魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生 作:キングver.252
「――――おらァ!!いつまでも寝てんじゃないよ!起きた起きたァ!!」
いつもと代わり映えしない朝に、いつもと代わり映えしない起こし方。この喧しい騒音も10年も聞いていれば慣れという物が湧いてくるものである。
「毎度毎度うっせーんだよクソババア!!普通の起こし方出来ねーのかテメェは!?所構わず騒ぎ出しちゃう思春期かテメェは!!」
「大人になっても童心ってのは忘れちゃいけねえんだよ!分かったらさっさと下に降りてきな!」
「大人っていうかババアだろうがっ!!」
このクソババア、基『ササニシキ寮』の管理人である佐々錦笹江(ささにしきささえ)はそう告げる(怒鳴る)と、さっさと下の階に降りていってしまった。
「……ったく、絶対ありゃ早死にするタイプのババアだ。怒鳴りすぎて口内炎引き起こして口から炎吐き出しながら安らかに死んでくタイプのババアに違いねえ」
俺の名前は持田千海(もちだせんかい)。ここササニシキ寮には10年前の6歳の時からお世話になっている。
他の住人はゼロ。俺以外の住人はまったく居なく、在りたいていに言えば、『俺とババアの二人暮らし』みたいな感じである。
(……やめよ、気持ち悪くなってきた)
そのまま制服に着替えて一階に降りていく。俺の部屋、というか住人の部屋は基本二階にしか無く、一階は風呂やらリビングやらといった『皆で仲良く使いま
しょうコーナー』みたいな間取りであるために、ババア専用エリアみたくなってしまっている。
まあ、風呂掃除も洗濯も飯も全部ババアが持ってくれてるのだから、それくらいは当たり前なのかもしれないが。
「そういやアンタ、今日から私立の高校に上がるんだってね。上手くやんなさいよ」
「心配しなくても俺みたいな奴に話し掛けてくる奴なんていねえよ」
「初っ端から上手くできてねえじゃねえか!私ゃ友達つくって上手くやんなさいって言ってんだよ!!」
「あーもううるさーいっ!食事ぐらい黙って食えクソババア!!」
「クソババアとはなんだいアンタそれが命の恩人に対する態度かアァン!?」
「命の恩人はそんな脅喝紛いなことしません!!あーもうクソ!ゴチソーサマでした!!」
一気に全部平らげて、鞄を持って立ち上がる。
これ以上ババアの説教なんか聞いてたら鼓膜が飛び散って危なく鼓膜大噴火だ。ババアの怒りとともに大噴火を起こしかねない。
「ちょいと待ちな」
「まだ何かあんのかい!?」
「弁当、せっかく作ったんだから持ってきなさいよ」
差し出されたのは四角い風呂敷に包まれた弁当。どうやら鞄に入れるのを忘れていたのを見抜かれていたようだった。
「……ありがとよ。行ってきます」
さ
まあなんだ、口煩いクソババアではあるが、『優しいクソババア』ではある。一応。
そのまま俺は靴を急いで履き、『気をつけて行ってくるんだよ!』という声を背に受けながら花粉舞う道を歩き出した。
花粉という野郎どもはとても質が悪い。自分には何のメリットもデメリットも無いのに人間を苦しめて遊ぶという極めて危険な存在なのだ。一時の力からしたら大魔王さえ凌ぐ暴挙である。
そして、奴らは人間を苦しめることにのみ快感を得て、それで苦しんでいる人間を嘲笑うかの如く、まるで『ヒーローショーで悪役をヒーロー4、5人がよってたかってボッコボコにする』かの如く、多勢で襲い来るのだ。
きっと彼ら(花粉)は俺らを見てこう言うだろう。
『人間だって同じことをやっているんだ。環境破壊の申し子である絶対悪のお前らに多勢で襲いかかっても、俺らァヒーローだよなァ!?』と。
「相も変わらず貧乏くさいチャリに乗ってるのね」
「ぞぢらは相も変わらず高級セレブな車に乗っでまずね。グズッ」
「花粉症?大変だね。えっと……はい!このティッシュあげる!」
現在花粉に壮大なイジメを受けている俺に更に援護射撃をして心に壮絶なバズーカ砲を撃ち放とうとしている者の名前はアリサ・バニングス。
日米で大企業を経営する家の一人娘で、本人は日本生まれの日本育ちだが英語も完璧に操るパーフェクトバイリンガルである。
それに対して、俺にさえ優しい聖母様のような笑顔でティッシュを渡してくれたのは月村すずか。控えめで大人しい本好きな少女であるが、その実ものすっごい運動神経が良く、その脚力は男子の走りを軽く上回り、ドッチボールなんてした日にはその腕力で捩じ伏せられること山の如しである。
「ありがとう月村。お前とは一緒のクラスになれることを切に願うよ。どっかのバーニングはいらないけど」
「バーニングって何よ!私別に燃えてないですけど!?むしろアンタの心を今この場で燃え尽くしてやろうかアァン!?」
「やれるもんならやってみろよアァン!?てめぇら女子は何でもかんでも語尾にアァン!?ってつけやがってアァン!?……あ、ババアは女子には入らねえかアァン!?」
「どうやったら車のスピードに対抗しながら言い争えるの……」
月村が何か言った気がするが、今は放っておく。今は目の前の敵に神経を集中させないと、―――――燃やされる。
「燃やさないわよアンタ人を何だと思ってんのよ!」
「一個前に言った言葉すぐ忘れんのやめてくんない!?そんなんだから『近頃の若者はダメですねぇプププ』なんて言われんだよ!テメェは近頃の若者筆頭なんだ――――――」
瞬間、声は途切れた。
まるで今までのことが全て嘘だったかのように、車の静かな音だけが響いていた。
「……消えたね」
「……消えたわね」
そっと。
本当にそっと。
アリサとすずかは後部座席から後ろを見てみた。
「………………………」
そしてさっと前を向き、すべての現実から目を背ける。
二人は何も見ていない。自分らとの会話に集中するあまり目の前に差し迫っていた木に気付かずに激突してしまった少年なんて見ていないのだ。
だからそっと目を閉じた。
「ぉぉぉ………」
そして、声は聞こえた。車の静かな音をかき消すように、その声はアリサとすずかの耳に届いていた。
―――――その瞬間。
「うあああぁぁぁ!!!!」
窓に先ほど撃沈したはずの少年が勢い良く映し出された。
「「きゃあああああああああああああああっ!!!」」
軽くホラーである。死んだと思ったら実はゾンビとして復活してましたー異論は認めませんーみたいな感じなのだ。そりゃビビって正解である。
「あ、あああアンタいい加減にしなさいよ!!びっくりしたじゃない!」
「ハァっ、ハァっ、び、びっくりしたぁ」
「ただでは死なん………ただでは死なんぞぉ!!」
最早生きた屍である。きっとゾンビが繁殖している世界に放り込んでも一週間はバレずに過ごせてしまうだろう。
「くたばれ!!」
「ガフッ!」
ただ、ゾンビには苦手なものが1つあることを俺は忘れていたのだ。
「火には……弱いん……だっ、た……」
「だァから燃えて無いって言ってんでしょうがァァアアアアアアアア!!!!!」