25人の少女と、1人のサポーター   作:皐月 遊

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ここから本格的に物語が動いていきます!


7話 「笑顔にする音楽/才能への恐怖」

「あたしは弦巻こころ! 」

 

知ってますとも。 てか、この地域に住んでて弦巻こころを知らない奴なんているのか?

 

「貴方を笑顔にしてあげるわ!」

 

「…いや、結構で…」

 

「こっちよ!」

 

断わろうとした俺の手を握り、弦巻こころは走り出す。

……そう、先程飛び出してきたばかりの"ライブハウス Circre"へと…

 

…ふぁっ!?

 

「いや! ちょ待って弦巻さん!! Circreはだめ!! 今はCircreだけはだめ!!」

 

「弦巻さんじゃなくてこころでいいわよ!」

 

「分かったこころさん!! ちょ力つよ…!? 離してえええ!!」

 

全力でもがいたが、こころの尋常じゃない握力の前では無力だった。

いや…俺の力が弱いのか…?

 

そんなこんなで、俺はまた、Circreへと来てしまった。

周りをキョロキョロと見回すが、Aftergrowの姿はない。

 

…良かった…あんな別れ方して直ぐに再会するとか恥ずかしすぎる。

一刻も早く何処かの部屋に入らなければ…!

 

「居たわ! ミッシェルー!」

 

こころの視線の先には、何故か商店街のマスコットキャラクターであるミッシェルが居た。

 

「こころ……と…どちら様?」

 

ミッシェルが当然の事を聞いてくる。

…よし、この人は常識人っぽいぞ!

 

「俺は神崎 優です。 こころさんに無理矢理連れてこられました」

 

「貴方ユウって名前なのね! よーし! あたし達ハロハピが貴方を笑顔にしてあげるわ!」

 

「あー…なるほど。 だいたい分かりました。

とりあえず…すみません」

 

ミッシェルが俺に頭を下げてきた。

…どうやら、ミッシェルでも手に負えない存在らしい。

 

俺は、大人しくこころさんとミッシェルについていく事にした。

部屋に入ると、まず目に入ったのはイケメンだった。

 

「やぁこころ、ミッシェル。 おはよう。

…おや? 後ろの彼は誰かな?」

 

「か、神崎 優です」

 

「優くんか。 私は瀬田 薫だよ。 よろしくね、子猫ちゃん」

 

キャラが濃いいいいいいい!!! キャラが濃いよお母さあああああん!!!

 

次に目に入ったのは、見るからに活発そうな女の子だ。

 

「あたしは北沢はぐみ! よろしくね! ユーくん!」

 

そう言ってはぐみさんはニコっと笑う。

…はぐみさんは確か…俺と同じ花咲川学園の生徒だった筈だ。

何回か見たことがある。

 

そして最後に。

この空間に迷い込んだとしか思えないような子がいた。

 

「あ、わ、私は…松原花音です…」

 

…あ、癒しだ。

 

俺は直感で、この人は癒しだと思った。

 

1人は超大金持ちの人の話を聞かないお嬢様。

1人はキグルミ。

1人はキャラが濃いイケメン女子。

1人はハイテンションガール。

 

そんな中でただ1人、癒しの存在がいた。

 

「さて、ユウ! 貴方にはあたし達ハロー! ハッピーワールド!の演奏を聴いてもらうわ!

この曲を聴けば、きっと笑顔になれるから!」

 

そう言って、こころはマイクを持つ。

そして、薫さんはギター、はぐみさんはベース、花音さんはドラム、ミッシェルはDJ…!?

 

「はじめるわよ! 笑顔のオーケストラ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……衝撃だった。

 

俺は、これまでに2つのバンドの演奏を聴いてきた。

 

AftergrowとRoseria。 この2つのバンドの演奏を聴いて、俺は、バンドってこういう物なのか。

と思いこんでいた。

 

だが、ハロー!ハッピーワールドは違った。

ハロハピは、俺の思い込んでいたバンドをぶち壊した。

 

演奏中に急にバク転しだすこころ、いろんな場所に移動しながら演奏する薫さんとはぐみさん。

ミッシェルと花音さんは普通に演奏していたが、皆、笑顔で演奏していた。

 

ミスをしても笑って、他のメンバーと顔を見合わせて笑いながら演奏して、俺を見て笑って……

 

自然と俺は、笑顔になっていた。

 

…こんな演奏は…初めてだな…

 

演奏が終わると、こころさんが俺の元へ来る。

 

「笑顔になってくれたわね! うん! 貴方に暗い顔は似合わないわ!」

 

「…ありがとう。 こころさん。 こんな演奏は初めてだ」

 

暗い顔は似合わない…か…

 

蘭にも…Aftergrowの皆にも…暗い顔は似合わないよな…

 

「さんは要らないわ! こころって呼んで頂戴!」

 

「分かった、ありがとなこころ! おかげで元気になれた!

それじゃあ俺、行く所があるから!」

 

そう言って、扉を開けて外に出た。

そして、真っ先にカウンターへと向かった。

 

「あの! すみません! Aftergrowの練習って終わりましたか!?」

 

カウンターの店員さん…たしかまりなさんだったか。

は、一瞬驚いた顔をした後。

 

「えぇ、ついさっき出て行きましたよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

そう言って、俺はCircleを出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー蘭視点ーー

 

「……」

 

「蘭…元気出せって、ユウの奴なら大丈夫だって!」

 

「……」

 

「そうだよ蘭ちゃん! すぐにユウ君と仲直り出来るよ!」

 

「……」

 

「蘭…! ほら…私のスイーツあげるから元気だして! ね!」

 

「……」

 

「ん〜、モカちゃん達にはお手上げですな〜」

 

あたしは…馬鹿だ…ユウは何も悪くないのに、酷いこと言っちゃった。

ユウが出て行った後、冷静になったあたしは泣き出してしまった。

 

泣き止んだ後、ユウがあたしの為を思ってあんな事を言ったのだとすぐに気づいた。

ユウが帰ってくるのを待ってたけど、ユウは結局帰ってこなかった。

 

…あたし…ユウに嫌われたのかな…失望されたに決まってるよね…

 

「……皆…ごめん」

 

あたしは、皆に聞こえる声で言った。

 

皆は、さっきからずっとあたしの事を心配してくれている。

 

「蘭…一体どうしたんだよ? 今日の蘭、やっぱり変だったぞ?

…あ! 言いたくないならいいからな!?」

 

巴が聞いてくる。 …うん、もう、全部話そう。

 

「実はね…昨日湊さんに会って…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あたしは、皆に湊さんから言われた事を全て話した。

 

「…だから蘭は今日焦ってたのか」

 

「…うん…あたしが上手くならないと、ユウに追い越されちゃうから…」

 

「追い越されたら、2度と一緒にいれないから〜?」

 

モカが、あたしの目を真っ直ぐ見て言う。

あたしには分かる。 今のモカは、怒っている。

 

「うん…」

 

「蘭は〜、ユウ君があたし達と縁を切ると思ってるの〜?」

 

「分からないけど…! でも…才能がある人はどんどん離れていくって…!」

 

「馬鹿じゃないの〜? なんで蘭はユウ君を信じられないの〜?」

 

「信…じる…?」

 

あたしは、モカが言った事を冷静に考えてみた。

ユウを信じる…?

 

「ユウ君がどんなに凄い人になっても、ユウ君はユウ君でしょ〜?

ユウ君はあたし達の幼馴染。 これはこれからも一生変わらないよ〜?」

 

あたしは、ようやくモカが言いたい事が分かった。

 

そうだ。 ユウがどんなに凄い人になっても、ユウはユウなんだ。

昔から変わらない。

苦い物が苦手で、子供舌で、あたしのメール相手になってくれて、優しくて、ノリが良くて……

 

ユウは、昔から変わらない。

なのに…あたしは無理して自分を変えようとしてた。

 

「…ごめんモカ…あたし、ユウに謝ってくる。

皆は先に帰ってて」

 

「その必要はないみたいだよ〜?」

 

モカが、笑顔であたしの後ろを指差す。

後ろを向くと…

 

「はぁ…はぁ…! やっと見つけた…!」

 

息切れしたユウが居た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーユウ視点ーー

 

やっと見つけた…!

数十分間走り続けたから息切れが凄いな…!

 

「ユウ…!? なんで…?」

 

蘭が信じられないという表情で俺を見ている。

 

…まぁ、そうだろうなぁ…あんな事言ったんだから…

怒ってるよなぁ…

 

よし!!

 

「ごめん!!」

 

「ごめんなさい!」

 

俺と蘭の声が重なった。

 

2人で一斉に顔を上げ、キョトンとした顔をする。

 

「なんでユウが謝るの? ユウは悪くないじゃん」

 

「いや…流石に言い過ぎただろ? だからさ…」

 

「悪いのはあたしだから、ユウは謝まらなくていいよ」

 

「いやいや…」

 

「いやいやじゃなくて。 あたしが悪いんだから、ユウは謝まらないで」

 

「別にいいじゃんか謝ったって! 謝罪は0円だろ!?」

 

「必要の無い謝罪は要らない」

 

「なんだとぉ!? せっかく走り回って探したのに!」

 

何故か、また喧嘩が始まってしまった。

 

だが、この喧嘩はさっきのような喧嘩じゃない。

"いつも通り"の喧嘩だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、いつものようにギターの練習をしていると、LINEが届いた。

 

差出人は……蘭か。

 

『改めて。 今日は本当にごめん』

 

短い文章が届いた。

俺は素早くキーボードを打つ。

 

「しつこいぞ〜。 次謝ったらカフェオレ奢りな」

 

と送った。

 

そして、テレビを付け、最近よく見ている音楽番組の録画を再生した。

この番組には、世界的に有名なギタリストが演奏のコツを教えるという番組だ。

俺はよくこの人のギターをみて練習している。

 

いつものようにギタリストの演奏が始まる。

…お、今回の曲は難易度が高めの曲なのか。

へぇ…プロでも難しいねぇ…

 

そして、演奏が始まった。

 

「……ん?」

 

違和感があった。

いつもは、ギタリストが弾く曲を聴いて最初に来る感情は、"尊敬"だった。

単純に凄いとしか思えなかった。

 

だが、今回は…"簡単そうだな"と思ってしまった。

 

ギタリストの演奏を聴き終わった後、すぐにテレビを消し、スマホを録画モードにしてギターを構える。

そして、さっき聴いたプロでも難しいと言われている曲を演奏した。

 

……結果は、ノーミスだった。

スマホで録音した音声を聴いてみる。

 

「…ははっ…全く同じじゃねぇか…」

 

1度聴いただけ、しかも、コードなども複雑な曲なのにも関わらず、弾けてしまった。

 

この日、初めて俺は、自分が怖いと思った。

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