もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第528話 「血塗られし狂威」

「タカヤベルネ様、この者をさらに小さく!さらに細かく!切り分けてくだされ!」

 

「了する!」

 

マーバの命令に従うタカヤベルネは、剣と刀になっている4本の腕を素早く振り回し、パストの身体をさらに小さな破片へと切り分ける。

 

バラァ…

 

すると、もはやパストの身体は何がどこの部位だったのか分からないほど細切れになった。砂粒の如く小さな破片は細胞単位でバラバラになっており、それでもパストの身体があった位置に留まっているため、それが彼女の肉体を構成していたモノであることは辛うじてわかる。

 

そして、カカロットはグロリオへ自分の話を続けていく。

 

「…と、まあこんな感じでいろんなヤツと戦って、遠いところで修業をした俺はようやく幻想郷に帰ってきた」

 

(そうだったのか…お前たちは、そうやって戦いと修業を繰り返すことで強くなったんだな)

 

「だが、きっかけは霊夢と出会ったことだ。弱いと聞いていた地上の人間になら勝てると思っていた俺が、霊夢っていうひとりの人間に歯が立たず負けた…だから俺は強くなろうと思ったんだ」

 

 


 

 

それからはしばらく平和な時が続いた。その間、俺にも子供が生まれた。名前はシロナ、霊夢との子だ。

だが俺の血を引くシロナは、幻想郷での扱いは妖怪に当たる。だから俺はシロナを連れて地底へ帰ったんだ。

もう勇儀やほかの連中とも特に蟠りなく打ち解けていた俺は、生家である勇儀の屋敷に住むことにした。もちろんシロナの世話も俺がやってたんだぜ?

 

朝起きて、シロナと遊び、昼寝させ、その間に修業し、飯を食い、寝る。

 

朝起きて、シロナと遊び、昼寝させ、その間に修業し、飯を食い、寝る。

 

朝起きて、シロナと遊び、昼寝させ、その間に修業し、飯を食い、寝る。

 

そうやって暮らしているうちに事件が起こったんだ。

その頃は幻想郷の外から移住してくる妖怪がやたら多い時期だった。当然、地底にも新しい妖怪がやってくるわな。旧都を取り仕切る勇儀も上手いこと折り合いつけてやってたんだが…

 

何年か経ったある夜のことだった。シロナももう赤ん坊ではなく、3歳ほどの幼子となっていた。

 

「…誰かいやがるな」

 

シロナと一緒に寝ていたカカロットは、屋敷の中に見知らぬ気が入り込んでいることに気づいた目覚めた。今、勇儀は出払っておりここにはカカロットとシロナしかいない。

カカロットは静かに起き上がると、寝ているシロナに毛布を掛けなおして音を立てないよう廊下へ出た。

 

 

「早く詰め込んで!」

 

「わかってるよ!」

 

屋敷の何処かでは、忍び込んだ男女二人組の妖怪が棚や台所を漁り、価値のありそうな物品を片っ端から袋へ詰め込んでいた。旧都で使われる金銭はもちろん、銀の食器や銅の装飾品を次々と回収する。

その中で、金を埋め込んだガラスで出来たおはじきを掴んで仕舞い込んだ時…

 

「お前ら何やってる」

 

カカロットが暗闇から声をかけた。

 

「!?コイツ…」

 

男のほうがカカロットに襲い掛かるが、カカロットはそれを意に介さず片手で男の腕をつかみ、後ろへ回して締め上げた。

 

「ぐうう…!」

 

「はなして!」

 

すると、女の方が素早く懐から何かを取り出し、カカロットへ向けた。

 

(拳銃…?)

 

それは拳銃だった。どこで手に入れたのか知らないが、女は拳銃を持っていた。

銃…それはいくら幻想郷の中であっても危険に変わりない代物だ。人里の猟師は猟銃を持っているが、しかしああいう拳銃は幻想郷では出回っていないはずだ。

 

「早くはなして!さもないと撃つよ!」

 

女はカカロットに脅しをかける。正直、カカロットは別に銃で撃たれたところで何ともないどころかすぐさま目の前の盗人を始末することも出来たが…シロナが眠っていることもあって騒ぎにはしたくないと思い、男を解放した。

 

「ほらよ、それ持って帰れ」

 

男は素直に解放されたことに驚きながらも女と共にそそくさとその場を後にする。しかし、去り際に小さく呟いた言葉をカカロットは聞き逃していなかった。

 

「ヘタレ野郎が」

 

「…」

 

こめかみが熱を帯びるのを感じたが、すぐに落ち着きを取り戻す。盗られた食器や装飾も、勇儀にとっては大した価値もない代物だろう。

カカロットは自室へ戻り、また眠りに落ちた。

 

 

「…ってことがあったんだが、騒ぎになると思って見逃した。悪かったな」

 

翌日、カカロットは帰ってきた勇儀へそう話した。

 

「そうか。まあシロナに何もなかったんならいいさ。…ところで、シロナはさっきから何を探してる?」

 

勇儀が言った通り、シロナは先ほどからあたりを歩き回って何かを探している様子だった。

尋ねられたシロナは、少し泣きそうな顔で言った。

 

「勇儀にもらった金ピカのおはじきがどこにもないの…昨日ここにお片付けしたはずなのに」

 

それを聞いたカカロットの表情が強張った。きっと、昨日の盗人に盗られたに違いない。

 

「おお、そうかそうか、安心しな。私がまたくれてやるから」

 

勇儀はシロナを宥めているが、カカロットは席を立つとさっと静かにこの場を後にし外へ出るのだった。

 

 

…夜、カカロットはある民家へ侵入した。気を消し、戸をこっそり開けて人の気配がする方へ向かう。

そして、そこにいた男女二人組の妖怪を背後から締め上げた。

 

「きゃあっ!」

 

「なんだ一体…!って、お前は」

 

身なりからして、恐らくは最近外の世界から流れてきたのだろう近代妖怪だ。新参が故に旧都での生活が苦しくなり、盗みに手を染めたといったところか。

だがカカロットにはそんなことはどうでもよかった。

 

「昨日、金が混じったハジキを盗んだだろう。それを返せ」

 

「す、すまねぇ、ありゃもう売っちまった…!」

 

「なんだと?」

 

「もうアレがどこに流れたのか私たちもわからないんだよ…!」

 

「そうか、じゃあもういい」

 

そのまま首をねじ切ろうと力を込めるカカロット。その顔にはうっすら嬉々としたような笑みが浮かび…

だが、その時どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえた。

カカロットは手を放し、その声がする方に向かっていく。

 

「かはっ…おい!やめてくれ!」

 

「やめて!金は返すから!」

 

男女の妖怪が苦しみながら後ろから必死に呼びかけて来るが、カカロットは隣の部屋で寝かせられ、泣いている赤ん坊の前に立った。

妖怪の赤ん坊だった。どういう訳か、近代の外の世界から来た妖怪は子を成すことさえできるようだ。

 

「…クソッ」

 

カカロットは悪態をつくと近くにあった棚を倒し、速足でその場を後にした。

そして、今さっきの自分の行動を顧みる。

何故か心の中にドス黒く湧いている嗜虐心と闘争心が抑えきれなかった。いや、原因は分かっている。ここ数年、シロナの世話に忙しかったためまともに戦うことが出来ていない。修業は続けているが、他者との闘争は長らく行っていなかったので戦いたい、という欲が滲んで出てきてしまっているのだろう。

そんな自分自身の醜い欲に苛立ったカカロットは、古い壁を殴り壊してとりあえず怒りを収めた。

 

帰り道、カカロットは最近旧都で普及してきた路面電車に乗り込み、勇儀の屋敷まで帰ることにした。

 

「俺がいなかった間にこんなもんができるとはなぁ、外の世界の人間ってのはよほど暇なのか?」

 

この路面電車も最近外の世界から流れてきた技術であることはわかる。だが思いつく事さえ難しそうなものを考えて便利なものを編み出す技術はカカロットであっても感嘆に値する。

車掌に駄賃を渡し、乗り込むと一番後ろの席に腰掛ける。

 

「発車します」

 

車掌がそう言うと、路面電車は動き出す。カカロットはさっきの事は忘れ、窓の外の景色を眺めながら目的の停車場へ着くまでゆっくりしようと思った。

他の乗客は、大人しそうな妖怪の女がひとり、本を読んでいるでかい妖怪の男がひとり。

だが、次の停留所へ止まったとき、車内に緊張が走る。

 

閉まったドアの向こうで何を言っているのか分からないが、若い人間のような恰好をしたガラの悪い妖怪の集団が、心底今の振る舞いが楽しいとでもいうかのような気色の悪い笑顔を浮かべながら迫ってきている。

車掌も警戒し、ドアを開けなかったが…

 

(頼む、ドアを開けて、入れてやってくれ)

 

カカロットは心の中でそう念じた。それが通じたのかは定かではないが、車掌は仕方なくドアを開いた。すると、早速乗り込んできた若い妖怪たちが我が物顔で大騒ぎし始める。乗客の男が読んでいた本を叩き落とし、踏みつけて笑う。男は仕方なく本を捨て置き、電車を出る。

そして、危険を察知しつつも動けなかった女の乗客の前に群がり、何か下卑た言葉をかける。当然、後ろで座っているカカロットにも気付き、何か言ってくる。

カカロットは思わずニヤけてしまうのを我慢しつつ立ち上がり、若い妖怪たちの間をすり抜けて出口の方へ歩いてゆく。途中で女が助けを求めるようにこちらを見上げてきたが、カカロットはとりあえず無視する。

出口へたどり着くと、不安気な様子の車掌の背中を押し、外へ逃がす。

 

「あ?おいおい」

 

「お前何してんだ」

 

若い妖怪らはカカロットが仁王立ちでこちらを見ていることに気づき、言葉を投げる。

カカロットはよりスリルを味わうため、気を低く制御し、戦闘力も普通の妖怪並みにまで落とす。

 

「テメェらを叩きのめす」

 

「ブッハハハハハハハハ!!」

 

妖怪たちは笑い飛ばし、さらにカカロットを挑発する。彼らには、カカロットがどうしようもなく無謀で、正義感気取りの優男に見えているらしい。

カカロットが歩き出すと、彼らのうち一人も歩み寄り、殴りかかる。

 

バキッ!

 

殴られたカカロットはよろめき、さらにもうひとりからの蹴りを受けて椅子の背もたれに顔面をぶつける。

だが、すぐに立ち上がると最初に殴ってきたヤツを殴り返し、続けてもうひとりの首を掴んで手すりへ叩きつけ、そのまま頭部を押し付けて圧し割った。

メキョ、という音が響き、痙攣しながら動かなくなる。直後に別の妖怪の反撃を受け、腹を蹴られてうずくまるカカロット。しかし、すぐさま相手の腕をつかみ、座席の背もたれを使ってへし折る。

 

そこからは、ほとんど殺戮のようだった。

カカロットは殴られるたびにギラついた笑みを浮かべるようになり、相手の顎を裂いて頭部を破壊し、喉仏を千切り取り、窓ガラスが割れると窓枠に残ったガラスの破片へ顔面を叩きつけてやり、カーテンを絞って絞め殺す。

 

憂さを晴らすかのようにチンピラ妖怪たちを皆殺し終えたカカロットは、目の前で唖然とし震えている妖怪の女には目もくれずに電車を降り、歩いて帰って行った。

 

 

新妖怪組合「蛇崩」。外の世界から幻想郷へ避難したものの、古い妖怪が跋扈するこの地に馴染めぬ近代妖怪たちが地底の旧都で結成した組織。属する妖怪たちに支援と仕事を与えている団体だが、その実は多数のならず者を抱え込み旧都の支配を目論みここ数年で勢力を拡大しつつあった組織であった。

実質的に旧都を牛耳っている鬼たち、その首領である星熊勇儀でさえ扱いに難儀し手を焼いていたこの組織は、ある時を境に闇に葬られる。

 

カカロットが殺したチンピラ妖怪は蛇崩の構成員だった。当然、蛇崩は報復のために勇儀の屋敷を襲撃したが、それがカカロットの逆鱗に触れた。蛇崩のアジトは徹底的に破壊され、骨肉散らばる地獄絵図だった。

蛇崩は一夜にして崩壊、構成員は一匹残らずカカロットの手によって殺された。

最後に残されたのは、組合長である女妖怪ただ一匹。

 

「俺は葛藤している。しばらく抑えていた自分が目覚めた…だから徹底的にやりたくて仕方ねぇ。一方で冷静な俺もいる…まだ引き返せる、今ここでお前がすべて捨てて逃げ出し二度と誰かの目に留まる事すらしないと約束するなら逃がしてやってもいいと思ってんだ」

 

「お前はオレの弟を殺したろう?」

 

蛇崩の組合長、蛇崩サラはカカロットに追い詰められた時、そう言った。恐らくサラのいう弟とは、カカロットが路面電車で殺した集団の中にいたのだろう。

 

「別にいいだろ?ろくでもないヤツだったみたいだし」

 

「地の果てまで追いかけてお前の大事なヤツに罪を償わせる」

 

「そりゃ聞き捨てならねぇ」

 

カカロットの下ろした手刀が、蛇崩サラを脳天から股まで引き裂いた。

 

 


 

 

「平和な時間ってのも悪くはねぇ。だが、あの時の俺はシロナを育てるのに無意識のうちに鬱憤が溜まって…とにかく暴れることに飢えてたんだろな…」

 

(そうだったのか…)

 

「グロリオ、お前は俺に強い理由を聞いたな)

 

(ああ…)

 

「理由は簡単、ぶっ殺したいやつをぶっ殺すためだ。人の手でもなんでも借りて強くなって、殺したいやつを殺せたとき…死んでく敵を見て思うんだ、『ああ、強くなってよかったなぁ』ってな」

 

(だが…ここまでの話を聞く限り、お前は守るために戦っているだろう…無暗な殺戮はしていない)

 

「そうかもな、だが守るために戦うっていうのも突き詰めればどうなる?相手を殺すことだろ。追い返しても追い返しても、叩きのめしても叩きのめしても、何度でも襲ってくる敵はどうする。仲間引き連れて戻ってきたらどうする。身内が殺されたらどうする。

 終わらない鼬ごっこ終わらせるにゃ、殺すのが一番手っ取り早いし楽だろうがよ。敵全部殺して、後から追ってくるやつも全員殺して、最後に敵が誰もいなくなるまで殺し尽くす…守るってことの極致はそういうことじゃねぇのか」

 

血塗られた追憶の果てに待つ結末は…

 

「だから、俺は死んだんだ」




【現在公開可能な情報】

・蛇崩サラ
 「さら首」の妖怪。いつか旧都を牛耳りたいと考えていたところに外の世界から流れてきた近代妖怪たちの存在を知り、彼らを束ねて「蛇崩」を作った。
 
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