「いと高き御身。風の御身。夜と昼…明るき処と暗き処に御座す御身よ。敬い奉る御身よ。今こそその鋭き切っ先を示し給え。精霊の宝、玉散る刃を顕現させ給え。請願いたします…『命』を以って」
「何を言ってるんだ、この婆さんは」
カカロットは詠唱するマーバを見て首を傾げた。
「静かになさい。特別な精霊を呼び出しているのよ」
アリンスがカカロットにそう言った。
すると次の瞬間、マーバの目の前に不思議な存在が顕現した。大きな身体に4本の腕を持ち、その手首から先は巨大な剣と刀になっており、交差させて構えている。その顔はまるで前面を切り落とされたかのように真っ平で、歯を剥き出した口だけがある。さらにその背後には時計板を表すかのような2本の針が回転する紋章が浮かんでいた。
「うお、なんだあれ!」
「しっ!黙りなさい!」
「我を高き場所より呼び出したのは汝か。この切断の精霊王タカヤベルネを!」
自らを精霊王タカヤベルネと名乗った不思議な存在は、威厳のある大きな声でそう言った。
「高く尊いタカヤベルネ様。大魔女マーバと申しまする。我がこれから成す術に力をお貸しください」
「ならば術成った時に、
「御意…」
(なるほど、俺はあとでこの精霊王とやらにタマを取られるってことだな)
カカロットは目の前で起こるやり取りを見てそう確信した。
マーバはタカヤベルネと契約を交わした後、寝かせられているパストへ向き直った。
「人造魔人パストの魂魄よ、ここに有れ」
そう言うと、マーバによって引っ張り出されたパストの魂魄が浮かび上がった。その姿は、半透明で曖昧なパストの姿そのままだった。
「さて、パストの魂魄よ…わしの名はマーバ。言ってごらん」
(…マーバ、私に何の用だ…)
パストの魂は、うとうとと眠たそうに眼を閉じた状態で言われるがまま、マーバの名前を繰り返した。
「そこに、あんたの魔術によって命を落とした魔人の小僧…グロリオが横たわっている。間違いはないな?」
(ええ、確かに私の魔術でグロリオは死んだわね)
「そうじゃ、過去に起きたことは変えられん。過去と繋がる現在も変えられん…ならば未来はどうじゃろう?わしが成す術は『信ずる』ことにより、過去を改変し未来を変える術…パスト、あんたがグロリオを殺したことを忘却し、殺していないと信じれば…グロリオは殺されなかったことになり生き返るじゃろう」
パストの魂は相変わらず大した反応を見せず、ただ目を閉じているだけだ。そして、マーバがパストの体を指差すと、浮かんでいた魂は再びパストの中へと戻っていった。
「タカヤベルネ様、未来が変わった際に邪魔とならぬよう、グロリオの傷ついた体を断ち割ってくだされ」
「了する!」
マーバがそう命じた瞬間、精霊王は剣の一本を振るい、グロリオの体の吹き飛んだ部分を綺麗に切り取って除いた。
「うわ…斬られたぞ!でも、血が出ねぇな…?」
「聞いたことがあるわ、高位の精霊による影響は時間に干渉しないと」
(霊夢の神降ろしみたいなもんか)
カカロットは霊夢が昔によく使っていた神降ろしを思い出し、納得した。
どうやらタカヤベルネのような、魔界に存在する高位の精霊によって引き起こされた事象は時間に干渉しないらしい。よって、血も流れなければ死にもしないようだ。
「死人の男よ、お前はこれからわしが術を成す間…グロリオの魂が離れていかぬよう引き止め続けろ」
「俺が…?」
「せっかく体を元に戻しても魂が離れたんじゃ意味がないだろう」
「…ああ、やってみるぜ」
カカロットは、じっとグロリオの顔を見つめた。
その時…
(カカロットか…?)
グロリオの声がカカロットの頭に聞こえてきた。
「グロリオか!」
(やはりカカロットか…オレを…生き返そうとしているのか?)
「ああそうだ、しばらくの間頑張れ。俺はお前を引き留めろと言われたんだが、どうやりゃいいのか…」
(こうして話している間は…大丈夫なようだ。なら、少し話してくれないか…カカロットの事を…どうしてそんなに強いのか…そして、何故そんなに強いお前が死んだのか…)
「…わかった、話してやる。そんなに愉快な話じゃねぇけどな…」
そして、マーバは魂が戻ったパストの身体を浮かび上がらせた。
「タカヤベルネ様、この人造魔人を切り分けてくだされ」
「了する!」
精霊王は刀と化している腕2本を振るい、パストの身体を細切れに切断した。彼女の体は頭、頸、胸、腹、肩、腕、二の腕、手の平…と部位ごとに分割されていた。ただし、血も出なければ、パストは死んでもいない。
「今、人造魔人の肉体ごと魂を切り分けた。魂の形は肉体に引っ張られるものだ…そして、パストの『腕』と『手』、『頭』よ、あんたらはグロリオに魔術を使ったことを覚えているか?」
パストの『腕』は答える。
(ああ、覚えている。魔術の源、魔力がこの腕を確かに通ったわ)
『手』は答える。
(ああ、覚えている。伝達の魔術がこの手から放たれたわ)
『頭』は答える。
(ああ、確かに私は魔術を使うことをこの頭で考えたぞ)
それを聞いたマーバは、にやりと笑って口を開く。
「そうかいそうかい。ではまた断ち割ってやろう。違う答えを聞くまでな…」
因果を断つ。その死が覆るまで…
「ほう、これが…魔のサードアイの力か。実に素晴らしい貢物だぞ」
咄嗟の機転により、額に魔のサードアイを装着することに成功したゴマー。その体躯はこれまでの小柄なゴマーからは想像もつかない程筋肉質に肥大化し、ウスターの倍近くもの大きさに膨れ上がっている。
そして、ウスターのオーラの手を破壊した己の力に感嘆しつつ、小手調べと言わんばかりに不意に拳を突き出した。
ウスターは間一髪、両腕を交差させてガードした。だが、岩石の如き巨大な拳と馬鹿力は、ガードを突き破ってウスターの体の芯を打ち抜いた。
(重い…っ!!)
そのまま城塞の壁に激突し、クレーターの中に埋もれるウスター。そこへすぐさまゴマーが飛び掛かり、その巨体からは想像もつかない速度でさらに追撃を繰り出す。
一撃で城塞が粉砕され、ウスターは素早く空を飛び距離を取る。その時、巨大な影が煙の奥から迫って来るのに気付いた。ウスターは空中で軌道を変え、ゴマーの脇腹に蹴りを突き刺した。
「ご…!」
ゴマーは確かに苦しむ素振りを見せ、動きが止まった。そこへさらに無数の気弾を撃ち込み、次々と爆発が起こりゴマーはそれに包まれる。
そして、ウスターは口から特大のエネルギー波を発射した。
「…ふん」
しかし、ゴマーはその光線を頭で弾きながら突き進み、ウスターの前へ現れると剛腕を振り下ろし、殴りつけた。
それを頭部へ食らったウスターは額から血を流しながらも、頭の中で戦い方のスイッチを切り替える。
攻撃を放った後の隙を見せているゴマーのこめかみへパンチ。そして間髪入れずに肘打ちをうなじへ、膝蹴りを肩へ、中指を浮かせて突起を作った拳を眉間へ、蹴りを鳩尾へ。続けて目にもとまらぬ何百発もの連撃がゴマーの急所へ次々と叩きこまれ、その巨体が後退してゆく。
「ぶげぇ…」
耐えがたい苦痛と共に涎を吐き散らしながら大きく仰け反ったゴマー。
「くおおおおッ!!」
そして、最後に喉元へ鋭い抜き手を命中させるウスター。
螺旋状の気の軌道が突き抜け、明らかにゴマーの喉へ伸ばした手が深く突き刺さっていた。
が…
「…チッ」
ウスターの手が滅茶苦茶に砕け、折れ曲がっていた。ゴマーの体になど突き刺さってはおらず、折れていたからそう見えていただけだった。
ゴマーの肉体はサードアイの効力により、ダメージを受ければ受けるほどより硬く、強くなる。
「ふはははは」
そして、気を取られたウスターの真横からゴマーの回し蹴りが命中し、吹っ飛ばされた。空中でブレーキをかけて制止するも、想像よりも大きなダメージによって動きが鈍る。
ゴマーはその隙を逃さず、魔力により周囲に浮かぶ瓦礫や岩塊を強化しつつ操作し、一斉にウスターへ差し向けた。
「ぬああッ!」
それをひとつひとつ拳や蹴りで潰していくウスターだったが、それでも間に合わず、徐々に岩の直撃を受けてしまう。当たった岩は砕けずにその場へ留まり、やがてウスターは分厚い岩の塊の中に囚われてしまう。
「ははは…ふぐははははははは!!」
笑い声と共にゴマーが迫り、回し蹴りの一撃で岩塊を粉々に打ち砕いた。
「…ッッ!!」
その中に囚われていたウスターは必殺級の一撃をまともに喰らい、声も出せぬまま遥か彼方へと吹っ飛ばされていき、宙に浮かんでいた巨大な島に激突した。
勝ち誇ったように腕を組みながらその方向を見つめるゴマーであったが…
「…」
ウスターもまた、その目からは勝機の色は失われていなかった。
その時、ウスターがいる方が一瞬光ったかと思えば、
「…ごうおああああッ!」
そこから伸びてきた光線が、ゴマーの腹部を貫いていた。ゴマーは揺らぐ視界でウスターがいる方向を見据えると、確かに光線を放った直後の様子のウスターがいるのが見えた。
「お、おのれぇぇぇ」
だが、ゴマーの額のサードアイが紫色の波動と共に魔力を放つと、呼応するかのようにゴマーの腹部に空いた穴が元通りに修復されていく。
「ははははは!見よ、これが魔のサードアイの力だ!!」
完全に傷を治すと同時に、ゴマーは強化されていた。何事もなかったかのように空中を蹴って勢いよく飛び出し、一瞬でウスターのもとへ迫ると剛腕を振り下ろす。
今度はウスターも当たる寸前までそれを引き付けてから飛んで躱し、遠くにあった岩塊の裏へ隠れるように避ける。
「ふふふ…」
再度それを追い、岩塊を殴り壊すゴマーだが、すでにウスターはそこには居らず、直後に真横から突っ込んできたウスターのドロップキックを肩へ受けて吹っ飛ばされる。
「ち…!」
そのままぐんぐんと押し込んでくるウスターへ反撃しようと両腕を振り上げるゴマーに対し、ウスターは胸を踏むように蹴りつけてさらに勢いをつける。そして体から迸る気を充填させた左手を掲げ、一気にエネルギーを放射した。
それはまたしてもゴマーの胸に突き刺さり、貫通してはるか後方へ伸びてゆく。
あまりの衝撃と激痛に白目を剥いて悶えるゴマーだが、直後にまたしても額のサードアイが蠢き、魔力を流し込んだ。
するとゴマーの体は再生し始めてしまうが…
「馬鹿め…!何度ダメージを受けようが、何度でも再生する!オレ様の無敵の魔力は…消して尽きないんだよ!!」
高らかに豪語するゴマー。だが、ウスターが何度もゴマーを再生させているのには理由があった。
再生し始めたゴマーの体がグジュグジュと不気味な音を立てて修復されていくが…
ウスターはなんと服の中に隠していた砂を投げ、ゴマーの視界を奪った。
「なんだ、目が…!」
「いくら再生できるとはいえ、目に入った異物まで取れないだろう?」
その時、どこからかやってきたウスターのオーラの手が、ゴマーの後頭部を三度叩いた。
「!?」
「な…あ!」
結果、ゴマーにくっついていた魔のサードアイはポコンと外れ、彼の目の前を舞った。
「卑怯だぞォ、目を狙うなんて~!!」
ゴマーは両目を押さえて喚き散らしながら、魔のサードアイが無くなったことによって見る見るうちに体のサイズも元通りに縮んでゆく。
「すまんがそれは初めて聞いたな。俺はもともとそういう処に棲んでいるんでな」
次の瞬間、ウスターのトドメの蹴りがゴマーの胴体へ突き刺さり、ついに彼は意識を手放すのだった。
「…合体したのね」
目の前に降りたった魔人ドゥークを見て、霊夢がそう言葉をかけた。
「その通り!俺は魔人ドゥーと魔人クウが合体した、魔人ドゥーク様だ!可哀そうだが容赦はしないぜ…っと!」
ドゥークは片腕を空へ掲げ、一発の気弾を撃ち上げる。気弾は空高くへ上昇した後さく裂し、雨のような細かなエネルギー弾を降り注がせた。
「さっきのお返しだ」
だが、霊夢は一度上を見上げただけでその軌道を見切り、降り注ぐ雨の中を縫いながらドゥークへ迫る。
「いっ!?」
これほどの反応で迫って来るとは思っていなかったドゥークは驚きつつも、放たれた霊夢の蹴りを上体を逸らして回避し、そのまま足を振り上げて胸を蹴る。
当たったかと思いきや、霊夢はドゥークの足を掴んで蹴りを止めていた。そのまま大きく体をひねり、ドゥークを振り回して投げ飛ばす。
が、ドゥークの足が溶けるように伸び、霊夢の力がほとんど伝わらずに動きが空ぶってしまう。一人で勝手に回転した霊夢の顔面へ、ドゥークの拳がめり込んだ。
霊夢は吹き飛ばされ、後方にあった城塞の壁へ激突しめり込んだ。
「どうかな博麗霊夢クン!最強の魔人のパワーは?」
そして、動けない霊夢の腹へドロップキックを食らわせ、背後の壁の残骸が砕け散る。霊夢は何とか反撃の気弾を連射するも、ドゥークはそれを避けながら目にもとまらぬ高速移動により残像を生み出し、霊夢を翻弄する。
「どうだ!オレ様がこんなに速いとは思わなかっただろう!」
霊夢は近くを通った残像を狙って攻撃するも、そのどれもがすり抜けてしまい当たらなかった。逆にドゥークはすれ違いざまに霊夢を攻撃し、ヒットさせている。
「お前はもう終わりだぜ!どこから攻撃が来るか分かるまい!?ホラ今か、どっちだ、あっちからか~?」
確かに、ドゥークのスピードは霊夢には追えない。翻弄しながら放たれる攻撃も、今の「超夢想天生・壊」を発動したままでは避けられないだろう。
いや、というよりも…霊夢にとっては追う必要がない、と言うべきか。
何故なら…
「な…マジかコイツ!?」
霊夢は、所持していた二つのドラゴンボールを宙へ放り投げた。
第3魔界と第2魔界で手に入れたドラゴンボール、そもそもこれを懸けて霊夢とドゥークは戦っているのだ。当然、手放していいはずはない。
それが分かっているからこそ、ドゥークはドラゴンボールが放り投げられている光景を目の当たりにし、思わず足を止めるほかなかった。
「…!しまっ」
「『夢想封印』」
気付いた時にはもう遅かった。霊夢の放った色とりどりの巨大な光弾がいくつもドゥークへ迫り、次々と命中してゆく。
これは霊夢が扱う中で最も使い慣れ、最も発生の速い必殺技。妖怪であれば問答無用で力を封じる作用のある光弾は、今の霊夢が放てば当然それだけでは済まず、ドゥークに対しても効果が見込めるだろう。
「ぶは…ひ、卑怯だぞ…」
「アンタ、パワーもスピードもあるのにこんなのに引っ掛かっちゃうなんてね~。それに上からとか下からとか、動きに『点』を混ぜないで単調すぎるのよ。あっと、ごめんごめん、私の運が良かっただけなのね…
夢想封印の炸裂を喰らい、後ろへ倒れこんでゆくドゥークに対して霊夢がそう言葉を投げるが、聞こえたのかどうかは…もうわからない。