もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第6話 「カカロットの大変身」

その日から、カカロットは己の身の鍛錬を始めた。鉄棒のような物を設置し、そこに足の指だけを引っ掻けてぶら下がりながらの上体起こしと背筋トレーニング、そしてケンスイをこなす。

雨の日も、風の日も…妹紅のもとで習った基礎鍛錬を思い出すように繰り返す。その様子を、聖と一輪や村紗たちがじっと眺めていた。村紗は何か気に入ら無さそうな表情を浮かべているが、聖は真剣な顔でカカロットの潜在能力を見極めていた。

 

「むむむ…」

 

そして、遠くからカカロットを見ていた者がもう1人。そう、霊夢である。

 

 

「今日から、私が貴方に直接修行を付けて差し上げます」

 

1人でいつものように鍛錬をしていたカカロットの元へ現れた聖がそう言った。

 

「やっとか…待ちわびたぞ」

 

カカロットはかなり高い所に設置した鉄棒から手を放し、地面へ着地する。

 

「まずは、体内エネルギーを自在にコントロールする術をお教えしたいのですが…その前に」

 

聖はそう言うと、寺の屋根の上を指差した。カカロットはハテナマークを頭に浮かべる。

そう、その先には隠れていつも様子を窺っていた霊夢が居たのである。寺の屋根の影に隠れていたのだ。

 

「うそ、完全に気配を消してたハズなのに」

 

霊夢は驚いた。聖の目線は明らかに自分を見据えていた。恐らく、この数日間、毎日ここでカカロットを見ていたのも、彼女には気付かれていたのだろう…。

しぶしぶ降りてきた霊夢を見て、カカロットは声を上げた。

 

「お前は博麗霊夢!!いつからそこに居た!?」

 

「悪いけど、アンタがここに来た時からよ」

 

「何だと!何が目的だ?」

 

「どうせ前に言ってた私を倒すだか何だかの為に特訓してたんでしょ?人の力を借りてまでして…だからアンタが本当に私を超えられるのか見てたのよ」

 

「貴様、ぶち殺してやる!!」

 

挑発の色を込めて発言した霊夢に対して、カカロットが怒りをあらわにする。そして霊夢が身構え、カカロットは飛びかかろうと体勢を変えた。

その瞬間、二人の間に聖が割って入った。

 

「そう、それです。どうやら、カカロットが私に修行を乞うた理由は霊夢にある様子。ならば…二人がここで戦ってみなさい」

 

「な、それはどういう…?」

 

突然の聖の言葉に、霊夢も困惑を隠せなかった。

 

「カカロットが霊夢に対する邪悪な心を持っていては、この先己を高める事などできるはずがありません。まずは互いで勝負し、己が今どんな状態にあるのかを理解するのです」

 

「いいだろう。この俺が、この場で貴様を殺してやる!」

 

「あら、仏教は不殺じゃなかったの?」

 

もう一度、両者は構えた。次の瞬間、火花が散った。

カカロットの一撃が、完全に霊夢を捉えていた。両手を合わせた拳が、霊夢の頬に命中していたのだ。霊夢は後ろへよろめき、痛む箇所を抑えた。

 

「どうだ…!これが俺の修行の成果だ!」

 

「ぐっ…だけど、これならどうかしら!」

 

霊夢は一気に全身の霊力を放出した。赤いオーラを纏い、以前のような100もの戦闘力を発現させている。

宙に浮かび、一瞬でカカロットとの距離を詰めると、強烈な攻撃を連続して放つ。しかし、この1か月間で高まったカカロットの実力は、霊夢の攻撃の連打を全て躱すことに成功していたのだ。

前とは明らかに違う。前は次元の違いを見せつけられてしまったが、今はまだ戦闘力で劣るとはいえ確実に同次元へと至っていたのである。

 

「どりゃああ!!」

 

カカロットの蹴りが霊夢の腹に当たった。だが霊夢も負けじと、カカロットの顎を蹴り上げる。血が口から流れ出し、地面へ垂れた。その後も二人の猛攻と防御の応酬が続く。互いに譲らず、その白熱する試合は徐々に寺の住民たちを呼び寄せ、見入らせていた。

 

「アイツ、あんなに強かったのか…」

 

戦いを見ていた村紗が、霊夢とほぼ対等に戦っているカカロットを見て唖然としていた。

霊夢の手刀を躱したカカロットが、その尻尾を彼女の腕に巻き付けた。

 

「しまった、そんな手が…!」

 

「もらった!」

 

尻尾で霊夢を引き寄せると同時に、両足でのドロップキックをお見舞いした。

霊夢は後ろへ倒れ込み、ハァハァと息を切らしている。

 

「ぜぇ…ぜぇ…どうだ…」

 

「…ふん!」

 

しかし、突然起き上がった霊夢は、カカロットの尻尾を掴んだ。この尻尾はこっちが掴んでしまえば、逆に的とも成り得る筈だ。

 

「な…あ…が…」

 

効果はてきめん…いや、それ以上だった。尻尾を握られたカカロットは力が抜けたようにヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

 

「力が、抜け…る…!」

 

「何だかわからないけど、ラッキー!」

 

霊夢は尻尾を掴んだままカカロットを持ち上げると、それを振り回し、投げ飛ばす。カカロットは門のそばの塀に激突し、その破片に埋もれてしまった。

 

「多少は強くなったようだけど、まだまだね…」

 

霊夢は勝ち誇ったようにそう言った。

いつの間にか日が暮れて周囲は真っ暗になっており、真ん丸なお月さまの光が輝いている。

 

「そういえば、今日は満月か…。早く帰ってお酒の用意をしなくちゃ」

 

一方、満身創痍のカカロットは、天空に輝く月をじっと眺めていた。変だ…月を見ていると、何故だか頭がボーッとしてくる…。

その瞬間、こちらに歩み寄ってくる霊夢の気配を感じて我に返った。素早く起き上がり、横へ飛んで構える。

 

「このくらいで俺を倒せると思うなよ!」

 

カカロットは再び霊夢に飛びかかり、手刀による一撃を放った。しかし、霊夢はそれを軽く避けると、一気に空中へ浮かび上がった。両手を上へ掲げ、そこへ光の弾を生成し始めた。

 

「くっ…!?」

 

その時だった。霊夢の背後に映る大きな満月が、カカロットの視界に収まった。

 

「ん?」

 

霊夢は急に立ったまま動かなくなったカカロットを見て不思議に思った。まるで、カカロット本人が心臓そのものであるかのように、ドクドクと鼓動のリズムに合わせて体を震わせていた。

次の瞬間、カカロットの眼が真っ赤に染まり、その身体が巨大に膨れ上がった。髪はさらに逆立ち、着ていた服を破ってその身体は巨大化していくではないか。

 

「な…!」

 

霊夢や聖、見ていた寺の者たちも突然訪れたカカロットの変調に驚きを隠せなかった。

カカロットの顔の形が変わり、口と顎が獣のように突き出た。そして全身からは黒い剛毛が生え、月に照らされて不気味に変貌を遂げ終えた。

 

「巨大…猿…」

 

なんと、満月を見たカカロットは5メートルを超えようかという大きさの巨大猿に変身してしまった!

 

「グオオ────ッ!!!」

 

腕を振り上げて雄叫びを上げると、胸をドラミングのようにドンドンと叩く。そして門と塀を踏みつぶし、目の前に浮かんでいる霊夢の方を向いた。

 

「そうか…やっぱり北部を襲った巨大猿は、カカロット…アンタだったのね」

 

「オオオオオオ!!!」

 

巨大な拳を霊夢へ向けて叩きつけようと繰り出した。巨体に見合わないスピード…いや、今の方が格段にパワーもスピードも上がっていた攻撃を、霊夢は間一髪で霊力を込めた腕で防いだ。

 

「なんて…威力!」

 

しかし、あまりの衝撃を殺しきれずに霊夢は吹き飛んでしまう。

 

「聖!この騒ぎは何ですか!」

 

変貌したカカロットを見上げていた聖のもとに、同じく寺の住民である寅丸星がやって来た。

 

「カカロットが満月を見た途端に大猿に変身したのです…」

 

「あの子が…?」

 

「グルルルル…」

 

カカロットは強靭な脚力で飛び跳ねると、命蓮寺の屋根の上に思い切りを足を乗せ、一気に体重をかけた。結果、寺はバキバキと爆発のような音を立てながらペシャンコに潰れてしまった!

 

「ああ、寺が!」

 

星が頭を抱えながらそう声を上げた。

 

「…止むを得ません」

 

聖はそう言うと、着ていた黒いドレスを脱ぎ捨てた。そして足を開き、気合を込めるような仕草を取った。すると、この間スカウターに135という数値を表示させた時よりもさらに強大な魔力を纏ったではないか。

 

「カカロット!私が相手よ!!」

 

「…ガア!!」

 

聖がそう叫ぶと、それに反応したカカロットが襲い掛かった。腕を叩きつけるように聖へと向けるのだった。

が、聖は霊夢でさえも受けきれなかった一撃を受け止めた。…が、身体強化の魔法を使用した聖でさえも、その足が大きく地面へめり込んでしまう。

 

「ぬぐぐ…」

 

その時、先ほど吹き飛ばされていた霊夢が、カカロットの背後へ回っていた。聖へと意識が向いているカカロットは、まだ霊夢の存在に気付いてはいない。

 

「そうだわ…弱点が前と同じかどうか、たしかめてやる!」

 

霊夢はそう言うと、振り回されているカカロットの尻尾に抱きかかえるようにしてしがみ付いた。すると、カカロットは先ほど、霊夢に尻尾を握られた時のようにヘナヘナと力なくしゃがみ込んでしまう。どうやら、尻尾を握られてると力が抜けてしまうのは、大きくなっても共通らしい。

 

「今だわ、尻尾を斬ってしまえば…!」

 

聖は覆いかぶさっていた大きな足を払いのけると、右手に法力で生成した黄金の独鈷を思い切り投げた。ブーメランのように回転するそれは威力や鋭さと相まって、いとも簡単にカカロットの尻尾を切断してしまった。

 

「グアアアア…!!」

 

痛がる様子を見せたカカロットはどんどんと縮んでいく。全身を覆っていた黒い体毛が薄くなり、面影の無くなっていた顔は徐々に以前のものに戻り、やがて完全に元に戻ってしまった。

 

「とんでもない奴だったわね…」

 

霊夢はメチャクチャに破壊された命蓮寺を見てそう言った。一方、カカロットは何ともないような顔で眠ったままだ。

 

「コラ、起きなさい!」

 

「…ンガ、あれ…俺は…?」

 

起こされたカカロットは寝ぼけたような顔で呟いた。そして辺りを見渡し、破壊された寺を見て驚いた。

 

「うわ、何があったんだ!?」

 

「とぼけないでよ、アンタが巨大猿に変身してやったんでしょ」

 

「俺が?これを…」

 

「そうよ、アンタ覚えてないの?満月を見た途端に巨大猿に変身して、そりゃもう酷い暴れようだったんだから」

 

カカロットはいつの間にか霊夢の服がボロボロになり、かなり疲弊しているのに気づいた。

 

「ああ…そうか、俺は満月を見て変身したんだな。くっくっく、そうだ!俺が巨大猿の力をコントロールできるようになれば、無敵だ。俺は最強になれるんだな!」

 

「残念ながら、それは厳しいでしょう」

 

その時、後ろから声がしてカカロットは振り返った。そこには聖白蓮がおり、服についた汚れをはらっていた。横には弟子の妖怪たちが数名付き添っている。

 

「聖白蓮…」

 

立ち上がろうとするカカロットだが、何故かよろめいてしまう。

 

「何だ…上手く立てん…」

 

「尻尾が無くなったのでバランスが取りにくくなったのでしょう。貴方はもう大猿に変化することはできないかもしれませんよ」

 

「あっ!俺の尻尾が無い!」

 

「現に、もう満月を見ても何も感じないでしょう?」

 

「ぐぬぬ…これでようやく俺が最強になれるとおもったのに!」

 

 

「…もう怒らせないようにしようっと…」

 

聖の影に隠れるようにして、村紗と一輪はそう小さな声で話したのだった。

 

…はてさて、修行の場である命蓮寺はメチャクチャに破壊されてしまったが…

この先、どうなるのだろうか…!

 

 

 

☆キャラクター戦闘力紹介☆

参考

一般成人男性 5

一般成人女性 4

子供(10歳) 2

ミスター・サタン 6.66

一般的に超人と呼ばれるレベル 7~8以上

 

霊夢 20(平常時)→100(霊力開放 本気)

聖白蓮 135(通常)→162(魔法による身体強化)

 

霊夢は以前と変わらず。

聖は通常時の135から、魔法による身体強化を行うことで亀仙人MAXパワー(通常時から1.2倍)と同率のパワーアップをすることができる。

 

 

カカロット 60(通常)→600(大猿化)→55(尻尾を失い弱体化)

 

ここ数日でのトレーニングで戦闘力は58から60へアップ。確実に霊夢との差を縮めてはいるが、まだ追いつくことはできない。

だが、大猿へと変貌を遂げることでその場にいた全ての者をはるかに凌駕する数値へとなる。原作のベジータの言から、大猿化は通常の10倍のパワーアップ。それに乗っ取ると、現時点の大猿カカロットの戦闘力は600にも上がる。

しかし、尻尾を斬られてしまった事でバランスを取ることが難しくなり、結果としてわずかに弱体化してしまった。


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