霊夢は見た。見覚えのある黒い道着に、逆立った黒髪。腰から伸びる尻尾は腰に巻かれていて。その全身から真っ赤な炎のようなオーラを放っている。
その赤い流星はウィローを吹っ飛ばすと、空中で減速し霊夢の前に降り立つ。
「な、なんだ貴様は…!このワシを怒らせればどういうことにな」
「うるせぇよ」
三年ぶりに姿を現したカカロットは、不敵に笑いながらウィローにそう言い放った。その気迫に押されたウィローは、思わず黙ってしまう。
「カカロット…!なんで…?アンタ今までどこに…」
「詳しい事は後で話す…とにかく、ここからずっと遠い場所にいた」
カカロットは霊夢を横目で見ながら言った。
「それにしても、よくそこまで強くなったな…」
「ええ…アンタに勝つために必死で修行したわ。でも、あのドクターウィローにはてんで歯が立たなかった…」
「…そうか。俺が気まぐれに帰って来てやったついでだ、何か頼まれてやる」
「そう…じゃあ、早速だけど一つお願いを聞いてほしいわ…頼む…あのクソッタレ科学者をどうかやっつけて!!」
「…ああ、気が向いたらな!」
「ふん、また1人馬鹿者が死にに来たか。いいだろう、どこの誰だか知らぬが、望み通り永久氷壁よりも冷たい恐怖を味わいながら絶望して死ぬがいい!!」
ウィローは全身から紫色の気を放出し、片腕から一発の強烈なエネルギー波を放った。
「度を超えたお人好しが…いらんことにまで首突っ込むからだ。俺はコイツらがやってたこと、向こうから全部見てたんだよ。だから殺す」
「このワシを殺すだと?馬鹿が、この一撃をどうにかしてからほざいてみせろ!!」
気功波はぐんぐんとカカロットの前に迫っていくが、動こうとしない。そして気功波が目と鼻の先まで近づいた瞬間、カカロットは一瞬で消えた。
「なぬ、消えた…!?」
「『界王拳』!」
いや、消えたのではない。赤いオーラを纏いながら超高速で移動していたのだ。カカロットは脇に霊夢を抱え、真っすぐに伸びているエネルギー波の上スレスレを移動していく。
「『界王拳2倍』!!」
途中からグンとさらにカカロットのスピードが加速し、一瞬にしてウィローの眼前にまで迫る。そして、刹那の一撃。カカロット渾身の怒りのパンチがウィローの顔面にめり込んだ。ウィローの顔とカカロットの拳との間から血が噴き出し、そのままウィローは床にたたきつけられる。
そこをさらにカカロットは蹴りつけ、それを腹に受けたウィローは唾のような物を吐き出しながら吹っ飛ばされ、壁に激突する。
「ふう…」
カカロットは不思議な赤いオーラを解き、元に戻った。
「す、すごい…それは一体?滅越拳に似てるけど違うわ」
「これは『界王拳』と呼ばれる技で、極めれば自分のスピード、パワー、ガード…全てを倍増させることができるんだ。俺が滞在していた場所で覚えたんだ」
カカロットはかつて摩多羅隠岐奈に潜在能力を解放してもらった際、戦闘力を倍増させる技である滅越拳が使えなくなってしまった。正確にはそれが必要ないほど強くなってしまったわけだが…この界王拳はそれに代わる、戦闘力を増やせる奥義であるのだ。ただし、滅越拳と比べるとその肉体にかかる負荷は激しい。
「ウラアアアアア!!」
だが次の瞬間、紫色の光と共にウィローが瓦礫の中から飛び出してきた。
「今のは油断した!まさか瞬間的にスピードが増すとはな…驚いたぞ。だが!いくらパワーが上がろうとこのワシを倒すことはできぬのじゃあ!!」
「じゃあお前はここで見てな。俺が勝つのをな」
カカロットは霊夢をその場に降ろすともう一度2倍の界王拳を発動し、ウィローへ向かって突撃していった。拳と拳をぶつけ合い、周囲にとてつもない衝撃波が発生する。
さらに両者は空中に飛び上がり、激しい攻防戦を繰り広げた。ウィローの肘打ちをカカロットが押さえ込み、そのままグイグイと押し合いをする。ウィローの顔とカカロットの顔が近づき、互いににらみ合う。
「喰らえい、『マッドネスマシンガン』!!」
次の瞬間、ヒュンとカカロットとの距離を置いたウィローは両手の指を向け、無数の細かい弾丸のような光弾を放った。カカロットは目にもとまらぬスピードでそれを避けながら敵へ接近し、その腹へ蹴りを入れようと足を出した。
だがウィローもそれを素早くかわし、カカロットの背後へ移動しその背中を殴りつける。下へ吹っ飛ぶカカロットだが体を丸めて回転しつつバランスを整え、腕から一発の気功波を放った。
「甘いわァッ!!」
ウィローはそれを弾いて潰すが、その瞬間に煙幕のようなものが噴き出し、ウィローの視界を奪う。その隙を見て、カカロットのパンチがウィローを殴り飛ばした。
だがウィローは、それが読めていたとでもいうように途中で動きを止めると、なんと背中から巨大な光線を放った。その光線はカカロットの胸に命中してしまう。
「ぐおおおッ…!」
ウィローはダメージを受けたカカロットに近寄り、連続でその腹や顔面を何度も殴る。
「はははははァ!!所詮はこのドクターウィローには及ばないようだな!」
「ああ、カカロット!」
霊夢が心配そうに声を上げる。
後ろへよろめきながら下がったカカロットへ、ウィローのエネルギー弾が命中し、爆発が起こる。
「口ほどにも無いな小僧!とんだ期待はずれじゃ」
ウィローは腕を組んで笑いながら降り立った。
「はっはっは…お前は期待以上だな…聖の肉体を乗っ取ったんだろ?流石に殺す寸前まで痛めつければビビって出てくるだろうと思ってたが、今のままじゃお前には勝てないらしい…」
「ほう、天才と凡人の力量の差を理解したか」
「ああ、”今のまま”じゃな!」
「何だと?」
「見せてやるぜ…少し無理をすれば、こんなこともできる」
次の瞬間、カカロットはさらに力を込める。全身を覆っていた赤いオーラがさらに鋭くなり、カカロットの体の筋肉が少しだけ膨らんだような気がする。
「これが『三倍界王拳』だッ!!」
カカロットはギュオンと加速し、ウィローに突っ込んだ。拳を腹にめり込ませ、ウィローは血を吐き出す。
「ゴハ…!」
さらに背後へ移動し、背中を蹴りつけて吹っ飛ばす。カカロットはまたもその先へ移動し、もう一度蹴りつける。それを繰り返し、ウィローはサッカーボールのように成す術もなく蹴られ続ける。
途中でカカロットはウィローを空高く蹴り上げ、手刀で顔面を殴りつけた。
「こ、このウィローが…!」
「オラオラどうした!?」
カカロットは両手に七色の気を溜め、それを腰の横へ回してさらに巨大化させる。そして次の瞬間、特大の気功波をウィローに向けて放った。
「『超華光玉』!!」
七色の特大の光線は容易にウィローを包み込んだ。その圧倒的なエネルギーに晒され、ウィローは目を見開きながら爆発に巻き込まれる。
「やった!?」
霊夢が手を上げて喜んだ。
「いや、まだだ…」
「ぐ…ぐぐ…」
光線が過ぎ去った跡には、ボロボロの状態のウィローがその場で立ち尽くしていた。今のウィローは服装も聖のものと同じであったが、ところどころ破け、赤く腫れた体が露わになっている。
「く…お…敵わん…!このままではこの肉体と共に死んでしまう…!」
ウィローはそう悟ると、突然何かがこと切れたように床へうつぶせに倒れ込み、全く動かなくなった。一瞬だけ聖の肉体から弱い電流のような気が流れ出し、その髪の色が元の色に変わっていく。
「聖…!」
霊夢がすかさず駆け寄って聖を膝の上に抱くと、その顔も元通りの聖のものに戻っていた。今は気を失っているのか、おだやかな表情で眠っている。
「よかった…」
「どうやら諦めて体から出ていったみてぇだな。さて…今度は出ていったアイツの頭脳がどう出るかな?」
「流石だなカカロットとやら!お前こそ幻想郷で一番強いヤツじゃな…ならばお前の肉体を貰うことにした!最強の肉体はワシのものだァ!」
この研究所全体に、ウィローの邪悪な声が響き渡った。
今、最終決戦の火蓋が切って落とされようとしていた…!