彼は心の奥底に潜む悪の心を体から追い出すことに成功した。
心なしか体が軽くなった気がするが…。
「これが私に眠っていた悪の心…そうか、神の言っておられた事が分かった。私は他の人間と知り合ったことで悪が芽生えていたのだな…神はそれを見抜いていて…。…!?」
そう1人で呟いたその時、周囲を漂っていた悪の気が一か所に集まっているのに気が付いた。悪の気は彼の目の前でだんだんと人の形を成していく。
「な、なんだこれは一体…!?」
「フッフッフ…」
人型に変化した気の塊の頭部に、一対の赤い目が現れる。影のような塊は笑い声を出し、牙を見せる。
「わしはお前の中から追い出された悪の心…フフフ、そうだな、ピッコロとでも名乗ろうか」
「ピ、ピッコロ…!お前が私の悪の心そのものだとしたら、お前は一体どうするつもりだ…!」
「決まっておるわ!全世界の人間どもの恐怖する姿を見たいのだ!悲鳴を上げて泣き叫び、震える人間どもの姿をな」
「何だと…そんなことはさせんぞ!ここで私がお前を消滅させてやる!」
彼は両手を額に当て、そこから一筋の光線を放った。ピッコロと名乗った影はそれを喰らい、煙状の体に穴が開いた。
その瞬間、彼は自分の体に痛みが走ったのを感じ、思わず腹を押さえた。
「これは…」
「わしと貴様は一心同体…わしが消えればお前も消える…わしの受けた痛みはお前にも返り、その逆もあり得るのだ」
「くっ…!」
ピッコロの体に空いた穴が元に戻ると、彼の痛みも消えた。
「つまり、お前はわしを倒すことはできないということだ!」
ピッコロと彼は元は一人の武道家…片方が死ねばもう片方も死んでしまう。ピッコロはそれを逆手に取り、彼を上手く抑えこんだ。
「フッフッフ…神になろうとしている者が自殺など愚かな行為をできる訳もない…お前はここでわしを見過ごすほかないのだ」
「…馬鹿者め、私がお前のような身から出た錆を放っておくと思うか…この命消えても、お前をここで倒して見せるッ!」
彼は人差し指をピッコロに向け、そこから渾身の気功波を放った。なおも反撃を仕掛けた事に対してピッコロは驚く様子を見せ、慌ててそれを避ける。
「ぬう…まさか本気で攻撃をしてくるとは!」
ピッコロは煙の体を変化させ、実体を取り始める。
緑色の肌に額から生えた一対の触角、青紫色の服には四方に尖った丸の中に大きく「魔」という文字が描かれており、その姿と表情、そして気は邪悪に歪んではいるものの、元である彼とそっくりであった。
「なっ…!」
「このわしは今からピッコロ大魔王だ!地上へ降りて全ての人間どもを絶望と恐怖の渦に叩きこんでやる!!」
ピッコロは飛ぶと、天界から下界目指して降りていく。
「逃げられたか…!」
彼は下界を見下ろすが、既にピッコロの姿は目に見える範囲には無く、奴は既に地上へ降りていってしまった事を知る。
神に言われた通り、自分の心の奥底に眠る悪を追い出すことには成功した。しかし、その結果としてもう一人の自分となった悪の心はピッコロ大魔王を名乗り、野望を持って地上へ放たれてしまった。
修行中の身で下界へ降りることを許されていない今の彼では下界の様子を確かめるすべを持たないのがどうしても不安であった。
そんな最中、彼はあることに気付く。確かに悪の心が消えたおかげで体が軽くなり、心も前よりも穏やかになったような気がする。しかし、自分が二人に分離したおかげで自分の力がはるかに弱くなってしまった。一度は完全に上回り、強さを認めさせたはずのミスター・ポポにも勝てなかった。
「…私は、どうやってもやはり神にはなれないのだろうか」
自室で一人たそがれていると、ドアを開けて神が入って来た。
「神よ、私に何か御用でしょうか」
「話がある。私についてきなさい」
彼は神に案内されるまま、本来は踏み入ることを許されない、神殿の奥にある普段は神が生活している区画を歩いていた。自分の横には同じく神を志すガーリックがいる。
ガーリックはじろりと彼を見ると、にやりと笑いながら口を開いた。
「ふっふっふ…ずいぶんと弱そうになったな。きっと神はどちらを後継者に選ぶのか、教えるつもりだ。力の無くなったお前ではなく、私が神に選ばれるのだ」
彼はそれを聞いて言葉を詰まらせた。確かに、力のない自分では神の器に相応しくない。彼もガーリックこそ神に相応しいと思った。
「私の後継者となるのは、お前だ」
しかし、神は…ガーリックではなく、彼を後継者に選んだのだった。
「なっ…!」
「…神よ!何故私なのですか!私は弱い…それに、絞り出した危険な分身を下界へ放ってしまった…それなのに…」
「…ついてこい」
神はガーリックをその場に残らせ、彼と共に階段を上り、神の部屋へと連れて行った。
ガーリックはその場で膝をつき、信じられないといった表情で床に手を突いた。だがその顔はだんだんと歪み、憎しみをたぎらせた悪魔のような顔へ変わり、握りしめた拳で大理石の床を叩いた。
「何故だ…ッ!神になりこの世を支配するのは私のはずだった…!!おのれ、許さんぞ…神もアイツも!!」
ガーリックは復讐に燃え、拳を天へ掲げた。その正体は魔族の長であったガーリックは神となり世界を我が物にするという野望を打ち砕かれ、魔の本性を露わにした。
地に眠る魔族を大量に従え、神と彼を殺して全てを抹消するべく反旗を翻した。
「ムグハハハハハ!!この私を選ばなかったことを後悔させてやろう!」
何百匹もの魔族の戦士がガーリックの指示のもと、神を殺そうと襲い掛かった。
「か、神…!」
「…ふぅ、やれやれ…これがおそらく私が神として行う最後の仕事となるだろう。見ておれ」
神は魔族たちの前に立ち、腕を向けた。次の瞬間、そこから放たれた強力な聖なる光は魔族を一瞬で蒸発させ、消し飛ばしながら吹き飛ばしていく。
その光景を、彼はただ圧倒されながら眺めていた。
「ただ強いだけが神の条件ではない。もちろん強さは必要だが、それよりも神は皆に慕われなければならない。お前には十分その資格があると思った…それだけだ」
神はゆっくりと一歩ずつ前進し、さらに魔族たちを消滅させていく。
「そして最後に…お前には私に出来なかったことをしてもらいたい。私は下界を見る事しかできなかった…見守るのではない、ただ見るだけだった。お前には不思議なモノづくりの才能がある。それを活かすがいい…」
その神の力を目の当たりにしたガーリックは、聖なる光がまぶしく感じ思わず腕で顔を覆っていた。
「うおおおお…だがまだだ、私は死なん!!」
ガーリックは全身から気を放出すると、神に向かって突撃を仕掛けた。しかし、神は今度は全身から光を放つ。
その光に足を止められたガーリックは全身を包まれ、苦悶の表情で叫び声をさげる。
「ぐわああああああああああ!!だ、だが…私はいつか必ず蘇って貴様らに復讐してやる…どんな手を使ってでもだ…!!」
ガーリックはそう言い残すと、黒と緑が混ざり合った色の結晶に変わり、コロンと床に落ちた。
神はそれを拾うと、神殿の内部に封印した。
「これでよし」
…やがて、神は亡くなった。晴れて彼が新しい地球の神様となり、神殿の主となった。前の神の遺体は、神殿の地下に存在する墓地に埋葬した。そうするのが神たちのしきたりであったからだ。
それからも新しい神は修行を重ね、再びポポの実力を上回った。しかし、神となり下界を見渡せる力を手に入れると、そこでようやく地上が大混乱に陥っていることを知る。
「これは一体どういうことだ…!」
一方、下界では。
ある地方に都があった。その都の北に聳える山岳地帯の中には、武泰斗という世界最高の武道家がかまえる大きな道場があった。門下の生徒は50名以上、己の身と心を鍛えるため修練に励んでいた。
「てりゃーッ!!」
弟子同士の練習試合が繰り広げられる中、ひときわ盛り上がる箇所があった。
赤毛をおさげにした少女が、頭を丸めた武道家相手にほぼ互角のバトルを繰り広げていた。
「なんの!やるね美鈴ちゃん!」
「二人ともやっぱりすげぇなぁ~」
それを観戦していた他の弟子たちも口々にそう言っている。
「当り前よォ、武泰斗さまが一目置く三人のうち二人だぜ。亀ちゃんと鶴ちゃん、そして龍の美鈴!」
まだ見た目と共に歳も若かりし頃の美鈴は、亀ちゃんと呼ばれた弟子の反撃を受けてしりもちをついた。
「いでっ…!」
「勝負ありだな」
「やっぱりまだ敵いませんね…」
美鈴は起き上がり、服についた砂を払った。まだ武術の修行中である美鈴はこの道場で上位三人のうち一人に含まれていた。
この時に覚えた武術や気の扱い、動きの型や技は、幻想郷へ移住してからも彼女の武器となり続けている。
「おい亀!大変なことが起こった!」
その時、同じ道場の弟子のひとりが駆け寄って来た。
「鶴、いったいどうしたんだ?」
鶴と呼ばれた弟子は訳を説明する。
「都に怪人が現れて、人を襲ってる!」
「なんだって!?」
そのころ、都では。
人々が逃げ惑い、悲鳴を上げながら走り回っていた。それを追い回しているのは、緑色の鱗を持った不気味な怪人たちだった。どれも大きな翼を持っていて、魚のような顔をしたものや太ったドラゴン型のもの、獣のような顔つきの怪人まで様々だった。
人家を破壊し、口から怪光線を吐いて街を荒らしていく。
「う、撃てーッ!!」
駆け付けた軍隊が怪人たちの前に立ちはだかる。戦車から降りた軍人たちが大きな銃を構え、怪人に向けて発砲する。
しかし、マシンガンの弾丸が無数に命中しようとも、怪人たちは怯む様子すらなかった。弾丸は怪人の肉体の前に虚しくはじかれ、全く効果が無かった。
「きかない…!」
怪人の一人がニヤリと笑うと、口から特大の光線を吐きだした。戦車を破壊し、さらに薙ぎ払うように横へ移動させて隊員たちもろとも爆発させた。
街は崩壊し、燃えていく。その中で怪人の集団は目を光らせ、不気味なオーラを放っていた。
「そこまでだ!」
その時、空を飛ぶヘリコプターから降りてきた亀や鶴など道場の弟子たち。怪人の集団と向かい合い、睨みつける。
「なんだコイツらは…」
「まるで悪魔だな…」
その不気味な姿を見て、思わず声を漏らした。
「鶴…俺たちでコイツらを片付けよう」
「ああ、そのつもりだ。いくぞ!武泰斗さまの弟子の力を見せてやるんだ」
弟子たちは気合の叫び声を上げながら怪人たちとぶつかり合った。
しかし、彼らと怪人では個々の実力差がありすぎるようだった。怪人は弟子を殴り飛ばし、光線を命中させる。それに焼かれた弟子を見て、他の弟子たちは怪人一体に対して数人以上で戦うように考えた。
その結果、戦局はほぼ五分と五分といった様子で、怪人一体を倒すごとにこちらも一人が力尽きていく。
「いくぞ亀!」
「おっけー!」
そんな中、無数の怪人に囲まれる残された弟子たち。その中には亀や鶴も含まれていた。
全員で外側を向くように円陣を組み、両手の指を合わせて全身に気を集中させる。そして一気にそれを解放し、怪人たちをまとめて吹き飛ばした。
目を飛び出させながら消滅していく怪人の後ろから、残りの怪人たちがさらに襲い掛かってくる。それを亀と鶴が迎え撃ち、殴り飛ばした。
他の弟子たちの犠牲があったものの、この場の怪人たちはほとんど駆逐することができた。
「「はあああああ…!!」」
二人は気を合体させ、残る数体の怪人に渾身の気功波を浴びせた。それを喰らった怪人は吹き飛んで消滅し、気付けばこの場から怪人たちは消えていった。
「…倒し終えたか…」
「ああ…しかし、何故こんな奴らが突然発生したんだ?」
「それは俺様が生み出した魔族だ」
その時だった。空から不気味な声が響き渡った。やがて声の主がゆっくりと舞い降り、彼らの前に圧倒的な威圧感をたたえながら立ちはだかった。
大きく「魔」と書かれた服を着た、緑色の悪魔のような姿だった。
「よくぞ我が魔族たちを倒したな…。人間どもの恐怖におびえる姿を見て楽しみたかったのだが、まさかお前たちのような強者がいるとは驚きだ」
「お前は誰だ!?」
「俺様はピッコロ大魔王だ!悪がはびこる素晴らしい世界のために、お前たちにはここで死んでもらう」