もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第548話 「ハリケーンミキサー」

シロナの領域結界内。時間の流れは外界と同じであり、既に10分の時が経過していた。

相変わらず、ジレンの全身にシロナのエネルギーによる衝撃が与えられ続け、加えてシロナ自身が直接ジレンと格闘を繰り広げている。

 

ドドドドドドドドド…

 

領域結界「幻魔夢想杜」は維持するために掌印を組み続けることが不可欠であり、本来であれば両腕を塞いでしまう。しかし、ファントムとなり4本の腕を駆使するシロナは下左右の腕のみで掌印を組むことになり、残る両腕は自由なままである。

つまり、戦闘能力は一切損なわれていない…どころか、シロナのエネルギーで満たされた結界内ではシロナ自身のエネルギーと同調し自己強化が働き、通常以上のパフォーマンスを発揮できた。

 

ジレンもまた、初めこそ怯んだものの全身を打つ衝撃をものともせず、襲い掛かってくるシロナを迎撃する。

シロナの拳を肩で受け、そのまま足を踏み込んで前進し吹っ飛ばす。宙を舞うシロナだが一回転しながら結界内の空間を足場にして蹴り、再度向かってゆく。

 

ドゴオッ!

 

両手を合わせた拳を真上から振り下ろすが、ジレンはそれを腕で押さえる。しかし、想定以上の威力だったこととしつこく襲い掛かる衝撃に負け、急いで飛びのいた。

しかし、ジレンにくっつくかのように素早く追撃したシロナの蹴りが脇腹に刺さる。ジレンはシロナの腕を掴んで引き離し、思い切りぶん投げた。

そして、直立したまま気合だけで無数の拳圧を放ち、シロナを狙う。だが、やはりその拳圧もシロナのエネルギーの衝撃を喰らい続け、届く前に弱体化してしまう。

 

「…」

 

ジレンは怪訝な顔を見せ、直接殴りかかる。

 

そう、ジレンの戦闘スタイルは気の操作と運用法を駆使し遠距離から確実に攻め続けるというもの。自身は動かずに無数の拳撃を放ち、気を圧縮した気功波や気弾で狙い撃つ。

しかし、それはこの領域結界内ではすこぶる相性が悪かった。ジレンの気によって発生した要因は全てシロナのエネルギーによって弾かれ、削られてしまう。

加えて、ジレンは圧倒的な気をオーラとして身体に纏い、バリアを形成しているのだが、シロナのエネルギーはバリア内のジレンの体表へ直接作用するために無意味だった。

 

ジレンが振るう拳でさえ、この結界内では水圧に覆われているかのように遅くなり、威力も出ない。シロナは容易にジレンの拳を受け止め、カウンターのパンチを鳩尾へ叩きこんだ。

 

「ぐ…」

 

ジレンは僅かに苦しそうなうめき声を発しながらもシロナを殴り飛ばす。

 

「うひっ、どう?全然手応え無いでしょ?」

 

シロナはジレンのパンチが直撃したが、ほとんどダメージのない様子でそう言って見せた。だが、それでもジレンは持てる限りの力を使い、ノーモーション拳撃を繰り出す。

 

ザアアアアッ

 

だが、密度も速度も落ちた拳撃の隙間を容易に縫うように移動し避けるシロナ。両手を地について姿勢を低くし、拳撃をやり過ごすと一気にジレンとの距離を詰める。そして、拳を放ったジレンの腕を掴んで逸らし、脇腹へカウンターの拳を当てる。さらに肘打ちを胸に当て、ジレンの目がわずかに見開かれる。

 

「わかっているのか?」

 

ジレンは低い声でシロナに囁く。

 

「お前のほとんどの能力…今のこれもそうだが、お前自身が培った力ではないだろう。他人から貰い受けたものだけでオレに挑むなど、軟弱千万」

 

次の瞬間、ジレンの雰囲気が変わった。

 

「強さとは髄や骨ではなく、皮や肉が全てだと言うのか。くだらん、お前の存在自体がお前の強さを否定している」

 

ジレンはシロナの蹴りを避け、シロナの腹に膝蹴りをめり込ませる。

 

「これまでも他人の力を蓑にしてオレに挑む者は多くいた。しかし貴様ほど大層な蓑を繕ってきた者はいなかった。…はじめてだ、オレに使命を背負わせた奴は」

 

次の瞬間、ジレンの体を覆うように展開されていた気のバリアが、急激に広がり拡張する。

 

「ハアアアアアアアアア…!!!」

 

そして、空気を震わすような雄叫びと共にさらに膨張していく。

シロナは嫌な予感を覚え、素早く後ろへ飛ぶ。その間にも、ジレンの気がさらに膨れ上がり、それに伴いバリアも熱気を帯びたかのように揺らぎ始める。

 

「ここまでだ」

 

指先に小さなオレンジ色の気弾を作り、それは漆黒に覆われた領域結界内でひと際明るく、恒星のように輝き、熱を発している。

 

ピンッ

 

ジレンはその小さな塊を放ち、シロナの目の前に着弾させる。

 

刹那。ジレンが膨張させたバリアが、まるで着火されたかのように爆ぜた。

ジレンの気は大きすぎるが故に常に圧縮されており、その結果高熱を帯びている。それは纏うバリアも同様で、大きく膨張させた後もそれは健在である。一発の着火用の気弾によって爆ぜた気は領域結界内の隅々まで拡散し、爆轟遷移、衝撃波を引き起こす。

 

それは「幻魔夢想杜」を形成し、無限に広がるはずの「博麗第結界」及び「幻と実体の境界」をオーバーヒートさせ、機能停止に陥らせる。

結果、ただの外界とを分断する有限の結界となってしまい、その有限は容易に内側から砕かれた。

 

 

 

 

ミシ ビシィ

 

力の大会武舞台上でも異変が起こる。何もなかったはずの空間が雷鳴のような音と共に裂け始める。

 

「なんだ?」

 

付近にいた選手もそれに気付き、不審に思う。

だが、同様に異変を感じ取っていたトッポは咄嗟に声を荒げる。

 

「離れろ!!」

 

その声に、同じくプライドトルーパーズのメンバーは瞬時に状況とトッポの意図を理解し、一目散に距離を置く。他宇宙の選手は反応が遅れるか、そもそも戦いに夢中で異変に気付いてすらいない。

 

「…?」

 

ブロリーでさえも遠くで起こった喧噪にわずかに反応を示しただけだ。

次の瞬間、最悪の事態が発生する。

 

バギイイイイィ…!!

 

何かが砕け散るような轟音と共に、何もなかった場所に突然ジレンの姿が現れる。同時に、目の前には唖然とした様子のシロナの姿。今、シロナが展開した「幻魔夢想杜」が崩壊した。

 

ゴオオオオッ!!

 

瞬間、内部に閉じ込められていたジレンの常軌を逸した強大な気が開放され、嵐のように吹き荒ぶ。

 

「うおおっ!?」

 

「うわああああ!!」

 

荒れ狂う気の暴風は周辺の選手たちを容易に巻き上げ、吹き飛ばす。一拍遅れて、武舞台の端側にも巨大な衝撃波が届き、風が到達した。

 

直径約1Kmの武舞台上は一瞬にして地獄と化し、まるで見えざる巨大な腕が桶の水を掻き回しているよう。次々と参加選手たちが武舞台の外へ放り出され、落下してゆく。

 

開けられた地獄の竈の中心で、放心したシロナが項垂れていた。目の前には、開いた手の平をこちらへ向けるジレンがいる。ふたりの周囲だけが静まり返り、台風の目のようだ。

 

「言い残すことは?」

 

ジレンが最後に語り掛ける。

 

「…すごいなぁ、アンタ。全然敵わないや…」

 

シロナは半分笑いながらそう言った。その言葉を、ジレンは顔色一つ変えずに聞き取った。

 

「オレも、ひとつ訂正する。オレは貴様の蓑をくだらんと言ったが、それだけの蓑を纏うには貴様という自己の強大さが不可欠だったはずだ。周りの人間が次々消えてゆくのを認め、尚も己が強くなろうとしたその意志。誇れ、それだけは紛れもなく貴様の強さだ」

 

「…そう言われちゃ、もうちょっと頑張りたくなっちゃうじゃない!!」

 

領域結界の発動には、莫大な魔力と気の消耗が必要である。現在のシロナは、ファントムを維持するだけの僅かなエネルギーしか残っていない。

しかし、周辺にはジレンに破壊された領域結界の断片が無数に散在している。

 

「『4倍』…!!」

 

四本の腕を大きく広げ、その掌へ周辺に舞う自身のエネルギーを集約してゆく。

 

「…!」

 

「『マスタースパーク』ゥウウウ!!!」

 

4本の光の束は発射されたそばから融合し、1本の極太の光線となって至近距離からジレンへ迫る。

ジレンは片手をかざしてそれを受け止め、弾かれたエネルギーがうねりながら周囲へ乱反射する。

 

「この熱さ…これが貴様の限界だ」

 

4倍マスタースパークはジレンの握撃ひとつで潰され、破壊された。そして、渾身の拳撃がシロナの目の前へ迫る。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

メタルリルドの作る櫓に座っていたグラノラも暴風によって遥か上へ巻き上げられ、為すがまま滅茶苦茶に回転させられていた。彼の力では自分の行き先をコントロールすることも出来ず、目まぐるしく回る視界は小さくなった武舞台や観覧席、そして無の界の空を交互に映し出す。

 

「グラノラ!」

 

同じく宙を舞うカカロットが手を伸ばすも、一瞬にして距離が開いてしまいグラノラには届かない。カカロットは何が何だかわからないまま武舞台外へ吹っ飛んでいくが、自分の腰に何かが巻き付いてガクンと動きが止まる。

 

「リルド…!」

 

「ふうおおおおッ!」

 

リルドがメタルリルドの力を使い、肉体を流体金属にして伸ばしカカロットを掴んでいた。それが千切れてしまわないよう必死に耐え凌ぎ、ゆっくりと流体金属を引っ張り寄せる。

 

やがて、気の暴風は収まり、周囲に静けさが訪れた。この静けさは単に暴風が止んだからではない。なんと、後の武舞台にはほとんどの選手がいなくなっていた。

 

 

「はっ…あ…!」

 

第7宇宙の観覧席へグラノラが転送される。同時に、他の宇宙の観覧席にも何人もの選手が転送され、一気に脱落選手であふれかえる。

 

「な、何だとぉ!?」

 

第4宇宙の破壊神キテラが大慌てで叫ぶ。

 

「まさか、こんなことが…こんなことが起こっていいのか!?」

 

第2宇宙の破壊神ヘレスが戦々恐々としてそう言った。大会に参加していない第1、第5、第8、第12宇宙の神々も驚きを隠せず唖然としている。

大神官は、冷静に戦況を確認していた。

 

「第9宇宙、ローゼル、ソレル、チャッピル、ホップ、ヒソップ、オレガノ選手、脱落です。

 第3宇宙、ナリラーマ、ビアラ、ニグリッシ選手、脱落です。

 第6宇宙、Dr.ロタ、ボタモ、マゲッタ選手、脱落です。

 第4宇宙、キャウェイ、ダーコリ、ショウサ、マジョラ、ガミサラス、ダモン、モンナ選手、脱落です。

 第10宇宙、ルバルト、ジウム、ナパパ、リリベウ、ムリチム選手、脱落です。

 そして第7宇宙、グラノラ、シロナ選手…脱落です!」

 

一気に大勢の選手が脱落したことにより、大モニターのアイコンがごっそり消えた。

 

「これほどの力なのか…!第11宇宙は…」

 

ビルスでさえもこの惨状に、震えた声を絞り出すほかなかった。他宇宙の神々が驚きの声を漏らす中、第11宇宙の破壊神ベルモッドは席にふんぞり返って得意げな顔で武舞台を見つめていた。

 

 

しかし

 

 

…それは、ジレンであれば本来防げたであろう凡策。勝利を確信した、あるいは勝利した直後の余韻に突き刺さる急襲。

そう、何処かより姿を現したサザンカの剛拳が、ジレンの脇腹に深くめり込んでいた。

 

 




【現在公開可能な情報】

Dr.ウィロー

昔、有名だった天才科学者。人道から外れた研究に没頭するようになり、バイオテクノロジーの研究のため永久凍土のツルマイツブリ山に研究所を構えた。
が、一夜にして研究所は氷漬けとなり、マッドサイエンティストの自業自得な死亡事故として報道され、やがて世間から忘れ去られた。

時が立ち、幻想郷にて目を覚ましたウィローはそこで復活を目論み、聖白蓮の肉体を奪って暗躍を始める。
カカロットの元気玉によって倒されたが、その脳は生き延びて宇宙を漂い、ビッグゲテスターと融合する。それから何年もかかって幻想郷へ到達し、復讐を果たそうとするがシロナと出会ったことで自らの過去を悔い、かつて愛した家族と共に燃え尽きていった。
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