「師匠の名を教えてやろうか…『武泰斗』さまじゃっ!!」
「な…!!なに!?」
亀仙人の口からその名前を聞いた瞬間、ピッコロは大口を開け、目を大きく見開いて驚いた。
亀仙人はすぐさまポケットから、様々な物を収納できる小型カプセル「ホイポイカプセル」を投げ、中身を出した。それは、あらかじめ大魔王封じのお札の貼られた電子ジャーであった。
「で、電子ジャー…!まさか…!」
ピッコロは狼狽える。
「むろん覚えておるじゃろ!その昔、武泰斗さまが貴様を電子ジャーに封じ込め魔の手から世界を救った術…!」
「あ…あ…!!」
顔中から玉のような汗を流し、震えているピッコロ。忘れる筈もない、自分を封じ込め300年間も閉じ込めたあの術。何をするでもなく長い時間を過ごしただ年だけを取っていく、地獄のような感覚…!
「わ────ッ!!!!」
次の瞬間、ピッコロはまるで子供のような恐怖の悲鳴を上げて勢いよく空へ逃げようと飛び立った。しかし、亀仙人はそれを逃がさない。
「『魔封波』じゃっ!!」
両腕をピッコロに向け、術を発動した。放たれる気の渦に捕らわれたピッコロは地上にまで引きずりおろされ、渦巻きの中を回転しながら電子ジャーへどんどん引き寄せられていく。
「おお…おおおお…!!」
「大魔王さま!」
しかしその時、後ろに控えていたタンバリンが亀仙人に襲い掛かる。
「邪魔が…!?」
亀仙人は一瞬それを警戒するが、次の瞬間、タンバリンは何者かの攻撃により勢いよく吹き飛ばされた。亀仙人がそちらに目を向けると、意識を取り戻したクリリンと天津飯がいた。二人がタンバリンを蹴り飛ばしたのだ。
「ぬぐぐ…貴様ら!」
二人を睨みながら起き上がろうとするタンバリン。
「波───!!」
二人は同時に気功波を放ち、タンバリンに命中させた。
光にさらされるタンバリンは、その中で跡形もなく消滅してしまう。
「お主ら…」
「それが武天老師さまの覚悟だというのならば、ここで見届けます…!邪魔はさせません、貴方の弟子の、このクリリンが!」
「俺もです、奇跡の封印術魔封波…この目でしかと拝見させていただきます」
「ぐぬぬぬ…はああああッ!」
それを聞いた亀仙人は、かつてピッコロ大魔王に立ち向かった自分と鶴仙人を連想した。あの時、互いに別の道を歩むこととなったふたつの流派が、今ここにもう一度立ち並んでいる。
その興奮により気合を沸かせた亀仙人は渦を操作し、ピッコロを勢いよく電子ジャーに放り込もうと投げ飛ばした。
ガキン…
…しかし、それが仇となった。力み過ぎた亀仙人の気の衝撃により電子ジャーが倒れ、ピッコロはジャーの縁に激突して跳ね返った。ジャーは吹っ飛んでいき、地面に転がる。
「!!…は、外した…」
魔封波から解放されたピッコロはしりもちをつくように座り込み、汗まみれで息を切らしている。
そう、魔封波は失敗に終わってしまった。魔封波の難しいところは、発動させたり相手を捕らえる事ではなく、最後に容器に放り込む瞬間と言えるのだ。それは気の渦によって高速で回転する敵を小さな的に入れなければならない高度な難易度に加え、魔封波の大きな気の余波で容器が揺れてしまうことに起因する。
「武天老師さま…!」
「と、とんだドジを…おしい…のう…。じゃ、じゃが…これで安心できると思うたら大間違いじゃぞ…いつか必ず、お前を倒すものが現れる…そして世界を救うてくれると…信じて…おる…」
亀仙人は最後にそう言い残すと、前のめりに倒れ込み、その生涯を終えた。
クリリンと天津飯は目をつぶり、拳を握りしめながら悔しそうな顔を浮かべる。
「は、ははは…はーっはっはっは!!死におった!死におったぞバカめ──ッ!!」
ピッコロは立ち上がり、安心したような笑い声を出す。
「それにしても危ないところだった…まさか魔封波を使える者がいたとは。だがソイツも死んだ…あとは…」
振り返り、天津飯のクリリンの方を見る。二人はサッと構え、警戒する。
「あとは貴様らだ。すぐに師と同じ世界へ送ってやるぞ」
「くっ…!」
「…はっ!」
ブルマは目を覚ました。慌てて起き上がり、空を見渡す。空は夕焼けに覆われている。一体どれほどの時間が経ったのだろう…ズキズキと痛む頭はそれすら覚えていない。
「そうだ…亀仙人さんと…クリリンたちは…」
よろよろと歩き出すブルマ。だが次の瞬間、彼女の目に信じがたい光景が飛び込んできた。
「…え…?」
倒れ込んでいる亀仙人…そして無惨に胸を貫かれおびただしい量の乾いた血の海に横たわっている天津飯…傷だらけで黒こげになったクリリン…。
「うそ…でしょ…?」
青紫色に変わっていく空の下、一人取り残されたブルマはその場に立ち尽くしていた。
「若さだ!もう若さは目の前にある!」
飛行船に帰還したピッコロは、外のテラスの床に並べた七つのドラゴンボールを眺めていた。どれも透き通るように美しく、中に埋め込まれている星マークが輝いている。
「これで七個全てのボールが揃った!いよいよ若き日の素晴らしい力が蘇るのだ!」
「大魔王さま、バンザーイ!」
横でピラフ一味がまくしたてる。
「さぁピッコロさま…出でよドラゴンと唱えるのです」
「うむ。ではいくぞ…『出でよドラゴン』!」
その時、暗かった夜空がさらに暗くなった。
七つのボールは淡い光を放ち、やがて閃光を放った。その光は空へ昇ると同時に見事な緑色の東洋風の龍へと変わっていく。それを見上げるピッコロは、思わずつぶやいた。
それを見上げるピッコロは、思わずつぶやいた。
「す、すばらしい…!」
「さぁ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう」
ドラゴンボールの龍の神、神龍は低い声でそう言った。
「ピッコロさま、願いを…」
「ではいうぞ…このわしを若返らせるのだ!最もパワーに満ち溢れていたあの頃にな!!」
「たやすいことだ」
神龍の目が光った。それと同時にピッコロの肉体に変化が訪れる。
色あせた深い緑色になっていた皮膚はハリのある黄緑色に変わり、オレンジ色に萎んでいた筋肉もピンク色になり膨らんでいく。しわだらけだった顔も若々しく変化していき、もはや完全に300年前の姿を取り戻していた。
「わははははは!!これだ、若返ったのだ!この溢れるパワー感…最高だ!」
ピッコロは両腕に力を込め、湧き上がる力を絶賛した。
「やりましたね大魔王さま!」
「願いは叶えてやった。ではさらばだ」
神龍はそう言葉を発し、再びボールの中に消えていこうとする。
「ふっふっふ、そうはいかんな…」
しかし、なんとピッコロは口から強力なエネルギー波を吐き出し、神龍を狙い打った。それが直撃した神龍は叫び声をあげ、全身を爆発させた。
神龍の千切れた腕や頭部などがばら撒かれ、下に落下していく。やがてそのバラバラにされた部位も透明になって消えてしまった。
「ああっ!」
ピラフがそう声を上げる。
ピッコロは床に転がる丸い石ころを見つめた。
「わっはっはっは!ただの石になったか!神龍は死んだ、これでもう誰かがドラゴンボールを使ってオレさまの命を脅かすことはできんという訳だ…くっくっく、最高だ!最高の気分だ!!」
ピッコロはひとしきり大笑いした後、ズカズカと飛行船内部に戻り、自分の椅子に腰かけた。すぐさま横にピアノが控え、ピラフ一味がおどおどしたようすで入ってくる。
「いよいよこの世界を手中に収める時が来たぞ!さぁ飛ばすがいい、国王の元へ!新しい世界の王はこのピッコロ大魔王さまだ!この世を悪に満ちた素晴らしい世界に変えてみせるぞ」
「あ…あの、世界の王になられるピッコロ大魔王さま、おめでとうございます…」
ピラフたちがおそるおそる進み出て言った。
「と、ところでお約束した件ですが、どれほどの世界をこのわたくしに分けてくださるのでしょうか…5分の1、いや10分の1ほどでいいのですが…」
「…そうだったな。ピアノよ、お前が飛行船を操縦していろ」
「はい」
そう命令されたピアノは操縦席の方へ移動した。やがて船は再び動き出す。
「あ、あの…それでどこを頂けるのでしょうか?」
「もう貴様らに用はない。消えろ」
「え?」
「ま、またご冗談を…ははは、脅かさないでくださいよ…」
「オレは冗談を言うタイプではない。わかるな?」
「そ、そんな…!あんなに色々と手伝ったじゃありませんか!そもそもあなたをこの世によみがえらせたのは我々で…!」
「黙れ。その礼として命までは取らないでやるから、今すぐ消えるんだ。それともここで死を選ぶつもりか?」
「ひいいっ!」
その後、ピラフ一味を追い出したピッコロ大魔王は、世界の中心であるキングキャッスルへと乗り込んだ。
そこに住む世界の最高権力者である”国王”を捕らえて地下へ幽閉し、あっという間に軍隊を殲滅して世界の支配者の座を奪い取った。ピッコロは世界中の悪人に開放権と社会的地位を与え、悪が跋扈する素晴らしい世界を作り上げることを発表した。
それはエイジ753年、五月九日の出来事であった。それは実に幻想郷でカカロットと霊夢たちが月の客と熾烈な戦いを繰り広げる1年ほど前の事だった。