「サザンカさんですか。確かにこの方は第7宇宙に住む人間のひとりですねえ。ですがこの方が一体どうされたのでしょうか?」
ウイスは、サザンカを探しているらしい全王に対して疑問を投げかけた。やはり、全王が直々に個人を探すなどよほどのことがない限りあり得ないからだ。
「ボクはね、近いうちに殺されると思うのね」
「え?」
そして、全王の口から飛び出たとんでもない言葉。
なぜ?誰が?どういうことだ?様々な疑問が頭の中を駆け巡るが、そう言った全王本人はいつもと全く変わらない、よく言えば無邪気、悪く言えば無機質な笑顔のまま、何の苦も無くあっけらかんとした態度を貫いていることに気付き、ウイスはそれに倣い平然を装った。
全王の横にいる大神官をチラと見るが、彼もまた特に様子に変化を見せていない。
「…どういうことか、お聞かせ願えないでしょうか」
「うん。近々、ボクにも『夜明け』が来るのね」
(『夜明け』…?)
全王の発した単語を不思議に思うが、続きに耳を傾ける。
「その始まりは、きっとこのサザンカっていう人間なのね。いつも、この人間の近くで『夜明け』の気配を感じていたのね。だからね、サザンカをボクのところへ連れてきて欲しいのね」
「連れてきたとして、どうするおつもりでしょう?」
「見極めるのね。サザンカが本当に『夜明け』をもたらすのか、違うのか。それでね、ボクはその時に全部の宇宙の破壊神、界王神、天使も呼んで、伝えるのね」
「何をでしょう」
ウイスの目が少し鋭くなる。
「内容は全ての宇宙の神々が揃った前で発表するものとします。なので第7宇宙の破壊神は療養中であろうが、必ず連れてきてください。いいですね?」
「かしこまりました。では、サザンカさんも同時に連れてきますか?」
「ええ、お願いします。既に第7宇宙の銀河パトロールには緊急の逮捕令を出しております、抵抗がなければ今頃銀河パトロール本部へ来ているでしょう」
「流石は御父上…手際が良いですねえ。では全王様、失礼いたします」
ウイスはそう言うと、その場で姿を消した。
そのウイスが向かった先は、破壊神界に聳えるビルスの宮殿。捻じれた巨大な樹木の根に覆われた逆さまのピラミッドのような建築物であり、その内部にウイスが瞬間移動で現れた。
「ビルス様~?療養はもう終わっているでしょう?」
ウイスはビルスの寝室に向かいながらそう呼びかける。だが、ビルスからの返答はない。
「大魔界のドラゴンボールによる願いで、モロによる被害とその影響はすべて無かったことになりました。つまりビルス様も、もう怪我なんてとっくに治っているんでしょう?」
しかし、返事はない。呆れたウイスは小さくため息を吐き、必殺の言葉を発する。
「大神官様や全王様はもう見抜いておられますよ。その狸寝入りも…」
そう言った時、ビルスの寝室の壁が突き破られ、白いローブのような寝間着姿のビルスが現れた。そのまま勢い余って階段を転がり落ち、ウイスの足元に激突して止まる。
「お前、そういうことは早く言え───ッ!!」
「おほほ、申し訳ございませんねえ」
怒鳴るビルスに、ウイスは軽く笑って返す。そんなビルスはモロとの戦いで両腕に加え、胸部前面を抉り取られるという普通ならばその場で命を落としかねないダメージを受けたが、その後の界王神を筆頭にしたあらゆる回復技術によって命だけは繋ぎ止め、その後はしばらく絶対安静の療養状態となっていた。
が、大魔界のドラゴンボールでカカロットとグロリオが頼んだ願い「脱獄以降にモロが宇宙へ与えた被害を、脱獄囚殺害を除いて元通りにしてくれ」によって、ビルスの状態も元通りとなっていた。
「別に狸寝入りしてたんじゃないぞ!ボクが眠っているうちに傷が治ったが、それに気付かなかっただけだからな!」
「はいはい。それより、急いで支度してください。大神官様が指定した時間までにまだ余裕がありますが、先に寄るところが御座いますので」
「どこだよ?」
「銀河パトロール本部です」
そうして、支度を終えたビルスとウイスは銀河パトロール本部へ移動していた。その部屋には銀河王と隊員であるメルス、ジャコ、スカッシュ、そして渦中の人間であるサザンカがいた。
サザンカは磁力式の手錠をはめられたまま大人しくふんぞり返っており、表情や態度もすかしている。
「やあ、この前はよくやったね。モロを倒したんだろ?」
ビルスはサザンカにそう声をかけた。
「ああ、文字通り骨が折れたぜ」
「そうかい。それより、これからボクらと一緒に全王様の処まで来てもらうよ」
「全王…様?」
「全王様は我々破壊神や界王神よりもはるかにいと高き、全てを統べられる存在だ。くれぐれも失礼のないようにな」
そう言った時のビルスは、モロと戦っていた時のように真剣な声色だった。
「…へーい」
それに少し何か思うところがありつつ、気だるげな軽い返事で澄ますサザンカ。
「ふーむ、サザンカさん…よく銀河パトロールの不当な検挙に応じましたねえ。てっきり、今頃はメルス隊員たちに反抗して一悶着起こしている頃かと思っていましたよ」
そんな彼女の様子が想像よりも大人しかったので、ウイスはついそう言ってしまった。
「あー、歴史の改変がどうだって言われたけど、そんなことならタイムパトロールも絡んでくるはずだろ。何とかしてアタシを引っ張りたい方便だってのはすぐ分かったからな」
「なるほど。確かにその通り、全王様は貴女をその目で確認したいと仰られていましたよ。それがどういうことかは私たちにも分かりかねますが…それでは、参りましょうか。と、その前に…」
ウイスはサザンカに、灰色のローブのようなマントを被せ、その姿を覆った。
「人間が御前で容易に姿を曝け出すことを嫌う神々もいます。一応それを纏っていてください」
「ああ」
そして、ウイスらはサザンカを連れて全王の待つ処へ移動しようとする。が、それをメルスが呼び止めようとした。
「兄う…天使様!サザンカさんは…無事に戻って来られますか!!地球へ帰れますか!!」
必死の声と形相でそう叫ぶメルス。
だが、サザンカが振り向いて小さく口元に笑みを浮かべながら答えた。
「心配すんな、気が向いたら戻ってくるさ」
それを最後に、ウイス、ビルス、サザンカの3人は一瞬にして姿を消した。全王の元へ向かっていったのだろう。
「…こんな事のために、人間になったんじゃないのに…!」
メルスは肩を震わせながら拳を握り締める。いくら方便とはいえ、謂れのない罪をでっちあげて、かつてモロと戦った高潔な人間を強制的に連行した。そこで抵抗してくれれば少しはやりがいや価値もあったものの、サザンカは一切拒むことなく素直に従った。それが、さらにメルスのやるせなさを加速させていた。
大神官の労いによって天使から人間へと生まれ変わったメルス。境遇は全く違えど、彼の正義感をよく理解しているジャコとスカッシュは静かに彼の肩に手を置いた。
サザンカ達が移動した先は、紫色に瞬く美しい宇宙のような空間だった。そこに浮かぶ信じられないほど巨大なクラゲのような生物の頭上に鎮座する宮殿の入り口にいた。
「あ、どうも」
そこには既に第7宇宙の界王神・シンが到着していた。界王神はサザンカにも軽く会釈をし、事情は分かっているような様子。
「よくいらっしゃいました、第7宇宙の神々」
と、そこへ大神官が現れ声をかけてくる。
「全王様は宮殿の裏側、議の間に居られます」
「わかりました」
ウイスが返事をし、一行は静かに歩き出す。宮殿のテラスを通り、真っ暗な一階の廊下を潜り抜けると、そこには大きく真っ白な舞台と、円形の足場のような構造物が12個浮遊し、そのずっと奥に浮かぶ玉座には全王が座っていた。
ウイスたちは浮遊する足場のうちのひとつに移動して乗り、そこに立つ。見渡すと、すでにいくつかの足場の上にはウイスやビルス、界王神と似た衣服や装飾を身に着けた者がいた。
(あれが…他の宇宙の天使や破壊神、界王神か)
破壊神は実力のある人間から選ばれるだけあって外見や体形に大きな差があるものの、ビルスと同様に全く気が表面に現れておらず、まるで大木か巨石のような存在感だけがある。天使、界王神は服装は共通しており、外見もある程度似通っている。
観察しているうちに、まだ空席だった足場にも続々と各宇宙の神々が揃ってくる。
が、第11宇宙の神々の後ろには、自分と同じローブを被り姿を隠した何者かが控えていた。
(そしてアイツが…全王ってのか)
サザンカたちのいる足場を見下ろすような位置に、大きな玉座とそこに座る小さな姿がある。大した力も感じられない、見た目も可愛らしい。しかし、サザンカはあれこそが全王だと確信する。心なしか、全王もまたサザンカの事を見ているような気がした。
「お集りの全宇宙の神々の皆様、迅速に招集に応じていただきありがとうございます」
大神官がそう言うと、
「今回、全王様は『力の大会』を開催成されるそうで、その説明のためにこのような場を設けさせていただきました」
「力の…大会…?」
神々はその言葉を反芻し、困惑を隠せない。
「それは全宇宙対抗の武道大会です」
大神官の言葉に、またもざわめく神々。
「ルールはシンプルです。各宇宙から破壊神などの神を除く10人を選手として選んでください。バトルロイヤル形式で行う『力の大会』ではただ対戦相手をステージから落とせば勝利とします」
「武道大会だと?」
「それまた急な…」
「相手が倒れたり、宙を飛んだ場合は如何するので…?」
第8宇宙の破壊神リキールが恐れながらそう質問した。
「倒れた相手は外へ放り出してください、もちろん殺してはいけません、相手選手を死亡させた場合、その場で失格となります。また、用意する武舞台では武空術による飛行は禁止とします。試合の制限時間は100タック*1とします。
全員が時間いっぱい戦って、残っている人数の多い宇宙が勝利です。もちろん時間を残して最後の一人となってもその選手の宇宙の勝利となります」
「バトルロイヤルなのか…」
「にしても各宇宙10人となると参加人数の桁が違いますよ」
第4宇宙のキテラとクルが小声で会話した。
「最優秀選手には、『
「『
大神官の説明の中に突如現れた聞きなれない単語。ほとんどの宇宙の神々にとって馴染みのない物であると察した大神官は超ドラゴンボールについての説明を入れる。
「『超ドラゴンボール』は、すべて集めると何でも願いを叶えてくれるアイテムです。文字通り、その願いは何でも…叶えられない願いはありません」
「あの…私も発言をお許し願えますでしょうか」
第3宇宙の界王神エアが恐縮した様子で進言する。
「どうぞ」
「最優秀選手がいただけるものはわかりましたが、優勝した宇宙には何がいただけるのですか?」
「なにも」
しかし、大神官は簡潔にたった一言のみを返事とする。
「え?あ…なるほど、名誉ですか」
「いえ、何もしないのが賞品です」
(なんだ、何もしないって…いや、まさか!)
ビルスは心の中で思考するうち、やがて何かに気付き心臓が一気に凍てつく感覚を味わった。
「優勝した宇宙には何もしませんが…敗退した宇宙は全王様が消してしまわれるそうです」
大神官のその言葉に、全ての宇宙の神々が静まり返る。今聞いた言葉が本当なのかどうか、いやしかし大神官ともあろう者が嘘を吐くはずがない…それぞれが、頭の中で様々な思考を巡らせ、フリーズしている。
「な…なな…ななな…なんだってェ────!!?」
そんな中、一番初めにビルスの絶叫が木霊したのだった。
今回は漫画版「超」の展開をなぞる話となります。