突如として出現した強大な悪、ピッコロ大魔王。それに挑んだ世界最強の武道家と謳われる武泰斗は、弟子の多くを殺害され、自身も完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
このままではどうやっても勝てないと考えた武泰斗は、山にこもり新たな技の習得のための修行を始める。だがある時、彼の前に古明地こいしと名乗る少女が現れる。彼女の後を追うまま、どうやら武泰斗は不思議な異世界に迷い込んでしまったらしかった。
そこで出会った、神社の巫女だという博麗紅蓮という女性。彼女の元へ怪物退治の依頼が舞い込み、武泰斗はそれに同行することとなった。果たして、彼はピッコロ大魔王を倒す程の技を身に付けることができるのだろうか?
博麗紅蓮と武泰斗は人間の里にまで下りていき、目的の怪物を探す。いや、探すまでもなかった。
緑色の肌をして翼を生やした怪物が三匹、空を飛びながら口から光線を吐いていた。人家を焼き払い、人々が逃げ惑っている。
「見た事のない連中だな…」
それをみた紅蓮がそう口にする。
「コイツらは…まさか…!」
しかし、武泰斗は気付いた。これはピッコロ大魔王が従えていた魔族たちだ!自分は死体しか見ていなかったが、間違える筈がない。きっと、手下の何匹かが武泰斗と同じくこの場所に迷い込んだのだろう。
武泰斗は里を荒らす魔族たちを見て、自分のいた世界を襲い、弟子を殺した光景を想像し、怒りに震えた。だが、自分が飛び出すよりも先に、紅蓮が猛スピードで敵に突撃した。
「ハァ!!」
それに反応する魔族だが、紅蓮が繰り出した蹴りを喰らい、顎が吹き飛び、目玉が飛んでいく。さらにパンチを繰り出すと、その拳圧だけでその魔族の腹に風穴を開け、死に至らしめた。
「す、すごい!」
武泰斗はそう呟いた。あの女性からは、震えるほどの強さを感じる。しかし、彼の背後から別の魔族がするどい爪を振りかざして襲い掛かる。武泰斗は後ろを振り返ると、魔族の腕を片手で受け流し、もう片方の気を纏わせた拳で思い切りパンチを浴びせた。
魔族は顔がつぶれるほどのダメージを負うが、まだ倒れない。武泰斗は手を伸ばして突き出し、指先から細い気の光線を放った。それは魔族の胸を貫き、上空へ打ち上げた。
「やるな、お前も」
武泰斗の卓越した技術や戦いぶりを見て、紅蓮も思わずそう言った。
二人は、残る一体の魔族の方を同時に見る。怯んだ魔族は翼をはためかせて空を飛び、逃走を図る。だが武泰斗はすぐに片手から気功波を放ち、それを命中させた。
魔族は黒こげになり、ひらひらと落下して地面に激突した。
「ふう…」
「すごいな。武泰斗とかいったか…それは並大抵の修行で身に付けられるものではあるまい」
「そういうあなたこそ…まだお若いのに素晴らしい」
「…いや、まだ終わっていないようだ!」
紅蓮は武泰斗の背後に静かに迫っていた二体の魔族を指差した。武泰斗は咄嗟に振り返り、両腕をクロスさせて魔族の攻撃を防ぐ。
「くっ…!」
だが不意の攻撃だったためか、押さえきれない様子だった。
次の瞬間、紅蓮が武泰斗の頭上にまで飛び跳ね、袖の中から取り出した何枚かのお札を魔族に貼りつけた。
「グギャッ!」
お札はほのかな光を放ち、魔族を押し込めるようにその身体に巻き付いていく。やがて完全に包み込み、最期にはプスプスと黒い煙を上げる紙でできた小さな球ころと化してしまう。
紅蓮は二つの球を踏みつぶし、靴の裏でグリグリと地面に擦りつけた。
「これでよし」
「今のは?」
「封印だ。本来ならば妖怪も魔物も、私は必ず殺す。妖怪は一匹もいらん、いずれ私が全てを滅ぼしてやる」
話を聞いていた武泰斗は、急に何かをひらめいたようだった。
「そうか…何も殺すのが無理だというのなら、必殺の一撃を考える必要はない…封印という手があった!」
「どうかしたか?」
「どうもありがとう博麗紅蓮さん!あなたのおかげで打倒大魔王に光明が差しましたぞ!」
「は、はぁ?」
「私はこれにて失礼させていただきまする!さぁ、はやく封印術を習得せねば!」
そう言うと、武泰斗はどこかへと走り去っていく。その様子を不思議そうに眺めている紅蓮。
しかし、武泰斗は途中で立ち止まり、頭を掻きながら振り返った。
「…すまんの、封印とはどうやるのかね?」
「ズコーっ」
それから、あの強大なピッコロ大魔王を封印できるほどの技を覚えるため、封印術のイロハを紅蓮から教わる武泰斗。
だが、ここが幻想郷と呼ばれる地であるということは、彼は知る由もないのだった。
「武泰斗さまが山へ出てからすでに二か月が経ってしまった…」
「ええ…師匠はいまだピッコロを倒せる技を編み出せていないのでしょうか…」
静まり返った道場の中で、亀と美鈴はそう話していた。
そう、武泰斗が山へ籠り修行を始めてから、二か月の時が経過していた。あのあと、世界に宣戦布告したピッコロ大魔王は世界各地の主要国に現れては破壊の限りを尽くし、その国の王の座を自らに譲らせた。
逆らう国は、その国の都市を丸ごと吹き飛ばして人間を襲い、無理に服従を誓わせた。
世界中がピッコロ大魔王の話題で持ちきりになり、ラジオ放送は常にその話題ばかりだ。今まさに、暗黒の時代が始まってしまったのである。
「番組の途中ですが、今世界を騒がせているピッコロ大魔王に、国連軍が総攻撃をしかけるという発表をいたしました!」
突然ラジオ放送が切り替わり、そう発言した。
それを聞いた亀と美鈴はお互いに目を合わせ、冷や汗を流す。
「まずい…いくら軍隊が総力を挙げてもピッコロ大魔王には勝てんぞ…」
「ええ…返り討ちにあって皆殺しにされるだけ…!」
二人は道場を飛び出し、ヘリコプターを動かした。
「ふっふっふ…また馬鹿どもが懲りずにやってきたようだ」
どこかの国のシンボルでもある鉄骨で作られた塔のてっぺんで、ピッコロ大魔王は尖った耳をすませて空の向こうから来る軍隊のヘリや戦闘機の羽音を敏感に聞き取った。
その塔の下はところどころ破壊された町が広がっており、殺されたか逃げてしまったのか、人間の姿は見えない。
「まだ俺様の恐ろしさを知らないらしい…では見せてやろうか」
ピッコロは少し浮かび上がると、両手で拳を握り、腕を顔と同じくらいの高さまで上げた。そして全身に魔力のエネルギーを溜め、ゆらめくオーラのようにたぎらせていく。
オーラはだんだんと雷を纏っているかのように激しくなり、ピッコロの顔が険しくなっていった。
その間にも、打倒ピッコロを掲げる軍隊が彼の元へ迫ってくる。そしてピッコロの姿を確認すると、ミサイルや弾丸の照準を合わせる。
「はっはっは!粉々に吹き飛べ!」
ピッコロは左腕で右手首を掴み、全身に込めたエネルギーを右手に集中させ一気に解き放った。
「『爆力魔波』!!」
カッ…
次の瞬間、着弾したピッコロの最大の技である爆力魔波を中心に超巨大な爆発が起こった。押し寄せる爆風と微塵になった町の残骸が吹き荒れ、ミサイルや機関銃を構えていた軍隊を巻き込んだ。軍の兵器も跡形もなく全てが消し去られ、空高くキノコ雲が発生し、空が真っ赤に染め上げられた。
まだ辛うじて範囲外にいた軍の司令官などは、その圧倒的すぎるピッコロのパワーを見て言葉を失っていた。
「ば、化け物だ…どうやっても、我々では敵うはずがない…」
弱くなっていく爆発の中央には、溶けてほとんど倒れた鉄塔があり、そのうえでピッコロは腕を組みながら全身から衝撃破を発し、煙と炎を吹き飛ばした。
中継でその様を見ていた人間たちは、世界の終わりを予感した。
「クックック…ハーッハッハッハッハ!!」
「こっちだ、ピッコロ!」
高笑いを上げるピッコロは、その声を聴いて上を見上げた。赤い火の粉が舞う空に、一機のヘリコプターがフラフラと飛んでいた。
そしてそのヘリの中から二つの影が飛び立ち、自分の目の前へ舞い降りた。
「俺たちが相手だぞ!」
亀と美鈴はピッコロを見ながら構えた。
ピッコロは腕を組んだまま、クククと笑う。
「また貴様らか…今度は本当に殺すぞ。俺は武道家というものを見るとどうしても殺したくなってしまうのだ」
「やってみなさいよ!」
「ではやってやろう」
ピッコロは飛び出し、まず亀に襲い掛かった。
最初の一撃をかわすが、ピッコロの大柄な体躯から繰り出される蹴りをまともに受け、後ろへ倒れ込んだ。今度は美鈴がピッコロに攻撃を仕掛けるが、ピッコロは口から吐いた息を衝撃波に変えて反撃する。
「ぐあっ!」
吹っ飛ばされる美鈴の背後に瞬時に移動し、足を掴む。そして振り回しながら倒れている亀の背中に思い切りたたきつけた。
「あ…ぐあああああ!」
「ワハハハハ!二度とお前たちのようなアホな武道家がオレに挑もうとしないようにここで見せしめとして殺してやろう」
ピッコロは倒れた二人の胸に伸ばした指を突き立て、心臓を貫くかのように腕を振り上げた。
「待ていっ!」
しかしその時、どこからか飛んできた一発のエネルギー弾がピッコロの背中に当たる。ピッコロは顔をしかめながら振り返り、エネルギー弾を放った主をその目で見る。
「久しぶりだなピッコロ大魔王…この武泰斗がもう一度相手だ」
修行を終え、駆け付けた武泰斗がいた。そうとう無茶な特訓を積んできたのか、服はおろか武泰斗自身もボロボロな様子であった。
「武泰斗さま!」
亀と美鈴はそう声を上げた。ピッコロはにやりと笑うと、武泰斗と向き合う。
果たして、武泰斗が幻想郷での修行で得た技とは一体…!?