騒動の翌日、人里では早朝から里の人間達が全員参加しての修復作業や美化作業が行われていた。特に小傘は、ほぼぶっ続けであちこち走り回っては作業を続けていた。時刻はその日の昼前…
住人A:小傘ちゃん、大丈夫か?ずっと休憩無しで働きっぱなしじゃないか。
小傘:わちきは大丈夫こう見えても、体力には結構自信があるから
住人A:し、しかしだなぁ…
小傘:さぁさぁ!わちきに次の仕事を下さい!
住人A:ど、どうする?
住人B:いや、どうするって言われても…
張り切る小傘を心配する里の人間達。其処に、ザーボンと華扇が通り掛かった
ザーボン:小傘さん、頑張っている様ですね。
小傘:はいそっちはどんな感じですか?
ザーボン:此方の作業も、滞り無く進んでいますよ。
小傘:そうですか良かった
華扇:皆さん、どうかしましたか?
住人A:仙人様。実は…
住人達は、華扇に事情を説明した
華扇:フム、成る程…
住人B:仙人様、何とかなりませんかね…
華扇:私に御任せ下さい
住人達:おぉ…
住人達の期待の眼差しを背負いつつ、華扇は小傘の傍に移動した
華扇:小傘、少し良いかしら?
小傘:何ですか?
華扇:貴方、作業開始から今まで、休憩もせずに作業を続けているそうですね?
小傘:あ、はい…
華扇:いけません。
小傘:えっ?
華扇:妖怪とは言え、無理をしてはいけません。貴方だって、作業を続けていて疲れくらいは感じているでしょう?そんな時は、休んでも構わないんです。
小傘:で、でも…わちきはこの騒動で里の皆に多大な迷惑を掛けてしまった訳で…それなのに、皆を差し置いてわちきだけ休憩だなんてとてもとても…
華扇:貴方が無理をして倒れたら、それこそ里の皆さんに迷惑が掛かってしまうとは思いませんか?
小傘:そ、それは…
華扇:皆さんに余計な心配を掛けない為にも、休める時にしっかりと体を休めなさい。コレは、貴方を思う里の皆さんの気遣いです。良いですね?
小傘:分かりました。
華扇:宜しい…ザーボン。
ザーボン:はっ…
華扇:貴方も、彼女と共に行ってらっしゃい。
ザーボン:えっ?
華扇:彼女と同じく、貴方も殆ど休憩せずに働いていたでしょう?なので、貴方も休憩して来なさい。コレは師匠命令です。拒否は許しません。
ザーボン:…華扇様の仰せのままに。
華扇:宜しいしっかりと彼女をエスコートしてあげて頂戴
ザーボン:はっ…では、行きましょうか。小傘さん。
小傘:あ、はい。えっと…それじゃ、ちょっとだけ休憩に行って来ます。
住人A:あいよ
住人B:ゆっくりして来なよ
華扇や住人達の生暖かい笑顔に見送られつつ、ザーボンと小傘は休憩する為にその場から移動した
ザーボン:さて…エスコートしろとは言われた物の…どうした物やら…
小傘:うーん…とりあえず、其処の茶屋で手を打ちませんか?
ザーボン:そうしましょう。
2人は、一先ず近くの茶屋へと移動。団子と茶を注文し、店先の椅子に並んで座って食べ始める
ザーボン:…ふぅ…
小傘:落ち着きますねぇ…
ザーボン:はい。
2人:・・・
この時、2人は思った。“こう言う時、どう会話したら良いのだろう”と…
小傘:えっと…ザーボンさんって、元々は軍人さんだったんですよね?
ザーボン:えぇ、まぁ…
小傘:顔もイケメンさんですし、女性達にモテモテだったのでは?
ザーボン:あ、いや…私の居た軍に女性は居なかったんですよ。なので、残念ながらそう言う浮いた話は皆無でした。
小傘:えっと…じゃあ、御友達とか…
ザーボン:友人と呼べる存在も居ませんでした。そんな余裕のある環境でも無かった物で。
小傘:うっ…な、何かスミマセン…
ザーボン:いえいえ。小傘さんこそ、里の人間達に随分と慕われていた様で…
小傘:わちきは、大好きな里の皆の役に立とうと色々やっていただけで、大した事はしてませんよ。
ザーボン:しかし、貴方が妖怪だと分かった後も、人間達は貴方を仲間だと言っていました。コレは、貴方の頑張りが彼等に認められた結果でしょう。もっと胸を張っても良いのでは?
小傘:そう…ですかね…
ザーボン:えぇ。
小傘:えっとえっと…ザーボンさんは、此方の世界での生活に慣れて…って、此処に来たのはついこの間だって仙人様が言ってましたっけ…
ザーボン:スミマセン…
小傘:確か、今はあの仙人様の元で修行をしてるんですよね?
ザーボン:はい。
小傘:仙人の修行って、やっぱり大変なんじゃないですか?
ザーボン:修行とは言え、まだ初歩的な事と生活の補助程度しかしていませんので…
小傘:あ、そうなんですね…
2人の間に、またも静かな時間が流れる
小傘:ザーボンさんは、どうして仙人様の修行を受けようと思ったんですか?
ザーボン:やはり、今よりも強くなりたいと思ったから…でしょうか…
小傘:強く…ですか…一体どうして?
ザーボン:えっ?
小傘:あれ?わちき、もしかしてまた失礼な事を?
ザーボン:いえ、大丈夫ですよ。しかし、どうして…か…理由を聞かれると、答えに困ってしまいますね。
小傘:と言うと?
ザーボン:力を求めているのは事実なのですが…その…誰かの為にとか言うはっきりとした理由は無くて…何せ、恋人だの友人だのと言う存在に出会えた経験が皆無な物で…
小傘:・・・
ザーボン:華扇様の修行や、この世界で暮らしている人達と交流を深めて行く内に、その理由とやらが見付けられればとは思うのですが…
小傘:・・・
ザーボン:コレでは、答えになっていませんね。失礼しました。
小傘:いえいえ!わちきこそ、答え難い質問をしちゃってスミマセンでした!
ザーボン:いえ…逆に聞きたい。貴方は、誰かの為に強くなりたいと考えた事はありませんか?
小傘:今までは、考えた事もありませんでした…でも、今回の事で考えが変わりました。
ザーボン:と言うと?
小傘:こんなわちきを受け入れてくれた里の皆を守れるくらいに強くなりたい…そう思いました。
ザーボン:ほぅ…
小傘:なーんて、偉そうな事言ってますけど…わちきなんかに修行を付けてくれる人なんか居る訳無いんですけどね…
そう言いつつ、苦笑いを浮かべる小傘。しかし、それを聞いたザーボンは…
ザーボン:小傘さんさえ良ければ、私から華扇様に進言してみましょうか?貴方にも、私と同じ様に修行を付けて貰えないかと。
小傘:あの仙人様にですか?
ザーボン:はい。私と違い、貴方には誰かの為に強くなりたいと言う真っ直ぐな気持ちがある。彼女ならば、その気持ちを無下にはしない筈です。
小傘:此方としては有難い御話ですけど…受け入れて貰えますかね…
ザーボン:話してみましょう。勿論、無理強いはしませんが…
小傘:いえ、大丈夫です。そうと決まれば、仙人様や皆の所に戻りましょう。
ザーボン:はい。
茶屋での飲食代を払った2人は、すぐに華扇達の元へと戻り、彼女に事情を説明した
華扇:フム…里の人間達を守る為に、彼女にも私の修行を付けて欲しいと…
ザーボン:はい。
華扇:・・・
少し考える仕草を見せた華扇だったが、すぐに彼女から笑みが溢れた
華扇:良いでしょう。成り行きであれ何であれ、その気持ちを知った以上、受け入れない理由等ありません。
小傘:それじゃ…
華扇:貴方の真っ直ぐな気持ち、確かに受け取りました。この茨木華扇が、貴方の力となりましょう。
小傘:あ、有難うございます!
嬉しそうに承諾した華扇に対し、小傘は深々と頭を下げた
華扇:しかし、私の弟子となる以上、途中で修行を投げ出す事は断じて許しません。覚悟は良いかしら?
小傘:皆を守る為なら…わちき、頑張ります!どうぞ宜しく御願いします!
華扇:やる気満々で実に結構。ザーボン、ウカウカしてると彼女に追い抜かれてしまいますよ?
ザーボン:そうならない様に、気を引き締めなくてはいけませんね。
華扇:その通りです只、小傘には御店もありますし、修行のメニューはあまり厳し過ぎない物を選ばなくてはいけませんね。
小傘:その辺りは、何とか両立させて行きますので大丈夫…きっと…多分…
華扇:うーん…イマイチ締まらないですねぇ…
小傘:ザーボンさん。
ザーボン:何でしょう?
小傘:貴方が強くなる為の理由、わちき達と一緒に見付けに行きましょう
ザーボン:はい。
華扇:さぁ、2人共!まずは里の建物の修復及び美化作業を済ませてしまいますよ!
2人:はい!
彼等と里の人間達との協力により、数日と経たずに里は元通りの活気を取り戻した。その後、里の皆から慕われる唐傘御化けが仙人の弟子となったのだが、暫くの間は店の切り盛りと修行の両立でてんてこ舞いだったとか…
人里騒動編、これにて完!
と言う訳で、次回からラディッツが復活…の予定です