「とはいうものの、誰から当たりを付ければいいのか…」
「うーむ、俺は地上の強者に関しては全く知らないぞ。こっちに来てからはずっと寺に居たからな」
30日後に迫った、八雲紫主催の幻想郷一武道会。その大会へ向けて、霊夢とカカロットは幻想郷の強い奴と仕合をしようとしていた。
が、誰をあてにすればいいのか分からない。とりあえず人間の里までやってきた二人は甘味処の中で話し合っていた。
「武術が強そうなのは…紅魔館の紅美鈴とかかしら?それとも地底の鬼か…」
「地底の鬼だと!?俺はあいつらに会うのだけは絶対に嫌だからな」
地底の鬼という言葉に異常に反応を示したカカロット。霊夢は、コイツは地底出身だから鬼が怖いのは当たり前か…と思い、軽くスルーした。
「とりあえず、紅魔館にでも行ってみましょうか」
「紅魔館?どこなんだそれは?」
「吸血鬼が住んでる館よ。そういえば、その吸血鬼もそこそこ強かったわね」
「ほう」
「決まりね」
二人はそう言うと、立ち上がって店から出た。紅魔館のある方角へ向けて歩き始めようとした時、男の怒声が近くから聞こえた。そちらに顔を向けると、何やら人だかりができているではないか。
「おいオッサン!テメェか、テメェが俺の財布を盗んだんだな?」
人を無理やりかき分けて、カカロットが人だかりの中心を覗きに行った。すると、おかっぱ頭の巨漢が男性の胸ぐらを掴み、持ち上げて揺さぶっていた。巨漢の横には、道着を来た二人組がついている。
「ち、ちがう、私ではない…!」
「口で言っても分からんようだな!ならば力づくで返してもらうぞ!!」
「さぁ来い、番所へ突き出してやる」
横に居た取り巻きの男がそう言いながら男性に殴りかかった。しかしその時、上から人だかりのど真ん中に飛び込んできた霊夢がその手を弾いた。男は手を押さえながら後ろへよろめいた。
「何だお前は!でりゃあああ!」
「おりゃあああ!」
巨漢の取り巻き二人が、突如乱入した霊夢に飛びかかる。そして目にもとまらぬ速さで無数の攻撃を放った。
が、霊夢がそれよりも素早い身のこなしでその場から消えた。目を丸くする二人組の背後に回り、その後頭部を手刀で叩いた。二人組は気を失い、ドサッと倒れ込む。
「あ、あわわわ…まさか、博麗の巫女…」
残された巨漢は身をすくませ、怯えながらそう呟いた。
「ん?」
その時、様子を見ていたカカロットが地面に落ちていた巾着袋を拾い上げた。紐が解けて、中身のお金がパラパラと落ちる。
「あ、それは俺の財布!返せ!」
巨漢は慌ててカカロットから財布をひったくった。
「テメェが盗んでたのか?あぁ?」
「ちげーよデクノボウ。ここに落ちていたから拾ってやったんだ、自分で落としたんじゃないのか?」
「何だと小僧、聞いたようなことをぬかすな!痛い目を見るぞ」
「それってどんな目だ?」
「…こんな目だ!」
挑発するカカロットに倒して、巨漢は身構えた。そして一発、パンチを放つ。しかしカカロットはそれを瞬時に見切ると、飛び跳ねた。
「うお?」
空ぶった拳を見た後、巨漢はカカロットを探して辺りをキョロキョロと見渡す。そして自分の頭上に居るのを発見すると、その跳躍を見て驚いた顔をする。そして落ちざまに攻撃を仕掛けようとするカカロットを迎え撃とうと、もう一度拳を構える。
「やめろ!」
その瞬間、そんな声が響いた。その声を聴いたとたん、巨漢は動きを止め、声のする方を向いた。人が道を開け、着地したカカロットと霊夢もその声の人物を見た。
「あ…兄者!」
青とピンクの中国風の衣装に、首にスカーフを巻いた凛々しい青年が立っていた。痩せた顔に、その巨漢と同じく頭をおかっぱに切りそろえている。
その青年を兄者と呼んだ巨漢は姿勢を落とし、青年と目線を対等にする。
「兄者、アイツらが…」
そう言いかけた瞬間、青年は巨漢の顔面をビンタした。さらにもう一発、二発…と往復で食らわす。巨漢は思わず頬を押さえ、青年は前へ進み出る。
「どうやら弟の昇龍が無礼を働いた模様。許してください」
そう言うと、青年は巨漢の昇龍に絡まれた男と霊夢に深々と頭を下げた。
「ええ…」
「そこの君も、許してくれるかな?」
爽やかな笑顔でカカロットにそう問いかける。
「ああ…」
それに対して腕を組んで無愛想に返事をするカカロット。
「失礼します。いくぞ昇龍」
青年は一言そう言うと、昇龍を連れてその場を後にした。
「馬鹿者が!人里であのような姿をさらすな。我が師、豊聡耳神子様と豹牙流拳法の評判が落ちたらどうするつもりだ。しかもあの場にいたのは博麗の巫女…敵に回したくはない女だ」
「すまねぇ、天龍兄者…」
昇龍を従える、豹牙天龍という青年。彼は一体何者なのだろうか?
「さ、気を取り直していきましょうか」
「ああ」
「でもさっきの二人の気、どっかで感じた事のあるような…」
霊夢は先ほどの昇龍と天龍の気について考える。
「あ!思い出した!神子だわ!」
「たのもう!」
二人は思い立つや否や、豊聡耳神子が住んでいる仙界の霊廟にまで足を運んだ。霊廟の一角は道場にもなっており、仙人志望である神子の弟子たちが日々修行に励んでいる。
その道場の門を開け放ち、大声で叫ぶ霊夢。静かに瞑想をしていた弟子たちが一斉に振り向いた。
「おや、何の用ですか?」
と、弟子の指導をしていた神子本人がそう言った。2つの動物の耳のように逆立った髪の毛、手に持った釈…。そう、神子は何を隠そうあの聖徳太子その人なのである。
「さっきね、里で変な武道家の二人組を見たんだけど、気の感じが神子に似てたのよ。何か知らない?」
「ほう、きっと豹牙兄弟ですね」
「豹牙?」
「ああ。兄の
「幻想郷一武道会って知ってる?」
「それなら一昨日ほどに八雲紫が尋ねてきて参加を持ち掛けてきましたが、私は退かせていただきました。それが何か?」
「実は、その大会に備えて幻想郷中の達人と仕合をさせてもらおうと思って回ってるのよ」
「そうなのですか。…ほう、後ろにいるその少年が、もしかして聖白蓮に弟子入りしたという者では?」
神子は霊夢の後ろにいるカカロットを見つめた。その目はわずかにカカロットを品定めするように、その能力を探っていた。神子は相手の欲望を聞くことができる能力を持っており、それを使用している。それによると、カカロットからはどうにかして霊夢に勝ちたいという思いと、さらに誰よりも強くなりたいという願望が読み取れた。
「そうだ。その豹牙天龍とやらはどこだ?俺はアイツと戦いたいんだ」
なるほど…と神子は思った。
「やめておきなさい。中々の力を持っているようですが、天龍には勝てないでしょう。彼は私が復活してから最初に弟子入りしてきた者で、正に天才と評するにふさわしい者です。が、心に秘められた邪悪さが拳ににじみ出ている。最近は拳法にのめり込んでついには自ら『豹牙流拳法』を立ち上げて師範となってしまう始末。彼は私でさえも持て余してしまうほどの使い手ですよ」
天龍は確かに、あの神子が認める天才だった。しかし、その欲望は神子ですら手に負えなくなり、自分独自の拳法を教える道場までも勝手に作ってしまったようだ。
「ほほう、それを聞いてますます興味が湧いた。俺は里へ戻って奴を探してくるぜ」
「あっ、ちょっと!」
霊夢がカカロットを止めようとするが、それを聞かずに飛び出して行ってしまった。
一方、里の食事処では。
「くそう!あのガキめ!」
席についている昇龍が、空けた酒瓶を地面へ叩きつけて割った。既に相当な量の酒を昼間から飲んでいるのか、顔は赤くなり酔っぱらっている風であった。
「酒だ、もっと持ってこい!」
「それぐらいにしておけ、昇龍。私はこのお汁粉をもう一杯貰おうか」
「は、はい…」
女将さんがそう言い、厨房へ入っていく。すると、昇龍は店の窓の外にカカロットが走っているのを見つけた。
「ありゃあのガキ…」
「うお!」
天龍を探して里を回っていたカカロットは、後ろから投げられた酒瓶を躱した。
「何をする?」
「へっへっへ、なぁにさっきの決着を付けようと思ってよ」
店の戸の前に立っていた昇龍がそう言った。
「うるせぇ、俺はお前なんかに興味はない」
「へ、怖気づいたか。兄者よ、俺はどうしてもこのガキが気に入らねぇ。コイツなら構わねぇだろ、可愛がってやってもよ…」
「いいだろう、だがほどほどにしてやれよ」
昇龍の後ろから姿を現した天龍。
「出たな!俺はそこのデカブツより天龍とかいう奴の方に興味があるんだ、退け」
「なにおう、コイツ!」
昇龍は巨体に見合わない跳躍でカカロットの前まで飛ぶ。そして間髪入れずに殴りかかった。それを飛んで避けたカカロットは、昇龍の背後へ移動する。
「む!」
素早い裏拳を繰り出す昇龍だが、それもまた軽く避けられてしまう。次々と繰り出される蹴りや突きの応酬を次々と躱していく。だんだんと昇龍も苛立ちを見せ始め、その攻撃にさらに正確性とスピードを欠いていく。
さらに、カカロットは攻撃を避けつつ、里に流れる川に架かる小さな橋の上にまで昇龍を誘導していた。
「ちょこまかと…コノヤロウ!…うわっ!」
最後に思い切り力を込めたパンチをお見舞いしようとした。しかし、それすらもカカロットに避けられてしまうと、大きく態勢を前に崩し、橋から落っこちてしまった。
「ふん、ざまあ見ろ!」
カカロットは足を橋の手すりに引っ掛けながらそう吐き捨てると、すぐに起き上がろうと体を上げた。
すると、目の前にはあの天龍が待ち構えており、カカロットを睨みつけていた。
「少し調子に乗り過ぎたようだな、降りろ」
言われた通りカカロットが手すりから降りようと宙に浮いた瞬間、天龍は目にもとまらぬスピードで突きの連打を放った。流れるような動きは見切る事が出来ず、カカロットは顔面に全て喰らってしまう。
「ぐあ、卑怯な…」
「豊聡耳神子様と豹牙流をナメるとどういうことになるか、教えてやるわ!」
カカロットが応戦しようと再び飛び跳ねた瞬間、もう一度天龍はカカロットの顔面を殴った。先ほどよりも遥かに早く、緩やかな動きだったが、またしてもカカロットは躱しきることができなかった。そして上から背中へ肘打ちをお見舞いし、カカロットを地面に叩きつけた。
「は、はやい…」
「どうした?おそろしくて手も出んか?はははは、行くぞ昇龍」
天龍は地面に突っ伏したまま動かないカカロットを見ると、水から上がってきた昇龍と共に笑いながらどこかへと行ってしまった。
「遅いわねぇ、アイツ」
霊夢が修行をしている神子の弟子たちを眺めながら、そう呟いた。
その時、入り口の戸が勢い良く開いた。
「天龍と昇龍、ただいま帰りました」
天龍と昇龍だ。
「おお、帰りましたか」
と、一番弟子たちを迎える神子。
しかし次の瞬間、閉めたはずの戸が再び開いた。
「お前たち!不意打ちとは卑怯だぞ!俺とちゃんと勝負をしろ!」
「なっ…!」
カカロットが天龍を追ってここまで帰って来たのだ。ついさっき軽くのしてやったヤツが短時間でここまで追ってきた事に、天龍が驚いた声を出す。
「…どういうことですか、天龍」
現状をすぐに察した神子が天龍にそう問い詰めた。
「これは…」
言葉を濁す天龍。
「コイツが不意打ちで俺を攻撃したんだ!」
「お前が私に用があると言ったので相手をしてやったまでだろうが!」
「静粛に!」
口論を始めた天龍とカカロットを、神子が制する。二人は口をとめ、思わず振り向いた。
「明日、カカロットと天龍の試合を、人間の里で行う事とします。そこで決着をつけなさい」
「豊聡耳様がそう仰るのでしたら…」
「いいだろう」
天龍は少し不満そうな顔をして、昇龍と共に部屋から引き下がった。その後、神子がカカロットの前まで歩いてきて言った。
「…是非、明日の試合ではあの天龍を負かしていただきたいのです」
「なに?アイツはお前の弟子なんだろ?」
神子の発言を不思議に思うカカロット。それは話を聞いていた霊夢も同じだった。
「ええ、だからこそです。天龍は人一倍プライドが強い…あの増長した弟子は一度完璧に負けなければ考えを改めたりはしないでしょう」
…次の日。里の広間に設置された武舞台の上に、カカロットと天龍が向かい合う。周りには観戦客が取り囲うようにして多く集まっており、戦いを楽しみにしている。
「聖さんと神子さんの弟子同士の対決だってよ」
「これも宗教戦争なのか?」
観客の中には霊夢と神子と、その側近である物部布都と蘇我屠自古が混じっていた。その近くに、天龍の弟である昇龍を初めとした豹牙流拳法の弟子たちも見える。
「頑張れー、兄者ー!」
「もう昨日のように手加減はせん、殺す!」
「どちらかが参ったと言うか気絶するまでの勝負だぞ、殺したらお前の負けだろ」
二人は同時に構えた。
「貴様…その構えはやはり聖白蓮か」
「ああ、行くぜ!」
飛び出した天龍の下段蹴りをジャンプで避けるカカロット。続くカカロットの猛攻も、手を回転させることで受け流す天龍。しかし、カカロットの一突きがその顔面を捉えた。が、負けじと繰り出された天龍の蹴りがカカロットの腹に突き刺さる。
「キエエエエエエア!!」
「うおっ!」
天龍は甲高い掛け声と同時にさらにカカロットと熾烈な攻防戦を展開する。武舞台上で繰り広げられる戦いに、観客も湧いてくる。二人の実力はほぼ同じ、拮抗している状態だった。
「あれが寺の弟子か、にしてはかなりやるのう」
と、見ていた布都がそう呟いた。
「これでトドメだ、『豹牙旋風脚』!」
天龍は両足のつま先を軸にするように地面につけると、そのまま体を高速で回転させた。さながら竜巻のように見えるそれは、一気に上空へ飛び跳ねた。上からの強襲で、カカロットを倒すつもりだろう。
「聖白蓮流…『気功突き』ィ!」
カカロットも同じように飛んだ。そして、右腕に全身の気を集中させ、白いオーラを纏わせる。その拳を振りかぶり、回転の勢いごと蹴りを繰り出した天龍と激突する。
ドギャア
間一髪、顔を傾けて頬スレスレで天龍の蹴りを避け、そのままカカロットの気功突きがその胸に命中した。空中で天龍は目を見開き、そのまま落下して武舞台へ叩きつけられた。
「…おおおおお!!」
観客席から、歓声が響き渡った。神子や霊夢もホッとしたように胸をなで下ろす。誰がどう見ても天龍の負けだった。
武舞台の上で、天龍はゆっくりと起き上がった。
「おい、カカロットとかいったか…」
「ああ」
「…悔しいが、私は慢心していたようだ。これを機に我が豹牙流は豊聡耳様に一から鍛え直してもらうとするよ…」
負けを認めた天龍は、神子の方をチラリと見た。神子は弟子の改心を喜ぶように微笑んだ。
「私も幻想郷一武道会に出ようと思う。その時はまた戦いたい」
「ふん、気が向いたらな」
はてさて、強敵豹牙天龍を破ったカカロット。
だがまだ終わりではない、幻想郷にはまだまだたくさん、強敵が待っているのだから!