「人造魔人パストの細切れになった欠片たちよ、今一度問う。お前たちは魔力を体に通し、グロリオを殺したか?得意な伝達の魔術を放って、自身とグロリオを結び付け、痛みを共有し…グロリオを殺したか?」
マーバは、それが最後の問いだとでも言うように声を低め、凄みを効かせて言った。
細胞単位、いや、もしくはそれよりも小さくなったパストの欠片たちはたどたどしく思考し、小さく発言する。
(わ…私は…私たちは…)
「強く投げた球は強く跳ね返ってくる。強い言葉を使えば強い言葉で返される。
当然、強い殺意には…強い殺意が還ってくる。俺はあまりに多くの敵を殺し続けてきた。殺すって事は問題を解決するのに一番簡単だ、死体になればもう何も喋らないし、やり返してもこない。
俺は…そういう楽な道へ逃げ続けてきたんだ」
カカロットはグロリオに語り続ける。彼が死ぬことになった生前最後の戦い、フリーザとの決戦の時の事を言っているのだろう。
「確かに、殺しに来てる相手を言葉で説得させ、和解するのは難しい。霊夢もそれに失敗して、結局は殺すことになったからやり返されて死んだ。
俺は…もう殺さねぇ。だから誰も死なねぇ」
(…優しいんだな。だがすべての人間がそう考えるわけではない…自分や周りの人間が殺されることになったらどうする?)
「大事なのは、そう考え続けることだ。それに俺はもう死んだ人間だ…生きてる人間の問題は生きてる奴らに解決させた方がいい、本当は俺たちの方こそ…ここにいちゃいけない存在だからな」
(ごきげんよう、大魔女マーバ。私たちは群れで生き、それぞれ役割が違うものが集まっている!)
(よって小さき我々は、大きな群れ全体が何をしたのかなど分からない!)
(例えば、大移動をしている草食動物の大きな群れがあったとして、その群れを構成する個体それぞれがしっかりと目的地を理解しているわけではない!)
(わからぬ、わからぬ、魔力を行使したかなど、腕でも手でも血管でもない私たちには知る由もない!)
(きっとグロリオを殺してはいないだろう!)
パストの細胞の欠片たちは、自分たちがどこの部位を構成していた細胞であるのか、認識することができない。それは、まるで我々人間が宇宙の広さを理解できないのと同じような事なのかもしれない。
そして、ついにマーバはパストの欠片から「グロリオを殺してはいない」という言質を取った。術の成功を確信しにやりと笑うと、それを察したタカヤベルネも動き出す。
「我はこれより納刀す!切断は過去のものと成る!」
タカヤベルネの一本目の刀が鞘に納まると、パストの細胞たちが組み合わさり、元の形へと戻ってゆく。さらに2本目の刀、3本目の剣が次々と納刀される度に、細切れになったパストの身体がくっつき合って元に戻っていった。
(私たちの中を魔力が通ったか、だと?そんな記憶はない!私は腕だ!)
(私は血管、私の内を魔力が通ったか朧気だ!)
(私は脳だ。殺意を以って伝達の魔術の使用を各部へ命じた覚えは無し!)
(口と肺だ。取り込んだ酸素に魔力を宿して体全体へ行き渡らせた記憶は無い)
(筋肉であるが、伝達の魔術など使用した形跡は無し!筋線維と細胞たちもやっていないと言っているからな!)
元に戻りながら、さっきは魔術を使用したと答えていた各部位たちは打って変わってそんな記憶は無いと断言している。
「そうかいそうかい!小さき粒にしたお前たちに聞いた甲斐があったねぇ!」
完全に元通り、タカヤベルネに切り刻まれた体は何事もなかったかのように静かに浮かんでいる。切断したものの時間さえコントロールできる能力によるものだ。
「さて、パストの魂魄よ」
マーバは、最初と同じように再びパストの魂魄を呼び出す。幽体離脱、パストと全く同じ形をした魂魄が起き上がり、目を空けてマーバを見つめている。
(おはよう、マーバ。私に何か用?)
「今一度、最初と同じことを尋ねよう。あんたはそこに横たわるグロリオを、伝達の魔術で殺したか?」
その瞬間、時が止まったかのように全てが静寂した。カカロットとアリンスが見守る中、パストは何かを考えるように顔を傾げ視線を斜め上に向け、もう一度口を開く。
(さあ、そんな記憶は無いわね、私はグロリオを殺してなんかいないわ)
「儀式は成った!過去は変容し現在は創り変えられる!」
タカヤベルネがそう高らかに宣言すると、パストの魂魄は彼女の身体へと戻り、傷ついた部分を切り取られていたグロリオの肉体は元の五体満足な状態へと変化していた。
「おお、グロリオの身体が戻りやがった!」
「よかった…!これで私の願いが叶う…!」
カカロットは安堵したように喜び、アリンスもそう言いながら両手を合わせている。
「…カカロット」
蘇生したグロリオは、うっすらと目を開けながら、掠れた声でカカロットの名を呼んだ。
「よく堪えててくれたな…、助かってくれてありがとよ」
「礼を言うのはこっちだ…ありがとう」
互いに礼を言うと、カカロットはふっと笑い、立ち上がってマーバとタカヤベルネの元へ歩いてゆく。
「待て…カカロット、どうするつもりだ」
「なあグロリオ、人の事情ってのはいろいろ複雑だ。言い出したことを今さら引っ込められん時もあるし、絶対に言う訳にはいかねぇ本音もある…でもよ、そんな中で心とは裏腹に──ものすごい大切なモンができたロクデナシがいてよ…それが大事で、可愛くて、ありがたくて、たまらなかったんだ。だから、やり方を間違えちまって、ツケが回ってきた。まあでも、今まで命を奪うことしかできなかった俺が…やっと今、誰かに命を与えられるんだ。ちと…遅かったがな」
「まさか…待て、行くな…!」
グロリオは起き上がろうとするが、まだ体に思うように力が入らない。その間にも、カカロットはタカヤベルネの前に立ってしまう。
「ありがとよ婆さん」
「じゃ、おあいそを支払う番だね。逃げるかと思ってたけど…大人しく勘定を払うんだね、自分の『命』をさ」
「ああ、そっちの御仁も用意よく段平を一振りだけ納めてねぇようだし」
「ダメだ、カカロット…オレがお前の子供に似ているから命をくれるというのか…?」
「バカだなぁ、お前なんかが俺のかわいいガキどもに、似てるわけねぇだろ」
グロリオの言葉を否定するカカロットだが、言葉とは裏腹にその顔には笑みが浮かんでいた。グロリオはついさっきのカカロットの言葉を思い出す。
言い出したことを今さら引っ込められん時もあるし、絶対に言う訳にはいかねぇ本音もある…でもよ、そんな中で心とは裏腹に──
「いいんだね、あんた」
マーバはカカロットに最後の問いかけをする。
「ああ…霊夢たちの方は今大変みたいで、俺も加われねぇ事だけが残念だが…ま、アイツらなら何とかするだろ」
「当たり前でしょ!早く命を取らせなさい!」
と、それを聞いていたアリンスも後ろから急かしてくる。
「切断の精霊王タカヤベルネ様、此度の対価をお受け取りください。
「了する!」
4本のうち、まだ納刀していなかった残る1本の剣を勢いよく突き刺すように振るうタカヤベルネ。すでに覚悟しているカカロットは微動だにせず、グロリオは止めようとするも間に合わない。マーバは静かに動向を静観し、アリンスも心の準備は出来ているかのように動かない。
「…なんでだ!」
しかし、タカヤベルネの剣によって貫かれたのは…アリンスであった。
「もともと命をやるのは俺だっただろうが!」
「ドクターアリンス!代償としてお前の命、確かに貰い受けた!」
タカヤベルネはアリンスの身体を手繰り寄せ、そう言い残すと剣から外し、その体を捨て置いた。
そして、切断の精霊王は渦のように回転しながら何事もなかったかのように虚空へと消えていった…。
「やはりこうなってしまったか」
「婆さん、どういうことだよ!?」
「タカヤベルネを術に利用する事への代償は『
カカロットはアリンスを抱き上げ、グロリオもそこへ駆け寄ってくる。
「アリンス様…なぜ…俺の代わりに…」
まだ息のあるアリンスは小さな声を振り絞る。
「本当に…なんでだろうね…ナメック語を話せるグロリオを助けたとて…私が死んじゃあ…大魔王になるなんて…無理なのにねぇ…」
アリンスはドラゴンボールを使う時のためにグロリオにナメック語を覚えさせていた。その為にマーバに蘇生の術を頼んだのに、自分が死んでしまえば大魔王になるという願いを叶える意味が無くなってしまう。
「でも、ほら…この男はちょっとだけ男前じゃない…?だから死ぬには…少し惜しいと思っただけよ」
「そんな…申し訳ありません、アリンス様…!」
「勘違いして…謝るんじゃないよ…。いつか、お前も私の手から…離れていくんだろう…?それが…少し早まっただけ…よ…」
──ものすごい大切なモンができたロクデナシがいてよ…それが大事で、可愛くて、ありがたくて、たまらなかったんだ。だから、やり方を間違えちまって、ツケが回ってきた。
気づかれぬ真心は、嘘でなく秘めた愛…
【現在公開可能な情報】
・切断の精霊王タカヤベルネ
大魔界に存在している、切断を司る高位の精霊。4本の腕が刀剣となっており、それで切ったものの時間を操作する能力を持つ。