もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第95話 「魔界最強の戦士の過去」

幻想郷の南部に位置する、広大な森。そこは強い魔力に満ち、それを糧として生きる妖怪や魔法使いが好んで暮らしていることから、人々は「魔法の森」と呼んでいる。

その一角で、魔人ウスターは大木の枝のてっぺんに足を置き、半分浮くような形で精神統一を行っていた。羽織った白いマントで隠れているが、三年前に月の客軍との戦いで失った右腕はそのままだ。

 

「もしかしてウスター?久しぶりね」

 

ウスターはピクリと反応し、振り返った。すると、そこにいたのは人形を駆使した魔法を得意とする、マリス・マーガトロイドであった。

 

「やっぱりウスターだ!直接会うのは魔界以来ね!」

 

 

「何年か前に新聞で見たわよ。幻想郷一武道会だっけ?で優勝したって見た時は、まさか貴女が幻想郷に来てるなんて思わなかったわ」

 

アリスは自宅へ上がらせたウスターの前にお茶を出した。ウスターはしずかにカップを持ち、少しだけ飲んだ。

 

「…無口なのも相変わらずね。ずっと昔はもっと普通の子だったのに」

 

しかし、ウスターは黙ったままだ。

 

「メイド時代は真面目で素直だった…やっぱり、”あの戦争”が…」

 

”あの戦争”。ウスターはお茶を飲みながら、自分がまだ魔界で暮らしていた時の事を思い出す。

魔界は、幻想郷とも通じている文字通りの魔の世界である。それを管理し、最高神として君臨するのはその魔界を作ったいわば創造神でもある「神綺」という魔界神である。

 

 

─────

 

 

かつてウスターは、彼女に仕えるメイドの一人であった。親友のアルマンドと常に一緒にいて、二人で同じ仕事をこなしていた。二人とも他のメイドより背が高い事がコンプレックスであったが、それでも普通に暮らしていた。

 

「アルマンド、私の作ったケバブを食べてちょうだい」

 

「やっほーい!ウスターのケバブはまじで癖になるからねー!」

 

「うふふふ…いつかケバブの屋台を出したいんだ。オリジナリティを出すために、今日は牛肉に加えて別の肉も入れてみた。なんだと思う?」

 

アルマンドは紙にくるまれたケバブを一口齧った。

 

「う~ん、待って、言わないでね!これは…キジの…」

 

当時、魔界ではキジという動物は珍しく、あるいは地域によっては神鳥として扱われており、食用として利用することは禁止されていたりもした。

 

「そうよ、よくわかったね。でも神綺様には内緒にしてよ?」

 

 

─────

 

「…俺の好物は、キジの肉だ」

 

アリスと会って家に上がってから始めてウスターが発した言葉だった。

 

─────

 

 

そしてある日の事、ウスターとアルマンドの元へ、魔界で起きている紛争へ駆り出される兵士の募集が届いた。

 

「ウスター、アンタはどうするの?こんなもの、わざわざ死にに行くような物よね」

 

アルマンドは掃除の合間に、ホウキの柄に顎を置きながらそう話しかけてきた。ウスターはしばらく考えてから、言いにくそうに答える。

 

「実は…私は志願しようと思ってる」

 

「え?アンタまじで言ってるの?」

 

「ああ…昔から武術と強さに興味があったの。いい機会だと思ったわ」

 

「やめといたほうがいいわよ!!」

 

突然アルマンドはウスターの肩を掴みながら声を張り上げた。その表情は必至で、黄色い瞳がじっとウスターの目を覗き込んでいた。

 

「ちょ…いきなりどうしたのよ…」

 

「あ…ごめん、つい…。とにかく、私はお勧めしないわ」

 

だが、ウスターはじきにメイドを辞め、兵士となることを目指して体を鍛え始めた。元からそういった才能は有ったようで、すぐに戦闘力を伸ばし、戦術や格闘術を学んでいった。

そんなある日の夜、いつものように眠りにつこうとしたウスター。ベッドの上でウトウトし始め、意識が睡眠に入り始めた頃、部屋のドアがギィ…と小さな音を立てて開いたのに気が付いた。

 

「…誰だ?」

 

ウスターは上体を起こし、暗闇の中で目を凝らした。次の瞬間、部屋に入って来た何者かがウスターに飛びかかって来た。

白い大きなマントを羽織っていたため顔や姿は見えなかったが、40センチ以上はある長い刃物を握り、それを彼女の顔へ突き立てた。

だがウスターは寸前でそれを抑えこみ、防いだ。相手も負けじとギリギリと力を込め、刃物の先端がウスターの額に触れ、わずかに血が流れていく。

 

「この…っ!」

 

ウスターは足を上げ、片足をマントの人物の首元へ回し、締め上げた。

しかし、敵はマントをするりと脱いで顔を出し、拘束から逃れた。

 

「…あなたは…!!」

 

露わになったその顔は、あの親友だったアルマンドのものであった。アルマンドは面食らって硬直したウスターのスキを見て、例の刃物でその顔の右半分を深く切り裂いた。

 

「ぐっ…あああああああああ…!!」

 

刃物はウスターの右目を斬って潰し、そのまま右耳まで達した。右耳も千切れてなくなり、顔面とベッドが血で濡れていく。痛みに叫ぶウスターを尻目に、アルマンドは逃走する。

 

「ま、待て…!」

 

這うようにして追いかけようとするウスターだが、ふとアルマンドが凶器に使用した刃物が残されているのに目に入った。

 

「これは…肉切りの長包丁か…」

 

その長包丁は、ウスターがメイド時代に愛用していたものであった。辞めた時に置いてきたのをアルマンドが凶器に使ったのだろうか。

 

「お、おのれアルマンド…何故…何故私を…!」

 

数日後、見えなくなった右目の手当てとと右耳の切除を終えたウスターはアルマンドが現場に残した白い大きなマントを羽織り、復讐心と怒りに燃えながら彼女を探した。

まず神綺の元へ戻りアルマンドの事を尋ねたが、あの夜の前日に彼女もメイドを辞めてどこかへ消えてしまったらしい。それから何日もアルマンドを探して魔界中を巡り廻った。だが心当たりのある場所を数週間数か月とはり込んでも、アルマンドは見つからない。

やがてウスターの髪が伸び、前髪で目が隠れるようになってくると、斜めにカットし潰れた右目と無くなった右耳を隠すように髪型を整えた。

…いったいどれほどの年月が流れただろう、行く先々で名もなき戦士として戦いに明け暮れながらアルマンドを探したが、全く痕跡すら見当たらなかった…。

だが、魔界の辺境にある城に住むシュラという名の武道家の元を訪れた時の事だった。

 

「アルマンド?ソイツは10年ほど前までここで働いていたがな」

 

「それは本当か!?今は何処に?」

 

「確か、西部師団に入ったと噂を聞いたな」

 

シュラからアルマンドについての情報を得たウスター。彼女もかつて志した兵士となる道をもう一度選び、西部師団へ入隊するのだった。

だがひとえに西部師団と言っても20近くもの隊に分かれていたので、合同訓練や休暇の日にアルマンドを探してみたがなかなか見つからない。そんな時、南部の「マリナーラ」という土地での戦争へ参加する通知が届いた。どうやらそこでは西部師団のほとんどの隊が集結するようで、ウスターはもしアルマンドを見かけたらどさくさに紛れて背中を撃ってやろうと憎悪をたぎらせた。

いざ隊の仲間と共に戦地へと赴いたが、あの場所は…とてもアルマンドを探せるような余裕のある所ではなかった。一瞬でも足を止めれば殺される、殺されないために殺すような血と爆撃音に埋められた死の戦場だった。

魔界は魔法や魔力と同時に月の都ほどではないにしろ外の世界と共通した科学力や文化が根付いており、大砲や銃のような兵器は当たり前だった。

仲間のバラバラになった死体が降り注ぐ中をひたすらに銃を撃った。ときたま敵が爆弾を投げ入れてくるが、ウスターはそれを即座に投げ返す。じりじりと追いつめられた敵軍は爆弾を幾つも体に括り付けた特攻兵をこちらへ仕向けてきた。敵1人でこちらは10人もやられた。

そして爆弾を抱えた敵兵がまた1人こちらへ走ってくるのが見えた。敵にも事情があったはずだが、どんな胸中だったのかは考える暇が無かった。

 

「奴を止めろ!」

 

何発もの銃弾を撃ち込んでもその兵は止まらなかった。

がしかし…すると1人のこちら側の兵士がすぐそばの塹壕から飛び出したのが見えた。

 

「…ア…アルマンド!!」

 

間違うはずが無かった。一時たりともその顔を頭から離したときは無い。

変わり果てた顔つきのアルマンドは敵兵を押し倒し、しがみ付いて放さない。やがて、敵兵と共に爆発に巻き込まれた。

アルマンドは足が吹き飛び内臓が飛び出ていたが辛うじて生きていたのですぐに塹壕に引きずりおろした。ついに待ち望んでいた瞬間が訪れた…そう思った。

 

「アルマンド…やっと見つけたぞ」

 

お前が私にしたように、目を抉って耳を切り取ってやろうと思ったが、既にアルマンドの両目は潰れ耳から大量の血を流していた。

 

「無駄だウスター、そいつはもうだめだ!鼓膜も目もやられてる」

 

隣にいた仲間の兵士がそう言った。その時、ちょうど戦いが膠着状態となり、不思議なほど静かになった。

 

「ウ…ウス…タ…」

 

そう呟いたアルマンドの肩をゆすり、言葉を投げかける。

 

「なぁアルマンド!何故あの夜、私を襲った!」

 

「だ、誰ですか…そこにいるのは?」

 

アルマンドはそれがウスターだと気付いていない様子だった。ウスターは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ、か細いアルマンドの声に耳を澄ました。

 

「誰だかは分かりませんが、伝えてほしい事があります…ウスターという名の女性に…」

 

「…!?」

 

アルマンドはウスターの手を握る。

 

「私はウスターとは友人でした…とても好きだった。ですが、ある日彼女は軍に入って兵士になりたいと言い出した。

私には昔兄がおりまして、自ら進んで兵士となり、紛争で死にました。その時私はまだ幼かったですが、当時の気持ちや情景を鮮明に思い出し、強い不安に駆られました。もちろん友として彼女が思う道を応援しようとした…だけど私にはできなかった…。もう大事な人を失った時のあの寂しさを味わいたくない…。

今思えば、私は精神的におかしくなっていたのでしょう…そのウスターを兵士になれない程度に怪我をさせようと寝込みを襲いました。片目と片耳を奪えば、兵士となる道を諦めてくれると思った…。

だがそれでも、これはいけないことで、私は恨まれ復讐されて当然だという冷静さはあった。だからあえて料理好きだった彼女が愛用していた包丁を証拠の凶器として残した…。

それからしばらくの年月、私はウスターが現れるのを待っていました。ですが彼女はいつまでたってもやってこない…まさか彼女はそのまま兵士となったのではと思い、私も軍隊に入りました。ですが彼女の姿は無かった…きっと彼女は友人だと思っていた私に傷つけられたことを今も悲しんでいるのかもしれません…本当につらい思いをさせてしまった…どうか、ウスターという名の女性に…この話を…」

 

血と一緒に透明な涙を流すアルマンド。

話を聞いたウスターは、非常用の食料として携帯していた、乾燥させたキジの肉を千切ってアルマンドの口に押し込んだ。それを不思議そうに食べたアルマンドは、何かに気付いたように顔を動かした。

 

「…キジの肉…それにこのスパイスの味…!ウスターか?」

 

そう言うと、アルマンドは息を引き取った。

 

「…知り合いだったのか?」

 

そう聞いてきた仲間に、目で何かを伝えるウスター。仲間は納得したように目を伏せ、ウスターの背中をさすった。

その時、再び銃弾と大砲の音が響き渡った。

 

「さぁ行くぞウスター!」

 

仲間はウスターにそう声をかけ、再び塹壕から顔をのぞかせる。

しかし、ウスターは銃を捨て、手ぶらで塹壕から出ようと足をかけた。

 

「ウスター…何を…!」

 

「…うおおおおおお…!!」

 

ウスターは敵に向かって走っていく仲間の兵士たちを追い越し、丸腰で敵と衝突した。何かが噴き出したような圧倒的なパワーで敵を殴り、顔面を吹っ飛ばす。蹴りで首の骨を折り、全身から発せられるオーラの衝撃で周囲を吹っ飛ばす。その光景を見た仲間は信じられないとばかりに唖然とした。

 

「殺してみろ…!俺は魔人ウスターだッ!!」

 

一夜にして敵を殲滅した魔人ウスターは、魔界最強の戦士と称された。

戦争を終わらせ、生き残ってからは、長い間自分を磨き続けた。今さらこんな身体ではメイドもできないし、兵士として過ごす気力も失った。ただひたすらに強さを追求し、最強にこだわった。しかし、生きる目的が見当たらなかった。アルマンドの死体を冷たい石の下に埋葬したあの日から、自分の生きる意味は何だと考え続けた。

だがある日、ウスターは酒場でとある知らせを耳にする。

 

「幻想郷一武道会?」

 

「ああそうさ、幻想郷で妖怪の賢者が主催する武道会だ。優勝すれば、ドラゴンボールとかいう何でも願いの敵うアイテムが貰えるらしいぜ」

 

「…ほう…」

 

武道会に出場したウスターは、カカロットや霊夢と出会い、やがて彼らと共闘する機会も増えていった。

ようやく、自分の生きる目的が見つかった。カカロット…お前をいつか必ずこの手で倒し、俺が最強に最もふさわしいと証明してやる!

 

 

 

 

 

 

「…もしもウスターがキジ肉のケバブの屋台を出したら、昔のウスターに戻れるのかしら」

 

アリスはそう呟いた。飲み干したお茶のカップを置き、ウスターは家を出ようとする。そしてアリスとのすれ違いざまにふっと囁いた。

 

「俺は今も昔もウスターだ。戻るも何もない。河は常に流れ、同じ場所に留まらない。俺は俺であり続ける…それだけなのさ」

 

 

 

 

 

 

☆キャラクター戦闘力紹介☆

参考

一般成人男性 5

一般成人女性 4

子供(10歳) 2

ミスター・サタン 6.66

一般的に超人と呼ばれるレベル 7~8以上

大妖怪クラス 80以上

ピッコロ大魔王 260

ラディッツ 1500

ベジータ 18000

 

 

アリス・マーガトロイド 4~60(通常時~魔力込み)

 

魔法の森に棲む魔法使い。この小説内においては魔界出身と設定付け、メイドとして神綺の元で働いていたウスターと多少面識がある。

その戦闘力は、通常時は人間の女性と変わらない数値だろう。魔力や魔法の力を扱う際には、60の戦闘力を発揮できるものとする。

 

 

ウスター 10(メイド時代)→90(戦争参加時)→180~360(覚醒)

アルマンド 10(メイド時代)→20(戦争参加時)

 

かつて魔界でメイドとして働いていたウスターと、その親友のアルマンド。名前の由来は「アルマンドソース」から。

恐らくメイド時代には魔人として二人とも最低限人間を超える身体能力を有していて、10はあるとする。ウスターは軍に入るため、そしてアルマンドに片目と耳を切られてから戦争に参加するまでには90に達しており、戦場での覚醒でその二倍の180、さらに魔力や気で戦闘力を倍加させる能力を手に入れた。

アルマンドは兵士とそれなりに鍛え始めたおかげで倍の20はある。一般的な魔界人としては強い部類には入るだろうが、同時期のウスターと比べるとその力は弱い。




ゴールデンカムイの谷垣のエピソードをオマージュしました。

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