「俺様はピッコロ大魔王だ!悪がはびこる素晴らしい世界のために、お前たちにはここで死んでもらう」
突如として都に出現し、ピッコロ大魔王と名乗った謎の存在。尖った耳に鋭い目つきをしていて、その体格は亀や鶴の一回り以上大きく、明らかに2メートルは越えていた。
「お前が悪なら、俺たちは正義だ!」
鶴がピッコロを睨みつけながらそう宣言した。
「そうだ、正義は決して悪に負けたりはしない!」
亀も同じくそう言葉をぶつける。ピッコロはにやりと笑ったまま、腕を組んだ。
二人は同時に気を高めて両手に集め、気功波を放とうと身構える。
「はああああ…!!」
「フッ…」
その様子を見たピッコロは、腕を組んだ状態で右手の人差し指と中指だけをクイッと亀と鶴の方へ向け、小さな衝撃波を放った。
次の瞬間、攻撃を放とうと構えていた二人に衝撃波が直撃し、電撃のような衝撃が襲った。圧倒的な威力の攻撃にさらされた二人はあまりの出来事に、一瞬何が起きたのかわからなかった。
「ぐわああああああ!!?」
たったそれだけの攻撃で二人は絶大なダメージを負い、そのままはるか後方に吹っ飛ばされる。巨大なビルに激突し、崩れる残骸の中に埋もれてしまう。
「わはははははは!!他愛のない奴らだった!!」
「く、くそ…!」
何とか瓦礫の中から顔を出した二人は拳を握りしめる。それに気付いたピッコロが腕にエネルギーを溜め、二人に止めを刺そうと構えた。
「消えろ」
腕からまっすぐに放たれた光線が二人を狙う。もうダメかと顔を背けた瞬間、突然その光線があらぬ方向に曲がった。
光線は遠くにあるビルのてっぺんにぶつかり、爆発を起こす。
「すまない皆の者…遅れてしまった」
上空を飛ぶヘリコプターから飛び降りてピッコロの攻撃をはじき返したのは、白い髪と髭を蓄えた老齢の武道家だった。
「む、武泰斗さま…!」
駆け付けた武泰斗の後ろには、美鈴も立っていた。武泰斗はあたりを見渡し、殲滅された魔族と、ほとんど力尽きて息絶えてしまった弟子たちを見て苦しい表情を浮かべた。
「…お前たち…すまぬ…」
「何だお前は?また一匹馬鹿が死にに来たのか?」
「死にに来たのではない…お前を倒しに来たのだ」
武泰斗は構えの姿勢をとる。
「そうだ、武泰斗さまは世界最強の武道家だ!」
「ほう…?」
「コオオオオオ…ハッ!」
呼吸と気を整え、全身にうっすらと白いオーラを纏う。それを見たピッコロは組んでいた腕を解き、人差し指を武泰斗へ向けた。
「ちゃあああああ!!」
武泰斗は気合の雄叫びと共に、ピッコロへ飛びかかった。手刀を作り、それで攻撃を仕掛ける。
しかし、ピッコロは向けた指先から小さな衝撃波を撃った。
ビシュン
「!?」
小さな衝撃波は武泰斗の腹の左側辺りに命中した。武泰斗は空中で姿勢を崩してよろめく。服が破れ、素肌に赤い跡がついている。
ピッコロはさらに指先から二発目の衝撃波を放った。今度は武泰斗の足に当たり、再び姿勢を崩した。続いて三発、四発と衝撃波を連続で放っていく。武泰斗は何もすることができないまま、無数の衝撃波の雨に晒され続ける。
「うぐ…!」
「これで終わりだ、消えろ」
ピッコロは腕を振りかぶり、そこに気を溜める。そしてその腕を一気に振り払い、突風のような衝撃波を放った。
「うわああああ~~!!」
それに晒された武泰斗は吹き飛ばされ、周囲に転がっていた建物の残骸と共に空中へ巻き上げられる。亀と鶴はなんとか地面にしがみ付いていたが、やがてその手が離れ、一緒に吹き飛ばされる。
衝撃は止み、残骸が次々と地面に落下し、山を作っていく。
「わはははははは!世界最強の武道家もこの程度だったか!」
腕を組んで高笑いをあげるピッコロ。
しかしその時、背後から何か小さな影が忍び寄る。
「ちぇりゃああ!!」
ガシッ
後ろから迫っていた美鈴の渾身の飛び蹴りを、ピッコロは腕で難なく受け止めた。そして美鈴をにらみつけ、目を光らせた。
次の瞬間、目から放たれたエネルギー波を浴びた美鈴の体が発火し、燃えながら吹っ飛ばされる。
「うぐぅ…!」
「…貴様人間ではないな?」
地面に倒れ込んだままうめき声を上げる美鈴を見て、ピッコロは彼女の素性を見抜いた。
「面白いな…ならばお前は生かしてやる。いずれ強くなったお前を叩きのめすのを、俺は楽しみにしているぞ。ワーッハッハッハッハ!」
ピッコロは空に浮かび上がり、そのまま地平線の彼方へ消えていった。
それを見ていた亀は残骸の中からよろよろと這い出した。自分の横から鶴を引っ張り出し、寝かせる。
「おい、起きろ!大丈夫か!?」
「う…俺は…」
鶴は目を覚まし、痛む頭を押さえながら起き上がった。
二人はボロボロの美鈴を起こし、三人で武泰斗の救助を行う。
「武泰斗さま!」
「…ぐ…」
何とか武泰斗を探し出して安全な場所へ寝かせるも、確かに生きてはいるのだが一向に目を覚ます気配はない。
その時、鶴は辺りを見渡した。周りには、倒した魔族の死体に混ざってかつての仲間の亡骸が転がっていた。そして、目の前には最強の武道家と信じ、師として尊敬してきた者が、正義を掲げて悪に挑むも無残にやられてしまっている。
鶴は下を向き、立ち上がった。
「どうした?」
亀が尋ねる。
「…武泰斗さまが目を覚ましたら、俺は…もう死んだという事にしておいてくれ…」
「なんだって?何を言っているんだ!」
「俺は今まで自分が正義であるつもりで武道の道を進んできた…しかし、これで分かった…正義は必ずしも勝てる訳ではない。俺は俺のやり方で強さを極める…」
信じてきた己の正義と師への失望。それを痛感した鶴は、1人その場を離れていく。
亀はその鶴を、引き留めることができず、はるか向こう側へ消えていくのをただ眺めるしかなかった。
「わ、私は…」
その時、武泰斗が目を覚ました。
「そうか…鶴までもが殺されてしまったか…」
「…はい」
武泰斗と美鈴に全ての事情と、鶴が死んだとの嘘を話す亀。しばらく武泰斗は黙っていたが、やがて立ち上がる。
「武泰斗さま?」
「私は…技の修行に出る。実力だけではどうやってもあ奴には勝てん…だから私はアイツをどうにかして倒せる技を編み出してみせる」
「でしたら私たちも…!」
美鈴がそう名乗りを上げる。が、武泰斗はそれを制止する。
「いや…これは弟子たちを守れなかった私の責任だ。どうか来ないでくれ…。だが奴を倒せる技を身に付けたら、必ず戻ってくる」
それから、武泰斗は世界のどこかへ旅立った。亀と美鈴は彼の言った必ず戻るとの言葉を信じて、ただ待つのだった。
「ハッ…!」
どこかの山奥にこもった武泰斗は、新たなる技の修行に励んでいた。
腕を伸ばし、指先から放たれる気で作り出した細い光線を放つ。それは滝を真っ二つに切断し、大きな道を作った。しばらくその光線を動かして、滝の中に無数の線を描いていくが、ふと何かに気付いてそれをやめる。
斬られていた滝の水が元に戻り、ザーッという轟音を響かせる。
「…無駄だ、こんなものでは奴は倒せん…」
山に籠ってからすでに三日ほどが経過していた。未だ、打倒ピッコロ大魔王の光明は刺さない。
「…む?」
その時、武泰斗は背後付近に何らかの気配を感じて振り返る。そのあたりを目で探るが、何も居なかった。
だが武泰斗は精神を研ぎ澄まし、自身の周囲に薄い気の膜を張って歩き出した。
「そこにおるな…子供か?」
自分の気が何かを察知した。不思議な存在だった…その身体はまるで子供のように小さいが、何か特別なオーラを感じる。
武泰斗は逃げていくその気配を追って、林の奥深くへと足を踏み入れていく。
次の瞬間、彼の周囲がぐらりと揺れた気がした。足がすくんでしまいそうになるが、あわてて態勢を戻す。
「一体何が起こったんだ?」
武泰斗がそう言った時、すぐ目の前に小さな子供が佇んでいるのを発見し、驚いた。
おかしい…今まで誰もいなかったはずなのに。その子供はどうやら黒い帽子をかぶった少女のようで、深い緑色の目でじっとこちらの顔を見つめている。
なんでこんな場所に子供が…?
「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているのかね?こんなところにいちゃ危ないよ」
武泰斗は微笑みながらそう言葉を投げかけた。すると、少女は突然、今の武泰斗よりもひどく驚いた様子で目を丸くした。
「え!?おじいさんったら私が見えるの!」
「は…?」
武泰斗も思わず唖然とした。
「すごいすごーい!人間が私を認識できたのは初めてよ!しかも外からの人間!」
「お、お嬢ちゃん…一体どういうことかね?」
「ついてきて!博麗の巫女のとこに案内してあげる!」
走って林の中へ消えていく少女を追って、武泰斗も走る。
「私は武泰斗という者だが…君は一体?」
「古明地こいし!サトリ妖怪よ」
「妖怪…?」
しばらくすると、武泰斗は感じた事のない強力な気を感じて足を止めた。
(何だこの気は…!)
警戒しながらさらに進んでいくと、何やら広い場所へ出た。周囲を見渡すと、ここは整備された砂利道の上で、少し向こうに立派な神社が見える。
「神社…?」
そう呟いた武泰斗の前に、何者かが現れた。腕を組んで仁王立ちをし、険しい顔で武泰斗を見つめているのは、赤い巫女服に身を包んだ黒髪の女性だった。
「誰だお前は?」
「あ…私は武泰斗と申す者ですが、こんな場所に神社などあったのですね」
「なんだ…お前は外の世界から迷い込んだ人間か」
「外の世界…?あぁ、そう言えば先ほど小さな女の子がおりましたが、もしやあなたのお子さんですかな?」
「知らん。さては妖に導かれたな」
妖…本当にあの子は妖怪の類だったようだ。それにしても、もう姿が見えない…どこかへ消えてしまったのだろうか。
それにしても、迷い込んだと言っていた…どうやら私はまんまと妖怪に知らない場所へ連れて来られてしまったらしい。神隠しという言葉が頭に浮かぶ。
「私は博麗紅蓮という、この博麗神社の巫女だ。ここは一種の結界で分断された、いわば異世界だ」
「な、何ですと?」
「私の仕事であるから、今からお前を元の世界へ送り返してやる…」
その時、境内へ繋がる階段を、男が駆けあがって来た。息を切らし、顔を上げて紅蓮と名乗った巫女に言う。
「大変です、里で謎の怪物が暴れています!」
「それは本当か?わかった、すぐに始末しよう」
紅蓮はそう言うと腕に力を込め、出発しようと身構える。
「怪物を退治に…でしたら、是非私も。腕には自信がありまする」
「何だと?…好きにしろ」
不思議な場所へ迷い込んでしまった武泰斗。彼は後に、ここへやってきたことにより新たな技を習得するカギを得ることとなるのだった…。
何も考えずに手軽に書きたいのに、どうしても色々と考えてしまう…