25人の少女と、1人のサポーター   作:皐月 遊

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8話 「向き合う覚悟」

「…驚いたわね…まさかLOUDERを完璧に弾ききるなんて…」

 

俺は、Roseriaとの練習で、いつも通り紗夜さんにギターを見てもらっていた。

そこでLOUDERを弾いてみたのだが…ノーミスで弾けてしまった。

 

これには流石に湊さんも紗夜さんも、ほかのメンバーも驚いた顔をしていた。

 

「…日菜と同じ…いや、もしかしたら日菜以上の才能…」

 

紗夜さんがボソっと呟く。

 

「…なんか最近、急にギターが上達した気がするんです。

前は弾けなかった曲も、今では普通に弾けて……なんか…不気味です」

 

俺がそう呟くと、リサさんが頭を撫でてくる。

 

「ダイジョーブだよユウ! 自分に自信持ちな〜? ユウは凄いんだから!」

 

「ありがとうございます…リサさん…」

 

リサさんは、見た目からは想像出来ないが、面倒見が凄くいいな…

 

「…神崎さん。 私の妹に、日菜という子がいます。 彼女も、貴方と同じ天才です。 ぜひ、会ってみてくれませんか?」

 

紗夜さんが、何かを決心したような顔で言ってくる。

氷川日菜。 確か、アイドルをやっている子だっけか?

前に紗夜さんから聞いた事がある。

 

「天才同士、気の合う所があるかもしれません。 お願い出来ますか?」

 

「分かりました。 ぜひ会わせてください」

 

断る理由がないので、氷川日菜さんと会ってみる事にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日、俺はライブハウスの前にいた。

現在は紗夜さんを待っている。

 

紗夜さんが日菜さんを連れてきてくれるらしい。

日菜さんか…どんな人なんだろう。

 

きっと紗夜さんににてクールな人なんだろうなぁ…

 

「いたわ日菜。 あの人が神崎さんよ」

 

紗夜さんの声が聞こえたので、声の方を向くと…

 

「あれ? 紗夜さん髪切りました? ショートも似合ってま……えぇ!? 紗夜さんが2人ぃ!?」

 

「あははは!! あたしの事おねぇちゃんだと思ったの?

んー! るんってきた!! きみとは仲良くなれそう!」

 

そう言って、ショートの女の子が笑顔で俺の手を握る。

 

えっえっ…この子が日菜さん…?

全く想像と違うが!?

 

「こら日菜! ユウさんが困ってるでしょ!」

 

「あはは! ごめんごめん! あたしは氷川日菜! パスパレのギターやってるよ!」

 

「は、初めまして、神崎優です」

 

「ユウくん! うん! るんってきたー!」

 

るん…? 口癖かなんかか…?

それにしても、こんなに性格が違うものなんだなぁ…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

紗夜さんと日菜さんと共にライブハウスの部屋に入り、ギターを準備する。

 

「さて、日菜。 早速だけど、パスパレの曲を弾いてみて。 そうね…しゅ…しゅわりん☆どり~みんをお願い」

 

な、なんだそのふわふわした名前の曲は…!

紗夜さんもちょっと赤くなってるし!

 

「おっけー!」

 

そう言って日菜さんは、曲を弾きだす。

すぐに分かった。

この人は…レベルが違うと。

 

蘭、モカ、紗夜さん、薫さんのギターとは違う。

明らかに天才と言える存在が、目の前にいた。

 

しかも彼女は、笑顔で弾いていた。

 

弾き終わると、日菜さんは笑顔で俺の元へくる。

 

「どうだった? どうだった!?」

 

目をキラキラさせて近寄ってくる。

 

「す、凄かったです。 ミスもないし、完璧としか言えないです」

 

「わーいありがとー!」

 

「さて、次は神崎さんです。 今日菜が弾いた曲を弾いてみて下さい」

 

紗夜さんが言う。

今のを弾けと!?

たった一回聴いただけだぞ!?

 

弾けるわけが…

 

「貴方が日菜以上なら、弾けるはずです 」

 

そう言われ、俺はギターを構える。

 

思い出せ、さっきの日菜さんを。

想像しろ、完璧に弾いている自分を

思い出せ、想像しろ、思い出せ、想像しろ。

 

後は…それを実行するだけ…!!

 

「いきます…!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……………

………

……

 

……弾けた…完璧に、ミスなしで弾けた。

 

「はは…は…」

 

渇いた笑いが出た。

やはり俺はおかしいんだ…

 

「すっごーい!! あたしと同じだ! るんってきたー!」

 

「やはり…神崎さんは日菜以上の天才…」

 

「ねぇねぇ! ユウくん! 次は一緒に弾こー!」

 

「え…あ、はい」

 

日菜さんと一緒にに弾いたが、やはり何事も無く弾けた。

 

「ん〜! 楽しい! 」

 

日菜さんが眩しい笑顔で笑う。

その反面、紗夜さんが真剣な顔で俺を見る。

 

「神崎さん。 確信しました。 貴方は天才です。 それも、普通の天才じゃない、天才の中の天才です。 貴方は、プロの領域にいる…」

 

……俺が…天才…

 

「はっきり言います。 貴方のギター上達スピードは異常です。

ギターを始めて数週間で、私達よりも上手くなってしまった。

 

そんな貴方が、1年後どうなっているか、私には想像がつきません」

 

「…紗夜さん…俺…」

 

「ここから先は貴方次第です。 ギターを極め続けて、プロの世界に入るか、否か」

 

プロの世界…正直…分からない。

俺はギターが好きなのか…?

いや、俺は蘭達と同じ所に立ちたくてギターを始めた。

 

だから、ギターが好きなわけじゃない。 ギターは、ただの手段だ。

 

でも…それを言ったら…本気でギターをやっている彼女達に失礼だ。

 

「…分かりません…」

 

「今、急いで答えを出す必要はありません。

ゆっくりで大丈夫ですよ」

 

その後、日菜さんと連絡先を交換し、その日はお開きとなった。

 

帰り道、俺がギターを買った店の前を通った。

紗夜さんに選んでもらったんだよな……

 

あの時の俺は、ギターの事をどう思ってたのかな…

こうなるって分かってたら、俺はギターを買ったのかな…

 

「あれ、ユウじゃん。 何してんの?」

 

名前を呼ばれ、前を見ると、蘭とモカがいた。

 

2人ともギターを背負っている。

 

「よう2人とも、練習か?」

 

「モカちゃん達は〜ギターの弦を買いに来たので〜す」

 

「ユウは? ギター背負ってるけど…」

 

蘭が俺のギターを指さして言う。

 

「あぁ…紗夜さんと…日菜さんに会ってきた」

 

「えっ…日菜さんって…なんで?」

 

「……さぁ? なんか紗夜さんが会わせたかったらしい」

 

嘘をついた。 俺の才能の事は話したくなかった。

それで蘭達との間に溝が出来たら嫌だから。

 

「へぇ…なら、ついでにユウも来なよ」

 

そう言って、蘭達は楽器店に入っていく。

俺も、渋々中に入った。

 

「…結構種類あるな」

 

「でしょ〜? モカちゃんのお気に入りはこれ〜」

 

「あたしはこれ。 でも、今回は違う弦にしてみようかな…」

 

「お〜? 蘭のギターデコっちゃう〜?」

 

「デコらないから」

 

蘭とモカが楽しそうに話している。

 

共通の話題があるっていいよな……

あぁ…俺も一応ギター弾くから、蘭達と同じなのか…

 

「あたし達は決まり。 それじゃあ次はユウの弦を選ぼう」

 

「さんせ〜」

 

蘭とモカがそう言ってくる。

俺は慌てて手を横に振る。

 

「いやいいって、俺の事はいいからさ」

 

「何言ってんの、初心者用ギターの弦なんて脆いしショボいんだよ?

いい弦に変えれば、音色とか綺麗になるし」

 

「今のユウ君よりもっと上手くなれるよ〜?」

 

…今の俺より…上手く…?

嫌だ…

 

「いいって…俺のギターの事は気にしないでさ? あ、お前らの弦奢ってやるよ!」

 

今より上手くなったら…蘭達と離れ離れになるかもしれないだろ…そんなの…絶対に嫌だ…

 

「…ユウ…? やっぱりおかしいよ」

 

「さっきからず〜っと、何か考えてるの〜」

 

蘭とモカに言われ、慌てて笑顔を作る。

 

「いや? 何でもないぞ? ほら、早く行こうぜ?」

 

無理矢理蘭とモカの手から弦を奪い、会計を済ませて蘭達に渡す。

 

そのまま3人で外に出る。

 

「さーて…明日は学校か〜。 めんどくさいよなぁ〜」

 

「ユウ君〜、ギターの事、嫌いになっちゃった〜?」

 

ビクっとしてしまった。

モカの発言が、俺に深く刺さったからだ。

 

モカは、普段のほほんとしているが、こういう時はズバッというタイプだ。

 

「は、はぁ…? 何言って…」

 

「だって〜、前のユウ君なら自分のギターをあたし達に自慢してきたじゃん〜?

そんなユウ君が、ギターのカスタマイズを断るのが不思議でさ〜?」

 

何も言えなくなる。

 

「悩みがあるなら、話してほしいな〜?」

 

「……分かった…2人共…時間あるか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

蘭達を連れて、近くの公園に来た。

3人でベンチに座り、俺は口を開く。

 

「今日さ、紗夜さんに、俺はギターの天才だって言われたんだ。

プロにもなれる存在らしい」

 

蘭とモカは静かに聞いてくれる。

 

「だけどさ、俺…正直ギターの事好きじゃないんだ。 まぁ嫌いでもないけど…

最初は、AftergrowやRoseliaと一緒に音楽を楽しむために始めたんだよ。

 

だけどさ…今は…全く楽しく感じないんだ…

ギターを弾けば弾く程…今の関係が壊れていく気がして怖いんだよ…」

 

俺は、本音を話してしまった。

こんな話を、本気でギターをやっている蘭達にする事が間違っているのは分かっている。

 

だけど…誰かに話さなきゃ…ダメになりそうだったんだ…

 

「…なんか昨日の蘭と似てるね〜?」

 

「も、モカ…! その話は絶対に言わないでよ…!?」

 

「分かったよ〜。 ユウ君、あたし達は、ユウ君がどうなっても、ずっと幼馴染だよ〜?」

 

「モカ…」

 

「だから〜ユウ君がやりたい事をすれば良いと思うよ〜」

 

俺が…やりたい事……

 

「…俺は…今まで通りに皆と過ごしたい。 皆の音楽を聴いていたい」

 

「なら、さっきの楽器店に戻ろうか〜」

 

モカがそう言うと、俺は多分、ポカンとした顔をしていただろう。

 

「何してんの? 弦、買いに行くよ」

 

蘭にそう言われ、俺は立ち上がる。

 

蘭達は、俺がどうなっても幼馴染でいてくれると言った。

 

俺がバカだった。 ギターの事だけで、俺達の関係が崩れる事なんてないはずだよな。

 

…向き合ってやるぜ、ギターと……自分の才能と!!


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