トリオ・デ・デンジャーズが狙いを定めたのは、第11宇宙の選手だった。プライドトルーパーズのカーセラルは、第4宇宙の戦士ニンクと戦っていた。
ニンクは強靭な肉体とパワーを生かした接近戦により、掴み技や極め技を仕掛けるが、カーセラルは体格の割に華麗な身ごなしでそれを躱し続ける。
「…ハアッ!!」
痺れを切らしたニンクは右手から太い気功波を放つ。少し後ろへ下がり、その威力を確認したカーセラルは左手に纏わせた気を剣の形にし、それを素早く十字に振るい。気功波を斬り裂いた。
「な…!」
「その程度のパワーではこの将軍カーセラルを倒すことは出来ん!」
攻撃後の隙を晒したニンクへ、今度はカーセラルの気弾が襲い来る。ニンクは避けようとするが、既にその背後へカーセラルが回り込んでおり、蹴りを繰り出そうと構えていた。
しかし、その瞬間。
「ガウォオオオオッ!!」
野獣のような咆哮と共に、青、黄、赤の3色が混ざり合った巨大なエネルギーの塊が突っ込んできた。争っていたふたりは対応できず、同時に左右方向へぶっ飛ばされる。
「ぐあああっ…!」
ニンクはそのまま武舞台の外へ落ちかけるが、同じ第4宇宙のガノスが素早く跳躍しニンクを武舞台へ引きずり戻した。
「大丈夫か!」
「かたじけぬ…」
ガノスとニンクはそのままこの場から退散していった。
カーセラルは何とか落ちるのは防ぎ、床の上に着地した。だが、すかさず円を描くように高速回転するエネルギーの渦が襲い掛かった。
「ぬう!?」
咄嗟に両手に作った気の剣をかざし、防ぐ。
通称“斬撃の戦士”とも称されるカーセラルの刃が削り取られていく。そして、ついにカーセラルは体ごと弾かれ、体勢を崩した。
その隙に、ベルガモらの作る円形の陣はより攻撃力を増した3角形に変化し、今度はカーセラルをその中央へと閉じ込めた。
(閉じ込められた!?そうか、これがコイツらの戦法か!)
蟻地獄のように、一度囚われれば脱すること能わず。“デンジャーズ・トライアングル”は決して獲物を逃がさない。
周囲を旋回しながら、すれ違いざまに連続攻撃を仕掛ける。ラベンダの毒手攻撃を間一髪で躱し、バジルの蹴りを防ぎカウンターで殴り飛ばす。しかし、その後に繰り出されたベルガモの拳を側頭部へ受けたカーセラル。
「ぬ…ぐう」
血が滲み、頬をなぞるように垂れてゆく。
「俺に狙いを定めたというわけか。だが、このカーセラル…我が宇宙の無辜の民のため、容易く負けるわけにはいかんのだよ!」
しかし、三角形の陣はカーセラルを内側へ閉じ込めたまま、どんどん武舞台際へと移動してゆく。
「これがオレらの戦いだ!思い知りやがれ!」
カーセラルもその連携から抜け出すことができず、万事休すに陥る。このままではじりじりと落とされてしまう。
だがその時。
目にもとまらぬスピードで近付いてきた影が、トライアングルを形成するバジルに激突し弾き飛ばした。
「なあっ…!?」
一角を破られたことにより隙間ができ、素早い影は瞬時にそこへ入り込みカーセラルの腕を掴むとまたも跳躍し、塵の外側へ着地した。
「危なかったなカーセラル」
「すまんディスポ、助かった…」
カーセラルを救ったのは、第11宇宙の戦士ディスポだった。細身だが引き締まった体は圧倒的なスピードを発揮し、「音速のディスポ」の異名を持つ。
獲物を逃したベルガモ達は、逆に自分たちが武舞台際へ追い詰められてしまうという結果になってしまう。
「さぁ、どうする?お前らのような犬野郎風情が、俺たちプライドトルーパーズに敵うとちょいとでも思ったのが間違いだ」
ディスポの煽りを受けたベルガモ達は、その場で押し黙り、じっと睨みつける。ジリジリと後ろへ下がり、踵で小突いた武舞台の破片の石ころが奈落へと転がり落ちてゆく。
「そんなァァァ!トリオ・デ・デンジャーズの包囲網があんな簡単に破られるとは…!!」
その場で叫び、頭を抱えるロウ。しかし、破壊神シドラは顎髭を触りながら、ベルガモらの様子を見て呟いた。
「いや…まだ終わってはいないかもしれん」
ベルガモ、バジル、ラベンダは互いに顔を見合わせ、一斉にそれぞれが最大の力を発揮する。
「いくぞ兄弟!!」
「「「トライアングル・デンジャービーム!!」」」
彼らが渾身の力を込めて放った赤、黄、青色の光線が合体し一本の強力な柱の如きエネルギー波となってカーセラルとディスポへ向かってゆく。
だが、いくら強力な攻撃だろうと一直線。ふたりは容易く横へ飛び、攻撃を回避した。
「そんな単純な攻撃、当たるとでも思ったのかよ!逆に落とし返してやるぜ!」
ましてやディスポのスピードの前では、避けられただけでなく反撃の一撃を放つ隙まで与えてしまっている。ディスポは腕へ気を集中し、強烈な気弾を放った。
光速で飛ぶ気弾は凄まじい威力を秘めており、それはベルガモ達へ命中した。
「ぐあああ!」
その爆発の衝撃に晒され、バジルとラベンダは煙の跡を引きながら武舞台の外へと吹っ飛ばされ、落下していった。
「バジル、ラベンダ選手、脱落です」
大神官が判定を下すと、モニターからふたりのアイコンが消える。だが、それを見たディスポは違和感に気付く。
「あ?もう一匹は落ちてねぇのか?」
濛々と立ち込める爆炎と黒煙の中に、大きな狼のようなシルエットが浮かぶ。ならば、残る一匹もさっさと落としてやる。ディスポは地面を蹴り、自慢のスピードを発揮し一直線に突撃してゆく。
(スピードは重さ!重さは破壊力!!どんな軽いモンでも、オレ様のスピードでぶつかりゃあ何でも弾き飛ばせる!)
ディスポの恐ろしさは、初動から最高速度に達することができる加速力にある。一瞬にして音速を超える速度を発揮したディスポは、多層に重なった巨大なソニックブームを纏いながらベルガモへ激突する。
が、動かない。
(か、硬…重…)
ディスポの最高速の一撃を受けても、ベルガモは微動だにしなかった。そこで違和感に気付く。今までは黒煙の中に浮かぶ影を見てもさほど気にしなかったが、ベルガモの身体がさっきよりも大きくなっている。
「そ、そうか…ここで使うのか!」
「兄者の…『倍返し』だ」
驚くロウに、ラベンダが観覧席から呟いた。
毒のラベンダ、蹴りのバジルに続いて潰しのベルガモが得意とする能力。それは『倍返し』の能力。肉体へ受けたダメージを溜め込み、必ず2倍にして発散できる。溜めている間は体が巨大化し、溜めれば溜めるほど体が大きくなり、天井知らずで上昇してゆく力の発散するタイミングは任意で選択可能。
これまでの戦いでは的が大きくなることを懸念してあえてこれを使用しなかった。
ディスポの突撃を受けたことで、ベルガモの身体がさらに巨大化する。その大きさは実に10メートルを優に超え、真上からカーセラルとディスポを見下ろしている。
「だがそれじゃあ的がでかくなるばかりだぜ!武舞台から落としやすくなっちまってるぞ!」
ディスポはさらに気弾を放ち、ベルガモを攻撃する。
「その通りさ…落ちるためにデカくなってるんだよ」
「なに?」
ベルガモが低い声でそう言った瞬間、彼はサッと姿勢を低くし、両腕を丸く円を描くような形で広げて見せた。その腕の中に、カーセラルとディスポは閉じ込められてしまう。
「な…!」
「これは…!」
ベルガモは巨大化した体を使って壁のように立ち塞がり、覆い被さりながらそのまま武舞台の外へ向かって滑るように飛んだ。
「逃げ場がない!!」
どんなにスピードがあろうと、通り抜けられる道がなければ逃げ場は無いも同然。さらにベルガモはこのまま武舞台の外へ飛び出す気満々だ。
「ジレン!!助けてくれェ!!」
焦ったディスポは、思わずジレンへ助けを求めた。
その声を聴いたジレンは、今まで激しい肉弾戦を繰り広げていたサザンカの拳を受け止め、容易く投げ飛ばし地面へ叩きつけた。そして、感情の読めない無機質な黒い目でディスポをじっと見つめる。
「その程度の敵にやられるならそこまでの強さだったという事だ。いつまでもオレに助けを請うな」
「な…ジレン…!」
しかし、ジレンは冷酷な言葉を残し、再びサザンカとの戦いへ向かう。
ディスポとカーセラルは、巨大化したベルガモと共に武舞台の外へ落下していった。
「このディスポ様が…こんなところで…!」
「ベルガモ選手、カーセラル選手、ディスポ選手…脱落となります」
大神官の判定が下される。観覧席の第9宇宙の席へベルガモが送られ、第11宇宙の初脱落者としてカーセラル、ディスポがベルモッドの隣へ移動させられた。
「すみません…油断しました、申し開きもできません」
ディスポはプライドトルーパーズ内ではジレンとトッポに次ぐナンバー3の実力の持ち主だ。それは本人も、ベルモッドを含めた周りの者も認めている。
「…申し訳ありません」
カーセラルもまた、部隊内では切り込み隊長を務め実力面でもディスポに次ぐ戦士である。そんな彼らが第11宇宙で真っ先に脱落したことは、彼ら自身が最も不甲斐ないと思っているだろう。
「別に構わん。ジレンやトッポがいれば問題は無い」
だが、ベルモッドはそんな彼らの気持ちを無視するように、ジレンたちに期待を向け続けている。
「…さて、第9宇宙は全ての選手が脱落しました。よって、消滅となります」
そんな中、無慈悲な宣告がなされる。
「お待ちください全王様!宇宙を消すというのは、考え直して頂けないでしょうか!!」
界王神ロウが膝をつきながら全王へ泣き縋る。破壊神シドラは諦めたように足元を見つめ続ける。
「全王様ァァ────!!!」
「はーい!」
しかし、全王はそんな彼らの様子など構うことなく、上へ掲げた手を握り締める。
第9宇宙の選手や神々の姿がノイズがかったように揺らいでいく。
「兄者、これでよかったんだよな」
「ああ…オレらは滅びるという結末までの道中で見つけた…それは“未来”だ。あの第7宇宙が優勝すれば、何かが変わる…そんな未来だ」
───だからよ…勝てよ
その時、第9宇宙は消滅した。観覧席には天使だけが残された。
実際に宇宙が消される瞬間を目の当たりにした選手や他宇宙の神々は絶句するほかなかった。本当にやってのけた全王の力と、容易くそれを行使できるほどの無慈悲さに。
だがその中で、ハーツだけは厳しい眼差しで全王を睨み続けていた。