現在、俺の目の前では蘭たちが楽器の準備をしている。 この光景はRoseliaと同じだ。 だが、AfterglowにはRoseliaとは違う所があった。
ボーカルの蘭がギターを持っているのだ。
バンドの中には歌いながらギターを弾く人もいるらしいが、まさか蘭がそんなに器用だったとはなぁ…
とはいえ、ぶっちゃけ言うと、凄く楽しみだ。 Afterglow…俺の幼馴染達はどんな演奏をするんだろう。
「…準備出来たね。 それじゃあいくよ」
蘭がそう言うと、皆一斉に楽器を構えた。
「…True color」
Afterglowの演奏が始まった。 これまで静かだった室内は、一気に音で埋め尽くされた。
巴の安定感のあるドラム。
ひまりのしっかりと音楽を支えるベース。
つぐの一生懸命弾いているのが伝わってくる綺麗な音色のキーボード。
モカの普段からは想像出来ないような激しいギター。
蘭の心に響いてくるような歌声。
Afterglowというバンドは、音のバランスが素晴らしかった。 幼馴染というのもあって、息がピッタリだ。
「…ふぅ。 どうだった?」
歌い終わった蘭がステージを降り、俺の前に来る。
「…凄かった。 もっと聞いてみたいと思ったくらいだ 」
「…そう。 それはよかった」
だが、また俺の口が勝手に喋り出した。
「確かに凄かった。 けど、ミスが多いな。 巴とモカはミスが少なかったけど、つぐとひまりはミスが目立ってる。 一回ミスると直ぐに修正出来ずに連続でミスしてしまってる。 だから、自分が苦手な所を何回も練習するべきだと思うよ。
蘭は、他の人がミスするとその人が気になって歌に集中出来てない。 だから、もっと歌だけに集中出来るようになるべきだ」
まただ。 なんなんだこれは!? 頭で考えてない事が勝手に口から出てくる。
俺は演奏を聴いている時はミスとかいちいち考えずに聞いていたはずなのに…
「ご、ごめん皆! なんか俺勝手に…」
「…確かに…ユウの言う通りかも」
「うん…あたしミスすると焦っちゃうんだよねぇ…」
「私も…でもユウ君よく気づいたね」
皆怒ってないみたいだが、失礼な事には変わりないよな…あぁーなにやってんだ俺は!!
「それじゃあユウ。 明日からよろしくね」
「…ん? なにがだ?」
「え? 私達のサポートだよ 」
「へ? サポート? 聞いてないぞ?」
俺がそう言うと、蘭がキョトンとした後、モカを見る。 モカは首を傾げている。
…まさか…
「まさかモカ。 ユウに加入の事言ってないの?」
「………あ、忘れてた〜」
「はぁ…大事な事なのに…」
蘭が肩を落とす。 その後、蘭はまた俺の目をまっすぐ見る。 力強い目だ、昔から変わってないなぁ〜
「それじゃああたしが言うよ。 ユウ、Afterglowに入って」
「…俺、楽器演奏出来ないぞ?」
これほど自分を憎んだことはない。 楽器さえ弾ければ蘭たちと演奏出来たのに。 練習する時間は腐るほどあった。 俺がもっと早く音楽に興味を持っていれば…
「ユウはただ入るだけでいい。 そして、できれば私たちの演奏を聴いて、意見がほしいの。 もともと、Afterglowは幼馴染の集まる居場所を作る為に結成したバンドだから」
「…幼馴染の集まる居場所…」
「ユウは私たちの幼馴染だから、Afterglowに入る資格はある。 ユウと私達の学校は違うから、学校で会う事は出来ない。だから……え!?」
蘭が途中で話すのをやめた。 それは多分……俺が涙を流しているからだろう。
蘭がオロオロしているが、涙は止まらない。
この街に帰ってきてからも、俺の居場所はなかった。 これからも同じような日々が続くんだろうと、そう思っていた。
だが、AfterglowとRoselia。 この2つのバンドは、俺を歓迎してくれた。 Roseliaに誘われた時はもちろん嬉しかった。
だが、1度離れ離れになった幼馴染からこう言われると…自然と涙が出てきてしまった。
それから、Afterglowの5人は俺が泣き止むまで待ってくれた。 巴とつぐは、ずっと俺の背中をさすってくれていた。
……情けないなぁ…
「…ふぅ…悪い…もう大丈夫」
「そうか!」
そう言って巴は俺の頭を撫でてくる。 あれぇ…? 俺は男で巴は女の子なのに、俺なんかより巴の方がカッコいい…だと…?
「蘭。 誘ってくれてありがとう。 正直、皆俺の事なんて忘れてると思ってた。 モカと会ったのも偶然だったしな」
あの日コンビニでモカと会わなければ、こうして蘭たちと再会出来なかった。 その場合、俺はどうなっていただろう。
「蘭たちが俺を幼馴染だと思ってくれてるのは、とても嬉しい。
小学生の時は1年間しかここに居られなかったから、もっともっと蘭たちと話したい。
だから、Afterglowを俺の居場所にしてもいいか?」
「…最初からそのつもりだし」
「またユウくんと話せるね〜」
「今度ユウの為に美味しいスイーツを持ってくるからね!」
「学校で会えない分、ここでいっぱい話そうね、ユウ君」
「ユウ。 お前はあたしたちの幼馴染で、これからは同じバンドの仲間だ。 よろしくな!」
皆にそう言われ、また泣きそうになるが、グッと堪えた。
…よし、全力でAfterglowをサポートしよう。
あいた時間は全て音楽の勉強にあてて、音楽に詳しくなろう。
俺はそう、心に決めた。 今まで俺は、何かに打ち込んだ事は一度もなかった。
どうせ習い事をしても、すぐに引っ越す事になるからだ。 いちいち別の地域で習うのも面倒くさいしな。
だが、今は違う。 もう俺には居場所がある。 昔とは違うんだ。
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あれから、俺はAfterglowの全員と連絡先を交換した。 小4の時はスマホなんて持ってなかったしな。
あと、皆は昔と住んでいる家が変わってないらしい。 だから遊びに行こうと思えばいつでも行ける。
…まぁ、蘭の家は正直行きづらいけどな。 絶対に叫べないし。
俺は5人をある程度まで送り、別れた。 今は帰宅中だ。
「あれ? ユウじゃーん」
突然、後ろから肩を叩かれた。 振り返ると、茶髪のギャル風の女の子がいた。
「あ、今井さん。 どうも」
「もーリサでいいって昨日言ったでしょー? あと敬語もいらない!」
「いやでも先輩だし…」
「うーん…じゃあ仲良くなったら敬語やめてね!」
無茶を言うなぁ……先輩にタメ口とか、考えただけで震える。
歳上には敬意を払うべきなんだ。
「まぁ…考えます。 ところで、今井さんは今帰りですか?」
今は午後の5時、今井さんは私服姿だ。 買い物でも行ってきたのだろうか。
だが買い物袋を持っていない。
「違うよー、バイト帰り! あたしコンビニで働いてるんだー」
コンビニか。モカと一緒だな。
「なるほど、お疲れ様です」
「そんなユウは? どこ行ってたの?」
「俺は、幼馴染のバンドを見に行ってました」
「ほー! この辺のバンドって、ガールズバンド?」
おぉ、よく分かったな今井さん。 …これは加入する事になったって言った方がいいよな。
「はい。 Afterglowっていうバンドです。 実は、俺Afterglowのサポーターをやる事になりました。 もちろん、Roseliaのサポーターもやりますよ!」
「……えっ…Afterglow? 」
今井さんの様子がおかしい。 …あれ? もしかして知ってるのか? まさか仲が悪いとか!?
「は、はい…そうですけど…」
「うわ偶然だね! あたしモカと一緒のコンビニで働いてるんだよ! へぇ〜ユウはモカたちと幼馴染なんだ〜」
…あっ、よかった。 仲が悪いわけではなさそうだ。
ていうか、モカとバイト先一緒ってマジかよ。 今井さんに迷惑かけてないだろうなモカの奴…
「あ、あと掛け持ちの件は大丈夫だと思うよ。 友希那ユウの事めっちゃ気に入ってるし!」
「湊さんがですか?」
「うん! 友希那が他人に興味持つのって珍しいんだよ〜? だから、ユウには本当に音楽の才能があるんだと思う。 この機会に音楽始めてみたら?」
音楽の才能…本当にそんなものがあるのか分からない。 だが、何事もやってみなきゃ分からないよな。
「実は、ギターを買ってみようと思ってるんです。 この前音楽の雑誌も買って、本格的に勉強しようかなと」
「おぉー! ギターいいじゃん! 分からない事あったら紗夜に聞いてみなよ! 紗夜も花咲川学園に通ってるから!」
えっ、マジかよ。 氷川さんも花咲川通ってるの!? 知らなかった……
だが、身近にギタリストがいるのは好都合だ。
「分かりました。 今度聞いてみます」
「うん! あ、じゃあアタシこっちだから、バイバイ!」
「はい、さようなら」
今井さんと分かれ道で別れ、1人で歩き出す。
まずはギターがいるよな……
親からは欲しいものがあったらなんでも言ってくれと言われた。 きっといろいろ連れ回してしまったから、申し訳なく思っているんだろう。
正直、バイトをして稼ぎたい気持ちはあるが、そうするとバンドの練習に行く時間が減る。 それでは音楽の事を学べない。
だから、申し訳ないが、親を頼らせてもらおう。
『お金は働いたら必ず返すから、ギターを買って下さい。』
と、家に帰ってから父親にメールを送った。 すると数十分後にメールが返ってきた。
『今お前の口座に50万振り込んだ。 これで好きなものを買いなさい。』
……はぁ!? 俺は直ぐに父親に電話をかけた。 父親は直ぐに電話に出た。
「父さん! 50万もいらないよ! 安いギターで十分だから!」
『いいや。 ユウには悲しい思いばかりさせてきたからな、ユウのワガママならなんだって聞いてやる。 ちなみに、母さんも同意見だ』
「……はぁ…分かったよ。 ありがたく受け取る。 ありがとう」
『あぁ、それにしても、急にギターなんてどうしたんだ?』
父親がもっともな疑問を口にする。
「俺が小4の時、よく遊んでた女の子達が居ただろ?」
『あぁ。 確か蘭ちゃん達だよな? あ、そういえばお前が通ってる学校は…』
「そう。 蘭たちに会ったんだ。 それで、蘭たちはバンドをやっててさ、俺をそのバンドに入れてくれたんだ。 だから、この機会に音楽を始めてみようかなって」
『なるほどな。 やるからには、しっかりやるんだぞ』
「分かってる。 それじゃあ、切るよ。 おやすみ」
そう言って電話を切った。