もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第570話 「線」

トッポの同等の猛攻をかいくぐりながら、クウラはその中に生まれるほんの僅かな隙を縫って一撃を与える。

指先から機関銃のように放たれるジャスティスフラッシュ。それはトッポ自身の戦闘力が上がったことにより、密度も威力も桁違いに上昇している。

 

「『破壊』」

 

そして、その中に織り交ぜられる破壊の一撃。当然、実際にクウラを破壊してしまっては失格となるので、使うのはあくまでクウラの足場となる周辺の岩を消していく程度。

その中でクウラが見つけた隙…トッポはジャスティスフラッシュと破壊を同時に放てない。それに加え、破壊を放つ際には溜めがある!

 

グシャア

 

そこへ、クウラの一撃が刺さる。破壊を構えるトッポの横面へ、クウラの蹴りが命中した。

 

シュパ…

 

その瞬間の感触を、彼は噛み締めるように味わう。

 

ガッ ドシャア

 

トッポはすぐさまクウラの足を掴み、振り回して地面へ叩きつける。捲れ上がった床の切片と共にバウンドし吹っ飛ばされるクウラは見た。トッポの口の端から血が垂れたのを。

 

「効いたな」

 

クウラは考えた。自分の気で放った光線もトッポの体に触れた途端に破壊され消滅し、効かなかった。しかし、今の打撃は確かに効いていた。

では何故か。

 

(そういうことか。この力の大会のルール、だな)

 

ボッ ボッ

 

クウラは再び駆け回りながら、気弾を二発、まったく同時に放つ。それはトッポに両方当たるが、両方とも消滅してしまう。

次はコンマ数秒の時差を与え、二発の気弾を与える。それも無効だった。

 

(オレが直接触れた場合、問答無用で破壊され消滅する。それではヤツが失格になる。だからオレが直接触れる瞬間だけ、ヤツは身に纏う破壊を解いている)

 

トッポが撃ち続けるジャスティスフラッシュの隙間を縫い、今度は気を込めた拳を命中させる。生身の拳は、トッポの顎にめり込んだ。

 

「…!」

 

だが、トッポもクウラの思惑に気付く。すぐに衝撃波でクウラを吹き飛ばし、そこへ大きな気弾を投げつけ、さく裂させた。

 

「何をしようとも無駄だ。生き残るのは我ら第11宇宙だ」

 

その時、爆炎と煙が内側から切り裂かれ、特大の斬撃が飛んできた。トッポはそれを見切るとその場から動かず、斬撃を受ける。すると、斬撃も先ほどのようにトッポの体を切ることなく無効化された。

次の瞬間、今度はトッポがクウラへ急接近し、その時の風圧によって煙が払われ、クウラの腹部へトッポの巨大な拳がめり込んだ。

 

「…!!」

 

吹っ飛んでいくクウラの元へ先回りし、その背中にエネルギー弾を叩きつける。

 

「ぐおおおああ…!」

 

至近距離からの大爆発を受けたクウラは高く飛ばされ、トッポが追撃として放った蹴りを受け、いくつもの岩盤を貫き、瓦礫の山へと変えながら吹っ飛ばされていく。

トッポはゆっくりと歩きながら、身に触れる瓦礫を全て破壊により消滅させながらクウラを探す。

 

ギュオオオッ

 

だが、背後から差してくる陽光のような眩しい光と、背中に突き刺さるように感じるクウラの気迫を感じ、後ろを向いた。

 

「クハハハハハ!気付くのが遅かったな!何も、破壊神にならずとも『破壊』なんぞ好きに行えるものだ!」

 

高い岩盤の頂上に立ったクウラが人差し指を立てた右腕を掲げており、その真上には太陽かと見紛うほど、赤とオレンジ色に輝く超巨大なエネルギー球が浮かんでいた。

 

「…愚かな」

 

それを見たトッポは冷静に、破壊の気弾を作り出す。それを放ってクウラの気弾を消滅させようとしているのだ。確かに、いくらクウラのありったけを込めた気弾でも、破壊の力とぶつかれば鍔迫り合いすら起こることなく無に帰される。

 

ガッ

 

シュパァ…

 

しかし、クウラは足元にストックしていた岩を素早く蹴り飛ばし、トッポが放とうとしていた破壊の気弾に命中させた。

岩は一瞬で消滅するが、岩を破壊しリソースを無駄遣いしてしまった破壊の気弾も小さくなり、無くなってしまう。

そして、目元を笑みによって吊り上げたクウラがその隙を逃さず、すかさず気弾を放ち、投げつけた。

 

「くッ…!」

 

トッポは焦ったものの、やはり気弾であれば破壊の防御で無効化できる。そう思い、とりあえずあの気弾はノーガードで受けようとした。

 

(いや、待て…!)

 

だが、その考えが過ちだとコンマ数秒遅れて理解する。視界の端にクウラの姿がチラリと見え、その手が迫っていた。

クウラはトッポの背中に拳をぶつけ、深くめり込ませる。分厚い筋肉を押しのけ、背骨と内臓にまで達していた。

 

「慣れぬ力をこれ見よがしにひけらかすからだ。本物の破壊神ですら常時破壊の力を纏ったり乱発したりなどしないだろう。だからこうやって隙が出来る」

 

「おお…うおおおお…!!」

 

そして、クウラの放った特大の気弾が真上から着弾し、破壊の力を纏えない無防備なトッポを呑み込んだ。

当然、クウラのボディは自分自身のエネルギーによってダメージを受けることは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…

 

 

「線」は…

 

 

「線」はどこにある…?

 

 

 

 

私は父を奪った暗黒惑星を徹底的に制圧し、一体どうやって父が死んだのか明らかにするために強くなり続けた。

 

プライドトルーパーズの正式隊員となり、子供の頃よりずっと強くなった。

 

そして隊員として活動するようになり少し経った頃、思った。しかし、今なら…今なら暗黒惑星を破壊することさえできるかもしれない。

 

 

私は万全の準備を期して暗黒惑星へ降り立った。襲い掛かって来るであろう未知の怪物、歴史に名を連ねる極悪な大犯罪者、そして宇宙中の人々の思念によって注がれた呪いや邪念といった概念。

 

絶対にそれらに屈せず、暗黒惑星を制圧する!

 

 

…しかし、行ってみればとんだ笑い話だった。

 

父を死に追いやった暗黒惑星は、棲息する生き物全てが駆逐され、充満していた呪いさえ吹き飛ばされ、既に根こそぎ清浄なただの更地の惑星と化していた。

 

「これは一体…どういうことだ」

 

その星にいたのは、プライドトルーパーズの新入隊員であり、初任務として暗黒惑星の制圧を任された男…ジレンだった。私が宇宙船で出発し、暗黒惑星に到着するまでの僅かな期間に、生身でここへ降り立ち戦いを終わらせていたのだ。

ジレンは現在に比べればまだまだ高みには至っていなかったが、その頃から戦闘力は充分に完成されていた。

 

長年、いつでも私の心の中に剥がれない澱みとして残り続けていた怪異に溢れたこの星を、自分よりも年若いこの青年が傷ひとつ負うことなく、全てを破壊し、全てを容易く解決した。

 

恨むわけはない。私はただ、そのジレンという青年と、破壊という名の滅浄に強く惹かれた…。

 

 

 

 

だが、まだ『線』は見つけられていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

「…!コイツ…!」

 

トッポは圧倒的な熱と光に焼かれながらも、その中でクウラの両手を掴んだ。クウラと接触している限り、破壊の防御は解除しなければならず、それではクウラの攻撃の影響をもろに喰らい続けてしまう。

それで上等。

 

「『線』を踏み越えるには…この程度で私は止まるわけにはいかんのだ!!」

 

グチャアッ

 

トッポの巨大な手が、クウラの両手を握り潰した。不快な水音を立て、トッポの握りしめた指の隙間から血と肉片が飛び出す。

 

「さっきから『線』がどうだのと…何を言っているんだ貴様は…!」

 

クウラは汗をかき、痛みに顔をしかめながらそう言った。

 

「私は父を奪った暗黒惑星を破壊するため強さを求め続けた。だが…私は気付いた。強さを求めることに終わりなど無い!ゴールを示す『線』などは存在しないのだ!だからこそ、どこまでも強くなれる!クウラとやら、お前もそう思うだろう?」

 

その言葉に、クウラは目を見開き、そして閉じた。

 

「…そうだな、一理ある。だがな」

 

ズダンッ

 

「…ッ!!?」

 

瞬間、横一文字の斬撃が真上から降り、トッポの腕の感覚が無くなった。彼の腕は、手首から先が切断されていた。鮮血が噴き出し、クウラの深紅のボディをさらに赤く染める。

クウラはトッポの手首を切り落とすことで、その拘束から逃れたのだ。

 

「オレにとってのゴールは既に決まっている。それは紛うことなき『最強』だ」

 

しかし、トッポはそんな事よりも、目の前のあ(・)る(・)事(・)に注目していた。両腕が切断されたことも、クウラの言葉すらもどうでもいい。ただ目に映るのは…『線』。

クウラから真上方向から斬撃を落とした事により、自身の足元には武舞台の床に一直線の切り込みが刻まされていた。

それは、そう、それは正に…はっきりとした『線』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強さの追及に、終わりを告げる『線』など無いことは知っている。

 

ひたすらの鍛錬、技術の開発、実践、反省、そして鍛錬、開発、実践、反省…その繰り返し。

 

強き者としての責務。罪なき民を救うための戦いに、失敗と敗北は許されない。負けてしまえば、それは私が背負っている守るべきものの敗北ともなってしまうからだ。

 

修業、戦い、修業、戦い、果てしの無い生活。

私は「線」を超えたはずだ。だがもちろん誰も何も言ってはくれない。「よく線を越えたね」、などと言う者はいない。

子供の頃のままではない。今では圧倒的に父を超える強さを身に着けているだろう。

 

知っている…知っているが…

 

「線」は一体、どこにあるんだ?

 

父はもう「線を越えてこっちに来い」とは言ってくれない。

 

だが、まだまだ極めるべき強さと不可思議なことは無限に存在する。

 

それが正義だ、それこそが強さだとは言うが…私はどうしても…

 

 

私はそっちに行きたいんだ、父さん。

 

 

恐ろしい。「線」を見つけることすらできず、歳を取っていくことが。

 

悔しい。「線」を超えることすらできず、死んでゆくことが。

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、目の前に「─────(線)」がある!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が…嬉しいとでも思ったか」

 

トッポの顔は痛みに歪むことすらなく、また、クウラへの敵意に皺むこともなく。そこには、子供のような目の輝きと、微かな微笑みがあった。

 

「死ぬまで私は走り続ける。『線』など、楽に越えてな」

 

その足は力強く、目の前に走る線を踏み越える。

 

ドチュッ

 

バゴォォオオ!!

 

そして、もう拳がない腕を振り上げ、渾身の一撃を放つ。

予想だにしていなかった行動を前に、僅かに怯んだクウラの顔面へ、腕の断面を目いっぱいのパワーで叩きつけた!

 

「ぎっ…!」

 

拳がないはずなのに、想像を絶するすさまじい威力を発揮したトッポの一撃により、クウラは顔面を大きく歪ませながら水平方向にぶっ飛ばされる。

 

(オレとしたことが…見誤ったか…!だが、ヤツの破壊の防御…それを突破するもうひとつの方法がある!)

 

クウラは殴られて拉げた顔をトッポへ向けながら、潰れた両腕を掲げる。

 

ザァンッ

 

その直後、クウラを降したと思っていたトッポの目の前に、斬撃が迫る。斬撃は格子状に組み合わさり、トッポの視界全体を覆う程巨大だった。さらに、その間隔は10cm程度しかなく、逃げられる隙間もない。

 

「ぐ…うお…!!」

 

ドンッ

 

格子状の斬撃は、トッポを切ることは無かった。クウラは意図的に斬撃の鋭さを低下させ、代わりに範囲を拡大させていた。

斬撃は鈍すぎてトッポの体を切らずに、触れても破壊の力によって消滅することなく、彼をどんどんと押している。

 

(単純なことだ…ヤツの纏う破壊を上回る出力でぶつかる攻撃は防御を貫通する!)

 

トッポは抵抗に必死になるが、クウラの放つ斬撃の檻は全く緩むことなく、猛スピードで自分を武舞台端へと追い詰めてゆく。

 

(本物の破壊神相手であればこうはいかなかった…だが対する糸口は掴めた。オレはまだまだ強くなるぞ…!)

 

そして、ついにトッポは斬撃の檻ごと武舞台外へ放り出されてしまう。トッポは切られることは無かったが、既に足元の武舞台はサイコロ状に切り分けられており、足場として機能しない。

 

(私は…ここまでか。大した戦果は挙げられなかったが…ジレン…あとは頼んだ…)

 

 

 

「第11宇宙、トッポ選手…脱落となります」

 

モニターに表示されていたトッポのアイコンが消え、彼は観覧席へと送られた。

 

 

 

「クウラは…!?」

 

ビルスが武舞台上でクウラを探すと、彼は吹っ飛ばされる最中に、武舞台中央にある時間経過を示す柱に長い尻尾の先端を突き刺し、勢いを殺して停止していた。が、尻尾の半分ほどがその時の慣性によって千切れ、クウラ自身は岩盤に突っ込みその場で意識を失っていた。

 

「何とか無事だったか…」

 

 

 

「トッポ!!」

 

観覧席に現れたトッポに、ベルモッドが呼びかける。クウラに切られた腕や、諸々のダメージは全て無かったことになっており、気力を使い果たし破壊神モードも解除されている以外に目立った損傷はない。

 

「申し訳ございません、ベルモッド様…我儘の極意を使ったにも拘らず…」

 

「お前はよくやった。あとはジレンに任せろ」

 

第11宇宙の面々は、ひとり残されたジレンへと希望のこもった視線を向ける。ジレンもトッポの脱落や、同じ宇宙の選手から向けられる視線に気づき、こちらを見た。

 

 

 

が、当の本人は…

 

「全員、所詮その程度か。負け犬極まれり、だな」

 

彼らを一瞥してそう言い放ち、もう興味を向けることは無かった。ディスポを始めとした選手はジレンの突き放した態度に驚くが、トッポは仕方あるまいといった表情で静かに目を閉じた。

 

しかし、ジレンにはもう落ちた仲間を気に掛ける余裕がないのかもしれない。

 

目の前には、無言で拳を振りかぶるサザンカが迫っていたからだ。




「双亡亭壊すべし」を読み直したんですが、やはり面白いですね。
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