魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生 作:キングver.252
「ほォらァ!どうした持田千海!この二人を殺してもいいのかのォ!!」
そう狂ったように叫ぶカリエットに、持田千海は内心苛立ちを隠せない。
勿論千海に八神はやてを殺すつもりなど毛頭ない。だが、このまま八神はやてを助けたところで高町士郎とシグナムが殺されてしまう。
それに―――――。
「頼む……。八神はやてを、一緒に殺してくれないか……ッ」
泣きながら、金堂悠雅はそう言うのだ。本当に悔しくてたまらないような震えた声で、弱々しく笑いながら、尚も金堂悠雅は真剣を手に取ったのだ。
「……ちくしょう」
それなら。そこまでして固めた決意を持って真剣を持ってしまったなら。
―――――誰が金堂悠雅を責めることが出来ようか。
「ちくしょう……ッ」
持田千海は、宵波が使っていた真剣を手に取る。不思議と、手の震えが止まらなかった。今まで、刀をいくら持ってもそんなことは無かったのに。
「畜生ォォォオオオオオ!!」
千海は悔しかった。何も出来ないことが本当に悔しくて、思わず涙まで出てしまう。
守りたいと思った人でさえ、満足に守れない始末。
情けなくてヘドが出る。
「フォーッフォッフォ!愉快じゃのォ!ここまでの娯楽そうそうないわぃ!!のォ八神はやてぇ!!キサマもそう思」
そこで、カリエットは視線を八神はやての方へ向ける。男どもに拘束されたままの八神はやては、果たして今どんな顔をしているのかと。
ただ純粋な興味を持ってカリエットは八神はやての方へと顔を向けた。
果たしてそこにあったのは、『笑顔』であった。
「……ふん。殺される恐怖に壊れたか」
その言葉を聞いた八神はやては、さらに笑みを浮かべる。
「別に、壊れたわけやない。ただ、アンタが本当に哀れでならんくてなぁ」
「……どういうことじゃ」
嗤いながら、八神は告げる。
「私の命が欲しいなら好きに奪えばええ。それに、アンタに殺されるくらいなら千海に殺してもらった方が私的にも嬉しいしなぁ」
「―――――ふんっ。胸糞悪い」
「ただなぁアンタ。―――――その後五体満足で生きてけると思うなや」
「もういい黙れェェエエエエ!!おい2人!さっさとこの生意気な小娘を殺してしまえ!!」
聞くに耐えなくなった言葉に、カリエットはそう叫ぶ。
その言葉で、男2人はゆらりと、八神はやてにゆっくりと近づいて行く。
―――――――へえ。千海、剣なんか出来たんやなぁ。
千海はふと、そんな会話を思い出した。学校裏の草刈りを行った時に、八神はやてが言った言葉であった。
……本当は、誰かを守る剣になりたかった。決して、八神を斬って殺すような、そんな剣になるつもりはなかった。
―――――――大切なもんを一つでも取りこぼせば、もうそれ以外は絶対に手放したくないもんや。
そうだ。俺にとってはもう八神も大切な友達だ。失いたくない、殺したくない。
―――――――もっとずっと、笑っていたい。
―――――――私は奇跡なんか起こしとらんよ。
金堂悠雅は、そんな八神はやての言葉を思い出した。馬鹿で、腕っ節しか才能がなくて、あまつさえ自分を攫った相手にまで優しくそう教えてくれた。
―――――――ただギュッと抱きしめて、一言何か言ってあげただけで幸せそうな顔してくれたんや。
そうだ。俺も、妹にそんな風に、笑って逝ってくれるよう頑張ってきたんじゃないか。こんなこと妹が知ったら何と言うだろうか。罵倒され、罵られ、――――――きっと悲しい顔で逝ってしまう。
――――――――――――ただ。
きっともう、何もかもが遅い。
もっとずっと笑ってたかろうが、妹が悲しい顔で逝ってしまおうが、もう全てが遅いのだ。
二人は、涙を流しながら八神はやてに刃を突き付ける。
「ゴメン……八神」
「……ええよ。シグナムのこと助けてくれてありがとうな」
そんな、今から殺される局面になってまで、殺す相手に感謝さえ出来る。そんないい子を、なぜ殺さなければならないのか。
「すまねぇな……嬢ちゃん」
「なに泣いてんねん。アンタが泣くときは妹さんを幸せにして逝かせてあげる時やろ」
そんな、今から殺される局面になってまで、他人を笑顔で気遣える。そんないい子を、なぜ殺さなければならないのか。
「―――――私、幸せやで。こんな、私を殺すことに涙までしてくれる人達を持てて」
その言葉を聞きながら、二人は刀を振り上げる。
――――――後はその刀を、下に振り落とせば全てが終わる。
「早く殺せ!さもなくば爆弾のスイッチが押されてしまうぞォ!?」
少し黙ってろクソジジイ。
二人の心境は一致した。
あぁ、今殺すところだ。と。その後に、何がなんでもお前を殺してやると。
そう決意したうえで、刀を真下に振り落とす――――――――――。
「―――――――ほう。あなたの言う爆弾とは、このことか?」
ピタッ。と。その言葉を聞いた瞬間に、持田千海と金堂悠雅は動きを止めた。その声は、シグナムと対峙していた、宵波の声そっくりであった。
「人質とやらも、果たしてこいつら二人のことか?」
そこで、奈落の声そっくりの声まで千海の耳元には聞こえてきた。
「なっ!?いつの間に!!」
そんなカリエットの声に二人は答える。
「私は」
「俺は」
「「金堂悠雅の仲間なんだ。キサマにまで仕える義理はないぞ」」
そこには、ボロボロになりながらも二つの足で大地を踏んで立っている、二人がいた。
「ちくしょぉおおおがァァアアアア!!邪魔ばかりしおってェェエエエエ!!」
カリエットは眼を剥いた。いいところまでいきそうだったのに。もう少しで八神はやてを殺せたのに。
「もういい!おい貴様ら!その3人を皆殺しにしろォ!!」
そう言い、カリエットが指示をすると。
今までまったく動かなかった50人以上もの兵が、一斉に動き出した。
「―――――――――――アニキィィイイイイイイイイイイイ!!!!!アタシは無事だから、そいつらをブチのめせェえええええええ!!!!!」
と、同時に。―――――もっとも金堂悠雅が聞きたかった声が響いた。ずっと一緒に生きてきて、支えあってきて、―――――一番守りたい者が、ようやく金堂悠雅の心を覚醒させてくれた。
「千海の旦那も!シグナムさんと高町さんはこちらで確保しましたんで、存分に暴れちゃってくださいな!!勿論、八神はやてもですよ!!」
そんな宗司の声が、持田千海の動くための枷を外した。
「―――――だってよ。どうする?アニキさん?」
「―――――バァカ。決まってんだろ?千海の旦那さん」
ニヤリと笑い、二人はそのまま八神はやてに突き付けていた刃を真横に一閃。
周りを囲んでいるやつらを、根こそぎ斬り飛ばした。
「――――ようやくかいな。来るのが遅いねん!」
そう言って、八神はやては首にかけていたシュベルトクロイツをセットアップする。そうするとあっという間にバリアジャケットを身に纏い、そう告げる。
「悪いな、八神はやて。金堂玲奈を連れ出すのに結構時間かかっちゃって」
「まあ、約束通り助けに来てくれたから、チャラにし
ちゃる!」
「ありがとよ!その代わりと言っちゃあなんだけどよ、―――――存分に暴れてくれて構わないぜ!魔導師さん!」
「なんでアンタがそんなこと知ってんのか本当に謎やったんだけど、今はもうそんなんどうでもええわ」
――――――あの年甲斐も無く暴れているお爺さんを、何とかせえへんとな。
八神はやては笑いながらそう告げる。
戦況はあっという間に変わった。
――――――反撃の開始だった。