「前方から月の客の艦隊が!」
永琳と村紗の操縦で、月夜見王のもとを目指して幻想郷の空を飛ぶ聖輦船。しかし、その目の前には幻想郷に残っていた残党戦力の全てが結集していたのだ。
残党と言っても、空を埋め尽くすほどの数の戦艦はおおよそ100隻以上は確実にあるだろうか。
「もしかして敵はこの船に永琳さんと輝夜さんが乗っていることに気付いている…?」
聖が言った。そう、聖輦船が幻想郷に入ったとたんに敵がここへ集まって来ていた。
「そうかもしれないわね…一体どうやって…」
「見て、敵の戦艦が…!」
そして彼女らの見ている前で、敵艦隊はその砲身にエネルギーを溜め始める。この数の戦艦から一斉に攻撃を受ければ、一瞬で消し炭になってしまうどころか避けることもできないだろう。
「まずい…」
次の瞬間、敵からの砲撃が一斉に放たれた。特大の光線は全て真っすぐに聖輦船へと収束していく。
皆がもうだめだと目を瞑った瞬間、周囲がサッと暗くなった。少し驚いて目を開けると、そこには仰天するような光景が広がっていた。
何か巨大な塊が現れ、聖輦船を守るようにして代わりに砲撃を受けたのだ。その塊に砲撃が着弾した瞬間、あたりを強烈な閃光と爆発が覆った。
「何かが私たちを守った…?」
「一体何が?」
「何とか間に合ったようだね!」
その時、上から大声が聞こえた。聖が船の甲板上に出て上を見上げると、そこにはあの星熊勇儀が立っていた。身体はボロボロであるが、自信満々で豪快な顔つきは以前と全く変わらない。
「貴女は鬼の…」
「ふっふっふ、誰かと思えばお前さんたちか。コレをぶん回しながら月夜見王に殴り込みでもかけようと思ってたんだが、途中でこの船を見つけたもんだから、つい飛んできちまった」
勇儀は両腕に太い注連縄を掴んでおり、それは船の下へと伸びている。
「さて、次に奴らが撃ってくる前に潰しちまうか」
「その注連縄に繋がっているのは…?」
「気になるかい?だったら見せてやろうじゃないか…ぃよいしょおおおおお!!」
腕に力を込め、注連縄を思いきり引っ張る勇儀。すると、船の下から何か巨大な塊が2つ飛び出し、勇儀が縄を振り回すのに合わせて敵へ向けて移動していく。
「さっきのは『無名の丘』を大地ごとひっぺがして持った来たモノ!そしてコレは『紅魔館』、『地霊殿』を同じく大地ごと引っ張って来たんだ!」
よく見ると、岩の塊のように見えたそれは、見覚えのある建物を地面ごと抉りとって来た土塊であると気付く。
勇儀が振り回す紅魔館と地霊殿は互いにぶつからないように空中を動き回り、密集している敵艦隊に激突した。結果、戦艦たちは潰れて破壊され、艦隊が次々と壊滅していく。
「住民がもういらないって言うんでな…何とか役立たせようと考えたけど、私にはこれしか思い浮かばなかったもんでね」
「いやいや、これは最高ですよ!」
「このスキに船でここを突破するわ!」
永琳はそう言うと、再び聖輦船の速力を上げた。勇儀は尚も二つの土塊を振り回し、近寄ってくる戦艦たちを一網打尽にしてゆく。
しかし、その快進撃も長くは続かなかった。
「…!?この気は…!」
輝夜が真っ先に気付いた。続いて永琳や聖、勇儀らも反応を示す。崩れてきた敵艦隊の向こう側から、何かとてつもない気がこちらへ急接近してくる。
ギュン
その反応は聖輦船の甲板上に降り立ち、全身に纏っていた気を解いた。
「蛇斑からスカウターを借りておいて正解だった。特定の反応を追えるからな…そうして、己は二人の蓬莱人を発見したわけだ」
武者のような赤い鎧を纏った大男。不動紡馬は勇儀たちを見渡し、そう言った。
「お前は誰だ!?」
「
「不動紡馬…!ソイツは危険よ、今すぐ振り落とすから…」
永琳が操縦席からそう声をかけた。しかし、勇儀は握っていた注連縄をいったん置くと、格闘の構えを取り、全身に妖気をみなぎらせた。
「いいや、ここは私にやらせてくれ。もう長くはもたないだろう…だから、ここでコイツは倒しておきたいんだ」
「だったら私だって…!」
そこに聖が加わる。
「永琳と村紗は操縦を!魔理沙と一輪と雲山は砲弾の装填を!」
「お、おう!」
魔理沙と一輪は船の中へ戻り、底部へ降りていく。
「まずはお前たちが己の相手か?ふふふ、俺は蛇斑のように戦闘力などという数値に興味はない、所詮有象無象は己に絶対に勝てないからな。それは何匹集まろうと同じことだ」
「そんなこと、やってみなくちゃわかんないだろ!?」
勇儀と聖が紡馬に攻撃を仕掛ける。両サイドの方向からの蹴りを同時に放つが、紡馬はそれを片手ずつで受け止め、そのまま足を掴んだ。そして軽く二人を甲板へ叩きつける。
「ぐっ!」
聖は急いで起き上がると、気を込めて全身から激しい紫色のオーラを纏う。滅越拳を発動し、手の平から生成したエネルギー弾を放った。
「むん!」
しかし、紡馬はそれを片腕で掴み、握りつぶして消滅させた。だがその瞬間、煙幕のようなものが噴き出し、紡馬の視界を奪った。
その隙に接近した勇儀が、紡馬の真横で拳を思いきり引いた。そして、未だそれに気付いていない紡馬の横っ腹目がけて渾身のパンチをお見舞いした。
ズン…
「…今、何かしたか?」
聞こえてくる紡馬の声。勇儀は恐る恐る顔を上げた。
そこには平然とこちらを見下ろしている紡馬がいた。確かに、自分の攻撃は命中し、手ごたえはあった。だが自分の攻撃は全くと言っていいほど、紡馬には効いていなかった…。
「ぐえ…!」
勇儀と聖は、次の瞬間に放たれた紡馬の蹴りを喰らい、同時に吹き飛ばされた。
「己はすぐに敵を殺す蛇斑とは違って、戦いを楽しむタイプなんでな…しばらくは遊んでやるぞ」
その後も二人は何度も紡馬に挑みかかるが、そのたびに手痛い反撃を受けてしまう。
紡馬の攻撃は勇儀たちとは比べ物に張らない程速く重く、今までの月の兵士など虫けら同然に思える程強かった。やがて二人に限界が近づき、立ち上がるのがやっとというまで追いつめられる。
「もう終わりか?そっちの女は紫色に光るやつをもっとやってみせてくれよ」
既に聖も、滅越拳の状態を維持できない程のダメージを負っていた。
反撃をしようと光の独鈷を投げつけるが、それは紡馬の胸に当たると虚しくはじき返された。そして一瞬で距離を詰め接近した紡馬の拳が腹にめり込み、思わず前かがみに倒れ込む。
「うぐ…」
「そっちの怪力自慢も、もうおしまいか?」
勇儀は顔だけを上げ、紡馬を睨みつけた。
「ならば仕方がない」
少し歩いて距離を取る紡馬。両腕を頭上へ掲げ、そこへ巨大な黄色いエネルギー弾を作り出す。
「船ごと、貴様らを消し飛ばしてやる。どうせ目的の二人は死なないから、後で回収すればよい」
「まずいわね、紡馬の奴…!」
永琳がそう呟いた。すると、後ろの方で戦いの様子を見ていた輝夜が突然操縦室を飛び出した。村紗が止めようとするが、それすら振り払って行く。
「ちょっと、姫!?」
「これで終わりだ、喰らえ!!」
紡馬は作り出したエネルギー弾を投げるようにして放った。真っすぐに向かう強烈な一撃を前に、勇儀たちは思わず目を瞑る。
「やらせないわ!」
しかし、甲板上に急いだ様子で現れた輝夜が、攻撃と船との間に割って入った。
エネルギー弾は輝夜に当たると、巨大な爆発を起こした。船がミシミシと軋みながら揺れ、やや後ろへ下げられる。
「カグヤ姫か!」
爆発とそれによる煙が収まると、輝夜は無事に船の舳先に降り立った。
「不死身ゆえの鉄壁の防御か。死ぬことは無いので、どんな恐ろしい攻撃にも臆せずその身をぶつけることができる」
紡馬もその前で浮遊している。
「私には…いまだに信じられないわ。月夜見王も貴方たち親衛隊も、私が月に居た頃は本当に優しかった…それが、ツキノカクという装置に私と永琳を放り込んで、ついでに地上を滅ぼそうとしてるなんて…」
「お前の所為だろ?」
紡馬は冷酷に言い放った。
「1000年以上昔にも、我々月の客はお前を連れ帰るために地上へやって来た。だがお前と八意は何をした?罪なき兵士を惨殺し、逃げた!その時、月夜見王と我々は思った…もはやお前たちは月の民ではない。我々を拒絶した、数ある地上の汚わいのひとつに過ぎないのだと」
輝夜は押し黙り、紡馬の顔を見つめた。
「だがそんな汚わいも役に立てることが分かった!だからチャンスをくれてやろうとしているのだ、月の都を蘇らせる英雄としてもう一度迎えに来たというわけだ」
「…そう、そんな運命を受け入れるのが英雄というのならば、私はこれからずっと汚わいとして無限を生きることを望むわ」
「ほざけ箱入り娘が!」
紡馬はそう叫び、輝夜へ向けて殴りかかる。
しかし、間へ入った勇儀がその拳を両腕で受け止めた!
「その姫さんの言う通りだ!テメェらの都合で勝手に呼びつけるなんざ、気に喰わないね!」
「…!?コイツ、何処にこんなパワーを隠し持っていた?」
「今です、どうにかして何か致命的な一撃を!!」
その時、紡馬の後ろへ回り込んでいた聖が、紡馬の腕ごと背後から羽交い絞めにして動きを封じた。その状態のまま滅越拳を発動し、さらに力を込める。
(今の私にできるのはこれだけ…!)
「ぬぐ…!この…ッ!」
抜け出そうとする紡馬だが、なかなか聖を引きはがすことができない。
「致命的な一撃っていったって、私じゃ力不足だ!たぶんここにいる誰もが、ソイツにまともなダメージなんて与えられんと思うよ!」
「だったら私が協力するわ!」
輝夜が名乗りを上げた。
「お前さん…」
「私の能力で、鬼さんのスピードを一時的に底上げする!そうすれば絶対に奴にダメージは通るはずよ!」
「そうか、だったらどうすればいい?」
輝夜は勇儀の背中に飛びつき、その身体をわずかに発光させた。
「チャンスは多分一度きり…簡単に言うとこれから鬼さんだけ時間が加速する…その状態で攻撃をすればそれは数百倍もの威力になるはずよ」
”永遠と須臾を操る能力”により、輝夜は物に変化を拒絶する術をかけたり、あるいは認識できないほんの一瞬の時間だけを集めてその中で活動することができる。それを一時的にのみ、勇儀にかけようとしているのだ。
「はいよ…できるだけ早く頼むよ!」
勇儀は拳を腰の横へ引き、正拳突きの構えをとった。
「離さんか、汚らわしき地上人め!!」
紡馬は背中で自分の動きを封じている聖を引きはがそうと奮闘していた。背中に向けて拳を放ち、聖を殴りつけた。
背中を殴打され、口から血を流す聖だが、それでも押さえる力を緩めない。
「こうなれば…」
ザシュ
「う…!?」
紡馬は右腕から気の刃を生成した。それは蛇斑や明嵐のものよりもはるかに大きく、刃や刀というよりは武骨な大剣のようであった。
それを振りかざし、聖の背中をざっくりと叩き切った。
「聖!」
村紗が心配そうな声を上げる。
「ふん、これで貴様もお終いだ!」
一瞬だけ力が緩んだのを見逃さず、紡馬は聖の頭を掴み、一気に引き剥がした。そしてそれを膝で蹴り、船へ向かって投げつけた。
「ふっふっふ…これで死んだか…。ん…?」
紡馬は、その時何かをしようとしている勇儀に気が付いた。
「何をしようとしているのかは知らぬが、キサマもこれでぶった切ってやる!!フハハハハハ!!!」
「来るぜ!もうそろそろいいか?」
「うん、オッケー!…でも、ここからどうやって当てるのかしら?」
「へへへ、見てておくれ…あの尼さんにだけカッコつけさせはしないからさ」
紡馬は凶悪な笑みを浮かべながら、右手に携えた気の大剣を構えて勇儀に襲い掛かる。
(コイツは恐らく、己の一撃を防ぐか受け流して、攻撃を仕掛けてくるだろう。仕留めるのはその時だ!)
「死ねい!!」
紡馬はそう考え、大剣を振り下ろす。
(そうだ、これを避け…)
しかし、勇儀は動かなかった。振り下ろされる大剣を目で見つめながら、それでもなお一撃を避けなかった。大剣は勇儀の肩を斬り、そのまま深く胴体にまで抉りこんだ。それでもなお微動だにせず、今度は紡馬を真っすぐに睨みつけた。
「な…避けも受けもせんだと…!!?」
ドン
直後に放たれた勇儀のパンチは、到底紡馬が認識できる速度ではなかった。輝夜の能力の応用によりその攻撃のみの時間だけが極限にまで加速しており、それに伴って威力も比べ物にならない程にアップしていた。
拳は容易に紡馬の鎧ごと胸を貫き、船の向こう側までとてつもない勢いで吹っ飛ばした。
だいぶ書き溜めてる話があるんですが、一日一話投稿にしたほうがいいですかね…?