魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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10話 〜正面突破〜

魔法とは本当にすごいものなんだな。と、いまさらになって千海は感じた。

高町家を出る前、シャマルに千海は治療魔法をかけてもらったのだ。

もちろん貫通しちゃってるので、それぐらいで治る傷ではないが、それでも大分痛みは収まった。これなら、戦闘に使えなくても痛みで動きが鈍るなんてこともないだろう。

 

「――――もう少しだ」

 

そんな高町士郎の声が聞こえる。

翠屋としてのマスターではなく。高町士郎本来の顔つきで、そう告げる。

ここはもうすでに、『海の見えるコンテナ』の入り口に差し迫ろうとしている。

千海はおろか、シグナムでさえ、その顔には緊張が………と思ったが、そんなことは無かった。至って冷静と言うわけでもないが、激情して取り乱しているわけでもない。

どちらかと言えば、その二つを足したようなものだ。要はクールに怒りを抱いている。

 

「この作戦、俺達は特に策を持ち合わせていない。故に、敵を欺く戦い方は出来ない」

 

従って、と。高町士郎は車を運転しながら告げる。

 

「――――強行突破で行く。真正面から叩き潰せ!」

 

そのままコンテナ倉庫の入り口まで見えて来ると、『あえて』高町士郎はアクセルを全開にした。

いきなりアクセルをかけられた車は物凄い速さでタイヤが回転し、ギャリギャリギャリッ!という音を出しながら、コンテナ倉庫の扉に勢い良く激突した。

 

「いいねぇ。私もあれこれ考えて戦うよりは、真正面から斬りあう方が得意だ」

 

「んなっ!?なんだ!?あの車は!!」

 

コンテナ倉庫は予想外に広く、そこかしこに暴走族が固められていた。

多分、目測で測るのなら、その数は50人以上。

あの八神はやてを連れ去られた時よりも、更に数は多くなっている。

 

―――――だからどうした。持田千海。まさか怖気付いているわけじゃあるまいな。

 

自分で自分にそう問い掛ける。

 

―――――まさか。何人だろうと関係ねえ。

 

そう決意し、千海、シグナム、そして高町士郎は車を降りる。

 

「八神はやては返してもらう。その侘びと言っちゃあなんだが」

 

不敵に、千海は嗤う。

囲む敵に木刀を突きつけ、一言。

 

「――――テメェらの命も天に返してやるよ」

 

そこには静かに怒りを持った、持田千海がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー。良かったな嬢ちゃん。あいつはやっぱり来てくれたみたいだぜ?」

 

突っ込む千海らを見て、金堂悠雅はそうはやてに告げる。

 

「もうええやろ。アンタの望みはもう済んだはずや。私を早く開放して」

 

「それはダメだ。大丈夫、お前もあいつらも、殺しはしねえよ」

 

ただ、こちとら喧嘩ァ売られてんだ。

と、はやてに背を向けて金堂悠雅は立ち上がる。

 

「本当に助っ人連れてきやがったか。まあ、そりゃ正解だ」

 

おい。と、金堂悠雅が呼び掛けるだけで、後ろにはいつの間にか二人が並んでいた。

一人は金髪の男。ガタイも悪いとは言えず、良いとも言えない平均的な身体で、その目は恐ろしく『何も写していない』。

光りさえも、その目は抱かず。ただただ目の前の情報を視覚として捉えるだけ。なんの感情も抱かず、なんの疑問も持たず。

もう一人は女性だった。

こちらは金髪というよりかは黄色の髪質に近い。

髪は後ろに全部降ろしていて、その整った顔立ちからは想像出来ない程に、こちらも目が冷たかった。

――――世の中には、暗殺者と呼ばれる者や、忍者と呼ばれる者がいる。

その二つは、どちらかと言えば『護るよりも殺す戦い』だ。

つまり、その生き方を永遠に死ぬまで背負っていくには、人を殺しつづけなければいけなくなるのだ。

そうして人の心はだんだんと荒んでいき、殺すことに何の躊躇いも持たなくなる。

いつしかその目には、感情さえ持つことは無くなるのだ。

 

「いくぞ。奴らを殺さねえまでも、徹底的に叩き潰す」

 

そう言って、暴走族組3人は前へ出る。それと同時に、千海達3人も前へ出た。

 

「やってみろよ。こちとら皆相当頭にきてんだ。―――――言っとくが、温い憂さ晴らしなんてさせんなよ?」

 

木刀を突きつけ、そう言う。

 

「上等だァ。――――ぶっ殺す!!」

 

その一言が、開戦の合図であった。

 

「テメェらは八神はやてを守ってろ!!この闘いはチンピラが出ていい幕じゃねえ!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

そう叫ぶ金堂悠雅に、千海は思いっきり木刀を叩きつける。

横を向いて指示を出していた金堂悠雅はそれを、モロ

に顔面にくらい、遥後方へ吹っ飛んでいく。

 

「いってえなァンのやろう……。奈落!宵波!テメェらは他の二人をやってくれ!!」

 

モロにコンテナの壁に激突した金堂悠雅はそう叫び立ち上がる。外傷は頭から血が少し流れている程度。

 

(バケモンかよ……ッ)

 

それを見て、思わず千海は苦笑した。

今のは正真正銘全開でぶん殴った筈なのだ。

もう少し痛がってくれてもバチは当たらないんじゃないのか。

なんて自嘲気味に考えてみるも、すぐに思考を取り戻す。

 

「悪かったな、よそ見してて。さあ、やろうぜ」

 

あまりに千海にこの相手は分が悪い。一度完璧にボロボロにされているのだ。メンタル面でももうすでにやられかけている―――――。

 

「んなっ!?」

 

というのが、金堂悠雅の考えであった。その思考は、本来ならば正しい。

ただ。

ガキィィイインッ!と、金堂悠雅は慌てて木刀を降る。それによって迫っていた木刀を防御したのだ。

 

(動きが、速くなってやがるッ!?)

 

そう。この場、この局面に置いて、千海は更なる加速を見せた。

 

(何故だ!?あのガキに一体何があった!?)

 

その疑問に千海は答えるように、口を開く。

 

「あん時は八神を守らなきゃいけなかったからな。今は背負うもんは何もねえ。あるのはただ、テメェをぶっ飛ばしたくてたまらない、この言いようのない怒りだけさ」

 

護る闘いと、責める闘い。

果たしてそのどちらが楽で楽しいかと言われれば、それは勿論責める闘いだ。

護る闘いは防戦一方になり、常に護衛対象に気を配らなければならない。

サッカーで例えるならば、ずっと相手にボールの主導権を握られたまま試合を行うようなものだ。そんな試合負けるに決まってるし、面白くも何ともない。

実質、あの時はそうだった。

 

――――ただし、今は違う。

 

護る者が無くなったのだから、もう責めに転じていいはずだ。

要は心の持ちようである。

心の持ちようで人はいくらでも進化出来るし、退化も出来る。

従って、この千海の加速は何もフィジカル面で進化したわけではなく。

 

―――――あの時に比べれば、こっちの方が楽だ。という安心感から来た加速であった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

高町士郎は、少し離れたところで『奈落』と呼ばれた男性と対峙していた。

互いに持つものは刀。

ただし、高町士郎が持つのは木刀で、奈落が持つのは真剣であるが。

 

「どこかで見た顔付きだとは思っていた。―――奈落、お前こんなところで何してるんだ?」

 

「別に。良い護衛が欲しいという依頼を聞いてここに参上したまでだ、高町士郎」

 

二人は知り合いであった。

それはまだ高町士郎がボディーガードをしていた頃の話し。

高町士郎がボディーガードとして有名になり始めていた頃、もう一人名を馳せたボディーガードがいた。

依頼主を狙う輩は絶対に殺し、護る闘いであるはずなのに責めに転じてしまったボディーガード。その人を斬ることに対する躊躇いの無さ、また、仕事を選ばないで、何でも受けてしまうところから『殺し屋奈落』として奈落は有名になっていた。

ボディーガードという職につきながら、『殺し屋』と呼ばれる奈落を一度見たくて、高町士郎は接近したことがあった。

 

果たしてそこで高町士郎が見たものは、非道という他なかった。

 

数十人はいた敵を一瞬で切り刻み、そこはあっという間に血だまりができた。当然奈落だって返り血を物凄い量浴びていた。そして、依頼主でさえ、金を満足に払わないやつであったため切り伏せた。

 

『……お前』

 

そこで高町士郎は思わず声を出してしまっていた。その声に反応した奈落は、高町士郎の方へ向き直った。

 

『誰だ』

 

『高町士郎だ。何も依頼主まで殺すことはないんじゃないのか?』

 

そう問いただしたことがある。しかし、奈落は高町士郎の言葉を聞かずに、その横を通って歩いて行ってしまった。

 

『人道すらろくに守れねえ奴らだ。この先もどうせ大切な人を守ることすら出来ずに死んでくさ』

 

さり際に、そんなことを言い残して。

 

 

「まだお前はボディーガードやってたんだな。そんな仕事辛いだけだろうに」

 

「もう引き戻せないからな。この力も、『殺し屋』なんて汚名も、もう私からは剥がれないんだ」

 

そう、奈落は告げる。その瞳には、すでに何の感情も残されていない。

 

「そうか……。――――ならしょうがないな」

 

「あぁ。もうお前とは違う」

 

「しょうがない。しょうがないから、――――僕がその汚れを落としてやるよ。つるピカにしてやるから覚悟しとけ」

 

堕ちる前に足を洗った鬼と、堕ち続けた鬼。言いようもない運命で結ばれた二人は、互いにぶつかりあった。

 

 

 

 

 


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