ウィローはにやりと笑うと、紅蓮に殴りかかる。
紅蓮は素早く移動してそれを躱し、回し蹴りを繰り出した。ウィローはそれを頬に受けるがすぐに態勢を戻し、紅蓮の腹にパンチを叩きこむ。
「ウゲ…」
せき込む紅蓮の顔面にさらに膝蹴りを食らわし、至近距離からの気功波を浴びせた。それを受ける紅蓮だが、彼女は強引に気功波の衝撃の中をかいくぐり、ウィローの顔を鷲掴みにした。
「な、なんじゃと…!?」
自身がどんなにダメージを受けようともそれを気にすることなく向かってくる紅蓮に対して驚くウィロー。紅蓮は掴んだウィローを振り回し、地面に叩きつける。
が、手の隙間から覗くウィローの目からするどい光線が発射され、紅蓮はそれを顔を逸らして避けた。その隙を狙ってウィローは手から抜け出し、紅蓮の顔面を連続で殴る。
「ははははは!面白い、面白いぞ!!」
「グアアア…!!」
唸る紅蓮。ウィローは最後に渾身のパンチを放ち、紅蓮を突き飛ばした。
だが紅蓮も負けじと右腕を上にかかげ、一発のエネルギー弾を投げる。
「遅いわ!」
それを軽々と避けるウィロー。しかし、光弾はそのままウィローを素通りし、その背後へ進んでいく。
「…コーチン、避けろ!」
「あひゃあっ!」
コーチンが慌てて伏せ、光弾が頭上を通過していく。だが、その光弾の狙いはウィローでも、コーチンでもなかった。
光弾はコーチンの頭上を通過すると、その後ろにある霊夢を閉じ込めているバリアーの装置に命中した。
「むうう!これが目的だったか!!」
苦虫をかみつぶしたような顔をするウィロー。
光弾の爆発をもろに受けた装置は破壊され、バリアーが消える。霊夢は転がるようにしてその場から離れ、檻から脱した。
そして、狼狽える様子を見せるコーチンの目の前に、天龍が降り立った。
「観念するんだな」
だが、天龍に詰め寄られるコーチンは一瞬ニヤリと笑い、左腕を前に突き出した。そして手首を下へ曲げると、何とその手が変形し、中に隠されていたガトリングマシンガンが露わになった。
マシンガンから無数の弾丸を発射し、天龍を追いかけていく。
「うわああ~~!!」
逃げる天龍だが、次の瞬間に上から降りてきた美鈴がコーチンの腕の銃を破壊した。外れた銃はガラガラと音を立てて地面に落ちる。
「クッ…」
「さぁ、まだ武器がおありですか?」
「当たり前じゃ!喰らえい!!」
今度は右腕に持っていた杖の柄の部分を外し、紫色の電気のような光線を放った。しかし、今度は天龍がそれをかいくぐるようにしてコーチンに接近し、その杖を粉々に砕いてしまった。
「ば、馬鹿な…!ドクターウィロー…!!」
コーチンはウィローに助けを求めるが天龍と美鈴に阻まれ、そしてウィローの前には霊夢と紅蓮が立ちふさがる。
「ゆ る さ ん…!!」
ウィローは怒りに肩を震わせながら静かに言った。
「もう生かしては帰さん!ワシの完全復活を邪魔する愚か者は皆殺しにしてやるのだ!」
「くるわ!」
次の瞬間、ウィローを中心に気の波動が放たれた。それに触れた霊夢と紅蓮は体が硬直して動かなくなり、その隙をついて接近したウィローのラリアットを受けた。
床にたたきつけられるが、追撃を喰らう寸前で二人とも起き上がり、ウィローの背後へ攻撃を仕掛ける。
「甘いわァッ!!」
ウィローがそう叫ぶと、床から赤い気功波が飛び出し、二人の全身を包み込んだ。強烈な攻撃を受けた二人はさすがに膝をついてしまう。
「くっ…強い…!」
だが紅蓮は、覚悟を決めたような目つきでなおも前へ進み出る。もはやその肉体は、初めて霊夢たちと紅魔館で会った時よりも傷だらけで、赤黒く変色した部位は広範囲に侵蝕していた。
「ヴォッ!」
「はっはっはっはっはァ!!そんなボロボロな肉体で、何ができる博麗紅蓮!?」
紅蓮は力を込める動作を取り、その全身に霊力をたぎらせる。しかし、その霊力は霊夢の使うそれとはまったく異なり、ヘドロのように赤黒く濁っていた。
「ヴェロロロロロゴウロロロロアアッ!!」
「紅蓮の身体が…!」
次の瞬間、ついに紅蓮の全身が赤黒くただれた。そしてそのただれた部位がドロドロに溶け始め、やがて全身へと広がっていく。赤黒い肉がしたたり落ちる崩壊しかけの肉体…もはや黒目すらも消え失せた黄色い目玉。以前の面影すら完全に見当たらない姿はひたすらに異形の怪物のようであった。
「ウゴアアアッ!!」
しかし、その運動能力と霊力の量はこれまでとは桁違いだった。紅蓮は飛び跳ねると一瞬にしてウィローとの距離を詰め、その顔面を殴った。
「な、何だとォ…!?」
「グルォアアアアッ!!」
吹っ飛んでいくウィローを追い、その背中を蹴り上げてさらに上空へ吹っ飛ばす。そしてその地点へ先回りし、両手を合わせて作った拳を腹に叩きつけ、地面へ落下させる。
床にぶつかったウィローの周囲に大きなクレーターが出来、その中心の瓦礫をかき分けてウィローが顔を出した。
「す、すさまじいパワー…!醜く崩れた肉体と引き換えに、今まで隠していた超パワーを解き放ったのか…」
おそらく、死を覚悟しなければ到底発揮できないであろうこの力。紅蓮は肉体も今後の命も全て捨てるつもりで、全力を解き放ったに違いない。
紅蓮はドスンと着地し、首を掴んでウィローを引っ張り上げた。もう片手にエネルギーを溜め、それを至近距離で爆発させウィローを壁に向かって吹っ飛ばした。
辺りに煙が巻き上がり、そこへ向けて紅蓮はゆっくりと歩いていく。
「…カァッ!」
次の瞬間、煙の中から紅い光線のような気功波が飛び出してきた。この研究所内も真っ赤に染まってしまうほどの強烈なエネルギーで、ぶつかればもちろんただでは済まないだろう。
しかし、光線は紅蓮の胸に直撃し、焼くようにじりじりと威力を高めていくが、紅蓮は全く効いている素振りを見せない。そして光線の前に手をかざし、それを握って炸裂させ、打ち消した。
「な…何者なのじゃ…お前は…!」
紅蓮は両手にエネルギーを溜めながら、ゆっくりとウィローに近づいていく。
「このワシが…天才たるワシが、こんなちっぽけな世界の凡人に勝つことができないだと…!?認めん、認めんぞォ!!」
わなわなと肩を震わせるウィローは空中に浮かび上がり、そう叫び声を上げた。
ウィローの怒りは、彼にとってはもっともである。人間たちを改造して世界に君臨するはずだったのに、その前座として選んだ幻想郷という地で、彼は安全に、確実に最強の肉体を探してそれを奪うつもりだった。しかしその幻想郷で、自分の思い通りにいかないことが起きた。
「こうなればもうよい!世界を支配した後に使っていくつもりだったが、この50年間溜めに溜めたエネルギーを取り込んでやるわァッ!!」
ウィローは両腕を広げ、全身から球状のオーラを放つ。すると、この広い部屋の床が光り始める。その光は雷のように立ち昇り、ウィローに吸収されていく。
この部屋の下には、遥か地下へと伸びるエネルギーの支柱が存在していた。そこにはウィローの言う通り、50年間蓄積し続けてきた研究のためや世界征服に使うエネルギーがあった。それをウィローは全て吸い取り、自分のパワーに加えようとしているのだ。
「うわあっ…!」
地面から伸びるエネルギーの光には近寄ることもできず、紅蓮や霊夢たちはそれを見ていることしかできなかった。研究所が揺れ、床が崩壊していく。
「な、何事ですか!?」
一方、地下牢の前でキシーメとの戦いを繰り広げていたカムイペたちの所でも、その影響が訪れていた。壁を突き破ってエネルギーの柱が牢に漏れ出してくる。
「きやあああああ!!!」
そしてその光に直撃したキシーメは、自らの使う電気触手よりも強力なエネルギーに晒され、その身の気を吸い取られ、やがて自らもバラバラになって支柱に吸収されてしまう。
しかしその光のおかげで妖怪たちを捕らえていた牢が破壊され、開放された。
「みんな、今のうちに逃げるのよ!」
「はああああああ…!!!」
支柱からさらにエネルギーを取り込んでいくウィロー。その全身が光に包まれ、光り輝いていく。
「あ、わ…!ど、ドクターウィロー…!!」
とその時、足元の床が崩れ、コーチンは地下へと落下していく。ウィローの名を叫びながら、支柱のすぐ横を。
だがウィローは落下するコーチンになど目もくれない。やがてコーチンは支柱から発せられる光にさらされ、ほとんどがサイボーグと化していた肉体が崩壊していく。
その中で、コーチンは確かに見た。
ウィローの乗っ取っていた聖白蓮の肉体が変貌していくのを。顔に貼りついていたオレンジ色の血管のような筋が剥がれ、紫と金色だった髪は白くなり、炎のように逆立っていく。そしてその目玉は青いガラス玉のようなものへと変わる。
「ひゃ…ひゃっひゃっひゃ!これぞドクターウィローの最強の姿じゃ!まさに世界を支配するに…ふ…さわ…し…」
コーチンはそう言いかけたところで支柱に吸収され、消滅してしまった。
「ははははははァ!!素晴らしいパワーがみなぎってくるぞォ!!」
一通りエネルギーを取り込み、さらなるパワーを身に付けたウィローが光の中から姿を現した。
果たして、その実力は…?そして、幻想郷は、いや…世界はどうなってしまうのか…!!