エイジ761年。ピッコロ大魔王が世界を支配するようになってから、実に8年もの歳月が経過していた。
犯罪者や極悪人が世にはびこり、一般人はそれに怯えながら暮らしている。ときたま正義の立場を取り戻そうと強者が立ち上がったりもするが、ピッコロ大魔王自ら、あるいはその使役する魔族によって見せしめとして殺されていった。
さらにピッコロが世界の王座についた5月9日を「ピッコロ記念日」と定め祝日とし、世界で200以上ある国の主要都市の中からひとつをくじ引きで選び、そこを毎年木っ端みじんに吹き飛ばしていた。すでに8つの国が崩壊し、ピッコロに逆らう国は消えてゆくどころか国々は次第にピッコロ大魔王に組するようになっていった。
世は暗黒の時代。ピッコロ大魔王が掲げる恐怖に満ちた素晴らしい世界が実現してしまっていた。
その年の10月12日の事だった。
ある地域の山間部の牧場地があった。そこではダチョウに似た鳥が歩き回っていて、そこを管理している農家の男がわら草をかき集めているところだった。
「ふう…」
その時、自分の頭上の空を何か光るものが横切っていった。燃えているようにも見えるそれは、ほど近くの原っぱの真ん中に落下し、その衝撃が足元にまで響いて思わず飛び上がった。
「な、なんだァ…?隕石か?ユ、UFOか!?いってみっか!」
男は軽トラックに飛び乗ると、例の落下地点目指して走らせた。
場所へたどり着くと、そこには直径20メートルほどの大きさのクレーターが出来ていた。その中心には、白い球体状の物体がめり込んでいた。
「隕石じゃねぇな…?」
男がもっと近くでそれを見ようと、念のため猟銃を装備してトラックから降りて近づいていくと、突然その物体の一部が扉のように開いた。
「なな…!」
その中から人間らしき姿をした者が出てきた。一度の跳躍でクレーターの上へ、銃を持った男の目の前までやって来た。
「やはりこの星の奴らは生きていたか…カカロットのやつめ…」
その者は、足元にまで届くかというほどの長さの黒髪をもち、黒い地の上に肩や腰回りなどにオレンジ色のパーツが取り付けられた甲冑のような鎧を着ていた。そして左目には、何か色のついたガラスのようなもの…スカウターを耳から装着している。
「わわ…何者だおめぇ!」
驚いた男はそう言いながら銃を構える。対して長髪の男はそれを見ると、スカウターを作動させて何か数値を表示させた。
「戦闘力たったの5か…ゴミめ」
この長髪の男は、名をラディッツという。
ラディッツは銃を持った男に近寄っていくと、男は銃を構え直して威嚇する。
「よ、寄るんじゃねぇ!ぶちころすぞ…!?」
そして、ついに男は近付いてくるラディッツに向けて発砲した。…しかし、ラディッツはそれを素早く片手で掴んで防ぐと、潰れた弾丸を指先に持って見せた。
男は怯え、悲鳴を上げながら後ろへ後ずさっていく。だがラディッツはそれなどお構いなしに弾丸を指で弾いて射出した。弾丸は男の額に命中し、男は血を流して倒れ、息絶えた。
「ふっ、なんというもろい民族だ」
ピ…
その時、ラディッツのスカウターが何か反応を示した。
「大きなパワーをもったやつがいる…カカロットか!?」
ラディッツはそう口にすると空中に浮かび上がり、強力な反応を示す地点まで高速で飛び立っていくのだった。
ピッコロ大魔王の1日は、人間と同じく起床から始まるのだ。
乗っ取られてからピッコロキャッスルと名を変えられた大きな建物の中。かつて魔封波で封じられていた300年の間に退屈まぎれに作ったあの大きな椅子に腰かけ、目を開けたままいびきをかいて眠っていたピッコロはいつも6時ピッタリに目を覚ます。
着替えてから食事の席に座り、グラスに注がれた最高峰の天然水を片手に一流のシェフが手掛けた大量の料理を食べ、その日をスタートさせる。
「ピッコロ大魔王さま、今日はニッポンという国との親睦ドライブです」
手下の魔族であるピアノがそう言った。
「うむ」
「わははははー!!どうでしょうピッコロ殿!我が国が誇る最新式の小型ジェットの飛び心地はー!?」
「まあまあだな」
黄色いジェットを運転する首相と、後部座席に乗るピッコロとピアノ。首相はあのピッコロ大魔王を前にして気が動転しているのか、汗をかきながら妙な言葉遣いが目立つ。
だがピッコロはそんなことは気にせず、ただ荒野の上の青空を飛ぶジェットから景色を眺めていた。
「む!?」
その時、ピッコロの優れた耳がこちらに向かって飛んでくる何かの音を聞き取った。そして思わず立ち上がった瞬間、なんと遠方からエネルギー弾が飛んできたではないか。
「はっ!!」
ピッコロは両腕でそれを受け止め、軌道を逸らして遠くへ投げ飛ばす。
「なかなかやるじゃないか」
突然背後から声が聞こえ、ピッコロは振り返る。
すると、いつの間にか小型ジェットのボンネットの上に見知らぬ長髪の男が立っていた。腕を組み、こちらを見下ろす顔はにやりと笑っている。
「!?」
驚くピッコロ。
「降りろ。貴様に聞きたいことがある」
男はピッコロにそう指示をする。
「大魔王さま、まだ世界にはとんだ馬鹿者がいるようですな。今までのようにサクッと殺してしまいましょう」
ピアノはそうピッコロに耳打ちした。しかし、ピッコロは敏感にこの男の圧倒的パワーを、その雰囲気やたたずまいから本能的に感じ取っていた。それは悪の存在であるピッコロだからこそ、男に秘められた悪を敏感に感じ取れたのかもしれない。
「…いや、いい…ピアノよ、その首相とやらを連れて先に戻るんだ」
「へ?いやしかし…」
「いいから戻れといっておるんだ!!」
「は、はいぃ!」
ピッコロが浮かび上がると、その男も浮かび、その間に首相とピアノはジェットに乗ったままはるか遠くへ飛び去っていった。
残された両者は睨み合いながら、風が吹きすさぶ荒野の真ん中へ舞い降りた。
「何だ貴様は…」
ピッコロはそう尋ねる。
「お前がこの星の王か?だとしたら、答えてもらう。カカロットはどこだ?」
その男もそう問いを投げかけた。だがピッコロには、そんなカカロットとやらには聞き覚えが無い。
「いかにもこのわたしが世界を支配するピッコロ大魔王さまだ。そう言う貴様は何者だ?」
「…俺はラディッツ!訳あって昔にこの星へ送り込まれた、我が弟であるカカロットという名のサイヤ人を連れ戻しに来た。お前が一番の王であるならば、何か知っているかと思ったわけだ」
「そんな奴は知らないな…自力で探してみるんだな」
「そうか、とんだ無能な支配者だ。ならばこの星の人間どもを1人ずつ順番に殺していけば、いずれカカロットが見つかるはずだ。いくら最下級のクズだったとしても、こんな星のゴミクズ共に殺されているわけはないからな」
ラディッツはそう言うと、どこかへ飛び去ろうと構えた。
「待て」
だが、ピッコロはそれを呼び止める。
「それは聞き捨てならんな。このわたしの趣味はわたし自身の手で人間どもの恐怖にひきつる顔を見て楽しむことだ。それをお前に殺されては台無しだ」
「…ほう、ならばどうする?」
「このピッコロさまが始末してやる!宇宙人だかサイヤ人だか知らぬが、ピッコロ大魔王の恐怖を教えてやろう」
ピッコロはそう宣言すると、格闘の構えを取る。ラディッツはにやりと笑いながら振り返り、目元に装着したスカウターを作動させた。
「戦闘力…260とほんの少しか。他の連中よりははるかに強いようだが星の王という割にはたかが知れてる数値だな」
「何だと?訳の分からんことをぬかしおって…!ゆくぞッ!」
跳躍し、ラディッツに向かって飛びかかった。拳による一撃を繰り出し、ラディッツの顔面を狙う。
しかし、ラディッツはピッコロの視界から突然消えたかと思えば、その背後から肘打ちを放った。それはピッコロの後頭部に命中し、前のめりにバランスを崩してしまう。
(なんというスピード…!一瞬で背後へ移動し一撃を当てるとは…)
「ぬうおおおお…!」
ピッコロは態勢を整えると両腕に気を込め、雷のようなオーラを迸らせた。その時、ラディッツはスカウターに表示された数値に異変が訪れたのに気が付いた。
「何だと!戦闘力が上がっている!300…400…500を超えた!」
「『爆裂魔連光砲』!!」
次の瞬間、ピッコロは片腕を振るい、突風のような衝撃波を撃った。衝撃波は地面を大きく削りながらラディッツへと向かって行くが、ラディッツは余裕綽々と言った様子で飛んでかわした。
が、ピッコロも不敵に笑うと、ラディッツが宙へ飛んだ時の隙を狙って残されたもう片腕からさらに強力な衝撃波を放った!
「さっきのはフェイントか!」
空中へ逃げたラディッツに衝撃波は命中し、爆発と煙があたりを覆った。
「ふん、これで終わりだな」
ピッコロは腕を組み直してそう呟いた。
…しかし、煙の中から現れたラディッツを見て驚愕の表情を浮かべる。なんと敵は自分の技をまともに受けても目立つ傷一つなく、以前と変わらずケロッとした様子でこちらを見下ろしていたのだ。
「なるほど、面白いな。攻撃の一瞬のみ戦闘力を集中させて高めることができるのか…。だがくだらん技だな…ただホコリを巻き上げるだけか」
ピッコロの「爆裂魔連光砲」は、今までのピッコロ記念日において国を滅ぼしてきた際に使用してきた「爆裂魔光砲」を連続して放てる技である。しかもただ二度放つだけでなく、2発目は威力をかなり威力を増している。
「バカな…」
「今度はこちらから仕掛けさせてもらうぞ」