25人の少女と、1人のサポーター   作:皐月 遊

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期間が空いてしまいすみません!


5話 「開花する才能」

今、俺は花咲川学園の2年生教室の前にいる。 時刻は放課後、放課後になってすぐに来たから、まだ生徒は沢山残っている。

 

なぜ俺が2年生教室の前にいるかというと、氷川さんに会うためである。 今日はRoseliaの練習もAfterglowの練習もない。 だから俺は氷川さんにギターを教えてもらおうと思ったのだが…

 

「……なんて言って入ればいいんだ…」

 

緊張して動けずにいた。 さっきから先輩達が俺をチラチラ見ながら通り過ぎて行く。

まず氷川さんが何組か分からない。

 

「あれ? 君1年生だよね、どうしたの?」

 

俺がオドオドしていると、ピンク色の髪をした可愛らしい女の子に話しかけられた。 ここにいるって事は先輩だよな…

 

「あ、あの…ひ、氷川さんって居ますか…?」

 

「氷川…? あ、紗夜ちゃんか! 居るよ、ついてきて!」

 

そう言って、ピンク色の髪の女の子はある教室に入っていく。 良かった、優しい人だ。

 

俺も教室の中に入ると、氷川さんはもう帰る準備をしていた。

 

「あ、紗夜ちゃん! この人がお話しあるんだって」

 

「丸山さん。 私に話ですか? …あ、神崎さん」

 

氷川さんが俺に気づく。 そういえばバンド以外で会うのは初めてか。 今井さんは話しやすい人だが、氷川さんは…正直話すのが怖い。 もし怒らせてしまったらどうしよう。

 

「私になにかご用ですか?」

 

「は、はい! えっと…俺にギターを教えて下さい!」

 

「……ギター、ですか?」

 

氷川さんが確認するように言ってきたので、俺は静かに頷く。

氷川さんは少し考えると…

 

「確か、神崎さんは音楽の経験がなかったんですよね。 ギターに触ったこともないでしょう?」

 

「は、はい…」

 

「なぜ、急にギターをやろうと思ったんですか?」

 

「実は、RoseliaとAfterglowの演奏を聴いて、音楽に興味が出てきたんです。 それで、自分も音楽をやりたいと思って…それで、考えた結果、ギターをやりたいと思ったんです。

ギターは、バンドのメイン。 ギターがなければ何も始まらない。 だから、音楽をやるならギターをやりたいなと…」

 

氷川さんは、また考え込む。 …やっぱり、無理かなぁ…氷川さんは自分の練習で忙しいし、素人に教えている時間なんて…

 

「分かりました。 練習の合間でいいなら、教えます」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい。 湊さんは貴方には音楽の才能があると言ってましたし、その才能がどんな物か、興味があります」

 

うわぁ…これはハードルが高いぞ…これで全然出来なかったら呆れられるよな…

 

「では、ギターを買いに行きましょう。 失礼ですが、予算はどれくらいですか?」

 

「えっと…50万…です」

 

一瞬氷川さんが驚いた顔をするが、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。

 

「なるほど。 では最初なので、あまり高いギターは買わず、初心者向けのセットを買いましょう。 5万円くらいで揃うはずです」

 

確かに、いきなり50万のギター買って、弾けないから諦めます〜なんてなったら勿体無いもんな。

やっぱりギター経験者に聞いてよかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後、俺と氷川さんは江戸川楽器店という楽器専門店にやってきた。

 

店内にはギターやベースはもちろん、アンプやピックなど様々な物が置いてあった。

まさか俺がこんな店に入る日が来るとはなぁ…

 

「さて、神崎さん。 初心者セットはここら辺です。 好きなギターを選んで下さい」

 

氷川さんに案内された台を見ると、"ギター初心者セット!"と書かれているギターが沢山あった。

内容は、ギター1本、ピックが2個、変えの弦、アンプなどが付いて5万円。

 

好きなギターを選べって事は、色だよな?

 

「……決めた! このギターにします!」

 

俺が指差したのは、真っ黒のギターだ。 例えるなら、モカのギターに似てるな。

まぁ、モカのギターはもっと高いんだろうけど。

 

その後は、店員さんを呼んで軽い説明を受けたあと、ギターのストラップ、ギターケースを買い、店を出た。

 

俺の右肩にギターの重みが加わる。 ギターって意外と重いんだなぁ…

 

「さて、ギターは買えましたが、もう夕方です。 なのでギターの練習は明日にしましょう。 明日はRoseliaの練習があります。 空いた時間にギターを教えますので」

 

時計を見れば、もう17時になる頃だった。

 

「氷川さん、今日はありがとうございました! 家まで送ります!」

 

「いえ、お構いなく。 ここから近いですし、まだ明るいですから」

 

氷川さんはそう言うと、少し微笑み、軽く頭を下げてから歩いて行った。

 

俺は、明日の練習を楽しみにしながら、家に帰った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギターを買った次の日、俺は朝の9時30分にライブハウスに着き、Roseliaの機材の準備をしていた。

まぁ、準備って言っても簡単なものだけどな。 機材に関しては本で勉強したかいがあった。

 

今日は土曜日で、Roseliaの練習は10時からになっているが、俺は30分早く来ていたのだ。

今日はRoseliaのサポーターとしての記念すべき最初の日であり…

 

「…初めて、ギターを弾く日…!」

 

端っこに置いた俺のギターを見ながら呟く。

 

それからも機材の準備をしていると、時間の10分前に部屋の扉が開いた。

入って来たのは、湊さんと氷川さんの2人だ。 2人は俺を見ると一瞬驚いた顔をした。

 

「ユウ…早いのね。 おはよう」

 

「神崎さん、おはようございます」

 

「湊さん、氷川さん。 おはようございます!」

 

湊さんは準備されている機材をじっと見たあと、俺に視線を合わせた。

 

「…この機材は、ユウが準備したの?」

 

「はい! これでもサポーターですからね! 本を読んで勉強しました!」

 

そう言うと、湊さんはマイクやアンプのコードを細かく見ていく。

そして一通り見た後…

 

「…ありがとう。 機材の準備をしてくれるのはすごく助かるわ」

 

そう言いながら、湊さんはマイクスタンドの高さを少し下げた。

……すみません。 高すぎましたね…

 

「紗夜から聞いたわよ。 ギター買ったんでしょう?」

 

「はい!」

 

俺と湊さんが話している間に、氷川さんは自分のギターをアンプに繋ぎ、音量調整を始める。

やはり様になってるなぁ…! 昨日鏡の前で構えてみたが、ビックリするくらいダサかった。

 

そして、時間の3分前、部屋の扉が勢いよく開いた。

入って来たのは、あこちゃん、白金さん、今井さんだった。

 

「おっはよ〜!」

 

「おはよーございます!」

 

「おはよう…ございます」

 

3人が挨拶をすると、氷川さんがギターの音量調整を中断する。

 

「遅いですよ。 5分前には部屋にいるようにと言ったはずですが…?」

 

「いや〜ごめんね! すぐ準備するから…ってあれ!? もう準備されてるよ!?」

 

「あー! あこのも準備されてる! りんりんは?」

 

「私のも…されてるよ」

 

「神崎さんが準備してくれていたんですよ」

 

氷川さんがそう言うと、3人は俺を見てお礼を言ってきた。

それに湊さんが、「いいから、早く練習を始めましょう」と言い、Roseliaの練習が始まった。

 

まずは個人で好きなように練習していた。 部屋の中に様々な音が響く。

ぶっちゃけると、俺は暇だった。

 

俺の仕事は、Roseliaの機材の準備、それと飲み物の用意をする事。

そして、Roseliaの曲にアドバイスをする事だ。

俺なんかがアドバイスをしていいのかと不安になるが、湊さんが「大丈夫よ。 遠慮なく言いなさい」と言ってきたのだ。

 

「……そろそろ。 合わせましょうか。 皆、準備はいい?」

 

湊さんが言うと、皆ピタリと静止し、静かに頷く。

そして、湊さんは立っている俺を見る。俺も静かに頷く。

 

「それじゃあ行くわよ……BLACK SHOUT」

 

白金さんのキーボードから始まり、曲が始まった。 俺は、曲を聞きながら全員の手元、特に氷川さんの手元を集中して見ていた。

 

「例え明日が〜」

 

あっ…今あこちゃんワンテンポ遅れたな。 疲れか? いや、あれは力の入れ過ぎだな。

 

「行き止まりでも〜」

 

…今度は今井さんが少しタイミングが速いな。 早弾きしようとしてミスったか。

 

白金さん、氷川さん、湊さんは指摘するほどのミスは無いな。

 

演奏が終わると、皆ふぅ…と息を吐く。

俺は拍手をしながら皆の元へ近づく。

 

「やっぱり凄いです! こんな演奏がいつも聞けるなんて幸せです!」

 

「ありがとう。 それでユウ。 何か気になる事はあったかしら?」

 

湊さんがそう言うと、俺は静かに頷き、あこちゃんの近くに行く。

あこちゃんは不思議そうに首を傾げる。

 

「あこちゃん。 さっきサビに入る箇所…"例え明日が"の所でワンテンポ遅れちゃったよね? その後すぐに修正出来てたけど」

 

あこちゃんはギクッという顔をする。 …あー…怒られると思っちゃってるのかな?

俺は優しくあこちゃんの頭を撫でたあと、あこちゃんの両肩に手を置く。

 

「あこちゃんは、身体全体を使って勢いよくドラムを叩いてるね。 確かに、力強いドラムはかっこいい。 けどね、少し、ほんの少しだけ肩の力を抜いてドラムを叩いてごらん?」

 

「肩の力を抜く…?」

 

「えーと…なんて言えばいいのかな…」

 

あこちゃんが分かりやすい言葉……あこちゃんはよく擬音を使って会話してるよな……よし。

 

「こう…ズガガガーン! って叩いてた所を、ババババーン! って感じで叩く感じ…?」

 

「ババババーン? 分かった! 」

 

そう言うと、あこちゃんはさっき間違えて箇所を叩き始める。

…よし。 さっきよりよくなってる。

 

「どう? ユウさん」

 

あこちゃんが不安そうに聞いてくる。

俺はあこちゃんの頭を優しく撫で

 

「うん! 凄く良くなったよ! 」

 

「やったあああ! ユウさん教え方上手いね! 凄く分かりやすかった!」

 

振り向くと、他の4人が口を開けてジッと俺達を見ていた。

俺はそんな視線に構わず、今度は今井さんの前に行く。

 

「ありゃ…アタシかー!」

 

「はい。 今井さん、早弾きしようとして逆に早くなりすぎた箇所がありましたよね?」

 

「あらま、バレちゃってたか〜」

 

今井さんはそう言って小さく笑う。

今井さんはあこちゃんと違って擬音で説明する必要はないよな。

 

「今井さんが早弾きしようとした時、一瞬右手を少し上に上げましたよね? まぁ、数cmですけど」

 

「あーあれね、勢いつければ早く弾けるかな〜って思ってさ」

 

「原因はそれです。 今井さんの考えは合ってます。 でも、それじゃあ勢いがつき過ぎてしまう」

 

俺は、両手で今井さんの右手を握る。 今井さんは一瞬ビクッとしたが、気にしない。

そのまま今井さんの右手の手首を素早く上下に動かす。

 

「この動きを覚えて下さい。 手首を素早く動かせれば、あの箇所を早弾き出来るはずです」

 

手を離し、今井さんを見ると、今井さんは少し頬が赤くなっていた。

……あれ…? 今井さんって結構ピュア…?

ってか、冷静に考えたら何してんだ俺!? 何勝手に女の子の頭と肩と手を触ってんの!?

 

その後、俺が教えた事をいかしてもう一度合わせてみたら、なんとノーミスでBLACK SHOUTを演奏したのだ。

 

「うわ…アタシ…ミスしなかった…!」

 

「あこも! さっきよりやりやすかった!」

 

「あこちゃん…今井さん…良かったですね…! でも…神崎さん…凄い…」

 

白金さんが俺を見る。 まさか俺なんかのアドバイスが役に立つとは…

アドバイスをする時、俺はあまり考えていない。 頭に浮かんだ言葉をそのまま言ってるだけだ。

 

「…お疲れ様。 少し、休憩にしましょう」

 

湊さんが言うと、皆楽器から手を離した。

さて、サポーターの出番だ!

 

皆にタオルと水を配り、椅子を準備する。

はい。 終了。

 

「さて…神崎さん。 早速ギターの練習しましょう」

 

「えっ!? でも氷川さん、今休憩じゃ…」

 

「ご心配なく、まだ弾き足りないくらいです」

 

氷川さんはそう言うと、自分のギターを持つ。

俺もギターケースから真っ黒のギターを取り出し、構える。

 

後から来た3人組は俺のギターを見て驚く。

 

「わぁ! ギターだ! ユウさんギター買ったの!?」

 

「おぉ〜! 早速買いに行ったんだね!」

 

「似合ってます…!」

 

氷川さん以外の4人に見守られながら、氷川さんの前に立つ。

 

「まずは、コードというものから説明します」

 

それから、氷川さんのコードの説明が始まった。

始まったが……

 

全っっっ然分からない。

何フレットって! 何Emって!!

 

俺が困惑してるのが分かったのか、氷川さんは苦笑いする。

 

「…まぁ、最初は難しいですね。 では、私が実際にやってみるので、それを真似して下さい」

 

そう言うと、氷川さんはゆっくりとギターを弾き始めた。

俺は氷川さんの指をジッ見つめ、動き、弦に触れる場所、タイミングを覚えた。

 

「さぁ、やってみて下さい」

 

氷川さんに言われ、俺はゆっくりと、"さっきの氷川さんと同じ音"を奏でた。

…おぉ、ミスらずに出来た。

 

氷川さんを見ると、少し驚いた顔をしていた。

 

「で、では次は少し早くしてみましょう」

 

そして、さっきよりも弦に触れる場所が増え、速度が早くなった。

俺はまた、氷川さんの指をジッと見つめ、動きを完璧に頭に叩き込んだ。

 

先程と同じくノーミスで弾き終えると、それまで黙っていた湊さんが立ち上がった。

 

「…紗夜」

 

「…はい。 "試してみます"」

 

湊さんと氷川さんが意味不明なやり取りをする。

そして、氷川さんが真剣な表情になる。

 

「神崎さん。 今からBLACK SHOUTを弾きます。 さっきと同じように、私のギターを真似して下さい」

 

「えっ…?」

 

氷川さんは、BLACK SHOUTをギターだけで弾き始めてしまった。 俺は当然疑問を抱いたが、すぐに思考を切り替え、氷川さんの指だけに集中する。

 

さっきの練習よりも動きが繊細だ。 1秒間に何回指を動かしているんだ…?

そしてミスがない。 的確に弦を押さえている。

 

BLACK SHOUTの1番を弾き終え、氷川さんは俺を見る。

 

「さぁ、弾いてみて下さい」

 

そう言われ、俺は深く深呼吸をする。 そして、ギターを弾き始めた。

 

さっきの氷川さんの指の動きを思い出し、どのタイミングでどの弦にどの指を置くのか、全てを思い出しながら弾く。

 

周りなんか見えない。 今見えてるのは自分の指と、記憶にある氷川さんの指の動きだけ。

氷川さんの指の動きを完全に真似し、俺は…BLACK SHOUTを弾き終えた。

 

弾き終えた後、立ちくらみを起こし、その場に腰を下ろした。

あこちゃんと今井さんが素早く駆けつけてくれたが、何の問題もない。

 

そして、湊さん、氷川さん、白金さんの3人は、真剣な表情で俺を見ていた。

 

「あの…友希那さん…神崎さんって、今日初めて…ギターに触れたんですよね…?」

 

「えぇ…そうよ。 そして、そんな人がBLACK SHOUTを完璧に弾ける訳がない」

 

「じゃ…じゃあ…」

 

「えぇ。 どうやら、私達はとんでもない天才をサポーターにしてしまったみたいだわ」

 

湊さんと白金さんが話している間。

氷川さんは悔しそうで、今にも壊れてしまいそうな顔で、俺の事を見ていた。

 

だが、肝心の俺は、そんな事に気づかず、ただギターを弾けた事に喜びを感じていた。

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