第576話 「キルラキル」
ビルスは、目の前で起こった出来事をどう考えても飲み込むことができずにいた。
まず、起こったことを並べてみる。
サザンカがジレンと共に場外判定の位置まで落下し、ハーツがひとり生き残ったことで第7宇宙が優勝となった。ここまではいい。
一個一個が惑星サイズに及ぶ超ドラゴンボールから超神龍が呼び出され、最優秀選手となったハーツが願いを言った。
「俺の願いは…『全王の消滅』だ」
それが問題だった。その願いを聞き取った超神龍は、容易く全王を消滅させた。足元から分解されるように霧散し、消えていった際の全王のどこか少しだけ微笑んでいるように見えた表情が忘れられない。
それと同時に起こった事は、理解の及ばぬ得体の知れない存在の顕現。理解不能なその存在は銀河を超えるサイズを誇る超神龍を握り潰し、破壊して殺した。
そしてその直後、自分とウイス、界王神を除く第7宇宙のメンバー全員がこの場から消えてしまった。
残されたのは、自分と同じく困惑しきった様子の第1、第5、第8、第12宇宙の神々らと、大神官。
「ビルス!今のは一体どういうことだ!」
「何だ今の願いは!!」
イワン、アラク、リキール、ジーンが口々に叫びながらビルスに詰め寄る。その他、12名の天使たちですら疑惑の視線をビルスへ向けている。
「し、知らん…ボクも…何が何だか…」
その中で大神官だけは、何かを考えながらここではないどこかを見つめ続けていた。
「他の宇宙を犠牲にしてまで生きようと足掻くか。それこそが宇宙生命の宿業だな」
何も存在しない、永劫に虚無が続く虚数宇宙。その闇の中で、くっきりと浮かび上がる姿たちがあった。
ひとつはエオス。人間だったカズラの身体に受肉し、こちらの世界、宇宙、星、人間全てに干渉することが可能となった。常にその体勢は上下逆さまに浮かんでおり、あらゆる法則を超越しているかのような虚ろさを醸し出している。
「どこだ…ここは?」
「何が起こってやがる?」
「…?」
誰もが困惑していた。力の大会で優勝したはずのサザンカたち第7宇宙の面々が、この何もない虚数宇宙へと召喚されていた。ブロリー、カカロット、ベジータ、クウラ、リルド、グラノラ、メルス、そしてサザンカとシロナ。だがそこにハーツの姿だけが無かった。
「ハーツさんはどこに…?」
「その業故に、お前たちは滅びるのだ」
シロナが呟くが、全方位から降りかかるようなエオスの声にかき消される。
「な、なんだお前は!?」
ブロリーの声が響く。
「…我々はエオス。全ての宇宙を護る者にして、夜明けを齎す者。全王が開いたくだらぬ催しがようやく終わったようなのでな。だが、超神龍に全王の消滅を願ったことは失敗だったな。ヤツを消すことは、全宇宙の連鎖的崩壊…『ホロフレス』を早めることに繋がるのだぞ」
「ホロ…?なんだそれ」
「これで知れ。進化し戦闘力を増幅させることしか考えないお前たち宇宙生命によって、宇宙がどのような結末を辿るのかを」
次の瞬間、エオスの体が純白に輝いたかと思うと、その場にいた全員の脳内に直接知識と光景が流れ込んできた。
「『戦闘力』とは、すなわち生命力。生命は成長し進化するにしたがってより戦闘力を発達させた。そうして増大した生命力は際限なく膨らみ続け、やがて宇宙は高い戦闘力で満たされる。するとどうなるか…宇宙そのものが生命と同調し膨張を続け、そうした複数の過剰宇宙はやがて互いに食い潰し合い、さらにそれが続けば…全ての宇宙が無に帰る。それが、『ホロフレス』だ」
高まり続けた生命力はやがて宇宙に充満し、宇宙を内側から広げ拡大させる。そうなった「過剰宇宙」同士がぶつかると食い合いながら巨大化し、その影響は他の宇宙の過剰宇宙化を促進させる。やがて全ての宇宙が連鎖的に消滅し、最後には何もなくなる。
「全王は私が生み出し、配置した抑止力。ヤツが存在する限り、大神官を始めとする天使や破壊神による統制のもと、宇宙生命はホロフレスを発生させない程度に収まっていられるのだ」
過剰宇宙はまるで生き物のように広がり、うねり、全てを喰らう。それは暴れ狂う水流のようでもあり、やがて自分自身や他の生命全てがそれに呑み込まれ、圧され潰され溶け混ざり、やがて消える。その後には、虚無ですら残されていない。形容することのできない、本当の意味で何もなくなっていた。
エオスの言葉と共に、実際にそうなって無数の宇宙は滅び去っていく様子を直接脳内に送られ見せつけられたカカロットたちは唖然とした。
あまりに途方もない光景。想像もつかない、理解が及ばない現象。
「なんだァ、今のは…こんなデタラメな映像で俺たちがビビるとでも思ってんのか?」
カカロットが開口一番にそう言い、ベジータやリルドも同調する。
「ああ、頭に来るぜ。そんなことが起こり得るはずがないだろう」
「うむ…あまりに荒唐無稽だ」
「なあブロリー!仮にそんなことになってもよ、お前や俺らがいりゃあ簡単に…」
しかし、カカロットがそう言いながらブロリーの方へ振り返った時、当のブロリーは…青ざめた表情で顔中に汗をかき、俯いたまま息を荒くしていた。
「ハァ…ハァ…!」
「どうしたんだブロリー!?」
「ハァ…ヤツの言っていることは事実だ…俺のような、気が高まり溢れ続けた者の行く末こそが…破滅なのだから…」
「どうやらその男が最もリスクの高い力を秘めているからこそ、全てを本能的に理解したようだな」
エオスの言う通り。ブロリーは無限に近いエネルギーを生涯発散し続け、それをコントロールすることで理性も肉体という器も無事に済んでいる。だが、もしもコントロールが利かなくなった時…ブロリーは己のエネルギーを膨張させ続け、やがて宇宙を飲み込み、エオスの言うホロフレスの発生を早める要因となるだろう。だからこそ、彼だけがその真実に気付いてしまった。
「しかし、それを理解しても尚滅びへと突き進もうとする哀れな者も…いるようだな」
エオスは目を細めながら、ブロリー達の背後を見る。カカロットがその方に目をやると、そこにいたのは怒りに燃えるサザンカとシロナだった。
「真実はそれだけじゃあねぇだろ!テメェがカズラの身体を奪ってやがる!ホロフレスだ?宇宙の消滅だ?そんなものは二の次だ!とりあえずテメエはカズラを返しやがれ!!」
「そうよ!」
「愚かな。一時の感情のために、全ての基盤たる宇宙を滅ぼすつもりか」
「前にも言っただろ?滅ぼしたいんじゃねぇ、ただカズラを返せって言ってんだよクサレボケ!」
「前にも言っただろう、それは叶わぬことだ。一度我々と同化した宇宙生命が元に戻ることは、無い。そもそもがお前の言うカズラという宇宙生命は、元々我々によって全宇宙のどこかに産み落とされた、受肉するための端末に過ぎない。先祖も親もいない。あるのは我々と同化するための因子のみ」
「それが…許せねえんだよ!!」
サザンカは一気に超サイヤ人5まで変身し、その体から発せられる黄金のオーラが村闇に包まれる虚無の世界を照らす。
すると、なんとこの虚無の世界には…
「なんだ…こんなにいやがったのか!?」
驚くべき光景が広がっていた。
今まで真っ黒な虚無だと思っていたが、彼らの周囲全体に、目の光がない虚ろな全王とその付き人が、無数にひしめきながらこちらを見つめていた。
「お前たちが今まで見ていた全王は、この無限に近い数、存在する端末の一つに、我々の権限を一部移譲していただけに過ぎん。だが、万物を破壊する力が無くとも…これだけの数を持つ端末相手にどう抵抗するつもりだ?」
全王と付き人達の眼が青く輝き、一斉に膨大なエネルギーを圧縮した光線が放たれる。エオスが端末と称するこの全王たちに、今まで大神官と共にいた全王が持っていた宇宙を一瞬で消し去る破壊の力は備わっていない。だが、それを運用するできるほどの巨大なエネルギーはある。
それが無限に近い数、こちらへ向けて放たれる。
「おいおい、どうすんだこれ!」
「張り切ってたけど、こんなに来るなんて!」
カカロットもシロナも、あまりの物量に完全に気圧されて狼狽えてしまう。特にシロナはサザンカと一緒にエオスへ突っ込むつもりであったが、その意志は容易く折られてしまった。
しかし、サザンカだけは
「引っ込めゴルァ!!」
拳の一振りで向かい来る光線を払い、砕き、押し返す。光線は一切彼らに届くことなく、跳ね返された先で次々に爆発し、無駄に終わった。
「な…!」
「サザンカ…!」
誰もが驚きを隠せない。
サザンカとは、これほどの力を持っていたのか、と。
「なるほど、力の大会は不殺のルール…あれでもジレンを殺さないよう手加減していたというのか」
ベジータが汗を流しながら呟いた。
「サンピン共に用はねぇっつーの!」
当然、サザンカは一撃だけで満足しない。拳を振り上げ、身に纏う黄金のオーラをさらに激しく噴出し、一気にその場から飛び出した。
円を描くように高速で旋回し、周りを分厚く埋め尽くす端末たちの群れに激突する。
「オラアァ──────ッ!!」
拳を前方へ強く突き出しながら、サザンカの体がひしめく端末の群れを破壊する。彼女が通過した後には黄金の爆発が起こり、全王たちが消滅する波動だけが残される。
そのまま瞬く間に端末たちを殲滅してゆくサザンカだが、その空白の場に新たに
(もっとだ!もっとパワーとスピードがいる!!もっとアタシに力をくれ…サイヤパワーってヤツを!!)
その瞬間、サザンカの体が内側から爆裂する。だが、弾けた肉体の下にはもうひとりのサザンカがおり、その姿は超サイヤ人5よりもまた変化していた。
体毛と頭髪が銀色に変化し、目の色は緑色のまま。しかしその身から濁流のように溢れ続ける黄金の闘気は、それが超サイヤ人の正当な系譜であることを証明する。
「ウオオオオオオオ!!」
一気にパワーが何十倍にも増大し、一瞬の通過でさっきとは比較にならない量の全王と付き人が消滅してゆく。群れの中に空いた大きな穴にもすぐに端末が補充されるが…
「全員…これでも喰らっとけ…!!」
次の瞬間、サザンカの全身から黄金の波動が発せられる。金色にも銀色に見えるエネルギーが球状に全方位へ広がり、触れた全王と付き人を残さず消し去る。
やはりすぐに群れが補充されるが、黄金の波動は維持され続け、補充された側から次々と消えていった。
「す、すげぇ…これが、サザンカの力かよ…」
「おっと」
再び唖然とするカカロットと、こちらへ飛んでくる端末の流れ弾を処理するシロナとブロリー。
全方位で小さな爆発が起こり、それが白い壁のようにあたりを包む。その中央で、サザンカはエオスがいる方向を睨みつけていた。
「…それこそが危険の種だ。最後まで足掻くことを美しいと感じ、ひたすら戦闘力だけを求めることに魅入られ、短い時間で際限なく進化する。ホロフレスが起こる時はいつもそうだった。アレは強い戦闘力に惹かれ、活動し始める…」
エオスは淡々とした様子で、しかし何か強い感情を含んだような声色でそう呟くと、その目を光らせた。
「だがそれも、永い宇宙の歴史の中で何度も繰り返された事。お前たちも数多の宇宙生命たちと同じ運命を…辿れ」
その時、その場にいた全員の体が無数に分裂し、重なり合う。体の動きと思考がズレていくような感覚がし、やがて脳内の情報が一切何にも辿り着くことなく、完結しなくなる。
「なんだ…これは…」
それはサザンカも同じで、体が動かなくなり思考さえも消えていく。
知性がある限り、生き物である限り、知性がある限り無限回に重なり合う次元を情報として観測し続けてしまい、その情報はいつまでたっても完結することは無く、次元と認識の隙間に囚われる。その隙間に放り込まれれば、思考すら無限に続いてしまうため絶対に抜け出すことは出来ない。
そう、絶対に──────
「無量元宇宙。無限に重なる次元のその狭間で、永遠の時を貪り続けるがいい!」
見せるべきは何ぞ
木で枠作って 亜麻布張った カンバス其れがあなたの世界
狭ひだろうか 小さひだろか
画面を覗けば其の奥に 続く地獄が現れる
ではではしからば私は
向かふで終はりを待っておる
やくやく紡げる 最後の章
その向かふで 手招きしながら待っておる
「なーんか、月が青いな…」
夜の公園にて、青白い月光を受けて輝く赤い瞳で夜空を見上げる少女の姿があった。
【現在公開可能な情報】
エオスと全王の関係
そもそも全王とその付き人はエオスが作り出した宇宙管理用端末で、エオスが持つ権限の一部を譲渡されており、圧倒的な破壊能力と権威を示すことで天使や破壊神、界王神を統率させるための役割がある。
なお、全王はパラレルワールドや並行世界の数だけ存在するが、エオスの存在は唯一つだけ。どれだけの並行世界があろうが、エオスはその全てを監視している。