンボールを渡してもらおうか」
そう言われたところで、ようやくタマガミは首を動かしてウスターを見据え、口を開いた。その姿は、第3魔界のタマガミと比べてかなり細身だが背が高く、背中には大きな棘が聳え、手には長いトライデントを携えている。
「やめておけ、たかが魔人の女がオレに勝てるとでも…ん?」
タマガミはそう言いかけたところで、少し離れた場所にいるギャラリー…カカロットたちの中に造物主たるネバがいることに気付く。
「よっ」
手を挙げて軽く挨拶したネバを目にすると、タマガミはそれに驚きつつもすぐに状況を受け入れる。
「…なるほど。こいつは失礼…侮辱して済まなかった、ドラゴンボールを手に入れるにはオレと戦って勝つ必要がある」
「構わない」
「オレはタマガミ・ナンバー・ツー!!ドラゴンボールを賭けて勝負だ」
ウスターの了承を得たタマガミは腕を掲げ、トライデントを高速回転させて握り直し、構える。その瞬間、秘められていた闘気が表面化する。
「では…始まり」
タマガミが発した試合開始の合図。それが耳に届くや否や、即座に気弾を発射し先制攻撃を仕掛けるウスター。
だがタマガミもその程度は予測しきっており、腕で弾いて一直線に高速移動、トライデントを使った速撃の突きで応戦する。
目にも止まらぬ突きの連打だったが、ウスターはその全てを躱し、タマガミの腕に膝蹴り、肩へ肘打ちを差し込む。
「む…」
怯むタマガミ。そこへさらに追撃の回し蹴りが襲い掛かるが、タマガミは槍の柄でガードする。そのまま槍の柄と自身の脇腹でウスターの足を挟み込んで拘束し、動きを止めたところで柄の先端で額を突き殴った。
「…おお」
喰らった額から血が滲む。ウスターは身を捻ってタマガミを海へ向けて吹っ飛ばし、後を追う。
タマガミも背部から衝撃波を発し水面の上で急停止、向かってくるウスターへ再び接近戦を仕掛ける。両者は激しい猛攻と防御の応酬を繰り返し、次第に海面が波立ち始める。
タマガミは接近戦を中断し、後ろへ移動しながら青い気弾を掌から連続で放つ。ウスターはタマガミを追いつつこちらも両手から細かな気弾を連射し撃ち落とし、再度至近距離へ。そして腕を大きく振りかぶり、大きな気弾を思いきりタマガミの顔面へ叩き込んだ。
巨大な爆発が巻き起こり、海が大きくドーム状に凹む。が、タマガミは槍で爆炎を切り払い、同時にウスターの顔を切り裂いた。
と、思いきやウスターも咄嗟に避けており、頬に少し切り傷が入る程度で済んだ。
「チ…!」
タマガミはさらに槍で突きを繰り出し、ウスターはそれを掴んで止めるが、両腕がふさがってしまう。そこへタマガミの回し蹴りが放たれ、もろに喰らったウスターは海中へ叩き落される。
ドボン…
すぐに海上へ戻り戦線へ復帰しようとするウスターだが、海の底から巨大な影が迫っていることに気付く。戦いによって荒れる海に引き寄せられたのか、あのクラーケンがこちらへ向かってきていた。
「…!?」
大口を開けて海水ごと吸引するかの如く喰らい付いてきたクラーケンに成す術なく、ウスターは呑み込まれる。クラーケンはそのまま海上へ跳び上がり、タマガミの目の前を通過した。
戦いを見ていた霊夢たちも、まさかウスターがクラーケンに喰われるとは思ってもいなかったようで驚いている。
しかし、否。
タマガミは海へ落下していくクラーケンの方へ向いて構えており、警戒を解かなかった。
ググ… ズバアアッ!!
そして次の瞬間、案の定クラーケンの体を突き破るようにウスターが飛び出してきた。さらに、その傍らには紫色のオーラで形作られた巨大な手が浮かんでおり、これでクラーケンを貫いたのだろうと推測できる。
「待っていたぞ」
「待たせたな」
タマガミも小さく笑い、鋭いオーラを纏い気を高めたウスターとぶつかり合った。