魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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12話 〜ステージは幕引きへ〜

――――バカな。と、宵波は心の中で驚愕する。

それはそうだ。見たことも聞いたこともない一人の女性に、『忍者』である宵波が速さ、速度で負けている。それだけで、『忍者』という種族に生きる宵波には考えられないことであったし、耐え難い屈辱であった。

 

「……どうやら私はハズレを引いてしまったようだな」

 

「ぐっ……」

 

宵波は歯噛みする。

既に宵波は息が少し荒くなる程度には疲労していた。

全速力で駆け、跳び、相手を翻弄して倒すはずが、いつの間にか翻弄すらできずに押されさえしている始末。

 

「もう諦めろ。精々お前は高校生ぐらいの歳だろう?大人には勝てんよ」

 

くぐり抜けてきた修羅場の数が違う。と、シグナムは言外にそう告げる。

シグナムとは、夜天の書の守護騎士ヴォルケンリッターが将でもある。

遥か昔の戦乱時代、『ベルカ時代』からその剣を振るい、群がる強兵達を切り倒してきたのだ。

その恐ろしく強い様は『烈火の将シグナム』とすら謳われ、恐れられていた。

完全に、完璧に、『たかが忍者』では歯がたたないのも当たり前であった。

 

「まだだ……っ」

 

ただ、圧倒的強さを見せ付けられても、宵波は揺るがない。

そうだ。ここで折れるわけにはいかない。と、宵波は自身を奮い立たせる。

 

「……何がそこまでお前を奮い立たせるのか。気になるところでもあるが、……やはりおまえでは無理だよ。まだ怪我も浅いはずだ。諦め――――」

 

そこまで言って、シグナムは喋るのを止める。

否、止めさせられた。

さっきまで距離はかなり空いていたのに、その距離を一瞬で縮め宵波が飛んできたからだ。

 

「―――――てはくれないのだな」

 

「……当たり前だ」

 

だが、その不意打ちにみすみす引っ掛かってやるほどシグナムも甘くない。

真剣での攻撃を木刀で難なく防いで、弾き返す。

 

「――――ならば、覚悟を決めろ。戦乱を生きたこの身、やすやすと傷はつけられんぞ」

 

そう告げ、シグナムは宵波の視界から『姿を消した』。

否、消えたのではない。超スピードで移動しただけだ。

宵波がそう判断した時には、シグナムは宵波の後ろを取っていた。

がら空きも同然の、無防備な背中。トドメを刺すのは容易であった。

 

(……相手の方が、自分より格上で、速度も上。――――――もうそれは痛いほど理解した。)

 

ただ。宵波自身もシグナム程ではないにしろ闘いの道を選んだ人間だ。こういう予想外の事態に対応出来る程度の力は持ち合わせていた。

 

「な―――――にぃ!?」

 

ガキィィイイインッ!!

と、シグナムが倒すつもりで払った一撃が、弾かれた。顔すらシグナムの方を向かないで、ただ刀を防御に回しただけの動作で、確かに宵波はシグナムの一撃を防いだ。

それは、忍者としての修行で培われた動体視力と、反射神経を持ちい、『感覚』や『勘』に頼った型なんぞ

微塵も感じられない防御であった。

 

(目で追えないのならわざわざそれを使う必要はない。この場合は自分の勘の方が)

 

「――――数倍速い!」

 

「グゥッ!?」

 

そのまま振り向きざまに横一閃。

宵波の『勘』の通りにシグナムの胴体を横に切り裂いた。

 

「……お、驚いたな。まさかあそこから一気に加速出来るとは」

 

シグナムは木刀で、宵波は真剣。

勿論のこと真剣で切り裂かれたシグナムの胸元辺りからは血が止めどなく出てしまっている。

 

(結構深く斬られたか?マズイな。予想外の攻撃を食らってしまった)

 

余裕を持ちすぎたか、と。シグナムは先ほどまでの自分を非難する。

宵波の『勘』は、殆ど居合いの間合いに近い『絶対殺傷距離』がある。

自分の手の届く範囲に立ち入る者は、その圧倒的な反射神経、動体視力、そして『勘』を用いて、何がなん

でも切り伏せる。

あれはそういった業に近い。

 

(……迂闊に近付けもせんのか)

 

宵波にも、今の自分の状態では『居合い』で攻めたほうが良いということは分かっているのか、自分から攻めてきたりはしなかった。

だからこそシグナムから近付こうとするが、『歴戦の将』であるシグナムでさえ、『近付けない』何かが宵波の周りには存在していた。

 

ツゥ……。と、シグナムに一筋の汗が流れた。

 

(……どうする。あれは最早完全に『最速で刀を振り抜く居合い』と化してしまっている)

 

先ほどまでとは全然違う。『スイッチ』の入ってしまった宵波。

 

(とりあえず間合いに入ってみないことには何も分からんか?)

 

その宵波を見て、シグナムも心を決める。あの恐ろしく冷徹な眼からして、一寸足りとも動作を見逃してはくれないだろうが、それでも行くしかない。ここでモタモタしていると、主である八神はやてに迫る危険性が増してしまう。

 

(――――――いざ、参る)

 

そう告げ、シグナムはまた世界から、人間の視界から姿を消した。

シグナムの到達点は真後ろ――――と見せかけた左横。

後3歩。後3歩も進めば、宵波の『絶対殺傷距離』に足を踏み入れることになる。

そのまま二歩、一歩――――――――――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

―――――瞬間。シグナムの身体の、胸からヘソ辺りまでかけて。痛みすら遅く感じられる程速く袈裟斬りで切り伏せられた。

 

 

 

 

 

 

「ガァッ!?」

 

反応すら出来なかった。宵波の『絶対殺傷距離』に身体を入れ、その範囲に足をつける前に。

―――――もうすでにシグナムの胸辺りに刀は到達していた。

 

(……最早、知覚すら出来ない域とは…………ッ)

 

はっきり言って舐めていた。

シグナムは後ろに倒れながら、そう歯噛みする。

戦乱のベルカをその刀一本で乗り切り、烈火の将とまで謳われた存在が、今や年下の女の子にまで負けてしまうとは情けない。と、思わず自分に対する情けなさから苦笑が溢れてしまう。

 

―――――次に主に会うときに、どんな顔して会えばいいのだろうか。

 

仮にも、夜天の書の使い手である八神はやてを護る守護騎士なのだ。それが魔法はおろか、剣しか振るえない地球人に負けたとなれば、夜天の書守護騎士ヴォルケンリッターが将シグナムとしては顔など見せられない。

消え行こうとする意識の中で、ふとそんなことを思った。

怒るだろうか。いや、きっとそんなことはしないだろう。ただぎゅっと抱きしめて、ごめんねなんて言ってしまわれるのだろうか。あの心優しい主のことだ。きっとそういうに違いない。

―――――今の主は、どんな顔をしているのだろうか。

 

「――――ム」

 

きっと、泣かれているのだろうか。

 

「――グ―――ムっ」

 

顔だけでも、気絶する前にみたいものだな。と、シグナムはあまりの思考の軟弱さに涙さえ出てきそうだった。

 

「――――――――――シグナムゥゥウウウウウウウゥゥウウウウウウウゥゥゥウウウ!!!」

 

―――――その瞬間だった。

そんな嗚咽まみれの、所々裏返った叫びが、シグナム

の耳に届いた。届いてしまった。

 

(この声は……やはり泣いているのか)

 

「――――――あ、ああああ」

 

主に涙など、もう似合わん。

 

「ああああああああ」

 

主に涙など、もう絶対に流させない。

 

「ああああああああああああああああああああ」

 

そう誓ったではないか。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

なにが泣かれているだろうか、だ。負けそうになったくらいで情けない。

 

「なっ!?」

 

なにが最後に主の顔が見たい、だ。

 

「アアアアアアアアアアアアァァアァァアアアアアァ!!!!!」

 

そんなのは敵を倒してから言うセリフだ。と、シグナムは気絶しそうな頭をムチで殴りつけ、意識を落とさないように取り持つ。

そのまま崩れかけた足を地面に無理くりめり込ませ、決して倒れないようにささえる。

そのまま木刀を逆手に持ち、驚愕に染まる宵波を一閃。

 

「――――カ、ハッ」

 

ガゴォォオオオオオオンッッッ!!!と、凄まじい衝撃がなり、宵波はその衝撃をモロに食らい壁際まで吹っ飛んでいく。きっと至る所は骨折し、もう立ち上がれない痛みであろう。

実質、宵波は既に気絶していた。

 

「……主を、助けるまでは、絶対に負けるわけにはいかんのだ。倒れるわけには―――――」

 

そうシグナムは吠え、前へ進もうとするが。

 

――――――――突如身体が停止したように、動かなくなった。

感じなれた、この感じ。

今まで幾度となくこの技術に助けられ、またこの技術に命をとられそうになったものか。

そう、それはどちらかと言えば、『シグナム側』での話し。

 

 

 

「――――――お久しぶりですねぇ。シグナム二等陸士さん」

 

 

 

聞きなれた、管理局での呼び名。

 

「……キサマ、まさか……っ!?」

 

「あなた方に付けられたこのキズがどうにも痛みましてねぇ。―――――貸しを返しに来ましたよオ!?」

 

バインドまで使い、シグナムを拘束する男は。

かつて八神はやてが捕まえた凶悪次元犯罪者であり。

その黒ずくめの服から、『鴉』と恐れられた。

―――――――『カリエット・オーシャン』がそこにはいた。

 

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