もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第577話 「うしおととら」

「なーんか、月が青いな…」

 

夜の公園にて、青白い月光を受けて輝く赤い瞳で夜空を見上げる少女の姿があった。

 

「ずいぶん余裕かましてんな、サザンカ」

 

「お前、入学初日から俺らの後輩にガンつけてシメてくれたそうじゃねーか…そうナメた真似してくれっとどうなるかよくわからせてやるよ」

 

それを取り囲うのはガラの悪い若者たち十数人。しかしそれでもサザンカは涼しい顔をしながら目だけを彼らに向ける。

 

「おめぇらみてぇの、大好きだぜアタシは」

 

「ナメんなコラァ!」

 

ひとりの男がサザンカの挑発に乗って大声を出したのを合図とするかのように、サザンカはその男の顔面を蹴り上げた。

 

「上等だ!」

 

「ぶっ殺してやるぜ!」

 

周りの男たちも大声を出しながら一斉にサザンカに殴りかかる。サザンカは今蹴りつけた男を片腕で後ろへ放り投げ、向かってくる男たちに向かって拳を繰り出す。その拳が相手の顔面にヒットし、続けて繰り出された暴行によってサザンカを攻撃しようとした男たちは瞬く間にぶっ飛ばされる。

 

「喰らえや!」

 

隙を見たひとりがサザンカの後頭部に向かってレンガブロックを叩きつける。だが、なんと喰らったサザンカ自身はビクともせずに、逆にぶつけたレンガの方が粉々に砕け散った。手からサラサラとこぼれるレンガの欠片を目で追いながら信じられないと言った顔で唖然とする男に対し、サザンカはパッと顔だけで振り返り、不敵な笑みを向ける。

 

「おー効くねぇ。…ってか、アンタら後輩クンとやらに聞かなかったのかよ?このアタシ、サザンカ様には手を出すなってよ!」

 

その男の頭を掴み、遊具に叩きつける。後ろから迫っていた残りの連中に向かって蹴りを繰り出し、彼らはたった一振りのサザンカの攻撃を喰らっただけで盛大に吹っ飛んで頭から砂場に突っ込んだ。

それを最後に、この場に集まっていた男たちは一人残らずサザンカに叩きのめされ、彼女の周囲にみっともない恰好でのびていた。

 

「さて、と…」

 

サザンカはため息交じりにそう呟くと、倒れている男たちの懐から財布を取りだしたり、指輪やネックレスなどのアクセサリーを剥ぎ取り始める。

 

「なんでぇお前ら、身なりはキラキラしてんのに手持ちはショボいんだなぁ」

 

そう言いながらそれらを自分の懐にしまい込む。

 

「テメ…青高のサザンカ…覚えてろよ…」

 

リーダー格だった男が、うつ伏せで地に臥したまま顔だけを上げてサザンカを睨み上げた。が、サザンカは何ともないようにそれを再び踏みつける。

 

「お前らみてーな怖いヒト、忘れるわけねーだろ」

 

サザンカはそう言ったところで、ふと公園の時計に目をやる。するとその時間は20時過ぎを指しており、サザンカはぎょっとして青ざめた。

 

「ヤバッ、もうこんな時間かよ!またなアンタら!」

 

「やだよ…」

 

サザンカは慌てて公園を飛び出し、街灯に照らされた夜の道を走る。春の風が正面から吹き付け、ちっとも汗をかかない体を撫でていった。

 

「よう、サザンカ」

 

そして、横から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえ、立ち止まる。

 

「カ、カズラ…!」

 

サザンカは顔を真っ赤にしながら自分を読んだ人物の名前を呟き、小走りで駆け寄った。

だが、カズラは一歩後ろへ引き、サザンカの肩に手を置いた。

 

「今日もたんまりかっぱらえたか?」

 

そしてそう言いながらもう片方の手を差し出す。

 

「あ…うん。たんまりかどうかは分からねーけど…」

 

サザンカはスカートのポケットからさっき公園で不良から奪った札やアクセサリーを取り出し、カズラの手に置いた。

それを見たカズラは一度だけ眉をピクリとさせ、何か言いたげに口元を歪めたが、すぐににやけた笑みを浮かべる。

 

「ありがとよサザンカ。やっぱお前はスゲーや。次もよろしく頼むぜ」

 

「…うん。あの、それとなカズラ…お前今日も弁当買って帰るんなら、晩飯ウチで食べていかないか?」

 

サザンカはカズラの腕の裾をつまみながら、勇気を振り絞ってそう言った。

しかし…

 

「あー、いいや。俺はもう帰る。じゃあな」

 

「…うん、じゃあね」

 

カズラはそれを振り払い、そのまま反対方向へと早歩きで去っていった。

取り残されたサザンカはそれを見送り、下を向きながらゆっくり歩く。

いくもの街灯の下をくぐり、土手沿いの道や住宅街を歩き、工場地帯の中を歩き、そしてやっと自宅へたどり着く。

 

「悪い、遅くなった!」

 

「おかえりサザンカ」

 

サザンカを出迎えたのは母親である博麗霊夢。台所で食器を洗っており、その後ろのダイニングにはカカロットとシロナが膨れた腹を撫でながらくつろいでいた。

 

「遅かったな、先食っちまったぞ」

 

「えへへ、入学式よかったよー」

 

カカロットとシロナはそれぞれそう言うと、サザンカに笑いかけた。

 

「さ、ちゃっちゃと食べちゃいなさい。今日のは美味しいわよ」

 

そう言いながら霊夢は机の上にサザンカの夕食を並べた。

 

「これこれ。作ったのは私で、アンタは盛っただけでしょーが」

 

と、いつの間にか霊夢の後ろへ立っていたブルマが、霊夢の後頭部をチョップで小突いた。霊夢はてへっ、と笑い、ブルマが呆れたように息を吐く。

 

「ていうか、アンタたち一家はいつまで居候するつもりよ?幻想郷が無くなったのは分かるけど、それから何年経ったと思ってるのよ」

 

「ごめーん。でも、ブルマさん家広いんだからいいじゃない」

 

「…ま、いいけどね」

 

ブルマは仕方ないと言った様子でそう言った。

 

 

ここは幸せな世界。サザンカの家族が一堂に暮らし、彼女の望みだけが存在する世界。その幸せに満ちた世界で、サザンカは充足を噛み締める。

 

だが、何故だろう。心のどこかに…一縷の違和感があることを拭い切れなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「速報です。現在、サタンシティ銀行が武装集団により占拠されています。中にいた従業員及び利用客が今も人質として囚われており、機動隊員による懸命な…」

 

長閑な昼間、世界有数の規模を誇るサタンシティ銀行に強盗が押し入り、人質を取って立て籠もっていた。

警察や機動隊が犯人に人質を解放するよう呼びかけるが、強盗達は返事代わりに窓の隙間から銃を乱射してきた。

 

ドドドドド…

 

「くうっ、何も手出しできんな…!」

 

警察も手を焼いており、打つ手がないかに思われた。

だがその時、彼らの後ろに巨大な人影が歩み寄る。

 

「すまない、遅くなった」

 

その人影がやってきた途端、他の機動隊員たちに希望の笑みが浮かぶ。

 

「おお…来てくれたぞ…」

 

「ブロリーさんが来たぞォ!!」

 

ブロリーは押し殺した歓声を受けながらも、じっくりと銀行を見据え、握っていた手を開く。手の中には小さなエネルギー弾がひとつだけ浮かんでおり、ブロリーはそれを指で弾いて飛ばした。

 

ギュオッ ビィィィィィ…

 

エネルギー弾は何十本に枝分かれしながら光線となって飛んでいき、その一本一本が独立した軌道となって銀行の入り口や窓から侵入する。

 

ドォン!ドォン!

 

「ぐわあ!」

 

「なんじゃこりゃあ!」

 

内部から小さな爆発音が何度も響き、犯人たちのものと思われる野太い悲鳴が聞こえてくる。

 

「…よし、終わった。行ってくれ」

 

「今だ!突入せよ!!」

 

ブロリーの言葉を聞いた機動隊員たちは一気に銀行の中へ突入する。しばらくして、犯人の武装集団全員が拘束され、連行されてきた。

 

「犯人確保、人質も無事に保護しました!」

 

こうして、事件は無事に終わった。

 

「しかしブロリー、お前の力は大したものだ。たった一撃で、犯人共の武器だけを破壊するとは。凄まじいコントロールだ」

 

「ふっ…簡単なことだ。また何かあれば頼ってくれ」

 

 

大切な者たちが誰も死なず、自分のこの力を誰もが認めてくれる理想の世界。そこで、ブロリーは得も言えぬ充足感に満たされていた。

 

 

 

 

 

他の者たちも同様だった。

 

カカロットは仲間たちといつまでも平和に暮らしながら修行を続け、

 

ベジータはサイヤ人の王として君臨し、

 

クウラは宇宙最強の座に居座り、

 

メルスは人間として、草原に建つ家の前で畑仕事をし、

 

リルドは民が暮らす平和な惑星M2で自ら町で工事を行い、

 

グラノラはシリアル人の友人たちと学校で遊んでいる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…これは…」

 

やっとサザンカやブロリーたちの前に姿を現したハーツであったが、虚ろな表情で放心したように、ただ宙をふわふわ浮かんでいる彼らを見て訝しんだ。

 

「彼らは皆、無限に重なる可能性の中から最も理想とする並行世界の狭間に囚われている。認識した瞬間に無数に枝分かれし発生する宇宙の連鎖からは、生命である限り抜け出す事能わず」

 

そして、彼の背後に現れたエオスは静かにそう言った。

 

「貴様…エオスか」

 

「そうだ。久しぶりだな、ハーツ」

 

エオスはハーツの存在を昔から知っているかのような口ぶりでそう言った。

 

「こっちこそ、1億年ぶりに会えたな。やはり全王を殺すことが近道で間違いなかったな」

 

「ああ…我々の因子を持って生まれた君に受肉し損なって1億年…その間、我々は全王を通じてしか宇宙に干渉することが出来なかった。だが、現在の因子を持つ人間には容易く受肉できた。よって…これより、1億年の間に繁茂した宇宙生命をあるべき形に整え、長く続いた暗黒に夜明けを齎す時が来たのだ」

 

「まだそんな事を言っているのか。幾億の宇宙が貴様の言うホロフレスとやらで滅んだのだとしても、必ず宇宙は、生命は生存の道を見つける。わざわざ貴様が手を出さずともな」《/color》《/bgcolor》

 

「かもしれないな。しかし、その確証がどこにある?たとえほんの僅かでも全ての宇宙が滅び去る要因と確率があるのなら我々はそれを必ず潰す。既に最適化を終えた宇宙にはその必要はないが、力の大会によって最適化の済んでいない宇宙は消え去り、残る第7宇宙もホロフレスの原因となり得る過剰な戦闘力を持つ生命は無量元宇宙に囚われ無力化されている。そして君も…1億年間そうしていたように逃げ隠れていればいいものを…わざわざ消え去りに来たというわけだ」

 

エオスはハーツに指先を向け、そこに白い光が灯る。それを正面から睨むように見ていたハーツだが、ゆっくりと口を開く。

 

「しかしご丁寧な事だな。いや、丁寧すぎると言ってもいい」

 

「ん…?」

 

首をかしげるエオスは少し指先を下げ、それを見たハーツもさらに語り始める。

 

「受肉して宇宙のあらゆる事象に干渉できるようになった貴様の力があれば、わざわざ力の大会が終わるまで待たなくても、俺たちを問答無用で消すこともできたはずだ。それをこんな回りくどい方法で追い詰めていくのはなぜだ?」

 

「ああ…そういうことか。我々としてもそれは容易い。しかし、君たちの中にいくつかのイレギュラーの存在を察知し、それの調査を行うことにした。計画に穴があっては台無しだからな。消滅させてしまえばその正体も掴めない…よって、無量元宇宙を使い無力化し、後でじっくりと調べることにしたのだよ」

 

エオスはもう一度指先を掲げ、今度こそハーツに向けて白い光を放とうとする。

 

「さらばだ」

 

だがその時、ハーツは体内に隠していた小さな重力キューブを口内へ移動させていた。エオスがそれに気付いたのも束の間、ハーツはそのキューブを嚙み潰した。

キューブの中には赤く光る球体とそれを取り囲う結晶体のような物体が凝縮して入っており、その物体もハーツが噛み潰したことで彼に吸収された。

 

ドクンッ

 

直後、ハーツの全身が眩い光に包まれる。光は彼自身の脈動に合わせて大きくなり、やがて収まってくるとその中心にいたハーツが姿を現す。

 

「ほう…やはりイレギュラーの正体はソレだったか」

 

背中からは嚙み砕いた物体と同じ結晶体が何本も生え、さらにその結晶体の間には青や緑色の球体が浮かび、それらに囲まれた中央には高エネルギーを秘めた赤い球体が浮かんでいる。

超ハーツのように髪の毛のみならず、その全身が黄色く輝き、纏うオーラは神々しい純白となって闇を照らしている。

 

「なるほど、“宇宙の種”。今までそれを取りに行っていたということか」

 

これがハーツの最終兵器。宇宙の種は文字通り宇宙の元となるエネルギーを秘めた物体であり、これが長い時間かけてエネルギーを蓄えると発芽し宇宙へと成長する。

ハーツは究極ドラゴンボールをいろいろな宇宙へばら撒き、サザンカやシロナを各地で戦わせることでその戦闘エネルギーを宇宙の種へ注ぎ込み続けた。そして力の大会での大激闘で発生した戦闘エネルギーも取り込ませ、発芽寸前となった宇宙の種を吸収し究極の力を得たのだ。

 

「愚かな行為だ…君を仲間と信頼していた第7宇宙の生命どもは、ただ君に利用されていたと知ってどんな顔をするかな」

 

「…貴様にそこを気にする情があったとは驚きだ。…なに、構いはしないさ…俺は貴様の探索を逃れるため、時には囚人として捕まり、ある時は自殺しあの世へも潜伏した。そうやって苦汁を飲みながら1億年も耐え凌いだのは…全てこの時のためだ。全王を殺すことなど足がかりに過ぎない…俺の目的は最初から決まっているんだ、この宇宙の人間の可能性を封じ込めておきながらそれを夜明けだ何だと勝手に宣う貴様の討伐だ!」

 

ハーツは背中に露出した宇宙の種から来る凄まじい気を放出する。力の奔流は一瞬でエオスを飲み込み、その場所を通過してはるか彼方へと伸びてゆく。

だが、その中から平然と現れたエオスはスーっと横移動し、ハーツを眺める。

 

「貴様は確かに神だ」

 

ハーツの怒気を含んだ声がエオスに向けられる。

 

「人間が神を傷つけられないように、神もまた人間を傷つけられない。神などと聞けば絶対的な存在を思い浮かべるだろうが、遠い次元に居り思いを馳せることしかできない神が、どうやって下の次元を這いずる人間を害せる?神が人を直接害するには、神(・)の(・)次(・)元(・)か(・)ら(・)人(・)の(・)次(・)元(・)へ(・)と(・)下(・)ら(・)な(・)く(・)ち(・)ゃ(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。それがすなわち『受肉』。ふふ…人を害しようにも人がいなければならないとは皮肉なものだが、近い次元にいるのなら人も神を殺せる。“戦闘力”は人と神を隔てる次元さえ飛び越える!」

 

纏う純白のオーラが激しく波打ち、周囲の闇を一瞬で光に塗り替える。その中で孤立したエオスは、既に囲まれていると理解した。

 

「これが究極の神殺しの力だ!」

 

全力の重力場を生成し、圧縮したキューブの中にエオスを閉じ込める。内部にかかるとてつもない超重力と超加圧によってエオスの姿が歪む。

 

「…!」

 

確かにエオスが怯んだのを見逃さず、ハーツはキューブを極小サイズにまで縮めてしまう。そして、右手の指をパチンと鳴らすと、小さな光の粒ほどになったキューブが爆ぜた。黄色、白、青、緑、赤、さまざまな色の爆炎と煙を噴き上げながら、まるでビッグバンかと見紛うような炸裂が巻き起こった。

 

「…人間は自由だ」

 

ハーツは小さく呟きながら、眼下で広がる爆発を眺めていた。

 

「無駄な行為だな」

 

だが、再びハーツの真後ろで声が聞こえ、驚いて振り返るとそこには平然としているエオスがいた。

 

「君に我々は倒せない。確かに遠い目で見れば近かろうと、拡大すればまた次元は離れるぞ」

 

再び周囲は闇に覆われ、その中でエオスの指先に灯る白い光だけがくっきりとコントラストのように映り込む。宇宙の種のエネルギーによって得た不死身さえ滅する神殺しが効かないことに狼狽えるハーツ。

 

「…ん?」

 

しかし、またしてもエオスはどこか別の場所に顔を向け、頭を傾げた。ハーツも思わずその方向を見ると…

 

「ウラウラウラウラウラウラ…!!」

 

突然飛んできた無数の拳の連打がエオスに浴びせられ、エオスはその体を煙のように散らしていった。

 

「…シロナ君か!」

 

「変な夢見た~。でも、夢ってのはいつか覚めるもんだからね」

 

 




ごちゃごちゃ言ってますが天元突破グレンラガンの多元宇宙迷宮と同じ感じです。
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