「あれは…ピッコロ大魔王だ!」
逃げ惑う人々は、上空に現れたピッコロを見てそう指差しながら叫んだ。ただでさえ街を荒らしてきたラディッツに、あの悪魔と謳われたピッコロ大魔王までもがこの惨状に加わってしまった。
人々は恐怖に手で顔を覆いながら、退治するピッコロとラディッツを眺めていた。
「でも、まさかピッコロ大魔王は…」
その中にも、ちらほらと淡い希望に胸を寄せる者もいた。
「見せてやろう、このピッコロ大魔王さまの魔封波をな!!」
「なに?」
聞きなれない言葉を聞いたラディッツは反応を示す。ピッコロはにやりと笑うと、浮遊したままゆっくり降下してビルの屋上へ降り立った。
黙って見ているラディッツの前で、屋上の床を念力で少し捲るように破壊し、ポケットから取り出した白い小瓶を置いてその周囲を石で埋めて瓶が動かないように固定する。瓶には「大魔王封じ」と筆で書かれている以外は何の変哲もない物だ。
「どういうつもりだ?」
「昔、ある武道家が編み出した封印術だ。コイツで今から貴様を封じ込めてやる」
「なんだと…?」
「『魔封波』だッ!!」
ピッコロは目にもとまらない速さで素早く魔封波を発動させるよう手を動かし、勢いよく気の嵐を両手からラディッツに向けて放った。
「!?」
それはちょうどピッコロから見て斜め上の上空に居たラディッツに命中し、直撃した気の渦に巻き込まれるようにして引き寄せられていく。
「なんだこれは…!」
「はああああ…!」
ピッコロは額に血管を浮き出させながら気の渦を操作し、ラディッツを小瓶の元へ引き寄せていく。回転しながら何もできないラディッツはただ肉体を強引に引き延ばされるような感覚と共に得体の知れない術に恐怖していた。
「むうん!!」
「ぐわああああ…!ふっふっふ…だが俺が倒されたと知れば、同じ仲間のサイヤ人ふたりが飛んでくるぞ!せいぜい一年はかかるだろうが、それが貴様の寿命となるのだ…!!」
ラディッツは小瓶の真上に来たタイミングで、ピッコロは一気に下へ向けて渦を操作した。ラディッツはその軌道に乗り、悲鳴を上げながらヒュポンと瓶の中に吸い込まれた。
直後にガタガタと揺れる小瓶だが、すぐさまピッコロが栓をはめた事で揺れは止まり、何事もなかったかのように周囲は静まり返った。
「はは…ははははは…このピッコロさまに逆らうからこうなるのだ…」
魔封波は使用すると術者を体力を著しく奪い死に至らしめるが、術者の力量が高ければ高いほどその成功率が上がり死亡率は下がっていく。
瓶を拾い上げると、ふと下に目を移す。一部始終を目撃していた人間たちが言葉を失い、驚愕しながらピッコロを見上げていた。
「ふん…」
だがそれを一瞥すると、ピッコロは夜空へ飛び立った。
「ピッコロ大魔王が…助けたのか…?」
はるかかなたの宇宙…
「ラディッツの反応が消えた…あの野郎死におったか」
ある惑星の森の中で、スキンヘッドの大柄な男がそう呟いた。耳にはラディッツが装着していたモノと同タイプのスカウターが装着されていて、服装もラディッツと同じようなデザインの戦闘服を着用している。
「なさけないヤツだまったく…戦闘力1000もいかない雑魚に殺されるとは」
一緒にいたやや小柄な体格で、黒髪を逆立てた頭をした男が殺した異星人たちの骸に囲まれながら、その死体を貪り食っていた。
彼ら二人もまたラディッツと同様に現役のサイヤ人戦士で、今は星々を襲っては他の異星人に高く売りつける地上げ屋の仕事を行っており、今もその最中であった。
「どうする。この星を後回しにして行くか?」
「そうだな…どうせあんな役に立たんクズはいらないが、何故戦闘力たったの650如きのヤツに殺されたのか気になるな…」
「もしやとてつもない兵器を持っていたりとかしてな」
「面白い…少し興味が湧いてきた。よしいこう!」
二人はほど近い場所に置いてあった宇宙ポッドに乗り込むと、目的地を地球に設定して飛び立たせた。
「サイヤ人の血が騒ぐぜ…いったいどんな野郎がラディッツを殺したんだろうな。かたき討ちってわけじゃあねぇが、闘ってみてえもんだ」
「あせるなナッパ。地球までは1年以上もかかる…久々に長めの睡眠をとるか」
今から一年後…サイヤ人、ベジータとナッパが地球に襲来する…。
「ご苦労だったピッコロよ」
ラディッツを無事に魔封波で封じ込めることに成功したピッコロは神の宮殿へと訪れていた。300年前、自分はこの場所で神と分離しピッコロ大魔王となった。今となっては遠い昔の記憶だが、忘れることはない。
「だがヤツは気になることを言っていた…一年後、自分より強い仲間ふたりが地球にやって来ると…」
「そうか…ここから会話を聞いていたが、どうやらそれは本当のようだ。何となくだが感じるのだ…この世のどんな者よりも恐ろしい気配がこの地球に迫っているのをな」
そう言う神は神妙な表情で額に汗をにじませている。
「だからピッコロよ…単刀直入に言う。お前は今からこの天界で修行を積んで強くなり、一年後に襲来するサイヤ人を相手に戦ってくれ」
「バカな。なぜわたしがそのようなことをしなければならんのだ。それよりもお前が強くなって戦えばいいだろう!オレにはわかる…屈辱だがお前の方がオレよりも強い。面倒を押し付けるな」
「そう考えたのだが…やはり老いた私より、若返った…つまりこれから先も成長の伸びしろのあるおまえに任せた方がいいと思ったのだ」
「まったく気に入らん!」
その時、ピッコロは声を荒げて叫んだ。神はビクッとして言葉を詰まらせる。
「このピッコロ大魔王を差し置いてこの世のどんな者よりも恐ろしいだと?オレさまは悪だ!!全から最も遠い存在である問答無用の悪だ!今まで8つの国を滅ぼし、今や地球の人口はオレが王になる前の7割に減った!」
「だが、我が地球にとっての敵はそれよりも強大な悪だったというだけだ」
「…ならばわたしが強くなれば、わたしがそいつよりもさらに強い悪になればいいだけの話だ」
ピッコロはサイヤ人との戦いに備えて、天界での修行を始めるのだった。
だが、その前に神に是非会わせたい者がいる、と言われて案内された。
「さあ、来なさい」
神がそう言うと、ピッコロの前に姿を現したのは、かつて亀仙人の弟子であったブルマだった。亀仙流の山吹色の道着を着たその姿はとてつもない殺気に包まれていて、ピッコロが一瞬驚愕したほどだ。
「この者は私が稽古をつけている。今やお前と同等の力を身に付けているはずだ」
「ほう?」
「勘違いしないで、アンタを殺すと神様も死んじゃうっていうから私はこうしているけど、本当はアンタをここで殺したい衝動を必死で抑えてるのよ…何せ、私の師匠と仲間を殺したんだから」
ブルマはピッコロを睨みながらそう言った。すぐにわかった、この気の雰囲気は8年前に戦った魔封波を使った老人とその弟子らしき武道家と似ていると。
「ああ…あの時のか」
「ブルマよ、お前にも一年後にサイヤ人と戦ってもらう。なので、今からピッコロと共に修行を積むのだ。いいな?もしもサイヤ人を倒した暁には思う存分にピッコロと戦うがいい」
「言われなくても」
ブルマはぶっきらぼうにそう言うと、神殿の中へ入っていった。
「一旦ピアノのところへ戻ってくる。わたしが一年ほどいなくなると伝えにな」
天界から飛び降りるようにして消えていくピッコロ。
するとちょうどそのタイミングを見計らっていたように、神の付き人であるミスター・ポポが姿を現した。
「神様、本当にピッコロにこの地球任せてよかったのか?」
「うむ…思った通り、ピッコロは自分よりも強大な悪と対峙することで、それに対する嫉妬心や対抗心が芽生え、結果としてそれが民を守ることに繋がっておる…。あとは最後の仕掛けを遂げればヤツはこの地球を守る戦士となってくれるだろう」
「最後の仕掛け?」
神の意味深な言葉に、ポポは首をかしげる。
「そして気付いておるのかもしれん…私の寿命があと一年しかないことを…」
「あと一年…」
「一年後にそのサイヤ人にピッコロが殺されるからか、それとも単に私の寿命があと一年と言うことなのか。私の死はピッコロの死でありピッコロの死は私の死である…ふっふっふ、神とはいえ自分の死期がわかってしまうのはイヤなものだな」
こうして、ピッコロとブルマは来たるべきサイヤ人との戦いに備えて、厳しい修行を開始するのだった。
まずピッコロはカリン塔を一日に何度も踏破し、すさまじい毒であるが飲んでから強い精神力と生命力で生き延びる事が出来れば隠された力を引き出せるとされる「超神水」とよばれる水も飲み、力を付けた。
「ふははは、どうした!その程度ではサイヤ人を倒してから、オレさまを殺す事などできんぞ!」
「くっ…!」
仕合の中で、ブルマの連撃を全て受け流すピッコロ。ブルマは表情に怒りを込め、少し後ろへ飛んだ。そして腕を腰まで引き、そこに溜めたエネルギーを腕を前へ突き出すと同時に手の平から放出した!
「『かめはめ波』!!」
亀仙流の奥義であるかめはめ波がピッコロに真っすぐ向かって行く。
「甘いわ、『爆裂魔光砲』!!」
片腕を振るい、巨大な気功波を放つ。二つの攻撃がぶつかり合い、しばしの鍔迫り合いを繰り広げた後、炸裂した。
現在の両者の力は互角。この時点で修行開始から6か月が経過しており、残る6か月間も同様に修行にはげむのであった…。