もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第57話 「絶体絶命!脅威の月夜見王と明嵐!」

「うおおおおお!!」

 

メリ…

 

霊夢の放った渾身のパンチが、月夜見王の顔面に深くめり込んだ。霊夢がさらに力を込めてそのまま殴り抜けると、月夜見王はふらふらと後ろへ下がり、腰を抜かして倒れ込んだ。

 

「あ、ありえん…このわしが地上人如きに殴られ、尻を地につけるなど…!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

霊夢は息を切らして膝をつく。が、すぐに立ち上がり、もう一度月夜見王へ攻撃を仕掛けた。

 

「くっ!」

 

慌てて立ち上がり、霊夢の蹴りを腕で受け止める。が、すぐに放たれたパンチを腹にもらい、苦痛に顔をしかめながら一歩下がる。さらに霊夢のエネルギー弾を喰らい、後ろへ少し吹っ飛ぶ。

 

「…なるほど、いくらバカでかい気を持っていても、その老いた肉体じゃ限界があるようね」

 

霊夢の言った事は正しい。戦闘力…つまり気の大きさでは月の民最高を誇っていても、月夜見王の衰えた動体視力や反射能力、筋力から体力に至るまでが、素で霊夢と同等ほどしかない。それに加え、明らか自分よりも戦闘力が低いはずの地上人から一撃を貰った事による精神的動揺は大きい。

そこに回復した永琳と輝夜が加わり、じりじりと距離を詰める。

 

「アンタの負けよ」

 

「…くっ、わしが負けるだと!?冗談も大概にしろ…ドラゴンボールを手に入れ、お前らを連れて帰るまでは…!」

 

月夜見王がそう言った直後、何かがこちらへ近づいてくる気配を感じ、霊夢が後ろを振り返る。月夜見王の攻撃によって空いた壁の穴から外を見た。

 

「月夜見王、これは一体?」

 

そう言いながらこの場に駆け参じてきたのは、月夜見王親衛隊の1人、覇乙女明嵐であった。霊夢や永琳たちをざっと見渡すと、それよりも先にと言わんばかりに浮遊したまま月夜見王へ近寄っていく。

 

「状況は分かりました…それより先に、思し召しのドラゴンボールを入手してまいりました」

 

「おお、それは本当か!」

 

「!?…ドラゴンボールを!」

 

それを聞いていた霊夢が驚く。

 

「こちらに…」

 

明嵐は上着の中から七つ星のドラゴンボールを取り出し、月夜見王に手渡そうとする。

その時、霊夢は焦ったのか一発のエネルギー弾を明嵐と月夜見王目がけて放った。さらに、既にドラゴンボールの重要性を知っていたのか、永琳も明嵐へ向けて矢を放つ。

…だが、なんと明嵐はこちらに振り向くことはおろか目視すらせずに片腕だけを背後へ掲げ、それで両者の攻撃をいとも簡単に握りつぶすようにして防いでしまった。

 

「な…なんですって…!」

 

明嵐はドラゴンボールを月夜見王に渡す。

 

「ふっふっふ…ご苦労だったぞ明嵐。さて、これからわしはドラゴンボールで願いを叶えたいのだが…その間、邪魔者の相手をしてやれ」

 

「たやすい事です」

 

明嵐は立ち上がり、その周囲に熱気のようなオーラをたぎらせる。びりびりと痺れるような猛烈な気に晒され、霊夢たちは思わず後ずさった。

 

「来るわ!」

 

永琳がそう叫ぶと、その直後に明嵐が駆けだす。霊夢らに接近し、交戦を開始するのだった。

 

「いよいよだ…いよいよわしの願いが叶うときがきた!」

 

月夜見王は床にドラゴンボールを置き、その上に手をかざしながらそう呟いた。

 

「出でよ龍よ!そして、わしの願いを叶えてくれたまえ!!」

 

七つ星のドラゴンボールが点滅し、やがて強い光を放った。すると、ボールから光の筋が天井へ向けて伸び、その光が形を変えて龍へと変わっていく。

龍は細長い顔をしていて、姿は普通の龍のようだが腕だけはしっかりと長く伸びている。土色の体色をした龍は浮かんだまま、呼び出した月夜見王へ顔を向けた。

 

「私は七つ星の幻龍玉に眠りし七星龍。願いを言え、可能な限りでお前の願いを叶えて進ぜよう」

 

(こ、これが…ドラゴンボールの化身…!)

 

月夜見王も思わず息を呑む。霊夢たちもその光景に呆気を取られたが、すぐに戦いへ戻る。

 

「邪魔よ!」

 

霊夢は明嵐を突破しようと攻撃をしかけるが、全ての蹴りを躱され、逆に顔面に軽いパンチを叩きこまれた。思わず後ろへよろめき、大きな隙をさらしたところにさらに一瞬にして拳の連打を喰らう。同じく永琳も接近戦を仕掛けるが、明嵐は永琳の足を掴み、後ろへ居た輝夜にぶつけるようにしてそれを投げ飛ばした。

 

「どうした、願いは無いのか?」

 

「いや、わしの願いは絶対に叶えてもらうぞ!」

 

(まずいわ、こうなったら奴よりも先に願いを…!)

 

「月夜見王を月の都へつい…!うぐ!!」

 

月夜見王を月の都へ追放してください、そう願いを言いかけたところで明嵐が霊夢の口を塞ぐようにして殴りつけた。同じく永琳と輝夜にも口を塞ぐように掴みかかり、地面へ倒し伏した。

 

「ふふふ、言わせはしないよ」

 

「では願いを言うぞ…。『このわしを”若返らせて”くれ』!!」

 

「…わかった、お前の願い…叶えてやろう」

 

七星龍の目が光った。それと同時に月夜見王の体が淡い光を放ち、ある変化をきたす。

少し曲がっていた腰がだんだんと真っすぐに伸び、その顔のしわが薄くなっていく。髭も黒色へと変わると同時に短くなっていき、禿げた頭には髪の毛が戻っていく。短い髪の毛は逆立って行き、月夜見の目つきもやや若々しく変わった!

 

「おお…!」

 

「そんな…ヤツが…若返っていく…!」

 

「願いは叶えてやった。では…これにて」

 

七星龍はそう言うと、再び光に戻り、ドラゴンボールに吸い込まれるようにして消えていく。するとドラゴンボールは石になり、床をゴロゴロと転がった。

 

「あれはまさしく、まだ若いころの月夜見王の姿…!」

 

永琳がそう言った。かつては月夜見王と並んで月の都を建てたという事もあり、昔の彼についても知っている永琳がそう言ったのだ。月夜見王はゆっくりと永琳らに振り向く。

 

「月の都を滅びの道から救い、再興したとしても王たるわし自身が老いてしまっていてはこれから先楽しむものも楽しめんと思ってな…若返ることにしたのだ。しかし…」

 

月夜見王は独りでに歩き出し、大きく拳を振りかぶると壁を殴りつけた。

壁に穴が開き、発生した拳圧の衝撃波がさらに向こうの壁をバキバキと破壊していく。それを見た霊夢たちも、感じる圧倒的な気に怯む。

 

「まさかパワーと体力、全てにおいても元に戻るとは思わなかった!流石はドラゴンボールというわけか」

 

溢れ出るパワーを改めて実感している月夜見王。

 

「さてと…このわし直々に賊共を片付けてやりたいところだが…ここは全て明嵐に任せよう。だが遊んでいる無駄な時間は無いぞ、さっさと倒してしまえ」

 

「は…。そういうことだそうだよ、君たち」

 

「差し違えてでもアンタらは倒してやるわ!」

 

果敢に明嵐に挑みかかる霊夢。するどい突きの連打を放つが、明嵐は余裕そうな表情のまま全て躱す。そして、足を少しも動かすことなくスーッとスライドするかのように霊夢に急接近し、横を通り過ぎる。それを追おうと振り返る霊夢だが、明嵐が一瞬のうちに打ち込んだ無数の拳撃を喰らい、口から血を吐きながら吹き飛ばされた。

 

「この!」

 

永琳と輝夜も負けじと明嵐に攻撃を仕掛ける。敵の両サイドから接近し、同時に殴りかかった。

 

「ふっ…」

 

しかし、明嵐は吹っ飛ぶ霊夢へ気功波を放ちながら軽くジャンプし、両足を同時に左右へ突き出し永琳たちの顔面を蹴りつけた。さらに両腕に剣のような気を纏わせると、それで永琳と輝夜の胸を深く、ザックリと切り裂いた。

 

「ぐはっ…!」

 

そして、その纏った刃状の気を射出し、二人の胸を貫いて床に釘のように突き刺した。床に磔のようにされた二人は、身動きは取れないでいる。

 

「や…やはりとんでもない…力を持ってるわね…」

 

その時、霊夢の気弾が明嵐の顔に当たった。何ともない顔をして振り返った明嵐の視線の先には、ボロボロになった霊夢が立ち上がっていた。

 

「まだ戦う元気があるってのかい?」

 

「と、当然よ…!」

 

「…何度も生かしてあげたのに、それは残念だ。それも、全て君が素晴らしい精神と実力を持った達人であるからさ。地上の民であっても、私は優れた者は殺さない。ソイツのレベルに合わせて、ギリギリの戦いを楽しむんだ」

 

「ふん、失礼な話ね…こっちはこんなに全力で戦ってるのに、そっちは絶対に手の内をすべて見せず本気で戦わないですって?そんなのは最高の侮辱よ!」

 

「それで構わない。君たちはいくら優れていると言っても地上の民だ…実力者としての敬意は払うが、種族としては劣るのだから…当然じゃないかな?それはあのカカロットも同じことだ、わざと優勝をくれてやったことにあの子は気付いていたのかな?」

 

「…許さないわ!」

 

霊夢は再びそう叫ぶと、怒りをあらわにしながら明嵐へ無数のエネルギー弾を放った。しかし、明嵐はそれを全て殴って弾き飛ばし、一瞬で霊夢の背後に回った。

 

「!?」

 

「残念だが、ここで君との戦いはお終いだ」

 

振り返る霊夢を殴って上へ飛ばし、落ちて来る彼女の背中に…思い切り蹴りを食らわした。強烈な一撃を急所に叩きこまれた霊夢は悶絶し、うつぶせに倒れ込む。

 

「が…がは…」

 

しかし、何とか意識を保ったまま顔を上げた。

 

「しぶとい奴だ、トドメを刺すがいい」

 

「は…」

 

明嵐は霊夢の顔を踏みつけて動けなくすると、右腕に気の刃を纏い、それを突きつける。

 

 

 

 

 

─カカロット、皆…仇は取れなかった…!永琳も輝夜もたぶん連れていかれる…でも、きっと誰かが、誰か生き残っていれば…二人がツキノカクに使われる前にコイツらを…

 

 

 

 

 

 

「くたばりやがれ!!」

 

次の瞬間、激しい叫び声と共に、どこからかパンチが放たれた。それは明嵐の顔面に鋭く突き刺さり、壁に激突するまで吹き飛ばした。

霊夢はぼやけた視界の中に、確かに見た。

灰色の道着に、黒いアンダーシャツ、ツンツンに逆立った黒髪…しゅるんと動く猿のような獣の尻尾。

 

「カカロット!」

 

 

 

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