凶暴戦士の一体、ミソカッツンを倒した一行は二手に分かれていた。カムイペと紫、隠岐奈は囚われた妖怪たちを連れ戻しに、紅蓮と天龍、美鈴は霊夢を探すべく最深部を目指していた。
「それにしても寒いな…」
「ええ、これでは十分力が出せないかも」
通路を疾走する紅蓮の後をついていく二人は異常なほどの寒さを感じていたが、紅蓮はそれを気にする素振りは無い。
とその時、三人は同時に強力な気配がこちらに接近してくるのを感じた。三人の前に、ピンク色で赤い髪を生やした大柄な戦士、エビフリャーが立ちふさがった。
紅蓮も動きを止め、エビフリャーとにらみ合う。
「ガウアアッ!!」
しかし、次の瞬間、紅蓮は一瞬にして霊力を解放し、増したスピードで一気に敵との距離を詰めてその顔面に肘打ちを喰らわせた。あまりの一瞬の出来事に誰もが反応できず、エビフリャーは後ろへ倒れ込んだ。
「ぐ…ぬぬぬ…」
エビフリャーはゆっくりと顔を上げ、紅蓮を見た。紅蓮はトドメを刺そうと胸を踏みつけ、顔の前に手をかざした。
「ばぁっ!」
だがエビフリャーは紅蓮に拳を掲げ、そこから冷気を放った。冷気は紅蓮の肩に当たり、その部位に分厚く氷が纏われていく。エビフリャーは右腕を動かせなくなった紅蓮を蹴り上げ、さらに顔面を殴りつけた。
「うおおおおっ!『豹牙螺旋弾』!!」
天龍が青色のエネルギー弾を作り出し、それをエビフリャーに向けて放った。だがそれを簡単に腕ではじき返すエビフリャー。にやりと笑う敵の後頭部に美鈴が飛び蹴りを浴びせた。
前のめりに倒れこむエビフリャーに追撃を加えようとするが、次の瞬間、どこからか伸びてきた電気を帯びた触手を叩きつけられ、感電してしまう。
「ぐわあああああああ!!」
起き上がったエビフリャーは天龍の頭を右手で掴むと、左手から冷気の衝撃波を放ち、美鈴を吹っ飛ばして壁に激突させた。
緑色の肌の戦士、キシーメは、今度は紅蓮に向けて電気触手を伸ばす。
「…ウラァッ!!」
強引に纏った氷を破壊する紅蓮だが、電気触手を体に巻き付けられて感電してしまう。
しかし、紅蓮はそれでも止まらなかった。強力な電流を流されつつも、ゆっくりとではあるが前進しているのだ。
「う…」
エビフリャーは、その風貌も相まってまさに不死身のゾンビと呼ぶにふさわしい紅蓮の戦いざまを見て恐怖し、後ずさりながら冷気の波動を撃った。
だが紅蓮は全身から赤黒い霊力を放出すると、前へ飛び出してキシーメの電気触手を強引に引きちぎった!
「ぎやああああ…」
痛がる様子を見せるキシーメ。
開放された紅蓮は上半身を氷漬けにされかけながらも前進していき、エビフリャーの顔面を殴りつけた。首が伸びるほどの衝撃が襲い、さらに紅蓮は至近距離からの気功波を浴びせる。エビフリャーの全身が焦げ、その場にガクリと倒れた。破れた体表の奥に千切れてショートしたコードが見えた。
さらに狼狽えるキシーメの腕を掴み、振り回して勢いをつけ床にたたきつけた。それによって床に大穴が開き、キシーメはそこに落下していき、やがてその悲鳴も聞こえなくなった。
「ウウウウ…」
「すごい…一人で二匹も倒してしまった…」
「これで後は奥に向かうだけですかね…?」
「アウウウウッ…!」
その時、紅蓮は苦しむような声を出しながらうずくまった。慌てて天龍と美鈴が駆け寄って様子をたしかめると、何と紅蓮の腕や肩、首などの部位が赤黒くただれていた。
「大丈夫なのか?」
「さっきまではそんなの無かった…もしかして、霊力を駆使するとそうなってしまうのですか?」
紅蓮は美鈴たちと目を合わせようとしなかった。紅蓮が今までの何回ものバイオ戦士たちとの戦いにおいて、霊力を解放した状態で戦わなかった理由はこれだ。300年間のうちに既に紅蓮の肉体は内部から腐りかけており、過度な霊力の酷使は肉体そのものを崩壊させてしまう。
しかし紅蓮はもう一度立ち上がると、腐食が進む肉体を無理やりに動かして前へ進み始めた。
一方、妖怪救出の為に地下へと向かったカムイペ、紫、隠岐奈の三人。
「恐らくこのドアの奥が地下牢のような場所でしょう!」
カムイペは手から一発の光弾を放ち、鉄の扉を破壊する。その先には、霊夢が捕らえられていた場所のように、バリヤーで囲まれた台座が無数に立ち並んでおり、その中に捕らわれた妖怪たちが閉じ込められていた。
「…八雲紫!」
その中にいたレミリアが声を出した。他の妖怪たちも彼女らを見てざわざわと騒ぎ立てる。妖怪の賢者たちが助けに来てくれたと喜んでいるのだ。
「なんでここがわかったの?」
「分かる訳ないでしょ、妖怪の山の地中深くに分厚い氷壁があって、更にその中に隠れてる研究所なんて!」
紫は妖怪を閉じ込める檻の役目を果たしているバリアーを破ろうと奮闘するが、なにをやってもバリアーは決して解けなかった。
「どうなってるのよこれ…一体どんな天才がプログラムすれば、この私でさえも全く理解不能な構造に出来るのよ!」
「ダメだ!解析もできないし、私たちのパワーじゃ力づくでも壊せない!」
そうやけくそ気味に叫ぶ紫と隠岐奈だが、カムイペは時間さえかければ何とか破壊できるらしかった。
「しかし時間がありませんね…この間にもあの凶暴戦士の仲間が追ってきているかもしれません」
そう言ったカムイペだが、もはや凶暴戦士たちは彼女たちを追ってはいなかった。ただ一つ、誤算があるとするならば…。
たった今、この上の階で紅蓮たちが戦闘を繰り広げていたということだ。
「にぎえええ…!」
直後、天井を破壊して落下してきたのは、紅蓮に投げ飛ばされたキシーメだった。
キシーメは起き上がってカムイペたちが妖怪を逃がそうとしていると理解するなり、千切られた電気触手を無理に伸ばし、彼女たちをそれで攻撃した。
「ぐうっ…!!」
カムイペは感電しながら吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
紫と隠岐奈が結界を放ってキシーメの動きを止めようとするも、もはや彼女らとキシーメの戦闘力は泥雲の差といえる。よって、何をしても有効なダメージが与えることができなかったのだ。
「くっ…こうなったら、私たちだけでやるしかありません…幻想郷のパワーを見せてさしあげましょう」
紅蓮たちは、何とかコーチンやウィロー、そして霊夢が捕らえられている最深部にまでたどり着いた。
強引に部屋に入った彼女らを、コーチンとウィローが出迎える。
「ひゃっひゃっひゃ!ようこそ幻想郷の戦士諸君!」
「博麗霊夢の肉体を手に入れる前に、今の聖白蓮の身体での戦い納めとでもいうのか…お前たちを木っ端みじんに殺してやることで、霊夢の我々に対する反抗する意思を消し去ってやるのだ」
「コイツが…敵の親玉か…!」
「凄い気を感じます…特に聖さんにそっくりな方…」
「美鈴たち気を付けて!こいつは外の世界からやって来た自称天才科学者のドクターウィローとその助手コーチン!ウィローは私の肉体を奪って正式に復活し、捕まえた妖怪を改造して自分たちの手下にして世界を支配しようとしているのよ!」
バリアーに捕らわれた霊夢がそう言った。
「だまれ小娘が!自称ではない、正真正銘の超天才!ウィロー様に無礼だぞ!」
「落ち着けコーチン。ふっふっふ…では貴様らにこのワシの絶大なパワーを見せてやろう」
ウィローは前に進み出ると、白い激しいオーラを全身に纏う。
「…オアエガアッ!!アアアッ!!!」
そして、怒りに燃える紅蓮が全身から溢れんばかりの赤黒いオーラをたぎらせながら、ゆっくりとウィローに向かっていき、その勝負を買って受けるのだった…!!