魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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11話 〜護る鬼と殺す鬼〜

「――――どうやら因縁が無いのは、私達だけみたいだな」

 

宵波は、シグナムと対峙しそう告げる。

持田千海と金堂悠雅、高町士郎と奈落。互いに因縁を持つもの同士がぶつかり、斬り合っている。

そんな中で、シグナムと宵波だけが因縁もなにも持たず、『初めまして』で対峙している。

 

「ほう。そちらは因縁が無ければモチベーションが上がらぬ口か?」

 

「まさか。貴女みたいな女を切れることは――――至上の喜びだ」

 

チャキ……と。

真剣を宵波は構える。

刀は薄い光りを刀身に帯び、また宵波でさえ、その眼に一筋の光りを宿していた。

さながら、刀。何でも切れる日本刀のようにその目、その心は研ぎ澄まされていた。

 

「こちらも真剣を用意すれば良かったのだがな。生憎木刀しかない所存だ。―――――まあ、十分だろうがな」

 

瞬間。二人はその場から姿を消した。

目に見えない速度で斬りあったのだ。常人には把握すら出来ない速度で移動し、常人には目に見えない速度で刀を振るう――――――――ッ。

 

「―――――温い」

 

そう告げたのはどちらか。

気付いた瞬間には、宵波の肩からは血が流れていた。

 

「な――――ッ!?」

 

あまりの出来事に驚愕で目を見開く。

宵波は、忍であった。

人には感知されない山奥。そんなひっそりとした村で育ち、忍者として生きてきたのだ。

忍者というものは、世界で最速を誇る人種のはずである。宵波自身、そう自負していた。

クナイを持ち飛び回り、狙った獲物は必ず瞬足の速さで持って仕留める。

それが忍であり、それが出来なけれは忍ではない。

宵波の忍への価値観は、正しくそれだった。

 

―――――では何故。何故今私は『速さ』で持って、先に行かれている?

なぜ最速と謳われる忍の先を、あの女性は走って行ける。

 

「――――こちとら主を奪われて、内心ブチギレそうなんだ」

 

その問いに、シグナムは答える。

瞳には、宵波のような研ぎ澄まされた冷静さなんてものはない。

 

「キサマのチャチなごっこ遊びで止められると思うなよ?」

 

例えるのなら、青く光る赤。

冷静を保って、しかしその内で燃えたぎる。

鋭く冷たい宵波の眼とは、ほぼ真逆の眼であった。

 

(待っててください主はやて。今助け出します!)

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!?くっ!」

 

「そんなものか。高町士郎!」

 

高町士郎は、酷く押されていた。

 

「ハァッ!」

 

その証拠に、今も奈落の刀によって防いだ木刀ごと吹き飛ばされてしまっている。

 

「どうやら、ぬるま湯に浸かりきったキサマではもう肩を並べる程の強さは無かったようだな」

 

「……それは、どうかなっ!!」

 

神速。御神流の業の1つである。

驚くべき集中状態に自己的に陥り、さらにそこから神速をもう一段かけることによってその速さは圧倒的なものになる。

 

「――――見えるんだよ。お前の動きも、太刀筋も、全て!!」

 

その恐ろしい速度を持って、高町士郎は奈落の後ろに回り込む。そこで頭目掛けて木刀を振り下ろそうとするが。

 

(な――――――にぃっ!?)

 

後ろに回り込んだはずだった。完全に回り込めていた。

それなのに。

回り込んだはずの、がら空きの背中は、高町士郎の視界にはどこにも無かった。

 

「圧倒的速度というものは、こういうことを言うんだ!!」

 

その瞬間。取ったと、思ったその瞬間に。

 

「がっ!?」

 

ブシャァッ!!と、奈落の切り裂いた高町士郎の背中から大量の血が吹き出す。

奈落は後ろに回り込んだ高町士郎の、更に後ろに回り込んでいた。

 

「終わりだよ。お前が最強だった時代はもう」

 

血にまみれた刀を振るい、その身体全体を返り血で染めるその姿は、正しく『殺し屋』。

 

「―――――ま、だ。終わってねえだろう!!」

 

高町士郎が重力に逆らって倒れ込もうとした瞬間。

高町士郎は両足に力を込める。

何とか踏ん張り、振り返りざまに木刀を一閃した。

 

「な」

 

奈落はその一言を発し、予想外の攻撃に後方へ吹っ飛ばされる。荒い息を吐き捨て、高町士郎は叫ぶ。

 

「勝手に終わってんじゃないよ。終わらせてんじゃないよ。まだお前は、終わっちゃいねえだろうが!!」

 

高町士郎はそう吠える。背中を血で汚しながら、それでも尚吠える。

 

「………終わってない?違う。私はもう終わってるんだ。人間としての私ですら、とうの昔に終わっちまってるんだよ!!」

 

そう言い、吹っ飛ばされている最中で受け身をとり、バランスを整える。

そのまま吹っ飛ばされている反動を使い、壁を足で蹴って物凄い速度で高町士郎を蹴りとばす。

 

「ぐっ!?あ、ァァアアアアアアア!!!!!」

 

蹴り飛ばされた高町士郎は、それでも尚地に足をつけたまま踏ん張る。

 

「ぁぁあああああアアアアアアァア!!!!」

 

そのまま蹴っ飛ばされた頭を、反動を利用して奈落に叩きつける。

 

「確かに、人間としてのお前は終わってるかもしれない!返り血で前が見えなくなって、そこら辺の危ない道に迷い込んでるかもしれない!ただ、それでもお前という存在そのものはまだここにいるだろうがァ!」

 

両者ともに、刀なんぞもう持ち合わせてはいなかった。そんなもの吹っ飛ばされた時にそこら辺に捨て置いている。

従って、今振るえるものは拳のみ。

頭突きの反動で怯む奈落を、高町士郎は右手で殴りつける。

 

「お前自体は終わっちゃいねえ!だったらまたやり直せるはずだ!!道に迷ってんなら引き上げてやる!元の道に戻してやる!!闇に堕ちるな!光りを見つけろォ!!」

そのままもう一発殴りを入れようとして、その拳は受け止められる。

 

「ぐっ!?」

 

「何も知らないのに、勝手なこと言ってんじゃねえ!」

 

そのまま、掴まれた拳を引かれて、顔面を思いっきり殴られる。

 

「もう、ダメなんだよ。自分で自分を抑えきれないんだ。人を斬って、殺していくうちに、もう一人の『私』が顔を覗かせるんだ。血を欲しちまうんだよ!!吸血鬼のように、血がなけりゃ生きてすらいけねえ!………分かるかよ。光りを見つけて幸せに暮らせているお前に!泥の中を必死に歩いて、走って、探して!人間やめちまった私のことが、お前に本当に分かんのかよ!?」

 

そのまま、奈落は高町士郎の腹に蹴りを入れる。

最早この二人がやっていることは殺し合いでも闘いでもない、ただの喧嘩であった。

 

「ガフッ!?ガッハァッ!!」

 

そのまま蹴られ続け、高町士郎は血反吐をはく。

ふらふらになりながら、尚その手で、奈落を止める。

 

「狂っちまってたんだ。あの時お前に会っていた時には、もうすでに私は遅かった。人を殺し、強くなりすぎた私を殺せる者など最早いない!それは高町士郎!お前であってもだ!!」

 

「うるせぇえええええええええええ!!!!」

 

そう叫び、高町士郎は回し蹴りを奈落に叩き込む。

 

「お前はまたそうやって逃げるのか!?殺すことしか出来ず、そのことから手を離せなくなったお前がその事実から逃げ続けた結果がこれだろうが!!強い!?お前はそんな大層な存在じゃねえ!!弱いんだよ!仮初めの力を振りかざしてそれっぽいこと吐いて!お前はずっとそうやって逃げてきたんだろうが!!」

 

「違う!私は逃げてなど―――――」

 

「本当の強さってのはな!何者にも染まらず、自分を信じて生きてけるやつのことを言うんだよ!!テメェで生み出したもう1人のテメェを押さえ込めない程度で『強さ』語ってんじゃねえ!!」

 

二人はもうボロボロだった。

頭からは血を流し、至る所にアザは出来、切り裂かれ。

それでも互いは拳を振るう。

譲れない信念のために。

 

「そんな綺麗事じゃ、――――そんな綺麗事じゃあダメなんだよ!!どれだけ綺麗な言葉を重ねたって、俺の中の『鬼』は消えてくれねえんだよ……。なあ、高町士郎。……『俺』もよ、お前が羨ましかった。闇なんぞからさっさと抜け出して、光の道を歩むお前を見てて、心底羨ましかった」

 

殺し屋なんてあだ名、本当は嫌だった。

守りたいモン守って、救いたいモン救って。

――――本当はただ、それだけで良かったのだ。

 

「どこから俺は、狂ったんだろうな?いつから人を殺すことに悦楽し、いつから人を殺すことに躊躇いを持つ心を失ったんだろうな?――――――俺はもう、それすら覚えてねえよ」

 

そう言う奈落の顔は、涙で溢れていた。

 

「――――お前、まさか『戻った』のか?」

 

高町士郎はそう尋ねる。安らかな顔、涙。

その全てが、さっきまでの奈落とは根本的に違っていた。

 

「……よく分かったな。そうさ、これが本当の俺、奈落だ。」

 

逆に言えば、さっきまでの高町士郎が闘っていたのは奈落であって奈落でないということ。

 

「と言っても、根本的に違くなるわけじゃあない。俺の意識はそのまま『別の俺』になっても受け継がれてる」

 

ただ違うのは、そうさな。と、奈落は笑う。

 

「人を斬りたいなんて欲求が出てきちまったら、『私』のお出ましというわけだ」

 

「お前……」

 

高町士郎は、奈落を見て、その涙を見て、やはり根本的な奈落は死んでいないのだと気付く。

 

「高町士郎。――――もう一度俺が鬼になる前に、俺を殺しちゃくれねえだろうか?」

 

「やだね」

 

だからこそ、高町士郎はその問いを切り捨てる。

死んでいないのなら、『鬼』である奈落の部分を潰す。

 

「―――――はっ。正真正銘のバカだな、お前は」

 

「助けたいものがあるなら、バカにでもアホにでもなってやる。―――――俺ら『ボディーガード』は、そういう仕事だろ?」

 

はは、ちげえねえ。

そう言って、本当の奈落は意識を落とした。

 

「―――――――刀をとれ。鬼」

 

「命令口調か。随分偉くなったものだな」

 

高町士郎は、薄々感づいていた。

奈落は、『本当の奈落』は、俺の背中を斬った後辺りから顔をのぞかせていたのだと。

そもそも『鬼』の状態であるのなら、あんな人間じみたセリフは吐かないだろう。

だとしたら、それは全て助けて欲しいという合図だったのではないだろうか。

自分を助けられるのは、かつてライバルだった高町士郎のみだと踏んで、最後の希望にかけたのではないだろうか。

 

(だとしたら、その思い踏み躙るわけにもいかないな)

 

両者は、互いに居合の型をとる。

これが最後だとでも言わんばかりに。

これで仕留めると、両者は残して。

 

「―――ォォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「―――ハァァアアアアアアアアアアアアァ!!」

 

気合一閃。互いの刃は、振りあった時に粉砕されている。

 

「―――――貸し、ひとつだぜ?奈落」

 

そう言った高町士郎の肩からは切り裂かれたのか血が勢いよく吹き出していた。

 

「―――――そん、な……バカ、な……」

 

対して、奈落の方は、地面に倒れ伏していた。

 

「この、私が……。負ける、だと……?」

 

「どんだけ身体を、意識を奪おうと。決して奪えない魂ってもんが人間にはあんだよ。分かるか?鬼。お前はお前が乗っ取ろうとした奈落自身に負けたんだ」

 

「そんなバカな……ッ。そんなバカなァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

『じゃあな、鬼』

 

奈落は、『本当の奈落』は、心の中で、もう一人いた自分に別れを告げる。そう告げるだけで、今まで恐ろしく頑丈に身体にへばりついていた『鬼』は消え去った。

 

「―――――よう。どうだい?さっきぶりの外の景色は」

 

「―――――最高だよ、バカ野郎」

 

笑いながら、満面の笑顔で奈落はそう告げた。

 

「そりゃあ、よか、……った」

 

その笑顔を見て高町士郎も安心したのか、一瞬で意識を落としてしまった。

背中のキズだけでも相当痛かったのに、そこから殴り合いまでしたのだ。

気絶して当然、というか、気絶しない方がおかしかった。

 

 

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