「さあ降りてこい!このプライドトルーパーズのトッポが相手になろう!」
第11宇宙の時期破壊神候補、トッポ。口ひげを蓄え、分厚く巨大な上半身と腕が特徴的な戦士。
「なんだァ?テメェとアタシが戦って何か得があるのかよ!」
サザンカはぶっきらぼうにそう言い返す。が、ビルスが横から小さな声で口を出した。
「おい!さっき全覧試合だと言っただろう!とにかく下へ降りてアイツをぶっ倒せばいいんだ!」
「チッ…はいはい」
渋々といった様子で、サザンカは武舞台の上へ降り立った。そして、ゆっくりとトッポの元へ歩いていき、胸を突き合わせるが如く近づくと、下から睨み上げメンチを切る。
両者の間に一触即発の空気が流れているが、どちらも様子を窺っているのか全く動かない。
「…どうした、かかってこい」
「テメェがかかってこいよ、ぶっ殺すぞ」
「では、遠慮なく」
次の瞬間、何の前触れもなくサザンカの腹にトッポの巨大な拳がめり込んだ。
「ぐえ…!」
サザンカは身体をくの字に折り曲げ、デカいがゆえに芯もろとも全身を捉えた一撃に悶絶する。が、拳を抱え込むようにして受け止め、転んだり吹っ飛ぶことは防ぐ。
「ほう、私の一撃を耐えるとは大したものだ。しかし…」
「私は正義はその程度で諦めはしないぞ!」
さらに強烈な一撃が顔面を襲い、サザンカは横へよろめいた。鼻血が白い武舞台の上に染みを作っている。
だが、サザンカは垂れる前髪の隙間からトッポを睨みつけるだけで、反撃はしてこない。それに気付いたトッポはさらに打撃を加え続けるが、サザンカはなおも膝をつくことなくそのすべてに耐え続ける。
「アイツ、どういうつもりだ」
様子を見ていたベルモッドがそう呟いた。
「死ぬ気か?サザンカのヤツ…」
ビルスもあまりに無抵抗で激しい攻撃を受け続けるサザンカを見て少し心配する素振りを見せる。
トッポはサザンカが無抵抗な理由に察しがついていた。それは恐らく…
「なぜだ、なぜ貴様は戦わない!!」
次々とサザンカを殴りながら、トッポが問う。サザンカは、殴られる合間に消え入りそうな声で答えた。
「アタシに構うんじゃねぇ!何がどうなろうが、もうどうでもいいんだよ。アタシの運命は決まった、もうお終いなんだよ」
「少女よ、自暴自棄になるな!」
だがその時、その言葉と共に放たれた拳を目で捉えた瞬間、そこで初めてサザンカはトッポの拳を避けた。ブォン、と巨大な拳が空気を切り、顔を流れていた血が風圧によって飛び散る。
「ああ?何が自暴自棄だ、このやろ…」
「ふん…悲劇的な結末、圧倒的な恐怖、理不尽…今の貴様は、それからただ目を背け自暴自棄となっているだけだ。自棄になっているから避けないし戦わない!!」
再び繰り出されたトッポの拳を、サザンカは両手で受け止めた。その瞬間、サザンカはようやく自分の行動を顧みた。
「運命を変えろ、とは言わん。だがどんな運命に直面しようとも戦うことをやめるな!運命を受け入れたうえで、どう生きるかを決めるのだ!」
「アタシは…」
「命を運ぶと書いて運命。私にとっては正義の道を歩むことこそ真の運命。少女よ、貴様の運命はなんだ?」
サザンカの瞳は暗く沈み、武舞台のタイルの隙間を見ているばかり。
(運命…アタシの運命、か…)
脳裏に浮かぶのは、大切な家族、仲間たちの顔。ブルマ、シロナ、ブロリー、ジュバン…アザミ、コナギ、グラジア、そして…
本当なら最後に、あるいは最初にもうひとり誰かいるはずだが、顔も姿も名前も思い出せない。しかし、その一人一人が、サザンカへ希望をもたらした!
「…いい顔になったな」
顔を上げたサザンカは、引き締まった表情でトッポを睨んでいる。その様子を見たトッポは、先ほどまでとは打って変わった恐ろしい闘気を全身にビリビリと叩きつけられ、思わず格闘の構えを取り直した。
「いいこと言うじゃん、おっさん!」
次の瞬間、サザンカの全身が黄金の光に包まれる。超サイヤ人4へと変身を遂げ、あまりの変容ぶりと力の強大さに、周囲の神々でさえ目を見張る。
「なんだ!?あの人間…!」
「変身した…!?」
徳の高い宇宙と評された第1宇宙や第12宇宙の破壊神でさえ驚きを隠せない。
(そうだよな、力の大会ってもんが始まる以上、ここでアタシが自暴自棄になってどーする!!だったらやることはひとつ!戦って勝つしかねぇーだろ!!」
心の中で思ったことが、気付かぬうちに声に出ていた。
拳を振り上げ、強く武舞台を蹴って飛び出す。トッポの至近距離へと迫るが、トッポの目線はサザンカにはない。まだ、彼の眼はサザンカのスピードを捉えられていないのだ。
移動の勢いを乗せた渾身の一撃が、トッポの顔面へめり込んでいく。そこまで来て初めて、トッポがサザンカの接近と攻撃に気付いた。
が、もう遅い。さっきサザンカが強く踏み抜いた際の衝撃で武舞台が撓んで波打ち、砕けていく。トッポの巨体は荒波の如くうねる武舞台に叩きつけられ、バウンドして跳ね返る。
「ぅうおおおおおお!!」
そして、落ちてくるトッポの腹部目がけて回し蹴りを命中させる。そのままサザンカは一回転し、勢いを乗せてトッポを吹っ飛ばす。
音を置き去りにしてぶっ飛んでいくトッポは神々らの目の前を通過していき、戦いを観ていた全王と大神官の元へ向かってゆく。
「アイツ…!」
「全王様を狙ったのか!?」
破壊神たちは慌てるが、もう間に合わないだろう。天使たちはそれぞれ辛うじて杖をかざし、防護壁を展開するが、間に合わず、トッポが素通りしてゆく。
勢い衰えず、なおも一直線に砲弾の如く全王へ向けて飛んでいくトッポだが、寸前で大神官が割って入り、片手でトッポを受け止めた。
「…!!」
「全王様…!」
しかし、トッポから飛散した血が全王の顔にかかる。真っ赤な液体が顔をしたたり、ポタン、と落ちる。大神官は今までにないほど鬼気迫る表情で振り返り、全王の名を叫ぶ。
以下、全宇宙の天使及び破壊神や界王神も目の前で起こった光景を受け入れられず、ただ茫然と、震えながら全王と大神官の様子を窺うことしかできない。
「…」
全王は無表情のまま、ゆっくりと顔面の血を拭いとる。
「…サザンカくん、キミってすごいのね!」
「全王!!そして全宇宙の神サンども!!よく聞きやがれ!!」
全王の言葉など無視するかのように、サザンカは崩壊した武舞台のど真ん中で大声を張り上げる。
「アタシは第7宇宙のサザンカ!!自分でもイヤんなるくれぇのへそ曲がり!!聞く曲は100万人の行進曲よか、しょっぱいバンドのロックばかりだぜ!」
第11宇宙の天使マルカリータによって議席へと連れ戻されたトッポも、ベルモッドの肩を借りながらサザンカの姿を目に焼き付ける。
「力の大会だの宇宙消滅だの、上等だろ!やれるもんならやってみやがれ!アタシが参加するからにゃあ何もかもテメェらの思う通りンなると思うなよ!?」
啖呵を切るサザンカの顔には好戦的な笑みが浮かび、まさに大胆不敵と言い切るにふさわしく、一切の迷いも恐怖もない。それを見たトッポも、豊かな髭の下の口元に笑みを浮かべる。
(それでいい…余計な老婆心であったが、よかった。落ち込む若者は見てられん)
それはトッポの善性が為した業。第11宇宙の平和を守る正義の組織「プライドトルーパーズ」の一員たるトッポは人相は悪いが性質は悪ではない。いきなりサザンカへ戦いを挑んだのも、ただ自暴自棄になるサザンカの姿を見ていられなかったからに過ぎない。
「…力の大会はこれより5チック後*1に開始いたします。急ではありますが、その時間までに任意の場所へ集合していただければ私が転送いたします。遅れないようにお願いいたしますね。では、解散」
大神官がそう言いながら両手を左右へ広げると、各宇宙の神々の姿が揺らぎ、一瞬にして消えた。自分たちの宇宙へ瞬間移動させられたのだろう。サザンカとトッポももうここにはおらず、天災でも起こったかのように滅茶苦茶になった武舞台だけが残された。
急遽打ち切るような形となったが、ひとまず力の大会の開催宣言と、それに伴う全覧試合は終わった。
「全王様。いかがでしたか?サザンカさんという人間は…」
静まり返る全王界の中、大神官は神妙な面持ちで尋ね、全王もその顔には普段のようなあどけなさは一切なく、無機質さを湛えている。
「…あれほどの気配を感じたのは初めてなのね。でも…もうアイツは別の人間に受肉しているのね」
「なんと…!一足遅かったという事ですか」
「うん。そうなればきっとアイツはボクのところへやって来る。1億年前の後始末をしにね」
「ということやはり…力の大会を催して正解でしたね。あとは…」
「いいのね。それを認識することでボクも危うくなる…今は力の大会の事だけを考えるのね」
大神官と全王は己の身に差し迫る驚異を予感しながら、力の大会開幕までの時間を過ごすのだった…。