25人の少女と、1人のサポーター   作:皐月 遊

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11話 「過労/除名」

さて、ライブまで後2週間となった。

俺は、毎日のようにサポーターの仕事をしていた。

 

ちなみに、ポピパとの約束はライブが終わってからになった。

 

「あこちゃん、今のところもうちょっと力強くね!」

 

練習中にメンバーにアドバイスをしたり、そんな事をする毎日だ。

 

「湊さん。 少し休憩にしましょう」

 

「えぇ…そうしましょう」

 

湊さんに提案し、休憩時間になった。

俺はテキパキと皆にタオルと水を渡していく。

 

「ありがとー! いやぁ、ユウは優秀なサポーターだね!」

 

リサさんにそう言われ、少し照れてしまう。

最初は慣れなかったサポーターも、今では立派に出来ている…と思う。

 

「ありがとうございますリサさん!

…それで、湊さん。 ライブの曲の構成なんですけど、こんなのはどうですか?」

 

湊さんに曲の構成を書いた紙を見せる。

湊さんは紙をじっと見つめ…

 

「…ありがとう。 参考にさせてもらうわ」

 

「はい。 …あ、それじゃあ、俺はAftergrowのサポートがあるので、これで失礼します!」

 

午前はRoselia、午後はAftergrowのサポートをする約束をしていたのだ。

勿論、あらかじめ湊さん達には言っているので問題はない。

 

湊さん達に挨拶をして、部屋を出る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ひまり! ちょっと走り気味だぞ! つぐは逆に遅れ気味だ!」

 

Aftergrowのサポートでも、やる事はそんなに変わらない。

まぁ、敬語を使わなくていい分、気が楽なくらいか。

 

演奏中に気になったメンバーに指示を飛ばしていく。

 

「お疲れさん。 皆、一旦休憩にしよう」

 

演奏が終わったメンバーに提案し、休憩時間になる。

 

「…よし、皆。 ライブは2週間後だ、俺にとっては初のライブだから、どんな物かは知らないけど、ライブでは練習みたいにアドバイスしてやれないからな?」

 

「…分かってる。 いつも通りにやるよ」

 

蘭が言うと、皆も力強く頷いた。

 

「よし。 大丈夫そうだな。…っと、悪い、ちょっとトイレ行ってくる」

 

蘭達に告げ、トイレに急ぐ。

 

……トイレに入った瞬間、地面に膝をつく。

 

「…はぁ…はぁ…うぇっ…!」

 

そのまま、流し台に胃液をぶちまける。

最近、こんな事が多い。

 

理由は分かっている。

過労だ。

 

今は真夏、そんな日に、何時間も連続で色々な音楽を聴いているから、体がおかしくなってしまったんだろう。

加えて、皆へのアドバイスや改善点の洗い出しであまり眠れてないしなぁ…

 

「皆に…気づかれないようにしないとな…」

 

きっと、この事を知ったら音楽に集中出来なくなる。

それだけは避けないとな…

 

「…よし…笑顔笑顔…!」

 

鏡の前で笑顔の練習をし、蘭達の部屋に戻る。

 

「ただいまー」

 

「お、おかえりユウ。

あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいか?」

 

巴に呼ばれ、ドラムの場所へ向かう。

 

「この箇所が上手く叩けなくてさ…なんかうまい方法ないか?」

 

「んー…巴の場合、勢いで叩いた方がいいから、勢いは殺さずに、肩の力を抜いてみればいいんじゃないか?」

 

「なるほど…やってみるよ!」

 

皆に必要とされている以上、答えなければいけない。

せめて…ライブが終わるまでは持ってくれよ…!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

無事にAftergrow練習も終わり、開催となった。

 

部屋を出ると、丁度Roseriaと鉢合わせた。

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

「おぉあこ! あこも練習終わりか?」

 

「うん!」

 

丁度Roseriaの練習も終わったらしく、あこちゃんと巴が話し出す。

相変わらず仲がいいなぁ…

 

……それとは別に、蘭と湊さんは睨み合っていた。

 

「…美竹さん。 練習お疲れ様」

 

「…はい。 湊さんも、お疲れ様です」

 

…何この空気…? なに…? この2人って仲悪いの…?

 

「…はいはい友希那行くよ〜?

それじゃあ皆バイバイ〜」

 

リサさんが湊さんを連れて行き、ライブハウスには俺とAftergrowが残った。

 

「…なぁ蘭? お前湊さんと仲悪いの?」

 

「別に…そんなんじゃない」

 

どうやら違うらしい。

…んじゃライバルって奴か?

 

熱いねぇ…

 

「っ…!」

 

おっと…やばい…また立ちくらみが……

最近立ちくらみの頻度が増えてきた気がするな…

 

これは早く帰って寝ないとな…

 

「それじゃあ皆! ライブに向けてファミレスで作戦会議しよー!!」

 

ひまりが手を上げて提案する。

 

……ま、まじか…?

 

「…ひまりはただスイーツが食べたいだけでしょ」

 

「そ、そんなんじゃないもん!」

 

蘭の問いかけに、ひまりが焦って返答する。

 

結局ファミレスに行く事になり、俺達は現在、テーブル席に座っている。

 

ちなみに席わけは、蘭とモカの間に俺、蘭の前につぐみ、俺の前に巴、モカの前にひまりだ。

 

俺は端の席でいいと言ったのだが、無理矢理真ん中に座らされた。

 

…これじゃあ具合悪くなったらトイレ行けないんだけどな……

 

「皆ー、注文は決まった?」

 

ひまりが仕切り、皆各々食べたい物を言っていく。

もう夜だから、皆スパゲティやハンバーグを頼んでいる。

 

「ユウは?」

 

ひまりの質問に俺は

 

「んー…腹減ってないからフライドポテトでいいや」

 

と答えた。

すると、皆首を傾げる。 いつも俺は巴と同じくらい食べるから驚いたのだろう。

 

モカが俺の顔を覗きこんでくる。

 

「ユウ君。 体調悪いのー?」

 

身体一瞬震えた。

モカは本当に鋭い。

 

だが、俺は無理矢理笑顔を作り、否定した。

 

皆の注文した品が来て、ドリンクバーも用意した。

まずは皆で乾杯し、ライブの話し合いを始める。

 

「やっぱりさ! 盛り上がるライブにしたいよね!」

 

「盛り上がるライブかー。 どんなのだろうな」

 

「ステージから皆にパンを投げるとかー?」

 

ひまり、巴、モカが盛り上がっている中、つぐみは苦笑い、蘭はただ皆の話を聞いていた。

 

俺は…ひたすら意識を保っていた。

 

やばい…さっきから頭がくらくらする…

 

ファミレスは人が多い。 色んな人の話し声が耳に入ってきて混乱してしまう。

 

「…ユウ…? あんた本当に大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

蘭のその言葉により、皆が話し合いをやめて俺の顔を見る。

…やばい…

 

「だ…大丈夫だよ…大丈夫…大丈夫」

 

俺はひたすら大丈夫と繰り返した。

 

モカが真剣な表情になり、俺の額に手を当てる。

 

「…ユウ君。 具合悪いなら帰ろー? モカちゃんが送ってあげる」

 

…モカは気づいている。 多分今、俺の額はかなり熱いだろう。

だがモカは、焦らずに皆を混乱させない様にしてくれたのだ。

 

だが、俺は立ち上がる事も、喋る事も出来なかった。

 

やばい…やばい…意識が…

 

「ユウ…? ねぇ…大丈…」

 

蘭の言葉を最後まで聞く前に、俺の意識は途絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ん…?」

 

目が醒めると、真っ白な天井が目に入った。

次に目に入ってきたのは、5人の幼馴染だった。

 

「ユウ…! 良かったぁ…!!」

 

ひまりが俺を見て泣き出してしまう。 巴とつぐみはひまりを慰めている。

モカは、俺の頭を撫でてくる。

 

「ユウ君〜急に倒れるからびっくりしたよ〜」

 

「…わ…悪い…皆…」

 

声を出すと、思った以上に掠れ声だった。

 

だが、モカは優しく微笑んでくれた。

……しかし、蘭だけはずっと俺を睨んでいた。

 

蘭は、モカの手をどかし、俺の目をジッと見ながら言った。

 

「…なんで…なんで無理したの!? そんなに無理してまでサポーターなんてやらなくてもいい!!!」

 

蘭の怒号が部屋に響き渡る。

見れば、蘭は俺を睨みながら泣いていた。

 

「…病院の先生が言ってたよ。 これは過労からくるストレスだって…

学生がこうなるのは珍しいって…!!

あたしは…! ユウにストレスを抱えてまでサポートをしてもらいたくない!」

 

「…ら…らん…」

 

掠れ声で名前を呼ぶが、それでも蘭は止まらない。

 

「…体調悪いなら言ってよ…! 休みたいなら言ってよ…!

あたし達に気を使わないでよ…! 幼馴染でしょ…!?」

 

「ら、蘭…! 落ち着こうよ…? ここ病院だよ…?」

 

ひまりが泣きながら蘭を止める。

 

俺は、蘭の言葉に大きなダメージを受けていた。

蘭の言っている事は正論だ。

 

良かれと思ってやっていた事だったが、結果的に彼女達を苦しめてしまった。

…俺はサポーター失格だ…

 

蘭はひまりに止められたが、次に巴が俺の胸ぐらを掴んできた。

蘭と同じくらい俺を睨んでいる。

 

「おいユウ。 お前、無理して働けばアタシ達が喜ぶと思ってたのか?」

 

蘭とは違って怒鳴らないが、怒鳴らないからこその威圧感があった。

 

「…もしそんな事で喜ぶと思ってたんならな、本気で殴るからな」

 

そう言うと、巴は手を離した。

 

「い、一回廊下に出ようか…! ね? 蘭ちゃん、巴ちゃん…?」

 

つぐが2人に言うと、蘭と巴は渋々頷いた。

つぐとひまりも付いて行き、病室には俺とモカが残る。

 

モカは、ベッドの横に椅子を持ってきて座ると、また優しく俺の頭を撫でてきた。

 

「モカちゃん仲間ハズレにされちゃったよ〜。

ユウ君慰めて〜」

 

モカがいつものテンションで言う。

優しく、俺の頭を撫でながら。

 

「…ユウ君〜。 蘭とトモちんにいろいろ言われてたね〜」

 

モカは笑いながら言う。

 

「…モカ…は……怒らない…のか…?」

 

俺は掠れ声のまま、なんとか思った事を口にした。

モカだけじゃない。 ひまりも、つぐもだ。

 

皆、蘭と巴みたいに怒りをぶつけてきてもおかしくないはずなのに…

 

「……ってるよ」

 

モカがボソッと言った。

俺が首を傾げると、モカは目に涙を溜めながら言った。

 

「怒ってるよ…怒らないわけがないじゃん…」

 

いつもののんびりした口調ではなく、真面目な口調でモカは言った。

 

「つぐも…ひーちゃんも怒ってるよ……!

蘭とトモちんの言ってた通りだよ」

 

モカが怒っているのを見るのは初めてだ。

泣いてるのを見るのも、俺が皆と離れ離れになる時以来だ。

 

「あたし達は幼馴染でしょ…? なんで…」

 

モカがそこまで言ったところで、蘭達が病室に入ってきた。

皆泣いたのか、目が赤い。

 

「…ユウ。 あたし達、決めた」

 

蘭が俺の前に来る。

モカは、空気を読んだのか、立ち上がり、蘭の後ろへ移動した。

 

「……ユウ。 あんたには…Aftergrowのサポーターを辞めてもらう」

 

……俺は、目を見開いた。

 

「…え……」

 

俺は、困惑の声を出す。

 

蘭は、真っ直ぐに俺の目を見て話す。

 

「あたしは、ユウに無理をしてほしくない。

ユウにとって、サポーターが無理をする対象なら、ユウはもうサポーターをしなくていい」

 

「ま…まって…くれ…」

 

「勿論、練習にももう来なくていい。

…折角会えたけど、あたし達の関係は、ここで終わり」

 

「い…嫌だ…蘭…!」

 

蘭を止めようとするが、身体が動かない。

蘭の手を掴んで止めたい。 皆に説明したい。

 

…だが、身体が動かないんだ。

 

「…じゃあね、ユウ。 今まで、楽しかった」

 

そう言って、蘭達は病室を出て行った。

 

その日の夜、LINEのAftergrowのグループを除名され、メンバー全員からもブロックされた。

 

…俺とAftergrowの関係は、今日で終わってしまった。


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