もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第63話 「天の窓から見てるから」

「ふっふっふ…さしずめ、”武道をおぼえた獣”といったところか…しかし、やはりその図体では俺様と満足に戦えはしないはずだ!」

 

月夜見王は全身に黄金のオーラを纏い、周囲に気で作った無数の剣や槍などの武器を展開させながらカカロットへ突撃を仕掛ける。キリモミ状に回転しながら飛び、カカロットの死角からぶつかろうとする。

 

「右よ!」

 

ビュン

 

だがそれに気付いていた霊夢はそう叫び、それに反応したカカロットが自らの右側へ向けてパンチを打つ。拳は月夜見王にぶつかり、数メートル後ろへ弾き飛ばされる。

 

「くっ…」

 

しかし、態勢を立て直すとなおも同様に攻撃を仕掛ける。

 

「後ろよ!」

 

カカロットは後ろへ裏拳を繰り出し、月夜見王を狙う。が間一髪でそれを避ける月夜見王。

がそれもつかの間、伸びてきたカカロットの腕に掴まった!

 

「し、しまっ…!」

 

大きな手に握られた月夜見王はそこから脱しようともがく。だがカカロットの力は緩まず、そのまま彼をギリギリと握りつぶしてしまうかの如く力を込める。

 

「ぐ…うぐ…」

 

うめきながら抵抗する月夜見王。辛うじて動かせる右腕でカカロットの拳を叩くが、まったくそれを意に留めてはくれなかった。

 

「やったわ、このままトドメを…!」

 

それに応じたカカロットが口元に気を溜め始める。先ほどの口からの火炎放射のように、今度は口からの気功波を放って今度こそ月夜見王を完全に消滅させるつもりだ。

 

(く、クソ…この俺がこんな地上の汚らわしいケダモノ如きに…!…まさか、聖なる完璧な世界である我が月が、コイツに力を与えてしまったというのか…!!)

 

そう思いながら、カカロットの背後に浮かぶ大満月を視界におさめる月夜見王。

 

(ヤツが本当にあの悪名高いサイヤ人とするならば、満月によりヤツは力を得た…何たる屈辱か!)

 

その間にも、カカロットの口にはエネルギーが溜まっていく。流石の月夜見王も、これを喰らっては消滅してしまうだろう。

恐怖、焦り、屈辱…その他数々の感情が月夜見王の中でせめぎ合い、たった数秒後、この状況から彼が生きる場合の唯一の手段をとる。

 

「俺は最強の月夜見王だ…貴様らのような下賤な野郎どもに負けるくらいならッ!!」

 

叫ぶ月夜見王…次の瞬間、伸ばした右腕からカカロットの背後に浮かぶ月目がけて、一発の渾身のエネルギー波を放った。咄嗟に顔を傾けて避けるカカロット。

猛スピードで真っすぐに飛んでいくエネルギー波に、霊夢とカカロットは気を取られてそちらを見つめる。その隙に手の中から脱した月夜見王もその方向を見た。

そして、数秒経ってからあたりを静寂が包み、やがて月を中心にとてつもない爆発と衝撃、そして音が響き渡った。閃光があたりを照らし、その光景を三人はただ眺めていた。

 

「まさか…月夜見王のヤツ、自分の住処の月を…消すなんて…!」

 

光と爆発が収まると、今まで輝く満月が浮かんでいた通路の空には、何もなくなっていた。あるのは星雲のように光る赤い炎と、星の爆発の跡だけだった。

 

「ガ…!!」

 

その時、カカロットに異変が訪れる。大猿化の源である満月を破壊されたことにより、大猿化が保てなくなっていた。

カカロットはどんどんと縮んでいき、体を覆っていた毛が薄くなっていく。やがて元のカカロットに戻ると、力を使い果たしてしまったのか力なく下へと落下していく。

 

「いけない!」

 

霊夢は慌ててそれを受け止めると、持ってきたカカロットの服を体に被せた。

 

「…すまねぇな…まさかヤツが月を破壊するとは思わなかったぜ…」

 

「仕方ないわ…それだけ月夜見は焦ってたんだわ。自分の命と月を天秤にかけた結果、自分の命を選んでしまった…でもこれでツキノカクも消滅して永琳たちを連れ帰る理由は無くなったってことよ」

 

「…そう、だな…」

 

近くには、前に聖輦船がガロミの陣を突破した際にここまで飛び散って来たと思われる戦艦の残骸が浮かんでいた。

霊夢はそこまで飛んでいき、カカロットを寝かせて自分もそこに降り立った。

 

「いてて…」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫じゃねぇかもな」

 

「じゃあ…私が戦ってくるから…ここで待っててね」

 

「お前こそそれで大丈夫か?」

 

「わからない…けど、頑張るしかないよ」

 

その時、霊夢はふと上を見上げた。カカロットもそれにつられて上を見る。

そこにあるのは、まるで宇宙空間にいるかのような満天の星空だった。黒いカーテンに光のダイヤモンドが無数に輝いている。

 

「星が綺麗ね」

 

「そうか…?」

 

「そう思うわ。星だけど…月が無いから」

 

「月だったらどうなるってんだ?」

 

「…わかるでしょ?」

 

「おいおい、変な事言うのはやめてくれ」

 

「でもいいじゃない」

 

「…ひどく酔った勇儀が昔言ってた。天の星ってのは一つ一つが窓になってて、お偉いさんがそこから俺たちを見てるらしい。だから、俺たちはソイツらにしみったれた姿を見せてちゃいけねーんだとよ」

 

「アイツが随分詩的な事言うじゃない」

 

「そん時は空に浮かぶ星なんて見た事もなかったんで何も思わなかったが…きっと今の事なんだろうな」

 

「…じゃあ、今度は私の番ね。アンタは十分頑張ったから、今度は私が天から見てるお偉いさんをガッカリさせないように頑張ってくるわ」

 

霊夢は立ち上がると、キッと遠くを見つめた。

 

「お、おい…」

 

「大丈夫。だからここで待ってて、必ず戻るから」

 

 

 

 

 

「…」

 

一方、ただその場で立ち尽くし、今まで月があった場所を眺める月夜見王。月を破壊するのと同時に、都へ送り返されて行った兵士たち、都の一般住民…月にあったあらゆるものを”この手で”失った。

放心したような様子であったが、ふと我に返り、拳を握りしめる。

 

「…我が月が滅んだ…もう何もかも残っていない…。いや…俺にはもうあの子しか残っておらんのだ、あの子との失われた時を取り戻すには、今となっても八意!!貴様の身だけがどうしても必要なのだ!!」

 

全身から黄金の気を解き放つと、通路の出口目指して飛び立った。

 

「行かせないわ!」

 

その時、月夜見王の前に霊夢が立ちふさがる。思わず足を止め、怒りをあらわにして叫ぶ。

 

「また貴様か博麗霊夢!!いったい何度俺の邪魔をすれば気がすむのだ!!」

 

「まだ永琳たちに執着するつもり?もう月と共にツキノカクも消えたはず…一体何が、アンタをそこまで動かすのよ?」

 

「黙れ!お前に話したところで理解はできないはずだ!」

 

「そう…だったら、戦うしかないようね」

 

霊夢は全身から赤いオーラを放って霊力を解放する。

 

「ならば殺してやるぞ博麗霊夢!うおおおお!!」

 

怒る月夜見王は怒号を上げながら霊夢に襲い掛かる。霊夢は月夜見王のパンチをかわし、続いて放たれた蹴りに対して自身も蹴りを繰り出し、足と足をぶつけ合う。

両者の間にスパークが飛び交い、同時に後ろへ下がる。

 

「喰らいなさい、『夢想封印』!!」

 

霊夢は周囲に色とりどりの気弾を作り出し、それを一斉に月夜見王へ向けて放った。

 

「甘いわ、小娘が!」

 

それを全て殴ってはじき返し、霊夢の目の前に接近した月夜見王は腕を振るい、霊夢の胸を打った。よろめく彼女の頭を掴み、膝で顔面に蹴りを叩きこむと上空へ投げ飛ばした。

 

「吹っ飛べ!」

 

霊夢へ向けて一発のエネルギー弾をはなつ。寸前で態勢を立て直した霊夢は間一髪でそれを躱し、両掌から気功波を撃った。

しかし、やはり月夜見王はそれを防ぐと、一瞬にして霊夢との距離を詰め、腹に拳をめり込ませる。

 

「うぐ…が…!」

 

思わず霊夢は唾を吐き出し、前のめりになってしまう。月夜見王はにやりと笑うと、霊夢に対して無数の打撃の連打を叩きこんだ。

 

「ぐ…!!」

 

「はははは!どうした?やはり貴様はその程度だったのか!」

 

抵抗しようとするも、やはり今の月夜見王と霊夢には圧倒的な差があると言えた。霊夢は血にまみれながら、息も絶え絶えの状態で吹っ飛ばされていく。

 

(く、くそ…やっぱり歯が立たない…!このままじゃ…)

 

「このまま殴り殺してやる、死ねい!!!」

 

拳を大きく振りかぶる月夜見王。一方、霊夢はうなだれたまま動こうとしない。

そしてパンチが霊夢に命中する寸前、不意に霊夢が腕を前に出し、しっかりとその一撃を受け止めた。

 

「な、なに!?」

 

バラララ…

 

霊夢の頭髪の一部が、まるで静電気を帯びたかのように真上に逆立っていく。わずかに上げた顔では目を固く閉じており、全身から今までの赤いオーラに混じって青いオーラも噴き出している。

 

「うるせぇこのドサンピン!!」

 

怒気を含めた荒々しい言葉を投げかける霊夢は、異形の風貌を醸し出していた…。

 

 




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